タイプ
その他
日付
2008/10/22

第25弾「日本ミツバチ」(1/5)


「食のたからもの取材レポート」第25弾は、「日本ミツバチ」をお届けします。国産ハチミツの中でも、日本ミツバチからできたものはわずか1割にも満たない貴重品です。動きが敏捷で、様々な花の蜜をこまめに集める日本ミツバチからは、深い味わいのハチミツができるといいます。効率のいい西洋ハチミツに切り替える養蜂家が多い中、長崎県の対馬では、島全体に日本ミツバチによる養蜂文化が伝承されています。その実態について、東京財団・島村菜津研究員が長崎県・対馬市を取材しました。
昨年より1年間お届けしてまいりました「食のたからもの取材レポート」は今回で最終回となります。取材をさせていただいた生産者の皆様ならびに関係者の方々、そして応援してくださった読者の皆様に厚く御礼申し上げます。レポートは一旦終了しますが、「たからもの」を守るための活動は続きます。引き続き、ご注目ください。


――――――――――― <目次> ――――――――――――
1.なぜ、たからものなのか
2.どうやって作られているのか
3.どんなところで作られているのか/4.どこで買い、知ることができるのか
5.どんなところに残っているのか

6.人物ファイル

――――――――――――――――――――――――――――

■English Version→  Japanese Honeybee

1.なぜ、たからものなのか


体にいい食品としての地位をすっかり確立したかのようなハチミツだが、『ミツバチが泣いている』(上之二郎著・集英社)によれば、日本で消費されているハチミツの約95%が海外からの輸入品で、その87%は中国(平成14年度)からだという。また市場には、トウモロコシやサツマイモから抽出した人口甘味料などを加えた加糖ハチミツも多く出回り、加工食品に添加されるものは脱色・脱香した精製ハチミツが大半だそうだ。

一方で、自由化だけでなく、天候異常や環境汚染に左右される養蜂家は年々、減り続けており、混ぜものをしない国産ハチミツは、それ自体がごくわずかな貴重品なのである。中でも、ここで注目したいのは、日本ミツバチを使った養蜂だ。これも国産の1割にも満たない。日本ミツバチは、明治9年(1876年)に初めて西洋ミツバチが移入されるまで国産ハチミツといえばこれしかなかった在来種であり、もともとアジアの密林で生きる東洋ミツバチの亜種である。それが劇的に消えた理由について、東京農業大学時代に「日本在来種みつばちの会」を立ち上げ、その魅力にとりつかれた岩手県の養蜂家、藤原誠太氏が、その著作『日本ミツバチ』(農文協)の中で指摘している。

まずは、その効率の良さである。?、やや体も大きな西洋ミツバチは、日本ミツバチの4~5倍の蜜を集める。さらに、?、西洋ミツバチが、画期的な管理式養蜂の技術とともに伝わったことがある。丸太などを使う従来の古式養蜂では、巣の上部を崩して蜜を採取するために下部の幼虫や卵までつぶしてしまう。(そこで、これを食べる文化が残っているのだが)。ところが、西洋から伝わった養蜂は、巣板を引き上げ、巣の現状を観察することもたやすければ、数分で蜜を集めることもできる。

同氏によれば、そもそも千年以上も品種改良されてきた蜜集めのエリートである西洋ミツバチと、自然のままの日本ミツバチを比較することに無理があるという。しかし、長年より劣った蜂という位置づけさえされてきた日本ミツバチが、近年、見直しされているという。近年の研究によって、その利点もわかってきた。

まず、?、腐蛆(フソ)病やチョーク病といった伝染病にかかりにくい。?、大スズメバチなど外敵と戦うすべを持っている。大スズメバチがいない環境で進化した西洋ミツバチは、数匹の攻撃で巣が全滅することもあるが、日本ミツバチは、複数で噛んで動きを封じ、羽の筋肉を収縮させ、熱を出して47度くらいにし、むし殺してしまうという。そして?、寒さにも強い。アフリカの在来種から進化したと言われる西洋ミツバチが動けなくなる11度以下でも、必要があれば花粉を集めに出ることもある。?、何より、体は小ぶりだが、動きが敏捷で、多様な花の蜜、花粉や果汁をこまめに集めることから、深い味わいのハチミツができる。

日本ミツバチは、基本的に全国各地に生息しており、その養蜂は長野県、岐阜県、佐賀県、宮崎県、東京都にも各地に点在する。しかし、朝鮮半島から48キロ、博多港から40キロの位置にある長崎県の対馬には、島全体に日本ミツバチによる養蜂文化が伝承されている。しかも、ほとんどの生産者が、昔ながらの丸太をくりぬいた蜂洞による古式養蜂を続けている。これは、もともとの蜂の住処である木の洞に着想を得たものと考えられている。丸太に板状の蓋をし、足元に養蜂の出切り口を掘った蜂洞を、島のあちらこちらで目にするが、まるで二対の祖神か、帽子を被った人の姿のようで、そのものがユニークな島独特の景観を作り上げている。

折しも対馬では、2007年11月、この森林組合に「対馬市ニホンミツバチ部会」が結成された。これをきっかけに行われた実態調査によれば、現在、日本ミツバチで養蜂している家は島全体で379戸。うち、5本以下は69戸、6~10本が112戸、11~20本が98戸、21~30本が47戸、31本以上が53戸。しかし、アンケートの回収率は56.2%で、すでにインターネットなどで直売している人もおり、まだまだ、その数は多いという。

しかも、ハチミツは自家用や贈答用と答えた人が327戸とほぼ9割を占め、自給的性格が強いことがわかる。また、島には、在来の日本ミツバチを大事にしようという伝統があり、西洋ミツバチの侵入がない。一度、南部のハウス農家が交配のために西洋ミツバチを導入したことがあるが、この時、日本ミツバチが襲われるという苦情が起こり、これを断念したそうだ。

『対馬市ニホンミツバチ部会』は、2008年現在、会員61名。そのほとんどが、森林組合の会員でもある。そして、同会は、これまで自給的に守られてきた食文化を、島のブランドとして確立することで木材価格の低迷に苦労している会員の暮らしを支えるすべにならないかという目的で立ちあがった。この会で、養蜂家たちの指導に力を注ぐベテランの相庭寛さんによれば、「西洋ミツバチは、単一品種の蜜を集めるのが得意だけれど、日本ミツバチは、敏捷に動いて、まさに百花の蜜を集める。また、春や夏、花の開花に合わせて蜜を集める西洋ミツバチに比べて、日本ミツバチは一年に一度、秋にしか蜜を採取しないので、その間にゆっくりと熟成され、その分、薬効も高くなるんです」という。

対馬では、昔から料理に使うというより、昔から蜂蜜を食べる習慣が残っており、蜂蜜をたっぷり絡めた餅を、祝い事のたびにいただく。
組合長の扇さんは、こんなことも言った。

「とにかく、日本ミツバチに興味を持ち始めて、改めて気づいたのは、対馬の花の多さね。」その通り、9割を険しい山で覆われる対馬には、珍しい在来植物が多い。玄海ツツジ、5月に山全体を白く浮き上がらせるヒトツバタゴ、イヌサンショウ、山桜、ヤブツバキ、柿といったもの。10月の採密の頃には、谷間の白いそばの花に、活気に満ちた羽音が響く。日本ミツバチを守る文化は、同時に、そうした季節ごとの花々が咲き乱れる豊かな山をも守っている。そして西洋ミツバチのハチミツとはまるで違う、複雑な深い風味と香りを持つ。

藤原誠太氏は、日本ミツバチの再評価を願いながら、こう書いている。
「在来種とは何千何万年かけて育まれた地域の生態系バランスでの結実、何千万回の自然の営みの中の“試行錯誤”そのものである。今、在来種が注目されるのは、それが人間による小手先だけの操作では決してつくりようのない、それを目先の利益で失ってしまったとしたら、簡単には取り返しのつかない古言的かつ普遍的な価値をもっているからだ。」