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第12回「2008年アメリカ大統領選挙の行方と日米関係」【Part1】

日時
2007/12/17  12:00~13:30 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 大会議室
担当
片山
        ・ スピーカー:渡部恒雄(東京財団客員研究員、CSIS国際戦略問題研究所非常勤研究員)
        ・ コメンテーター:秋元千明 (NHK解説委員)


アメリカ大統領選では、毎回、アイオワとニューハンプシャーという2つの小さな州が、全米の注目を集める。それは、この2つの州で行われる選挙の結果が、その後の選挙戦に大きな影響を与えるからにほかならない。

2008年の選挙では、1月3日にアイオワ州の党員集会、1月8日にニューハンプシャー州の予備選挙と、序盤戦が例年より前倒しで実施されるので、米国では、すでに対立候補が火花を散らして前哨戦を繰り広げている。

そこで当財団では、戦略国際問題研究所(CSIS)の非常勤研究員でアメリカに広い人脈を持つ渡部恒雄 東京財団客員研究員を講師に、国際問題に詳しいNHKの秋元千明解説委員をコメンテーターに迎えて、アメリカ大統領選と日米関係を考える政策懇談会を開催した。以下は、渡部氏の報告の概要である。

渡部氏は、まずアメリカのシンクタンクと政権の関係から話を始めた。アメリカでは、大統領選の結果政権交代があると、政府高官はすべて、人数で言えば3000に上る職が交代する。日本で言えば大臣、副大臣はもちろん、局長、次長クラスまですべて入れ替わる。

では、政権から去った元高官たちはどこへ行くのか。もちろん民間企業へ行く者もあれば大学へ戻る者もある。政権と民間の間を人が出入りするため、これを回転ドアーと呼ぶ。民間側での大きな受け皿がシンクタンクである。

従って、アメリカのシンクタンクには、次期政権の閣僚候補や政府高官候補が滞在しているということだ。そこで彼らは政策を研究・提言しながら、次の機会を狙っているのである。政治家が出入りするため、アメリカのシンクタンクは保守的(共和党系)、リベラル(民主党系)という傾向が生じる。

例えば、アメリカンエンタープライズ公共政策研究所(AEI)やヘリテージ財団は右寄り(共和党系)、ブルッキングス研究所や米国進歩センターは左寄り(民主党系)、戦略国際問題研究所(CSIS)は中道といった具合である。

渡部氏は、第2次ブッシュ政権とシンクタンクの関係を具体的な例を挙げて説明した。
戦略国際問題研究所(CSIS)の現所長ジョン・ハムレは、クリントン政権の国防副長官であった。ハムレの前任者ロバート・ゼーリックは、2000年の大統領選では、CSIS所長を辞してジョージ・ブッシュの外交政策アドバイザーとなり、ブッシュ政権では通商代表、国務副長官などを歴任した。

他方、米国進歩センターのジョン・ポデスタ所長は、クリントン政権で大統領主席補佐官を務めた経歴があり、もし来年、ヒラリー大統領が実現すれば、大きな影響力を持つことが予想される。

次に、渡部氏は、最近のアメリカが置かれている政治的・外交的状況について論じた。
まず、イラク戦争の失敗がある。イラク戦争に関しては、民主党左派はそもそも戦争を始めたのが間違いであったとするが、民主党や共和党の現実派は戦後処理に失敗したと見る。

しかし、両者とも、戦後イラクの治安が不安定化したという点で認識は一致する。問題は今後どうなるかだ。今年1月からイラクの米軍が増派された効果もあって、いまのところ治安はかなり良くなったが、今後、安定が継続するかどうか予断を許さない。

従って、来年11月にイラクの治安が改善されていれば共和党に有利に働くと渡部氏はみる。逆に治安が悪化すれば、当然民主党に有利に働く。つまり、イラクの治安状況が大統領選を左右する一つの要因であると渡部氏は強調した。

次に北朝鮮政策にも言及した。ブッシュ政権初期には、リチャード・アーミテージやマイケル・グリーンなど知日派・現実派が東アジア政策の中心だったが、ジョン・ボルトンなどネオコン・タカ派のグループの影響力もあり、結果的に北朝鮮に対して妥協のない強硬路線を打ち出した。これが拉致問題を重視する日本の立場と一致するところが多かった。

ところが、ブッシュ政権後期になると、知日派は退き、イラク戦争の失敗が明らかになるにつれネオコン・タカ派も政権を去って、政権の主流が非知日派の現実派に変わって行った。対北朝鮮政策も、ヒル国務次官補という欧州専門家の外交官が前面に出て、米朝関係を進展されることでブッシュ政権の「遺産」とする方向に重点がおかれ、強硬姿勢は後退してしまった。この現実派が采配する対北朝鮮関与政策は、ヒラリー大統領が誕生しても変わらないだろうと渡部氏は見る。

現時点で大統領レースを鳥瞰すると、全米では、民主党はヒラリー・クリントンが圧倒的優位に立ち、その後をオバマ、エドワーズがこの順で追いかけているのに対し、共和党はジュリアーニ、ハッカビー、ロムニー、マケイン、トンプソンの5候補が混戦模様である。

ところが、アイオワ州の支持率を見ると、民主党ではオバマがヒラリーを僅差でリードし、共和党ではハッカビーがジュリアーニを大幅にリードしている。アメリカの大統領選では、この序盤戦の戦いが重要で、オバマが勝てばその勢いで最終的に指名を勝ち取る可能性もある。なぜなら、オバマは長期戦にも耐える潤沢な選挙資金を持っているからだ。

これに対して、ハッカビーは人間的魅力とコミュニケーション能力を備えているが、全国展開する資金を持ち合わせておらず、最終的にジュリアーニに勝てる見込みはない。しかし、ハッカビーは宗教右派の受け皿として急速に支持を広げているので、副大統領候補としては有力である。

特にジュリアーニにとっては、ハッカビーは自身のリベラルな側面を補うという意味で、副大統領候補として考慮に値する。また、予備選の段階でライバルであるロムニー、マケイン両候補の票をハッカビーが食えばジュリアーニにとって好都合でもある。

このような構図のなかで、政策論争はどうなるか? 渡部氏は安全保障、経済、環境の3つの分野を挙げて、それぞれの分野でポイントとなる課題を論じた。

まず、安全保障は前述のようにイラクの治安状況が最重要課題、加えて米軍のイラン攻撃の可能性も無視できない問題であると渡部氏は指摘した。

イランは2003年に核兵器の開発を停止したとの「国家情報評価(NIE)」報告が最近公表されたが、アメリカ国民は1979年に米国大使館を占拠し人質にしたイランに好感を持っておらず、イラン攻撃のオプションは、安全保障政策の一つの争点になる可能性はある。

特に、ベトナム戦争以来、反戦派を抱える民主党にとっては、安全保障政策で共和党よりタカ派的政策を提示しないと国民全般の支持は得られず選挙に勝てないというジレンマがある。ヒラリーやオバマはこれを知っており、民主党の中では保守的な安全保障政策を打ち出している。

渡部氏は経済・通商政策や医療保険政策も争点になるとの見方を示した。まず、サブプライムローン問題で来年の米国経済は景気後退に見舞われる可能性が高い。国民健康保険制度のないアメリカでは、景気が悪くなると医療費を払えない国民が増えるので、健康保険制度の充実を求める声が高まる。

アメリカでは、国民皆保険制度の導入は無理としても、高齢者や低所得者への医療保険の充実は積年の課題であるが、その際問題となるのが財源である。伝統的に、民主党は大きな政府、共和党は小さな政府を主張してきたが、これまで減税路線を取ってきた共和党が、政府の負担を増やす制度の拡充を打ち出すのは難しい。また民主党が景気後退期に消費を冷やしかねない健康保険の拡充を打ち出せば、共和党からの批判は激しくなるだろう。

通商問題では、伝統的に共和党は自由貿易、民主党は保護貿易の傾向にあるが、来年経済が停滞すれば、保護主義的圧力が強まり、両党はこの圧力にどう対応するか。滞っているFTA交渉をどうするかも課題である。いずれにせよ、新政権の経済政策は内向きになる恐れがある。

渡部氏は日米関係について次のような議論を展開した。今後の日米関係を考える時、特にアメリカから見た場合、最も象徴的なことは、「米中関係は21世紀で最も重要な二国間関係となる」と言ったヒラリーの見方である。

しかし、これを「日本が置いて行かれる」という意味に受け取るべきではないというのが渡部氏の主張だ。ヒラリーがこの表現を使った論文をよく読むと、中国は様々な分野でトラブルを抱えている国であるから、日本と協力して対処するしかないというメッセージが読み取れる。

特に環境問題は深刻であり、日本の省エネ技術に期待しているのがアメリカの本音である。つまり、アメリカはかつてマンスフィールド大使が述べた「日米関係は世界で最も重要な二国間関係」から、米中日のトライアングルでアジア政策を展開する方向にある。

ところが、日本は依然として、日米、米中の二国間関係の枠組みの思考から抜け出せない。日本はもっと柔軟な姿勢が求められる。環境問題は、日米中のトライアングルにおいて、日本が持つ大きな武器である。

アメリカもやっと環境問題の深刻さを認めた。環境問題では、欧州が温室ガス排出に対し厳しい数値目標を定める姿勢で臨んでいるのに対して、米国と日本は各国の自主性を優先する立場である。この関係に、インドと中国をどう取り込むかが今後の課題となる。

渡部氏は、2008年大統領選でも、環境問題への対処も重要なアジェンダになるため、日本の戦略のためにも、共和党、民主党がそれぞれどのような政策を打ち出すかに注目すべきであるとして、今回の報告を締めくくった。

この後、秋元氏からは、宗教右派の動向、ヒラリー支持率の現状、アメリカの外交政策、核不拡散原則、米中・日米関係、アメリカの中東政策について、コメントを交えた問題が提起され、討議が行われた。

秋元氏は、民主党政権が誕生すれば、北朝鮮政策を含めアメリカの外交政策が変わるのではないかと期待する向きがあるが、それは間違いだと見る。また、ブッシュ政権の看板と看做されている先制攻撃論、単独行動主義なども、政党の別を超えてアメリカの基本戦略であるとする秋元氏の見解を、渡部氏も共有する。

ただ、渡部氏は、武力行使にいたるプロセスにおいて、共和党が英国や日本など、まず同盟国との関係を重視するのに対し、民主党は国連などとの多国間協調をまず試みると言う違いがあるが、それが失敗した場合は単独行動を取るという点では同じであると指摘した。

アメリカが中国と接近するにつれて、日本は取り残されるのではないかという懸念を持つ向きに対して、秋元氏は、この二つの関係を比較すること自体に意味がないと主張する。なぜなら、米中は同盟関係ではないが、日本は米国の同盟国であり、米国は、米軍基地を置く日本の支援なしにアジアでのプレゼンスを確保することはできないからだ。

さらに、日本は民主主義国であるのに対し、中国はそうではないという秋元氏の指摘に、渡部氏も同意。渡部氏は、民主主義国の外交は国内の影響で外交的に高いコストを払うことも多い。日本はインド洋での給油活動の中断を余儀なくされ、米国では重要な同盟国の日本に過去の従軍慰安婦への謝罪を求める決議をしてしまった、と指摘した。

中東政策について、秋元氏は、テロの問題に言及した。大統領選の最中に共和党を狙ったテロが起これば、民主党が有利になるだろう。しかし、その結果民主党政権になったからと言って、テロがやむことはなく、ゆえにアメリカが対テロ戦争をやめることはない。

そこで、民主党は伝統的に親イスラエル、共和党は親アラブという図式があることを指摘した上で、今後アメリカの対テロ姿勢はどう変わるのかという質問が、秋元氏からなされた。渡部氏は、民主党はイスラエルの労働党と関係が深いのに対して、共和党右派は右派というだけのことで、アメリカのパレスチナ問題への基本姿勢はそれほどは変わらない。

しかも、核兵器がテロリストの手に渡ってアメリカが攻撃されることを絶対に防がなくてはいけないという点では、民主党も共和党も一致している。民主党はブッシュ政権が不必要なイラク戦争に力を分散させたことで、対テロ戦争を失敗させたと見る。したがって、テロリストの活動拠点のアフガンにおける作戦は支持している。

渡部氏は、日本のテロ特措法の議論も、この点を理解しないと問題の本質を掴み損ねると警告して、討議を締めくくった。

(報告者:片山正一)