タイプ
その他
日付
2008/9/17

第23弾「鰹節」(1/5)



「食のたからもの取材レポート」第23弾は、鰹節を取り上げます。日本料理の大半には、昆布と鰹の出汁(だし)が使われています。しかし、化学調味料(うま味調味料※)や即席つゆなど手間いらずの商品に取って代わられ、天然の出汁は日常のものではなくなってきました。伝統の鰹造りの技術を守り続ける現場を調査するため、、フリーライターの藤田千恵子氏が鰹節の主要生産地である鹿児島県枕崎市を訪れました。


――――――――――― <目次> ――――――――――――
1.なぜ、たからものなのか
2.どのように作られているのか
3.どこに残っているのか
4.地図情報/5.どこで味わい買うことができるのか

6.人物ファイル

――――――――――――――――――――――――――――

■English Version→  Dried Bonito


1.なぜ、たからものなのか


 私たちが、自分の国の名をつけて「日本料理」と呼び、馴れ親しむ料理。その料理の根幹をなすのが「出汁(だし)」である。昆布と椎茸の精進出汁、小魚を用いる煮干しの出汁、あご出汁など、各地にさまざまな種類の出汁がある中で、その代表格となるのは昆布と鰹のあわせ出汁であろう。ざっと思い浮かべるだけでも、味噌汁、そば、うどん、煮物、すまし汁、煮浸し、あるいは酢の物や天つゆにいたるまで、日本の料理の大半には、昆布と鰹のあわせ出汁が使われている。私たちが「日本料理」「和食」と聞いて思い浮かべる味の多くは、出汁がベースになっているのだ

 だが、この日常の味であるはずの出汁が、あろうことか贅沢なものになりつつある。昆布を水に浸し、火をかけ、その旨みがじわじわと出たところで昆布を取り出し、鰹節を入れる。こうした和風出汁のとり方は、西洋料理のコンソメや中華料理の鶏ガラスープなどに比べれば「世界最速」ともいわれる手軽で迅速な調理法だ。だが、この「出汁を引く」という作業が、日々の食事に欠かせぬ「当然の仕事」から、「面倒なこと」だという意識へと移行して久しい。
 その一因は、出汁を引かずとも昆布の旨みや鰹風味が得られると喧伝される顆粒状の化学調味料(うま味調味料※)や即席みそ汁、水で薄めるだけで出来上がる即席つゆなどなど、手間いらずとされる商品群の台頭であると思われる。

 それらの商品は、出汁を引く時間が惜しい、という必要から生まれたのか、あるいは、それらの商品が登場したゆえに「出汁を引くのは面倒だ」と考える層が増えたのか、その因果はさだかではないが、食の欧米化ともあいまって、天然の「出汁」は、日常的に口にするもの、とは言い難い状況になりつつある。
 鰹節削り器が常備品であった暮らしも、今は昔。だが、自分で削らずとも、自分で出汁を引かずとも、外食の際に正統な和風出汁を口にできる機会が多ければ良いのだが、一般家庭以上に(リーズナブルな)外食産業における化学調味料(うま味調味料※)の依存率は高く、若い世代やこども達が天然出汁の味わいに触れる機会は減少の一途を辿っているように見える。一方では和食の料理人がテレビ・雑誌で「出汁は命」と口にしてもいるのだが、それは「ハレの日」の高級和食なのであって、「ケ」の日常では出汁の出番は多いとはいえない。

 この出汁存亡の危機は、当然、鰹節の危機にも通じる。鰹節は、単に鰹を乾燥させただけの「乾物」ではない。味噌や醤油、酒やみりんと同じように、日本の食文化の大きな特徴である「カビによる発酵」を経た発酵食品でもあるのだ。
 鰹という海の幸を得て、さらに複雑な製造過程と発酵・熟成期間を加えることで完成する鰹節には、伝統の技術を引き継いできた職人の目と手仕事が不可欠だ。
 日本人が、天然の出汁の味から離れていくことは、同時に、日本料理を支えてきた鰹節および、伝統の鰹節造りを支えてきた熟練の技を失うことにもなってしまう。

 日本料理の支柱である出汁の味を守るためには、鰹節造りに従事してきた人たちの仕事が「不安定で報われない」ものにならぬよう、また伝統の技術が寸断されることのないように、消費者が日々の暮らしの中で支持していく必要があるだろうと思われる。
 私たち日本人の舌と身体を培ってきた伝統食品・鰹節。その現状を知るために、主要生産地である鹿児島県枕崎市を訪ねてみた。

 ※取材執筆当初は「化学調味料」の表記であったが、日本うま味調味料協会から、表記変更のご要望を頂いたため(うま味調味料)と加筆