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レポート
プロジェクト

第17回「2008金融危機と世界貿易」

日時
2008/12/10  12:00~14:00 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 第1~4会議室
担当
今井
第17回 東京財団フォーラム

「2008金融危機と世界貿易」

 

2008年12月10日に開催した第17回東京財団フォーラムでは、National Journal 国際経済コラムニストのブルース・ストークス氏が「2008金融危機と世界貿易」をテーマに講演し、その後、会場からの質問に答えた。講演内容および質疑応答の概要は以下のとおり。(文責:広報部)

◇-◇-◇
世界経済にとってのプラスとマイナス
今回の金融危機がこれほどまでに速まるとは誰も思っていなかった。だからこそ、われわれは慎重でなければならないし、謙虚に考えねばならない。

景気の下降が底入れしたとは到底思えない。不良資産がどれほど残っているのか、それがどういう結末を迎えるのかもわからない。今後まだまだ問題が生じるということだけは確実に言える。

そうした失望の中、各国中銀が調整し、連携のとれたかたちで利下げに動いた。これは未曾有のことで、世界経済にとってプラスと言える。また、中銀同士が通貨スワップでさまざまなアレンジを行っており、今後も協調的な利下げが見込まれる。これもプラス面だが、利下げには限界がある。金利がゼロに近づいているからだ。EUがリーダーシップを発揮したG20金融サミットも非常に良い兆しだ。日本にも世界が必要としているリーダーシップをぜひ発揮してもらいたい。

今後、各国による一層の協調的な財政刺激策が必要だが、これはEU間でもなかなか難しい。ドイツは公的銀行改革が思うように進まず、大統領選挙も近い。イギリスはロンドンの独立性に影響が及ぶような改革には慎重だし、アメリカは政権移行期にあって自国の景気回復で手一杯だ。日本もいまの景気刺激策だけでは十分でない。中国も大々的にPRしているほど刺激策の額は大きくない。IMF(国際通貨基金)の改革もすすんでいないし、中国、日本、あるいはアラブ諸国がここで力を存分に発揮できるかというと、その見通しは立っていない。これらは良い兆しではない。

国際協調による保護貿易主義の緩和を
G20金融サミットの共同宣言には、向こう1年間に新たな貿易・投資障壁をつくったり、輸出入制限措置を取らないという約束が入っているが、景気後退期においてはある程度の保護貿易主義が出てくることを予想しておかなければならない。その上で、いかに国際的な協調を図り保護貿易主義を緩和するかが問われる。

アメリカの貿易をめぐる政治環境は、大幅に悪化していると言わざるをえない。貿易によってアメリカ国内の雇用が失われていると考える人が多い。議会では1980年代ほど批判的ではないにしても、選挙を経るたびに貿易に対して懐疑的な議員の数が増えている。そうなると、オバマ次期大統領は保護貿易主義をどのように緩和していくかを考えなければならない。ワシントンの政治構造は1980年代よりも非常に複雑化している。われわれはそこを認識しなければならない。


質疑応答


 オバマ次期政権下での通商政策の見通し、特に東アジアにおけるFTA(自由貿易協定)戦略はどうなるのか?

ストークス氏 米韓FTAでは韓国のコメ輸入関税の引き下げが除外されたが、以前のアメリカならこうした要求はまず受け入れなかった。まだ最終的に決着したわけではないが、政治的な現実主義を示したという点で良い兆候ではないか。ただし、基準を下げる、緩めることの危険性はある。例外規定を設けると、どこの国もかならず例外を言い出すからだ。

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加のシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイといった4カ国、オーストラリア、ペルーも入れた6カ国の中には、アメリカとFTAを結んでいない国がある。そうなると議会の承認が必要で、これが大きな試金石となる。

日米のFTA交渉は非常に難しく、ほとんど不可能に近いだろう。しかし、われわれはこうした挑戦に真正面から取り組むべきだ。アメリカは日本やEUのような経済大国とFTAを結ぶべきだが、オバマ新政権が意欲的に取り組むかどうかは疑問だ。優先順位はそれほど高くはないだろう。

 日米が産業政策で協調できるとすれば、どのようなかたちがあり得るのか?

ストークス氏 さまざまな面で協調したほうがよいと思うが、おそらくアメリカ人のほとんどは必要ないと言うのではないか。プライドが高いと言うべきか、あまりにも自信を持ちすぎている。将来に対しても非常に楽観的で、今回の金融危機は1年で終わると考えている傾向がある。アメリカだけで逆境に勝てると思っている。だが、現実はそうはならないし、他国の協力も必要だ。これを素直に認めなければならない。現状に対する認識がまだまだ甘く、意識改革が必要だと言える。もっと財政出動、財政刺激策で協調すべきというのは理想だが、その結末はそれぞれが反感を募るだけに終わるということもある。これは歴史を振り返ると良くわかる。

 ビッグ3への救済措置のように、特定の企業を国が救うことをアメリカの国民はどう考えているか?

ストークス氏 最近の世論調査によると、61%が救済策に反対している。この理由は2つある。一つは過ちを犯し続けたデトロイトに対する怒りで、もう一つはウォールストリートの救済策に苛立ち、その矛先がデトロイトに向いたためだ。いずれにせよ、アメリカの国民は民間企業の意思決定に政府が介入することを嫌う。国民の政府への不信感は1960年代よりも強い。オバマ政権になって少し信頼が回復するかもしれないが、新大統領は大きな課題を抱えている。

 今回の金融危機は歴史の転換点となりえるのか? たとえばWTOドーハラウンド交渉が劇的にまとまり、サービス貿易や投資や知的財産に関する国際ルールができ、加えて国際金融についても第2のブレトンウッズのような体制ができればそうとも言えそうだが…。

ストークス氏 歴史の転換点にあるかどうかは懐疑的だ。世界経済、少なくともアメリカの景気後退は1930年代の大恐慌以来の状況にあると言えるが、転換点と言うにはあまりにも早すぎる。いろいろな代案がまだまだ見えている。これが資本主義の終焉だとも思わない。今後の大きな危機として、日本の失われた10年、あるいは15年と同じような状況が見られつつあることだ。それでも世界の終わりとは到底思えない。もう少し時間が経てば、いろいろなことが見えてくるだろう。