タイプ
その他
日付
2008/7/29

第20弾「国産小麦」(2/5)


2.どのように作られているのか


高松市内から車で30分ほど、さぬき市の寒川町というところに、裏山の緑を背にして、輝く小麦畑が広がっていた。畑のあちらこちらから、ひばりのさえずりが聞こえ、風が吹くたびに、黄金色の穂が涼しげにゆれる。こんな風景を目にすれば、せめて半分のうどん屋が、地元の小麦を自慢してくれるようになれば、と願わずにはいられない。

「雨ばかりで気をもんだけど、空が晴れ間を見せた今日は収穫日和」という多田俊一さんは、長年、農機の会社に勤めながらの兼業農家だったが、会社を退職した今は時間もできたことで、集落営農のリーダーを引き受けた。

畑の間に立つ小さなプレハブの事務所には、「天王営農集団事務所」と書かれている。平成10年から集落営農に取り組み、平成18年には、19人で20ヘクタールの農地を持つグループとして法人化した。

その理由は、個人なら4ヘクタール以上、集団なら20ヘクタール以上になれば、補助金の対象となる新しい農業基本法(2006年施行)の制度を利用するためだ。そして、手作業を減らし、若い人が参入できる農業に切り替えていくためだ。石油は高いが、「コンバインを大型化して、みんなで使うようにしたところ、稼働率が高いから、今のところ大丈夫だ」そうだ。多田さんたちが大型化したというコンバインは、実際はそれほど大きいわけではない。というのは、香川県はどこも田んぼが小さく、昔から手作業の多い自給的農家が主流だった地域だからだ。

多田さんたちは、二毛作で「さぬきの夢2000」を手がけ、麦が終わる6月20日頃、田植えにかかる。やはり数年前から手がけているのは、地元の酒米「さぬきよいまい」と言う品種。コシヒカリより田植えの時期が遅いので、小麦との二毛作にも向くし、収穫も涼しい秋で、作業はずっと楽になった。だが「麦をやらない田んぼでは、5月初旬にコシヒカリ、その後、大豆を植えるから、結局、年中休みなし、朝から晩まで」と苦笑いする。


 


「さぬきの夢2000」は在来種ではなく、現代人のうどんの好みを考えて作り出された改良品種だ。風味のいい九州の試験所が開発した「西海173号」という品種と、色みのいい中国農業試験所の「中国142号」を交配したものである。

香りがよくもちもち感があるだけでなく、背が低いので倒れにくく、育てやすいという良さがある。多田さんが若い頃の品種は、ずっと丈が高く、麦ふみも子供も手伝って家族総出で行ったという。
ただ、「近頃は、雨の多い年が増えて、湿度が多いと赤カビなどにやられる。これからは、雨や(温暖化の)暑さに強い品種の開発が重要」だと多田さんは言う。

香川県で、2001年にはわずか63トンだった「さぬきの夢2000」の生産量は、3年後には3320トン、さらに2006年には、4570トンに増えた。讃岐地方だけで5万トンを超えた全盛期の1961年に比べれば、生産量はずっと少ない。しかし、激減した農家の数と残された農地の少なさを考えれば、今の生産規模がそろそろ限界だと言う人もいる。

後継者問題は深刻である。なぜなら、多田さんを始め、奮闘する小麦農家の収入の7割以上が、転作の補助金(麦作経営安定資金)など政府からの補助金によって支えられているからだ。政府が、輸入小麦との価格の開きを是正し、国内の生産者を守っているかたちだが、現在の財政難を考えると、これもいつまで続くかは不安だという。

「若い人の中にも、誇りをもって自分の田んぼを守ろうという意識が希薄になったな」と農家の12代目である多田さんは、少しさびしそうに呟く。19人のメンバーのうち、後継者がいるのは、4~5人、集落全体の約30軒のうち、半分くらいかなという。

だが、製粉所の立場から、吉原良一さんは、助成の対象を本当にやる気のある若い農家に限定する行政の新しい「担い手制度」によって、自立する農家のプロが再び育ってくれることに期待している。

さて、刈り取られた小麦の製粉に、「吉原食糧」ではスイス産の製粉機を使っている。
まず大きな異物、石、ごみなどを取り除く。磁石を使い、金属も除く。さらに加水して皮離れをよくし、細かく粉砕。少し寝かせてから、無数のロールを使ってさらに細かく粉砕し、ふるい機にかけるという作業を繰り返す。こうした約50通りもの過程を経て、用途に応じたさまざまな粒子の細かな小麦粉が生まれる。




こだわりのうどん屋


香川県では、2005年から、県内のうどん屋に「さぬきの夢2000」を使うこだわり店、9軒のパンフレットを作り、ホームページでも紹介し始めた。

「さぬきの夢2000」は、オーストラリア産小麦粉に比べ、たんぱく質が1パーセントほど少なく、そのためグルテンが少ない。そこで、水加減や練り加減を間違うと切れやすくなるといった難しさがある。オーストラリア産の小麦は、前日の晩に練る「宵練り」でも、多少、水を加える量が変わっても切れにくい。

見方を変えれば、「さぬきの夢2000」を応援するうどん屋は、うどん打ちの技を大事にする職人肌の店で、効率だけを重視する店ではないといえるだろう。
「グルテンが少ない分、キレやすいから、塩を多めにしてしっかりしめてやる。そして、茹でる時には、長めにゆがいて、今度は塩を抜いてやる必要がある。」
こだわりのうどん屋の一軒、『八十八庵』の井川義雄さんは「だから、丁寧に扱ってやる必要のある粉だ」という。店では注文が入ってから、麺を茹でる。

「厨房がほとんど機械化されているような効率重視の店では、とても扱えない粉でしょうね。近頃は、ただ硬いのをコシと勘違いする人が多い。けれどもこの粉は、捏ねている時から香りがするし、茹でた後は、もちもち感もあるし、なめらかな上にコシがある、おいしい粉」だという。

地元の農家に頼まれて畑の傍でうどんを打ったのがきっかけだという『寿美屋』の檜木博さんも、今では「さぬきの夢2000」以外には一切、使わない。

「小麦の農家がやめていくやろ。農家の人が、誇りと収入が増えるような政策が必要なんや。そして、うどん屋も、高くても担い手を育てるというつもりで商売するべきや。古くから小麦の名産地で、農家がおって、そういう大きな関係性の中で、うどんブームもあるんや。食を通じて共存するってことが大事や。」

チェーン展開にも興味はない、一店舗主義。「さぬきの夢2000」は、オーストラリア以前の職人的うどん打ちの初心を思い出させてくれる素直な小麦だという。


 

(左:夏は2~3時間、冬はその倍寝かすことでコシがでる 右:某で錬る)



 

(左:多めの湯で長めに茹でる 右:茹で上がったら、すぐ食べる)