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給付つき税額控除具体化PT第3回研究会報告

January 6, 2010

第三回 給付つき税額控除具体化PT研究会

「給付付き税額控除:再分配と雇用の新たな政策手段」

2010年1月6日,佐藤 主光 一橋大学教授より「給付付き税額控除:再分配と雇用の新たな政策手段」に関して報告を受け,その後メンバーで議論を行った。

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1月6日研究会

1.VATと給付付税額控除

消費税の逆進性対策として考えられる方法の一つは欧米諸国でよくみられる軽減税率。問題点として,行政コストの高さや,低所得者だけをターゲットにできていないことなどがあげられる。これらの問題に対処し,かつ消費行動の歪みを減らす逆進性対策として出てきたのが給付付税額控除。英国のマーリーズレビューでも,現行の「標準税率17.5%+軽減税率」から,「標準税率15%一律化+低所得者への補償政策」への付加価値税改革案が提案されている(ただし,英国ではもともと様々な所得補償政策が存在していたことに注意が必要)。
ある改革を考えるときには,それのみで是々非々を問うのではなく,効果が最大限発揮されるような他の改革との組み合わせを考えることが重要。VATの増税だけでは逆進性が問題になるが,給付付税額控除によって財源確保と公平の両立が達成される。

2.税額控除導入の試算

平成16年度の全国消費実態調査を使って,簡単な試算をしてみた。標準税率を10%(2倍)・15%(3倍)にしても,食料品の税率を5%に軽減すると,税収はそれぞれ1.74倍・2.48倍にしかならない(26%,52%の税収ロス)。同じ税収ロスをもたらすような「一律税率+給付付税額控除(カナダ型:減額開始所得と減額率の2つがパラメータ)」を考える。税率10%の場合,?減額開始所得300万円かつ減額率5%であれば,世帯人員一人当たり4.8万円,?減額率を10%にすれば6.3万円を支給できる。計算結果をみると,低所得階層において累進性が確保されることになり,逆進性対策としては軽減税率より給付付税額控除が望ましいことが分かる(税率15%の場合も同様)。

3.他の再分配政策との関係

給付付税額控除を導入する際には,他の所得保障・福祉制度(生活保護,失業手当,住宅補助等)との整合性を確保することが必要。日本の制度で試算してみると,家賃補助や保育料補助が世帯収入の増加に伴って減額されることを考慮に入れると,妻がどれだけ働いても,世帯収入があまり増加しない。勤労意欲を喚起する制度設計にするためには,このような周辺制度についても整理する必要がある。ひとつの考え方として,福祉サービスの所得制限を廃止するとともに,再分配は現金給付で行うという方向もあるのではないか。
また,給付付税額控除と似た制度としてベーシックインカムがある。簡単にいえば前者は勤労を条件とした限定給付,後者は権利としての普遍給付といった違いがあり,こうした違いについては議論の整理が必要であると考える。

4.議論

・カナダのGSTは給付額が定額であることから,不正受給が少ないという(政府税制調査会海外出張報告)。日本でも,導入にあたってはこの方式がよいのではないか。
・逆進性対策としての給付付税額控除と,ワーキングプア対策としての給付付税額控除,児童税額控除としての給付付税額控除は,別個に考えて設計する必要があるのではないか。
・子どもは働けないので,普遍的な給付の仕方が正当化されるのではないか。
・現物給付と現金給付については,前者は資源配分機能を重視した普遍給付,後者は再分配機能を重視した限定給付といったかたちで住み分けた方がいいのではないか。日本では現物給付が再分配機能も担っている。
・現物給付でも医療・介護などは人によって必要性が大きく異なるので,こういったものまで現金給付で整理というのは考えられないのではないか。一つの整理は保険料・自己負担とも、所得による減免は認めない(保険原理を貫徹させる)一方、低所得層に保険料補助(対人給付)を(税を財源に)別途行うことがあり得る。
・住宅補助等の現物給付も合わせて考えると,日本の制度は,低所得者に手厚い補償を行っている。一方で,サービス供給は少ないので,必要な人がそのサービスを享受できていないことが問題。

文責:中本淳 プロジェクトメンバー

    • 元東京財団研究員
    • 中本 淳
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