タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/4/6

復興財源を考える―「日本版復興連帯税」として所得税・法人税への付加税の導入を

復興財源を考える ―「日本版復興連帯税」として所得税・法人税への付加税の導入を


東京財団上席研究員
森信茂樹


1.もう一つの「津波」

東北・北関東地方の被災者の方には、心からお見舞い申し上げます。

さて、今回、われわれ日本人全員が、津波の恐ろしさを実感したわけだが、もうひとつ、警戒すべきことがある。それは、「市場の津波」である。

マイケル・サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)の冒頭に、2004年夏メキシコ湾で発生したハリケーン・チャーリーが通過した後の便乗値上げのことが記されている。ガソリンスタンドでは、一袋2ドルの氷が10ドルで売られ、通常価格250ドル前後の家庭用発電機が2000ドルの値段を付けたそうだ。新聞は、「あらしの後でハゲタカがやってきた」という見出しを付けたという。

一方、東日本大震災後の日本では、水やガソリンなど、物資は不足したが、便乗値上げは報告されていない。それどころか、コンビニで買い物中に地震に遭遇し、店外に避難した人たちが、地震が収まった後で代金を支払いに来た、というような話が多数新聞に掲載されていた。

同じ市場メカニズムで動く資本主義経済であるが、日米の市場の反応の差異は、あまりに大きい。市場メカニズムの背後にある文化が異なれば、参加者の反応は全く違うものになり、価格形成のメカニズムも異なるのである。

今回の大震災直後、為替は大きな投機にさらされた。震災は、わが国の経済の根幹を揺るがしたにもかかわらず、円は急騰し、翌週の木曜日には、76円という史上最高値を付けた。わが国の保険会社などが、海外に保有している資産を、保険金の支払いに備えて円に替える「動きが始まる」というのが、円高のストーリーである。実際に、日本企業の対外資産売却の動きは起きていないにもかかわらず、国際投機筋が、人の不幸に付け込むような投機を行ったのである。まさに、「あらしの後でハゲタカがやってきた」のである。

今後われわれが気を付けなければならないのは、このような火事場泥棒ともいうべき投機筋の仕掛けてくる「市場の津波」である。もちろんその際の標的は、日本国債である。

2.復興財源と資金調達

今後わが国の経済復興には20兆円を超える資金が必要となるといわれている。原発の状況次第で、この金額はもっと膨らむ可能性もある。

このような資金需要をどのように賄っていくのか、この点については、短期と中長期に分けて対策を考えていく必要がある。

(1)短期的な救済
短期的には、復旧のための財源確保が必要となる。これは、歳出削減と予備費を活用して緊急的に補正予算を編成することである。子供手当の財源や、高速道路料金軽減のための基金の残り2兆円などをかき集め、来年度予算(自然成立が見込まれている)の予備費1兆円と合わせて緊急的な救済資金を工面し、被害の復旧に当たる必要がある。

同時に、税制面での配慮・手当も必要となる。税源である事業資産や法人の資本が震災で痛めつけられているので、それに対する税制面からの配慮を緊急立法で行う必要がある。

具体的には、法人税の繰戻し還付である。これは、前期黒字で当期赤字の企業に対し、当期の赤字分に対する法人税額を前期分の法人税額から還付するという制度で、ゴーイングコンサーンとしての企業への支援として行う必要がある。そのほかにも、建て替えの際の登録免許税の軽減、固定資産税の減免などが考えられるが、基本的には、阪神淡路大震災の時の先例がある。

次に、被災を受けた方の、来年以降の所得税の減税である。これは、税額控除で行う必要がある。本来は、給付と税額控除を組み合わせた仕組みで行うことが望ましいが、番号制度のようなインフラがない状況では難しいかもしれない。

さらには、寄付金税制の活用である。平成23年度改正で、NPOへの寄付も含めて、寄付金税制は大きく拡充が予定されている。早く法律を通して、人々の寄付へのインセンティブを最大限活用する必要がある。

(2)復興資金の調達
問題は、中長期的な復興資金であるが、まず、時間をかけて復興のマスタープランを作成し、復興基金を作る必要がある。マスタープランは、世界に向けた日本再興にふさわしいものにする必要がある。

その際の資金調達については、当面は復興債(国債)で賄う必要があるが、復興期間(たとえば10年)内にきちんと償還する仕組みにしておく必要がある。前述したように、安易な国債発行での調達は、「あらしの後にやってくるハゲタカ」が、日本国債を売り浴びせ、一儲けしようとする可能性があるからだ。

3.ドイツ統合と連帯税

巨額な復興資金をきちんとした財源で賄った格好の例がある。それは、東西ドイツ統合の際の復興資金の調達である。

ドイツは、統合に当たって、旧東ドイツ経済・国民を救済することを前提として、通貨統合の比率を1対1とする政治決断を行った。そしてコール首相は「ドイツ統一は国民の悲願であり、必要資金はドイツが自前で調達する」という考え方を徹底させたのである。

その後、巨額のコストをかけながらも、旧東ドイツ地区の復興は進み、周知のように統合ドイツは、EU最強の国家となっている。

では、復興財源はどのようにして調達したのであろうか。歳出削減と「連帯税」の創設によったのである。

「連帯税」というのは、所得税・法人税に対し7.5%の付加税を課すもので、所得税・法人税の体系はそのままにしつつ、広く・薄く・能力に応じて負担を求めるものである。執行も現行制度を維持できるので、コストは最小限に抑えられる。

消費税(VAT)には付加税を課さなかったが、これは、消費税は、旧東ドイツ国民にも負担となることや、所得の低い人に大きな負担となる逆進性への懸念があったためであろう。

4.東北大震災の復興資金は「日本版連帯税」―所得税・法人税の付加税で

わたしは、東日本大震災の復興資金は、基本的に所得税と法人税への連帯付加税で調達することが、望ましいと考える。

そう考える理由は、復興資金は、基本的に現役世代の負担増で賄う、後世代へのつけ回しはしない、という原則を示すことが、国内的には支援者と被災者の間の連帯感を強めることになり、国際的には、日本が復興するという強いメッセージにもなるからである。

平成22年度予算ベースで所得税収と法人税収合計すると20兆円程度なので、10%の付加税を課せば、毎年2兆円程度の財源が得られることになる。仮に復興財源を20兆円とすると、10年で賄えることになる。

所得を課税ベースとする所得税・法人税に、付加税という形で薄く課税することは、能力に応じて負担を求めることにつながる。またそのような方法は、復興の進捗状況に応じ、税率設定を臨機応変に変更することが可能となる。時限的なものにして、復興の終期を明示することも必要である。

付加税以外の税目としては、ガソリンなどの個別物品税への増税も検討に上らざるを得ないであろうが、平成23年度税制改正で予定されている、株式譲渡益と配当に対する優遇税率10%を、本則税率の20%に引き戻すことも議論すべきであろう。

消費税率を1%程度引き上げるという考え方も出てきているが、消費税率の問題は、少子高齢化の進展という状況のもとで、世代間の受益と負担の関係も踏まえながら検討されるべき問題で、基本的には社会保障・税一体改革の中で結論を出すことと考える。したがって、震災の復興財源の問題とは切り離すことが、哲学が整理されるのではないか。

「市場の津波」に対抗するには、われわれ世代で、「東」日本と「西」日本とが「連帯」して支援していくという強い意思を表示する必要がある。

<English>Financing Reconstruction with a Solidarity Tax