タイプ
その他
日付
2008/10/8

第24弾「アワビ」(1/5)


「食のたからもの取材レポート」第24弾は、アワビをお届けします。高級食材として、多くの日本人に好まれているアワビですが、その数は近年、劇的に減少しています。アワビを語る時に忘れてはならないのが、海女による「潜水漁の文化」です。東京財団・島村菜津研究員が、最も多くの海女が残る三重県・志摩を取材しました。


――――――――――― <目次> ――――――――――――
1.なぜ、たからものなのか
2.どのように採られているのか
3.どんな場所で作られているのか/4.地図情報
5.どこで味わうことができるのか

6.人物ファイル
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■English Version→  Abalone

1.なぜ、たからものなのか


アワビの学名は、haliotidaeで、ギリシャ語のHalios(海)とotos(耳)からなり、ミミガイ科に属する。世界各地に百種ほどが生息しているが、日本では主に、南方にクロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ、東北や北海道にエゾアワビなどがいる。

江戸時代、中国では、日本産の干し鮑が、干し海鼠、ふかひれとともに俵物三品として珍重されたが、日本人は、古くからアワビを始皇帝が求めた不老不死の薬ではないかと考え、これに特別な思い入れを抱いてきた。

アワビ漁が盛んな三重県では、「子供がお腹にいる時にアワビを食べれば、目のきれいな子になる」と言い伝えられるように、アワビは目薬としても知られてきた。また、祝い事に欠かせないのし紙やのし袋の原型は、現代でもこの三重県で作られている熨斗鮑である。

寿命などその生態については解明されていないことも多いが、かつて山口県の見島で発見された24センチのマダカアワビは19歳と判断されている。

そして、このアワビと切っても切れないのが、海女による潜水漁の文化である。
「伊勢の海人の 朝な夕なに潜くとふ 鮑の貝の片思いして」という『万葉集』の歌は、有名だが、その頃からアマといえば、海とかかわる人を広く指す言葉だった。それが、海士とかいて男のアマ、海女とかいて女のアマを指すようになったのは、近年のことだという。田辺悟氏の『海女』(法政大学出版)によれば、すでに三世紀の『魏志倭人伝』に「今倭の水人は好んで沈没魚蛤を捕え」と、女か、男かは定かでないものの、磯に潜って魚や貝を採る玄界灘の人々の記述があるという。しかし、各地の先史時代の貝塚からもアワビはたくさん出土していることから、その頃から、日本の沿岸にアマが存在したと考える方が自然だろう。

中でも、三重県の志摩・鳥羽地方には、最も多くの海女が残っている。古来、この地方の海女の存在はよく知られていたが、なぜ、女性かという疑問に対し、男たちがカツオ漁など船を使った漁に忙しかったから、あるいは、女性には皮下脂肪があるので、海中でも冷えないといった理由があげられる。しかし、海女文化についての詳細な展示で知られる『海の博物館』の学芸員、平賀大蔵氏によれば、アワビを古くからご神饌として珍重した伊勢神宮とのつながりに謎を説く鍵があるのではないか、つまり、「アマテラスに供えるご神饌を採るのは女でなければならないといった宗教的要因があるのでは」という。

鳥羽の国崎には、「御料鮑調整所」と呼ばれるものがある。これは、村の長老たちによって神宮の三度の祭りにお供えする熨斗鮑がつくられる場だ。全部で125柱もの神宮の神々が召し上がるアワビは、年間に生が約1000個、熨斗鮑用で約2500個も必要になる。それほどアワビを神聖視し、大事にした地域でこそ、海女の文化は受け継がれ、同時に、それほどアワビが豊富に採れる地で、採算も合ったからこそ海女の生業が続いてきたとも言える。

ところが、肝心のアワビが、近年、劇的に減っている。

その原因については、乱獲、埋め立てや道路建設などによる土砂の流入、生活排水などによる水質の悪化、海底砂の移動、栄養分のない黒潮の流れなど諸説あるが、長年、アワビの稚魚を放流するなどして改善に努めている三重県水産試験所の研究者は、「黒潮の流れには20年ごとに大きな変化がありますし、温暖化の問題を含めて、もっとグローバルな変化が原因ではないか」と考えている。ともあれ、『アワビ文化と日本人』(大場俊雄著、成山堂書店)によれば、昭和45年に6466トンあったアワビの漁獲量は、この30年で約2000トン代にまで激減。三重県だけでも、昭和45年に648トンから、平成13年には76トンに減少している。

海女もまた減った。『海の博物館』の調べによれば、1949年、同県に6019人いた海女は、2007年には、1081人にまで減少した。現在20~40代の海女がほとんどいないという事実を考え合わせれば、その数はさらに減っていくだろう。
平賀さんはこうも言った。

「はっきり言えるのは、海女というのは、少なくとも1,000年、続いてきた女性の職業だということです。」千年の伝統が消えていくのは忍びないが、海女の暮らしは楽ではない。子育てや家事をこなし、半農半漁の家では田畑まで手がけ、民宿まで切り盛りする人もいる。その上、アワビだけでなく、伊勢エビ、ナマコ、サザエ、ウニ、青のり、ひじきと冬の2カ月ほどを除いて年中、海に出る。

これまであまりにも重労働だった海女の仕事を、何とかして軽減するすべを模索し、アワビを採る海女の伝統を守っていくことは不可能だろうか。それは、少なくとも1300年の伝統を継承してきた伊勢神宮を根底から支えてきた原始的漁であると同時に、乱獲をしない持続可能な沿岸漁としても今度も興味の尽きない文化だからである。


クロアワビ(運搬に耐え、コリコリと食感が良いことから最も高級とされ、刺身が好まれる。水深5メートルくらいに多い。クロと呼ばれる)とメガイアワビ(最も量が多く、蒸し物などにされることが多い、水深10~15メートルくらいに多い。)








 


マダカとメガイの区別は、殻がでこぼこしている方がマダカ。マダカは少なく、水深20メートルくらいに多い。メガイとマダカは、市場では、アカ、あるいはシロとして一括集荷される。