公開フォーラム

タイプ
レポート
プロジェクト

第10回「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立の構図」

日時
2008/5/13  18:00~20:00 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 大会議室
担当
関山、平沼

第10回東京財団フォーラム
「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立」 開催報告


報告者:平沼光(東京財団政策研究部 プログラムオフィサー)


去る5月13日、第10回東京財団フォーラム「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立」が開催されました。

対テロ問題や中東和平で歩み寄りを見せる米露ですが、米国が進めるMD計画やNATOの拡大では対立の様相を見せるなど、ユーラシア地域を舞台に米露の協力と対立の動きが活発化しています。これが意味するところはなにか、また、日本とって今後どのような影響があるかについて、関山健研究員兼プログラムオフィサーの進行のもと、普段は東京財団の「ユーラシア情報ネットワーク」プロジェクトで中東の情勢を分析している佐々木良昭主任研究員、米国の情勢分析を担当している渡部恒雄客員研究員、ロシアの情勢分析をしている畔蒜泰助研究員が登壇し分析を行いました。

冒頭、各研究員から米露の協力と対立の構図について以下の報告(概要)がなされました。


畔蒜研究員:
・プーチン政権は9.11テロ事件が起こった後、いち早くブッシュ大統領に電話をして対テロ戦争での協力を申し出た。冷戦終結以後、初めて米露が対等な形で戦略的なパートナーシップを構築したのだ。この場合の対テロ戦争には、大量破壊兵器、WMDの拡散問題というものも含む。これが、新しい脅威の時代におけるユーラシアでの米露協力端緒となったのである。

・ところが、その後、米露の対テロでの共闘が中東和平問題にまで繋がっていくことを恐れた米ネオコン派とライス大統領補佐官(当時)などの国際協調を志向する穏健派勢力との対立が発生。

・イランの核問題ではネオコン派はイランへの軍事攻撃を主張する一方、穏健派は、ロシアがイランに民生用の原子力発電所を支援することで、逆にイランの軍事的な核開発をやめさせるというロシア案を支持。ここに、イラン核開発問題を巡る米露の協力と対立の構図が浮上した。

・この協力と対立の構図は、第二次ブッシュ政権以降、ブッシュ政権内のネオコン派の影響力の低下と共に、協力の動きが加速。昨年12月には、ロシアがイランに核燃料を供給し、使用済み核燃料もロシアが引き取る核燃料リース方式というイランの核兵器製造の可能性を排除したスキームのもと、ロシアはイランに核燃料供給を開始した。

・それに対し、ブッシュ大統領は肯定的に支持をした。米露は対立ばかりしているのではなく協力すべきところは協力しているのだ。米露のユーラシアにおける関係の機微を読み解く鍵は中東にある。

佐々木主任研究員:
・世間が今一番注目しているのはイランであろう。イランに対するアメリカの攻撃の可能性は完全に無くなったとは言えないのではないか。

・従い、イランはしかるべき外交活動を展開する必要があり特にトルコとの関係は重要となる。もし、ヨーロッパやアメリカや日本が、完全にイランに対して手を出せない状態になった場合、資源ナショナリズムの動きを強めている中国の独壇場になる可能性がある。それを考えると、アメリカは、いわゆる西側のあまり大きな経済力を持っていない国がイランとの間にパイプを持つということは、決して望まないところではないだろう。

・アメリカ主導による国連安保理のイランに対する第3次制裁が発表されて間もない時期であるにもかかわらず、トルコのトズメン貿易促進大臣がイランに行って、イラン・トルコ間の貿易促進について話し合った。トルコの銀行の支店をイランの中に開設し、双方の通貨が使用可能な状態にしようという話もあった。

・アメリカが、トルコのエルドアン政権に対して、あまり強力な立場でものを言わない原因の一つというのは、実はトルコがロシア及び中央アジア、特にイラン、イラクの石油ガスの中継地に今ほぼなりつつあるということがある。

・従って、ロシアにしてみればロシアなりに、やはり北を回るパイプラインだけではなくて、南側からも抜けるルートは確保しておきたい。それから、中央アジアについても、やはりそうしたルートがあるほうが、将来的にはいいというのがアメリカの思惑ではないか。
 
・イランとの関係は非常に劣悪だが、やはりイランのガス・石油がインド洋サイドだけではなくて、地中海サイドにも抜けてくる。それから、イラク北部のキルクークを中心としたいわゆる石油地帯からの油が地中海に抜けるようなルートが必要だということで、多分にこれは、トルコ政府とアメリカ政府との合意のもとと思われるが、ジェイハーンという港を将来のいわゆる巨大な石油・ガスの中継地にしようと思っている。そうすると、そこでは当然のことながら、アメリカとトルコとの間にしかるべき協力関係ができてくるのかと思われる。

渡部客員研究員:
・今のアメリカの安全保障上の懸念の最大のものは、米国へのテロリズム、特に核テロへの不安は大きく、その不安の根源をみていけば、ロシアではなく中東に行き当たる。したがって、今のロシアがアメリカにとっての最大の最優先課題ではない。冷戦時代はソ連という国による核攻撃が深刻な脅威であったが、今は国家が脅威の主体ではなく、どこかの国家が核兵器を開発し、それをテロリストに横流しして、それがアメリカに対して使われるということが最悪の状況として、認識されている。これを防ぐために現在のアメリカの安全保障政策が組み立てられていると考えるとわかりやすい。

・この危機感が米国の軍事ドクトリンを変えた。ブッシュドクトリンとして知られている2002年の米国の国家安全保障戦略文書では、これまでは明白に差し迫った危機が自国に迫っているときにのみ使用される自衛としての先制攻撃の概念を、ならず者国家が大量破壊兵器を使用する前にその意図をくじく、というものに変えた。

・これは、それまで国家と国家が核ミサイルを向け合うことでお互いを抑止していた構造が、米国本土で3000人近くの犠牲者をだしたアルカイダによる9.11テロ事件で、大きく変化したことの反映である。実際には、アメリカは報復といっても国家で領土をもっていないアルカイダに対して直接の報復をすることは出来ず、アルカイダの訓練施設があったアフガニスタンを攻撃するしかなかった。

・その結果、アルカイダは全滅するどころか、首謀者のオサマビンラディンはパキスタンとの国境近くに潜伏していると思われ、国際的なテロ組織であるアルカイダは今も活発に活動している。

・冷戦期のように、アメリカが敵からのミサイル攻撃に対して、反撃を脅しに使って抑止できればいいが、国家ではないテロリストによる核攻撃(テロ)を抑止するような手段はない。イランの核開発が怖いのは、ハマスやヒズボラなどのテロリスト集団と関係があるイランという国家が核兵器を持てば、米国民の最大の悪夢が現実化する可能性があると、米国民は考えていることだ。だからイランの核開発阻止というのは米国にとって死活的に重要な政策となる。

・この4月にロシアのソチで行われた米露首脳会談で米露の「戦略的枠組み宣言」がなされた。この宣言は米露間における対立と協力の課題をバランスシートにしてリストアップし、利害共有の確認をした非常に興味深いものである。

・「戦略的枠組み宣言」ではミサイル防衛や大量破壊兵器の拡散防止などが柱としてあげられているが、例えばミサイル防衛の東欧への配備については、単純に合意がなされず先送りされているというよりは、ほかの利害要素もいろいろあるので、全体の中でディールしていこうという双方の態度として捉えることが出来る。大量破壊兵器の拡散防止においては、畔蒜氏が報告しているように、ロシアの国際ウラン濃縮センターの創設や、米国の国際原子力パートナーシップなど、世界の民生用の原子力を米露でコントロールしていこうという合意があるように思われる。

・また、グルジアとウクライナをNATOに加盟させる件では、米露のバーゲニングチップとして様々なディールの結果、先のNATO首脳会談で独仏の反対もあり、アメリカが折れる形となり、米露はユーラシアを舞台に様々な駆け引きを続けていくことになろう。

・アメリカの中にもチェイニー副大統領などのネオコン・タカ派の勢力とゲイツ国防長官などの現実主義者、現実派の方針をめぐる対立と駆け引きがあることは注意して見ておくべき点である。


各研究員の報告に続き、米国大統領選挙後の結果がもたらす影響、中東地域を舞台とするアメリカとロシアの協力と対立の関係が日本へ及ぼす影響などについてディスカッションが行われました。

特に、中東地域を舞台とするアメリカとロシアの協力と対立の関係が日本へ及ぼす影響について、イランへの核燃料提供などで歩み寄りを見せる米露の間で5月6日に締結された米露原子力協定は、今後締結されるであろう日露原子力協定にも影響を及ぼし、原子力分野での日米露の三角関係が構築される可能性があること、アメリカがロシア、中東また中国といった国と激しいバーゲニングゲームを展開している状況下で日本がどのように参画していくか、安全保障上の課題ではますます日本の存在感が薄くなる可能性があること、などが指摘されました。

当日は外交安全保障問題に係わる専門家、資源エネルギー関連の企業、団体の方々や報道関係者など、100名を超える来場者があり、会場からも活発な質疑応答をいただきました。

東京財団では引き続きユーラシアの情勢についてユーラシア情報ネットワークのホームページから情報を発信してまいりますので是非ご覧下さいますようお願いいたします。


第10回東京財団フォーラム「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立」
【日 時】5月13日(火)18:00~20:00
【会 場】日本財団ビル2階 大会議室
【テーマ】「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立の構図」
【スピーカー】佐々木良昭(東京財団主任研究員)<中東>
        畔蒜泰助(東京財団研究員)<ロシア>
        渡部恒雄(東京財団客員研究員)<米国>
【モデレータ】関山健(東京財団研究員兼プログラム・オフィサー)