「納税者番号制度の導入に向けて」意見交換会

納税者番号制度への議論が高まる中,税と社会保障の一体化の研究会では,3月6日(金)マスメディア,シンクタンク,議員,議員秘書など20名程度を招いて意見交換会を行った。
冒頭,森信茂樹・東京財団上席研究員から,研究会の趣旨と最近の納税者番号制度を取り巻く情勢について簡単に説明が行われた後,各委員から報告が行われ,その後、会場との意見交換を行った。意見交換では、様々な方向からのアプローチが議論が活発に行われた。


1、酒井克彦・国士舘大学教授「現行制度における改善の必要点-年末調整制度における問題点と納税者番号への期待」
現在の年末調整制度の問題点について,民主主義的租税思想との関係・源泉徴収義務者の負担・給与所得者のプライバシー問題という3つの観点から整理が行われた。そのうえで現状の問題点の解決に向けて,年末調整制度の(部分的な)廃止が提案された。さらにこの提案が実現した際に想定される新たな問題とその解決策が議論され,その中で納税者番号の導入と,プライバシー基本法などの新たな法的整備の必要性が示された。

2、森信茂樹・東京財団上席研究員「納税者番号と新しい租税政策-納税者の立場からの納税者番号制度」
最近の議論を中心に納税者番号をめぐるこれまでの動きについて概観した上で,納税者番号制度導入の意義として,税務行政の効率化・金融所得を含めた総合課税化・資産課税の適正化という三点が強調されてきたことが指摘された。そのうえで今後の納税者番号の議論の方向性として,納税者の観点から,勤労税額控除などを通じた税と社会保障の一体化や記入済み申告制度pre-populated tax return systemの導入を強調するべきであることが主張された。

3、鈴木正朝・新潟大学教授「プライバシー保護基本法素案について」
まず,行政情報化への期待と不安・不信が存在することを踏まえて,今後の全体最適を志向した行政情報化による便益を享受し,また管理社会化の脅威(あるいは誰も責任を持って管理しない脅威)に対応するための「プライバシー保護基本法」の必要性について指摘された。続いて「立法府による明示的な憲法解釈」として基本法を位置づけた上で,想定されるプライバシー保護基本法の内容について,情報の取り扱いルールやチェック体制の整備を中心に説明が行われた。

4、阿部泰久・日本経団連経済第二本部長「『納税者番号制度』に関する経団連提言」
従来の納税者番号の議論について,納税者番号だけを目的として導入することの困難が議論されたうえで,社会保障番号を活用して電子行政を実現するための推進体制と法制度の整備についての必要性が指摘された。さらに日本経団連がまとめた報告書から,電子行政の実現によって可能になるワンストップ・サービスによって医療・介護の分野において手続きの簡素化が進むとする見解が示された。最後にセキュリティ管理やプライバシー保護のためのチェック体制について諸外国の仕組みからわが国が学ぶべき部分が説明された。


5、意見交換
Q:金融資産所得について現状で名寄せはできているのか,また納税者番号を入れるとどのようになるのか。
A:現在では名寄せは完全にはできていない。また源泉分離課税のままでは税額控除ができないという話もありうる。金融取得一体化にするなら,源泉分離ではなくて申告分離課税にする必要がある,その場合は税務署に利子の情報が入ってくるので,名寄せをしようと思えばできる体制にはなってくると考えられる。

Q:納税者番号を強調するというよりも,縦割り行政の排除のツールとして主張すればいいのではないか
A:国民の利便向上や国地方通じた効率化,加えて自分の情報について十分に管理できることを重視することを通じて行政の適正化・効率化が図られるのではないか。

Q:議論の流れは社会保障番号の活用ということだったがこれは現在のところ存在せず,カードの導入は決まったものの番号については議論が分かれている。二重投資の防止や効率化を言うなら,住基コード活用の方が真っ先にくるべきではないか。また,諸外国を見ても住民コードを使っているところも多く,素直に考えると住基コードではないか。
A:新たな番号を作るのは難しく,現実的には住基だが,この意思決定ができないのではないか。それをした瞬間にプライバシーの問題が浮上する。まずここのところを意思決定して,住基が社会保障番号になって納税者番号,というのが具体の流れではないか,ここのところが欠けている。

Q:納税者番号をすぐにでもやるべきだと思うが,社会保障番号を住基でというとそこが紛糾して進まなくなるのではないか。社会保障番号のメリットの大きいが,一方でレセプト情報のようなセンシティブな情報が一元管理されることにも拒否反応がありうる。むしろ納税者番号に住基をつないでやることで給付つき税額控除も可能だということをはっきりさせた方が議論の拡散は少ないのではないか。
A:新しいヒントを頂いた気はするが,いままでの議論では納税者番号制度は一番遠くて導入しにくい,社会保障番号はどこかで受益と結びついている感じがするが,納税瀬や番号制度は受益と結びつきにくかった,それがこれまでの印象である。
A:これまでの議論に引っ張られているところはあって,まず国民のためというのを立てないといけない,そのときに給付つき税額控除や年末調整の議論はされてこなかった。
A:正面から取り組む方が早いかもしれないが,有力政治家であっても選挙を考えると納税者番号制度を強調しにくいところがある。納税者番号という言い方を変えてとにかく使えるものを整備するという考え方が現実的ではないか。

Q:議論の中で民主党に触れられている部分があった。民主党の付番の仕方については政治的な問題もあり,住基を使うというのは検討課題としてあるのみとなっている。基本的な発想としては,納税のためというよりも社会保障給付をするためのものとして考えていて,社会保障給付が所得と関連するのでそちらもとしている。なお,給付においては現物給付ではプライバシーの問題があるので,現金の徴収・給付と現物の保険料徴収といったところを番号制度の議論の対象にしてはどうかと考えている。
A:納税者番号という言葉は使わないのか。過去からの経緯を引きずっていると先ほどの話とも併せて,これまでの発想では却って手間になるのかもしれない。

Q:諮問会議で個人勘定の議論から出てきたことを考えると,それが社会保障の給付抑制に使われるのではないかという警戒感がある。特に医療・介護で負担と給付を明確化することにはどういう意味があるのかという議論もあり,こちらの方は大変になるのではないかという印象がある。給付つき税額控除もそうだが,負担の公平性やサラリーマンの控除の議論から持っていったほうが,正面突破で受け容れられやすいのではないかという印象がある。
A:とんでもない,という固定観念・印象があるが,国民の観点から,受益の部分から手をつけていく必要があるのではないかと考えている。
A:負担の公平性の観点から言うと,自営業者等の所得捕捉の問題がある。様々な議論はあるが,所得捕捉については現実にこれだけ雇用者の割合が高まっていることを見ると,所得が捕捉されにくいということをメリットとする部分は小さいのではないか。現実にはサラリーマンの給与所得控除が高いことに加えて,フリンジベネフィットが課税対象になっていないという雇用者側の問題もある。サラリーマンについて,支払総人件費に対して課税対象として捕捉されているのは7割程度という調査もある。

Q:タックスコンプライアンスコストというものがある,これはアメリカであれば計測しているが,わが国でこういう議論が進まないのは,こういう費用をどのくらい払わされているかがわからないから,納晩を入れるとどのくらいその費用が節約できるかというのは重要ではないか。
A:源泉徴収制度があるので,サラリーマンにとってはそのコストがほとんどかからない。そこが悩ましいところであり,我々はそこに穴を開けようと考えている,自分で申告するコストを追うことによって納税意識が出るのではないか,それが民主主義の原点ではないかと考えている。しかしそのコストが高すぎるのは問題であるから,コストを可能な限り電子的な方法で削減していこうというものである。

Q:プライバシー権の問題が法律で規定されておらず,またそれがチェックされていないことが問題で,それを対応しないといけない,という問題意識には共感する。最近自己情報コントロール権が議論されるが,それはどこまで確立したものといえるのか,それが確立されている国というのはあるのか,またこれはどこまでコントロール可能な権利として言われているのか。仮にその権利から行政機関がデータを持つこと自体にもNoと言えるとすると,個人によって対応が違うことになり逆にコストが高まってしまう。
A:自己情報コントロール権は佐藤幸治先生(京都大学→近畿大学)が紹介して学説上は有力だとされているが,そこまで広い権利でもない。アメリカでこの議論が出たのは1960年代にコンピュータ技術に携わる人が少ない中で,管理社会のツールになりうるという思想があったことに起因するという。国が何をやっているかわからなくて,コンピュータでわれわれを管理するに違いない,というところから,中身がどうなっているか見せてくださいということで自己情報コントロールがでてきた。
A:しかしすぐに個人情報をモノと同じように,所有権のように扱うことは問題であるとする反対説が提出され,現在まで議論されている。しかし日本では佐藤先生が紹介してからは無批判に引用している人ばかりではないか。憲法13条から自己情報コントロール権が出てくるという漠然とした議論はあるが,自己情報を確認して間違えていたら直してもらえる,という話でも憲法からすぐに出てくるわけではない。要件と効果を具体的請求権として書いて初めて具体化するはず。
A:直接にそういう権利が存在するわけではなくて,現在の住民基本台帳や戸籍法があって,取り扱い方に問題があったら違法性が出てくるという議論がかなり誤解されているのではないか。そのため,すぐにプライバシーを過度に強調する議論に付き合わないといけない。今回の議論の焦点は,管理社会化の可能性を防ぐためにどこまで国民にチェック権利を与えるか,ということを議論しましょうというところにある。そのためにはプライバシーの定義を明確にしておく必要があるのではないか。