タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2008/9/2

ジェンダー分野に関する国連の体制:現状と今後の展望

野村文月(国連代表部専門調査員)

1.はじめに
「国連ってジェンダーについて何をしているのですか?」。国連内外の人からよく聞かれる質問である。ジェンダー平等と女性のエンパワメントは国連の活動における主要な課題であり、複数のフォーラムで審議される上に、個々の国連機関が150以上の国と地域で自律的に支援事業を展開している。しかし皮肉にも、国連全体としてどのような成果を挙げているかが見えにくくなっている。
現在、国連では、ジェンダーを含め、開発、人道支援、環境分野において、いかに国連システムが一体となって効果的に任務を遂行できるかについて、有識者パネルの勧告を基に議論が進められている。本稿では、現行のジェンダーに関わる国連の体制を検討し、今後の体制の在り方を考える足掛かりとしたい。

2.ジェンダー分野を扱う国連の体制
ジェンダー分野に関わる国連機構は二つに大別できる。一つは、国連事務局の関係部署であり、国連加盟国が決議や成果文書の採択等を通じ、規範を形成する際に事務的・実質的サービスを提供する。これらは国連分担金で運営される。事務局の例として経済社会局内の女性の地位向上部(DAW)がある。DAWは、毎年開催される婦人の地位委員会や人権・社会問題を扱う国連総会第3委員会といった政府間協議において、会議サポートや情報取り纏め等のサービスを提供している。また、政府間交渉の成果文書である決議の各国内実施状況につき、加盟国から情報を収集し、事務総長報告を作成する。

もう一つは、支援国の要請に基づき国レベルで事業を実施する基金・計画(funds and programme)である。これらはドナー国の自発的拠出金で運営される(注:この他、国連と協定を結んでいる専門機関や国際金融機関等も現場で支援を行うが、本稿では国連決議によって設置された機関のみを対象とする)。基金・計画には、例えば国連開発計画(UNDP)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)がある。これらの機関は、各々の執行理事会で承認される予算と戦略計画(方針)に基づき、個々の支援業務を策定・実施する。例えば、UNDPは、重点活動分野である民主的ガバナンス、環境と持続可能な開発、危機予防と復興、貧困削減においてジェンダー平等と女性のエンパワメントの視点をとりいれるジェンダー主流化を進める。またUNFPAは人口問題やリプロダクティブ・ヘルス/ライツに係る分野等、UNICEFは児童の基本的権利実現に向けて基礎教育の分野等でジェンダー平等に係る取組を行っている。

上記の国連事務局と基金・計画の間には、本部で形成された規範を現地で実践する流れと、支援現場からのニーズを本部での規範形成に反映させるという双方間の流れがあり、両者は相互補完的な関係にある。では、本部と現場ではジェンダー政策をどのように調整し補完しあっているのだろうか。

3.国連におけるジェンダー政策調整
あまり知られていないが、国連本部には「女性とジェンダー平等に関する機関間ネットワーク(IANWGE)」という関係機関を調整するネットワークがあり、事務総長に任命されたジェンダー問題担当事務総長特別顧問(OSAGI)が議長を務めている。50近くの国連事務局や基金・計画、専門機関、国際金融機関からの参加者を対象に、1995年の第4回女性世界女性会議の成果文書である北京行動綱領や関連文書の実施に関わる支援と監視を行っている。北京行動綱領は、女性と貧困、女性の教育と訓練、女性に対する暴力等12の重点問題領域に対する戦略目標及び行動を幅広く網羅し、国連のジェンダー政策の重要な指針を提供している。ちなみに、OSAGIは、同綱領実施において、国連の全ての活動にジェンダーの視点を組み入れるマンデートを与えられて事務局内に設置された。

現場では、主に国連常駐調整官と各国連機関の常駐代表を中心に、その国における国連の支援業務全体に関する調整が行われる。それに加えてジェンダー分野については、各国連機関に配置されているジェンダー担当官が「ジェンダー・テーマ・グループ」に参加し、支援国のニーズ発掘や提言を行う。

このように制度上、本部と現場は個々にジェンダー政策を調整する機能がある。しかし、実際のところ、IANWGEでは、参加するジェンダー担当官の親元機関のトップが事務次長(USG)ランクであるのに対し、ネットワークを取り纏めるOSAGIのトップは事務次長補(ASG)ランクにとどまるため、官僚的な組織である国連においてOSAGIがジェンダー政策の調整機能として強力なリーダーシップを発揮できない、という問題がある。また、基金・計画が執行理事会の決定に従ってその活動計画を策定・調整しているため、国連事務局の中にあるOSAGIの関与は限定的にならざるを得ない。現地の調整においては、参加するジェンダー担当官が他の業務を兼務していることが多く、またランクも低いため幹部クラスの政策決定に影響を与えることは困難である。さらに、国連全体のジェンダー政策を調整する観点から、本部と現場を有機的に結びつけるマンデートを有する機関がないことは致命的である。

ジェンダー平等は国連の重点分野と、事ある毎に言われてはいるが、その実現に向けた現行の体制は十分であるとはいえない。国連でジェンダーを専門に担当する国連機関としてよく取り上げられる国連婦人開発基金(UNIFEM)や国際婦人調査訓練研修所(INSTRAW)のトップのランクはASGよりさらに低いD2であり、先述のOSAGIとDAWを併せても職員数は200人弱、総予算は国連通常予算の3%に満たない。また、現地職員を入れて総勢9名のOSAGIに、ジェンダーに関する各国連機関の活動計画や報告の全てを分析させるのはそもそも無理との指摘もある。1995年にOSAGIを設立する際、明示的に「既存の人的・財政的資源を活用しながら」という文言を関連文書にいれたのは加盟国であったが、それが現実的に機能しないことに気付くまで10年を要した。

4.ジェンダー分野の体制改編に向けて
2005年の国連首脳会合において、各国首脳は事務総長に対し国際的な開発目標の達成に向けて国連の運営及び調整の強化を要請した。これを受け、アナン前事務総長は15名の有識者からなる国連システム一貫性パネルを設置した。翌年11月に提出された同パネルの報告書では、ジェンダー分野に関する国連の体制について、現行の脆弱なジェンダー機構に代わり、USGランクのリーダーシップの下、OSAGI、DAW、UNIFEMを統合する新機構の設置が勧告された。

その後、加盟国や国連関係者による累次の協議が開催され、既存のジェンダー機構が抱える問題として、?関係機関間での調整と一貫性が不十分、?ハイレベルの意思決定に参加する権限がない、?説明責任の所在が不明、?不十分な資源と財源等が挙げられた。今後は、国連事務局が新機構設置に関する複数の具体案を提案し、それが加盟国間で検討される予定となっている。

国連改革が一筋縄ではいかないことは経験的に証明済みである。ジェンダー機構改編に関する議論が今後どのように進められていくかもまた未知数ではあるが、今後の審議の方向性に注目したい。

5.おわりに
ジェンダー機構改編の究極の目標は、限られた国連の財源を無駄なく活用し、国連全体が一丸となって、成果の見える支援を現地の女性や住民に届けるか、である。ジェンダー機構改編には取りうる複数の選択肢があるが、例えば、既存のジェンダー機構を統合して、USGポストを作ることが、支援国の住民の生活にどのようなインパクトを持つかなど、一つずつ真剣に精査する必要がある。今回の機構改編に関し某代表部外交官が「うわべだけの対応(cosmetic surgery)では、現場の人々の生活は何も変わらない」と言っていたことは印象深い。

国連本部で決議作成ばかりに関わっていると、この紙が現場でどのような意味を持つのかを忘れがちになる。また、昼夜を徹して加盟国間で合意に至った決議でさえ、現場で活動する国連職員がその決議の存在を知らないことに驚くことがある。今回のジェンダー機構改編は、国連の本部と現場の距離を縮め、一貫性・一体性のある国連をいかに実現するかを考え直す好機である。国連に関わる人々全てに、自分の足下だけではなく、国連システム全体を見渡すマインドセットが求められているのではないだろうか。
(本稿は筆者の個人的見解を含むことを付記しておく)