タイプ
その他
日付
2008/6/18

第17弾「短角牛」(5/5)


6.人物ファイル



哲学が必要・合砂哲夫さん





繁殖牛14頭を飼養するとともに、岩泉町内唯一人の削蹄師(牛の爪切り)として地域の畜産を支える。生産リーダーとして安家畜産改良組合長・JA短角牛繁殖部会岩泉支部長を務める傍ら、「安家森の会」「スローフード岩手」代表として短角牛とともにある山の暮らしの大切さを全国に訴えている。
「日本の畜産の中で短角牛は最もスローフード=原点に近い牛と言えるのではないか。黒毛和牛は人間が手をかけないと育つことができなくなってしまったが、短角牛はこの地で育ってきた牛で、短角牛がいるからこそ山村の暮らしが守られている。そのことを多くの人に知ってもらいたいし、短角牛を食べることで、山村の暮らしを支えてもらいたい。」と語る合砂さん。最近では意識の高い飲食店関係者や取材等の来客多いが、これを生産の励みと捉え、東奔西走の日々が続いている。


短角牛は家族の一員・佐々木久任さん


釜津田肉牛生産組合長。牛肉輸入自由化の頃には岩手県内でも、短角牛と黒毛和牛との交雑で霜降り肉を作ることが盛んになったが、その中で佐々木さんは短角牛純粋種を守ることにこだわり続けてきた。岩泉町議会議員として、また短角牛生産のみならず地域のリーダーとして、山村の活性化に努めている。
「藩政時代、釜津田牛は使い牛として温順で、足腰が非常に強く良く働いたと伝えられている。ここは山が深く農業は自給自足程度の生産で、短角牛がただ一つの現金収入源だったので大切に飼ってきた。そのため地域の牧野組合の結束が強く、組織的に短角牛を守ってきた歴史があるのです。」
一般に日本短角種は南部牛とショートホーン種との交雑と言われるが、佐々木さん宅には明治時代の「アシャー(エアーシャー)種」の血統書も残っており、短角牛改良のため様々な工夫が施され、優良な系統を築いてきたことが伺える。


安全安心はあたりまえ・畠山利勝さん


JA短角牛肥育部会岩泉支部長を務め、肥育牛120頭・繁殖牛18頭を飼養、年間80頭を出荷している。濃厚飼料を使わず、デントコーンサイレージを中心とした自給飼料で育てる短角牛(仮称・プレミアム短角牛)生産にも取り組んでいる。
「もともと釜津田地区は子牛の産地として有名でしたが、子牛出荷だけでは市場の相場に左右されますので、釜津田で暮らしていくために肥育まで一貫して取り組むことにしました。BSEで牛肉離れがおきましたが、結果的に短角牛は本物の牛肉として生産から販売まで確立することができました。」
肥育農家の苦労は単に牛の世話をするだけでなく、エサとなる牧草やデントコーンの栽培から始まる。特にプレミアム短角牛の場合、肥育期間中に6tのデントコーンが必要で、その苦労は計り知れない。
「短角牛の特徴を活かすにはデントコーン肥育が有効だし、自給率向上にもつながる。短角牛肉の味、育て方、生産者の仕事、生産現場をもっと多くの人に知ってもらい、その上で短角牛を評価してもらいたい。」






短角牛肉のスペシャリスト・佐々木透さん


20代のころ大手スーパーで肉の担当をしていたが、故郷山形村の第3セクターに招かれ短角牛に関わるようになり、「短角牛生産者の力強さ、恰幅の良さに惚れ、短角牛肉のおいしさに惚れ」、38歳の時に短角牛肉専門の肉屋「短角考房 北風土」として独立した。
「短角牛肉の特徴は赤身に含まれるアミノ酸が多く、牛肉本来の旨みがあること。大切なことは二つ。其の一 解凍は冷蔵庫で、其の二 焼きすぎないこと」
生産者のために高く仕入れたいという気持ちと、高所得の人しか食べられない肉にはしたくないとの思いの狭間で悩む。
「おいしい短角牛肉を多くの人に味わってもらいたいので、高すぎてはダメ。短角牛肉は本来庶民の肉で、お腹いっぱい食べてもらいたい。」
ロース・ヒレといった人気のある部位だけでなく、スネやモモ、内臓まで無駄なくおいしく食べてもらいたいと、部位ごとの特徴や調理方法を記したレシピを作っている。最近では出前講座の依頼も増えており、明るく前向きな人柄から、地域の若者に頼られる、日本一の小さな肉屋さんである。


岩手の牛は、岩手の人が守らねば・小島進さん


盛岡市の郊外で農産物直売所「ちいさな野菜畑」を営む。店内には岩手県内各地から集まるこだわりの食材で溢れており、生産者・消費者が憩う場でもある。
「短角牛は風土に根ざした必然性のある牛。岩手には短角牛が作ってきた文化があり、短角牛は岩手の人たちが守って行かねば。」
お店には年間6万人が来店するが、農の現場に目を向ける消費者はまだ一部だという。小さなつながりをもち、関係性を重視する消費者を増やすことが、「ちいさな野菜畑」の課題である。
「生産者に対して経済性の悪いもの、効率の悪いものを作れとは言えないが、意識の高い消費者と生産者をつなぎ、本当に大切なものを残していけるシステムを作ることはできる。その場、その仕組みを作ることがワシの仕事。」
小島さんは生産者と消費者をつなぐ「身土不二いわて」事務局も担当し、岩手の食と農に関わる“ご意見番”として、多くの人を引きつけている。









7.食のたからもの参考文献


・「そだててあそぼう64牛肉の絵本」農文協 上田孝道編
・「日本短角種の明るい未来を目指して」2005年10月 日本短角種研究会
・「地域先導技術総合研究『地域内資源を用いた日本短角種による良質赤肉生産・流通システムの開発』(平成14年~18年)研究成果集」 (独)東北農業研究センター
・「スローフードな日本!」新潮社 島村菜津著
・「故郷に残したい食材100選『日本短角種』詳細調査報告書」スローフード岩手
・「いわて短角牛再興による地域振興を目指して」岩手県短角牛振興協議会
・「日本短角牛の物語。」いわて牛普及推進協議会
・「短角牛 今昔ものがたり」(独)東北農業研究センター寒冷地飼料資源研究チーム長 近藤恒夫
・「地方特定品種の特性と今日的意義、課題」日本大学生物資源科学部食品経済科准教授 川手督也

・(社)全国肉用牛振興基金協会 http://www.nbafa.or.jp/

・(社)中央畜産会 http://cali.lin.go.jp/

・農林水産統計 畜産統計(平成19年2月1日現在)農林水産大臣官房統計部
・山口県畜産試験場(無角和種・見島牛)
  http://www.nrs.pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a17606/00000001/misimausi.html

・高知県畜産振興課(褐毛和種) http://www.pref.kochi.jp/~chikusan/akausi

・(社)熊本県畜産協会(褐毛和種) http://kumamoto.lin.go.jp/


取材・文:茂木和人
撮影:堀口宏明