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第6回国連研究プロジェクト研究会議事概要「COP15と国際関係」

February 15, 2010

作成:華井和代(東京大学公共政策大学院)

1.出席者

北岡伸一(東京財団上席研究員)、鶴岡公二(外務省国際法局長)、飯田慎一(外務省経済局政策課企画官)、池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)、池田伸壹(朝日新聞社経営企画室主査)、岩澤雄司(東京大学法学部教授)、紀谷昌彦(外務省国連企画調整課長)、小林賢一(外務省国連政策課長)、酒井英次(海洋政策研究財団海技研究グループ国際チーム長)、ジョン・A・ドーラン(海洋政策研究財団研究員)、滝崎成樹(外務省安全保障政策課)、中谷和弘(東京大学法学部教授)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、潘亮(筑波大学人文社会科学研究科専任講師)、福島安紀子(国際交流基金特別研究員)、赤川貴大(東京財団研究員)、関山健(東京財団研究員)、渡辺恒雄(東京財団研究員)、華井和代(東京大学公共政策大学院)

2.報告者・議題

杉山晋輔(外務省地球規模課題審議官)
「COP15と国際関係」

3.報告

(1)COP15の概要と日本政府の立場

1992年採択の気候変動枠組条約において、右条約の目的は「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的とする」と書かれている。気候変動の要因についての科学的議論は今でもいろいろあるようであり、自分は科学者ではないのでその当否を議論できない。しかし、条約の規定からすればその議論は済んでいて、温室効果ガスの人為的な排出を減らさなければ温暖化はとまらないということになっている。

気候変動枠組条約はいわゆるアンブレラ条約である。1992年のリオ環境サミットで採択された親条約で、一般的な義務を示し、その上で具体的な義務は議定書で規定することとされた。1997年のCOP3で採択された京都議定書で、条約附属書?に列挙されるいわゆる「先進国」に対して、温室効果ガスの削減に関する具体的な数値が義務として掲げられた。このように、京都議定書での数値設定の対象は先進国のみであった。「先進国」の定義は親条約にもないが、附属書?に掲げられた国(基本的には1990年当時のOECD加盟国)が先進国として扱われている。

このように、京都議定書の附属書Bでこれら先進国の削減目標が掲げられた。そのため、中国、インド、ブラジルなどの新興国を含む途上国は削減の義務を負っていない。また、アメリカはアル・ゴア副大統領が京都において合意達成に指導的役割を果たしたにもかかわらず署名はしたが上院の同意をとりつけられなかったため締結できなかった。アメリカはCO2等の排出で世界の約2割、中国は2007年のIEAの統計であれば20%をこえて世界一になっている。このように世界の4割以上を排出する米中が京都議定書で削減義務がかかっていない。だから、日本としては、主要排出国をきちんと巻き込んだより公平で実効的な枠組みをつくることをCOP15の争点とした。

京都議定書では、2008年から2012年までを第一約束期間として削減目標を掲げた(3条1)。2013年以降の第二約束期間に達成すべき約束については、締約国による附属書Bの改正で設定するとした(3条9)。その際、附属書Bの改正案の採択には?コンセンサス方式による合意にあらゆる努力を払う(20条3)、??が無理な場合は出席し投票した加盟国の4分の3以上の賛成により採択する(20条3)、ただし、?関係締約国の書面による同意が必要(20条7)、と規定されている。

したがって、附属書Bの改正によって第二約束期間の削減目標を設定するには、締約国である日本の同意が必要。日本がこれを与えなければ、少なくとも日本については改正はできない。これが構造的な規定。このような条約上の立場を利用して積極的主張を行うのが日本政府の交渉方針。

現在の京都議定書では、附属書Bに掲げられていない中国、インド、ブラジルなどの新興国には具体的な削減義務が課されない。また、アメリカは署名したが締約国ではない。日本政府は、こうした主要排出国を含まないままで、附属書Bの数値のみを変更する改正には反対している。全ての主要排出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と目標の合意を主張し、その枠組みを前提として2020年までに90年比25%削減することを表明している。

(2)COP15における交渉経緯

COP15で合意された内容は次の3つ。
(1)2013年以降の国際的枠組みを議論する枠組条約作業部会(AWG-LCA)のマンデートを延長し、COP16で採択を目指す。
(2)現在の京都議定書作業部会(AWG-KP)の作業を継続する。
(3)緊急に集まった非公式の首脳旧会合で「コペンハーゲン合意」をまとめ、COP全体会合で同合意に「留意する」決定を採択。

これらの合意に至るまでには、何度ものドラフト会合が重ねられ、日本も昨年4月24日という早きに及んでドラフト・プロトコルを提示していた。コペンハーゲンでは、単なる外交的な政治文書ではなく、内容のある政治合意を作ることが目指されたため、案文の交渉が行われた。最終的には、首脳会合に持ち込まれた。会合には、鳩山総理、オバマ米大統領、ブラウン英首相、ラッド豪首相、メルケル独首相、サルコジ仏大統領、中国、インド、ブラジルなど20数カ国が参加した。

問題となったのは中国の頑なな反対であった。中国は会合に外務次官を出席させていて、温家宝首相はそこには一度も顔を出さなかった。最終的にはオバマ大統領が温家宝と45分にわたる直接交渉を行い、合意に至った。

中国の頑なな態度とオバマ大統領の存在感の強さが印象付けられる結果となった。国際社会のなかで、中国がいかに責任ある意思決定に参加していくかは、重要な問題である。

一方、アメリカなどを主要排出国として京都メカニズムに関与させたい日本としては、アメリカのペースに合わせながらも、日本政府の主張にアメリカを巻き込み中国の関与を実現していくことが必要。

(3)日本にとっての成果

COP15の成果は決して満点ではないが、ある程度の前進をしたことは確か。鳩山政権の25%という高い目標、150億ドルの鳩山イニシアティブもあるが、附属書Bの改正についても、条約に規定されている権利を行使するという立場を主張し続けたことが日本の立場を強くしたと思う。今後も、強い立場での交渉を続けることが必要。

また、今回のように首脳級会合でドラフトが次々と出される場合には、首脳自身の高度な交渉力が要求される。オバマ大統領はブラウン首相、サルコジ大統領、メルメル首相と頻繁に相談し、鳩山総理とも話していた。首脳による直接交渉はこれからますます増えるであろう。

4.自由討議

Q:首脳級会合における中国の対応をどう評価するか
・COP15のあり方は環境問題にとどまらず、国際社会の問題であった。中国が主たる問題と思うが、インド、ブラジル、南アという台頭している新興国が国際社会でどのような責任を果たせるかが問われている。重要な会合に首脳が出席しなかった中国には、まだ責任を担う用意がないのかもしれない。
・中国にはまだ準備がないように見受けられる。今は国益を超えて社会の責任を果たそうとしていない。しかし、交渉を重ねるうちに変わっていくことが期待される。
・ロンドンでのG20会合の際には、胡錦濤国家主席が出席していたが、中国の態度は極めて受け身であったという。ただ、同じ「首脳」でも、首相と主席の権限の違いはあるのかもしれない。
・権限の問題というよりも、交渉スタイルの問題もある。もともとアジアにはないスタイルで、日本がヨーロッパスタイルになじんだだけではないか。
・コペンハーゲン合意のなかで「非附属書?国(途上国)が自発的に行う削減行動も国内検証を経た上で、国際的な協議の対象となる。」とあるが、この部分に中国が同意したことは一歩前進と評価できる。

Q:日本政府が25%の削減目標を表明したことについて
・「全ての主要排出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と野心的な目標の合意を前提に」という条件が抜け落ちて、数字だけが約束としてとらえられる危険はないのか。
・その点については「前提」条件を明らかににしているので誤解は発生しない。Premiseという語が入っている。何をもって「主要な排出国」の「野心的な合意」とするか、何を持って「公平」「実効的」とするかという定義の問題はあるが。

Q:附属書Bの改正に関する日本の同意について
※京都議定書20条7の但し書きには、「附属書Bの改正は、関係締約国の書面による同意を得た場合にのみ採択される。」と規定されている。
・1カ国だけでも反対したら附属書Bの改正は行われないという合意はあるのか。
・その点をはっきりということはできない。例えばカザフスタンが附属書B締約国となる際、日本は関与しない立場であったので同意しなかったが、決定された。だから、日本が同意しなければ改正が全く行われないというわけではない。
・同意しない改正内容について日本が拘束されないことは確か。第一約束期間が終了する2012年12月31日までに日本が同意する附属書Bが作成されなければ、2013年1月1日から日本のシーリングが消滅し、そうなると京都メカニズムの下での資金は流れないということはおこりうる。そうなれば困るのは受け取り手(6割ほどは中国にいっているといわれている)とシティであろう。ただし、そのような選択肢をとるかどうかは政治的決定である。

Q:今後、中国との交渉をどのように進めていくか
・主要排出国である中国にも削減義務を課す必要があるが、どのようなやり方で義務を受け入れさせるか、見通しはあるのか。
・とても難しい。技術協力や資金協力を交渉材料として、ねばり強く交渉を続けるしかないだろう。高度なレベルでの交渉が必要。
・義務を受け入れた方が国益になるという認識を形成することが必要。
・途上国130カ国で形成しているG77+中国の連携をいかに断ち切っていくかが鍵。G77+中国は、たとえ舞台裏では中国への不満の声が上がっても、記録に残るような場になると一枚岩で発言する。しかし、COP13のバリ会合のときにも一枚岩は崩れた。マルチ交渉に慣れている途上国の代表の中には、一部の代表が集まって方針を決定し、会議で通報するというG77のやり方に対して不満を持っている人もいる。彼らの声を引き出して公の場での議論に持ち込めば、G77の連携を解体して交渉を進展させる余地が生じる。
・持続的経済のためには環境保全は必要であり、中国にも理解できるはず。中国での森林伐採は一時深刻だったが、今はさかんに保全をしている。実利がある場合には中国も協力するだろう。

Q:国際NGOの活動について
・附属書Bへの参加に反対する途上国に対して、国際NGOがどの程度の影響力を持っているのか。根回しをしてワンボイスを形成する役割を果たしているのではないか。
・NGOは強い影響力を持っている。会議そのものには参加できなくても会議場には多くのNGOが詰め掛けた。また、日本政府は代表団にNGOの代表を2人含めた。NGOの影響力はますます強くなり、会議に反映される可能性がある。しかし、やはり最終的には政府間、首脳の判断が重要。
・中国にも環境NGOは多い。NGOのネットワークを通じて情報をもたらし、中国国内で議論がはじまり、政府が変わっていくことに期待する方法もある。気長だが、情報公開が現状を変える力を持つ。

Q:COP15の運営をどう評価するか
・議長国であったデンマークや条約事務局の運営に対して問題が指摘されているが、どう評価するか。
・COP13のバリ会合で決定された目的が達成できなかったことは遺憾。首脳会合において事態が紛糾したとき、議長や事務局長は事態を打開する方策を積極的に打つ必要があった。
・事務局長が各国首脳に対して統率をかけることは可能だったか。むしろ、国連事務総長でなければできないのではないか。
・今回のように議論が紛糾するような会議においては、事務局と国連事務総長がもっと強いイニシアティブを発揮することが必要だと考えるべきであろう。

5.今後のCOPにおける交渉への展望

気候変動問題は国際社会においてより重要な問題となってきた。交渉レベルも高度になり、首脳自身による交渉と合意が必要になってきた。COP15では、鳩山首相はじめ各国首脳が具体的なドラフティング交渉に挑み、その大変さを実感した。今回のように短期間でドラフトが何度も提示される会合では、首脳自身が内容をすばやく理解し、交渉に臨むことが必要になる。今後、こうした首脳による交渉をいかにサポートしていくかが課題である。

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