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23年度税制改正の評価と抜本的税制改革

December 21, 2010

東京財団上席研究員
森信茂樹

23年度税制改正の評価

これまで法人税改革や所得税改革は、すべて「抜本的税制改革の中で検討する」というのが自民党時代のスタンスであった。民主党政権下では、「格差・貧困への対応」と「経済活性化」の2つを抜本的税制改革と切り離して改正を行った。平成23年度税制改正として、高額所得者への所得税・相続税負担の引き上げと法人税率の引き下げが決まったことは、方向として間違っておらず、評価に値する。
(改正の概要は http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/23kaisei/23taikougaiyou.pdf

しかし、議論のプロセスを含め、問題点や疑問も多く感じた。

第1に、何のための所得税・相続税増税なのかというストーリー、国民への説明は十分ではなかった。

ばらまき的な子供手当増額の財源のための所得税・相続税増税なのか、消費税改革には当分手をつけられないので所得税・相続税で税収を図ることにしたのか、国民全員に負担増を求める抜本的税制改革の一歩として所得税・相続税改革を行ったのか分からない。おそらく抜本的税制改革へのファーストステップのはずだが、国民には見えてこない。

また格差・貧困問題への対応なら、高所得者層への負担増だけで対応するのではなく「所得控除から税額控除さらには給付付き税額控除」という民主党がこれまで掲げてきた「税・社会保障一体改革」により、低所得者への配慮も行うべきだ。高所得者層への過重な負担像は、海外への租税回避を誘因するので、その対策も講じる必要があるだろう。また、負担増は給与所得者だけだが、高所得個人事業者への負担増は課題として残された。

第2に、法人税改革であるが、5%の税率引き下げとなった。国際的な引き下げ競争の下でわが国の雇用が流出するという現実の下では、正しい選択だろう。課税ベースを広げつつ税率を引き下げるということに、経済界は反発したが、諸外国の法人税改革はみな課税ベース拡大とセットの税率引き下げだ。税制改革のモデルケースであるレーガン2期の改革は、税収中立による法人税率引下げを行った結果、既存の重厚長大産業から新興IT産業への産業転換が生じ、今日の繁栄の基礎となった。その意味で、企業優遇税制の切り込みが不十分であった。

第3に、税制改正の検討プロセス、税制改正の位置づけの国民への説明ぶりに問題があった。税制改革の理念が議論されず、子供手当と法人税減税のための足し算引き算だけで決定が行われたような印象を与えた。全体のストーリーを描き、国民に伝える努力が足りない。今回の税制改革は、これから始まる抜本的税制改革のファーストステップのはずだ。

党のPTと政府税制調査会の役割分担も不明で、税制改正に関する報道が混乱し、国民からの反論の機会を奪ってしまう結果となった。もっと丁寧に、世の中に議論を発信すべきであった。専門的な見地からの問題提起、家計への影響の試算などほとんど示されなかった。

抜本的税制改革にむけて

来年は抜本的税制改革の議論の年だ。

政府・与党は、12月10日、「社会保障改革の推進について」の基本方針を正式決定した。「政府・与党においては、・・・社会保障の安定・強化のための具体的な制度改革案とその必要財源を明らかにするとともに、必要財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進め、その実現に向けた工程表とあわせ、23年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得た上でその実図る。」と記した。これを受けて税制改正大綱では、「今後、税制調査会では、この決定を踏まえた政府・与党内の検討と緊密に連携しながら、早急に税制抜本改革の具体的内容について検討を行っていきます。」と書き閣議決定した。また、課税インフラとしての社会保障・税共通番号の具体案に向けての検討も明記された。いよいよ税制改革の具体論に向けての議論が始まる。

社会保障改革に当たって気をつけなければならないのは、社会保障歳出を野放しにするのではなく、現実的な内容にしていく必要があるということだ。そうでなければ、増税幅は限りなく増えていく。そこで、年初からマニフェストを見直し、現実的な具体案への党内議論が必要となる。高速道路無料化、農家戸別補償、子供手当といった「ばらまき政策」は大幅に見直すべきだ。

与野党協議というが、まず民主党政権が一丸となって、内容のある具体案を作らなければ、野党は乗ってこない。しっかりした議論を期待する。

なお、東京財団で筆者が主査を務める 「税制の抜本改革と将来像」プロジェクト では、来年も番号をはじめ様々な提言をしていきたい。

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