TPPと日本農業 (3) | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

TPPと日本農業 (3)

December 14, 2011

そこで次に、オランダ、ベルギー、日本のそれぞれの上位20位までの輸出品目を示したのが図5、6、7である。

図5でオランダを見ると、タバコ、加工食品、全乳チーズ、骨なし牛・子牛肉、大麦ビールが上位5品目である。FAO統計の農産物には加工食品が入っているのである。図6のベルギーの上位5品目は、チョコレート材料、菓子、バナナ、冷凍野菜、加工食品である。もちろん、チョコレートもバナナもベルギーでは生産できない。輸入して加工して輸出しているのである。



加工であれば日本でもできることで、図7に見るように日本の輸出農産物の上位5品目は、加工食品、タバコ、菓子、非アルコール飲料、乳児食品である。日本の農産輸出品も加工食品なのである。問題は、日本の輸出額が小さいことである。オランダの加工食品輸出額が29億ドルであるのに対し日本は7億ドルにすぎない。図5、6、7では、縦軸の輸出額を揃えてあるので、日本の食品輸出額が、ヨーロッパの小国にも及ばないことがはっきりと分かる。

日本は、ミシュランで世界一の美食の国と認められたのに(東京はどの大都市よりも星が多い)、食品輸出が低調なのは不思議である。

日本の食品輸出が低調なのは、農水省が、国内農産物を守るために、食品の原材料の輸入を割り当てるなどをしたことによって、日本の食品産業の発展が制約されたからだろう。冒頭に紹介した、TPPについての農林水産省の試算では、関連産業への影響でGDPが7.9兆円減少するとしている。しかし、原材料はむしろ輸入が自由になるので、関連産業でGDPが減少するとは考えられない。農水省は、輸入自由化で食品産業が発展することは考えていないらしい。

加工食品の輸出は農産物の輸出だろうか

ここで当然の疑問が生じる。加工食品の輸出を農産物の輸出と言えるだろうか。FAOはそうだと言い、日本の農林水産省もそれを認めている。FAO(国際連合食糧農業機関Food and Agriculture Organization)は、飢餓の撲滅を目的とする国際機関で、マークに入っているfiat panisとは、FAOのモットーで、「人々に食べ物あれ」というラテン語だという。農水省は水産物も含めた独自の統計を作っているが(FAOは水産物を含めていない)、それによると、上位5品目は、たばこ、ソース混合調味料、さけ・ます(生・蔵・凍)、アルコール飲料、真珠(天然・養殖)となる。

加工食品を農産物輸出に含める意味があるだろうか。それは、そもそも何のために農業を守る必要があるのかを考えることになる。農業保護の理由を、いざというときの食料の安全保障、地方の産業の維持、農地の環境保全機能の保全と考えると、最初の2つの機能については、食品加工品も農業に含める意味がある。まず、食品加工業は食品の在庫を持つ。これはわざわざ備蓄するよりも安価である。加工して輸出するのだから、国内需要以上の輸入を恒常的に行っていることになる。なんらかの理由によって輸入が同じ割合だけ減るのなら、食品加工業を持っていることは食料安全保障になる。食品加工業は、地域の産業になる。地域で生産したものを加工すれば、当然、農業以上の付加価値が地域に落ちる。原材料を輸入して加工しても、製造業が地域の雇用を支えているように、地域の産業になる。

結語

まず、認識すべきは、日本の農業政策はうまくいっていないということである。農業は多大な保護を与えられながら産業として自立することができなかった。保護の与え方が失敗したということである。

産業として自立するには生産性を上げなければならないが、それは農業就業人口が減少することである。農業人口の減少は農村地帯の政治力を低下させることであるから、それを嫌って、農業者一人当たりの耕地面積を引き上げることは行われて来なかった。しかし、農業で豊かになることができると考える人々の力によって、多くの農産物で、数少ない大規模な農家が、生産額の多くを生産するようになってきた。この力を活かせば、生産性の高い農業を創ることができるだろう。

そのために農村の人口が減少するのであれば、食品産業によって雇用を造るのが望ましかったのではないか。ヨーロッパが、食品産業を農業と考えていることに学ぶべきである。すなわち、農業は大規模化し、農村人口の維持は、農業の範囲を広く考えることで対応するということである。

また、多くの農産物で、数少ない大規模な農家が、生産額の多くを生産するようになってきたことから、政策の基本的な考えを変えるべきである。農家戸別所得補償政策で小規模農家に補償することは、大規模化を妨げ望ましくないが、政治的には難しいというジレンマがあるとされる。しかし、大規模農家が生産額の多くを生産しているのであれば、生産量当たり一律に配ってしまっても、大部分は大規模農家に行き、規模拡大の妨げにはならない。図2のデータから計算すると、稲の戸別所得補償の67%は販売額500万円以上の農家に行く。それ以外の作物であれば、ほぼすべてで8割を越す。農家戸別所得補償は、自立する農家を助ける政策となる。それでも、農家戸別所得補償は、自立した農家を助けるためには2割の予算が無駄になるという人がいるかもしれない。しかし、そもそもこれまでの農業政策の多くが無駄だったようなものだ。2割の無駄にこだわることはない。

    • 元東京財団上席研究員・早稲田大学政治経済学部教授
    • 原田 泰
    • 原田 泰

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム