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第26回「北朝鮮の核問題:日本はどう対応するか?」

日時
2009/6/17  16:00~18:00 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 大会議室
担当
片山

第26回 東京財団フォーラム「北朝鮮の核問題-日本はどう対応するか?」

 

六者協議が行き詰る中、北朝鮮は5月25日第2回目の核実験を行った。オバマ大統領が4月5日にプラハで核兵器廃絶演説を行い、世界で核削減への期待が高まる中での実験であっただけに、日本をはじめ国際社会に大きな衝撃を与えた。

また、北朝鮮は運搬手段であるミサイルの発射実験も繰り返しており、今後北朝鮮が核の小型化に成功すれば、日本は直接北朝鮮の核攻撃の脅威に晒されることとなる。さらに、北朝鮮の核兵器がテロリストなど非国家主体の手に渡れば、国際社会にとって大きな脅威となる。

そこで東京財団では、今年2月に北朝鮮を訪問したジェラルド・カ―ティス東京財団上席研究員、朝鮮半島情勢に詳しい道下徳成政策研究大学院大学助教授、中国研究者の増田雅之防衛省防衛研究所研究部教官をパネリストに迎え、日本がこの脅威にどう対処するかを検討するフォーラムを開催した。渡部恒雄東京財団上席研究員がモデレーターを務めた。

北の核兵器開発は米との交渉カード

まず道下氏は、前回(2006年7月)のミサイル発射実験が明らかな失敗だったのに対し、今回のミサイル発射実験は3,100Kmの飛距離があり、落下地点もかなり正確だった点で、まずまずの成果を上げたとの見方を示した。

また核実験については、今回の爆発規模は4キロトン程度で、前回(2006年10月)の4倍と推定されること。そして、アメリカ国防情報局が初めて北朝鮮の弾道ミサイルへの核弾頭搭載能力を認めたように、北朝鮮は核兵器の実戦配備を着々と進めており、日本への核攻撃が可能となる状況が整いつつあることを指摘した。

北朝鮮の核開発の目的について、道下氏は、1993年のNPT脱退や1998年のテポドン1号の発射と同じく、北朝鮮はアメリカとの交渉カードとして核兵器開発を行ってきたと見る。この点で北朝鮮の戦略は一貫しており、核実験とミサイル発射実験を平和協定締結という最終目的に向けての交渉条件として使っている。

これに対してアメリカ政府は、ボズワース北朝鮮問題担当特別代表が議会証言で述べたように、地域の協力、国連の制裁、防衛措置、核拡散防止といった要素からなる政策で北朝鮮の核開発問題に対応しようとしている。

しかし北朝鮮の非核化をめざすといっても、一夜にして実現するわけでなく、ある程度の時間的猶予が必要となる。どの程度の時間的猶予を与えるかということになると、1994年の米朝枠組み合意で、北朝鮮の非核化を完了するのに10年間を想定していた点が参考になる。

ただし、当時の北朝鮮は核実験を行っていなかったし、核兵器を1~2発しか保有していなかったのに比べて、現在は核実験も行っており保有核兵器も5発に増えていることから、一方でもっと時間が必要だという現実論があり、他方でもっと短期間に核放棄をさせるべきだという政治的プレッシャーがあり、相反するベクトルが働いている。

また、1994年の枠組み合意で実施された軽水炉支援の問題が、今後再び浮上してくるのは確実であり、この点で最近の北朝鮮政府の発言に注目すべき点が二つある。一つは軽水炉を自国で作るという北朝鮮政府の発表と、もう一つはウラン濃縮実施の意思表明である。

道下氏は、北朝鮮が軽水炉支援を核廃棄の条件として交渉を仕掛けてくる点を指摘するとともに、ウラン濃縮についてはこれまで北朝鮮が否定し続けてきただけに、これを北朝鮮が自ら表明したことは、今後の交渉材料として扱うことができるという意味で、国際社会にとってはプラスの動きと見る。

複合的圧力で北の核保有を阻止したい中国

続いて、中国が朝鮮半島の問題をどう見ているか、どのような政策を取っているかについて増田氏が解説した。

増田氏によれば、中国は朝鮮半島に対して、?国際的・戦略的環境の安定と、?国境地帯・周辺環境の安定という二つの安定確保をめざす政策目標を持っている。

まず、中国にとって北朝鮮の本格的な核保有は、戦略的観点から阻止しなければならない。なぜなら、北朝鮮の核が日本と韓国を刺激し、米国主導のミサイル防衛強化を促し、日韓の核武装につながれば、中国の核戦略が制約を受けるからだ。

中国の核戦略の要諦は、アメリカの核に対する抑止であり、アメリカの同盟国である日本と韓国の核武装は、ミサイル防衛の強化とあいまって、中国の核抑止力を減少させることになる。

一方、中国東北部には北朝鮮出身の朝鮮族が230万も住んでおり、経済的結びつきも強い。したがって、北朝鮮に過度の圧力をかけて北の体制が不安定化すると、国境周辺の朝鮮族居住地域が不安的化する恐れが強い。

このように中国は、北朝鮮の体制不安定化とそれに伴う国内の朝鮮族居住地域の不安定化を避けるため、二国間ベースの対北朝鮮支援は続けざるを得ないし、過度の圧力をかけるわけにはいかない事情がある。

この二つの相反する安定化をどうバランスさせるかは大変難しい課題だが、今回の北朝鮮のミサイル発射と核実験を受けて、中国において国際的・戦略的環境を悪化させることが中長期的国益を損なうという認識が出てきたことに増田氏は注目する。

中国はこれまで北朝鮮との友好善隣関係を強調してきたが、最近はトーンダウンしており、圧力の方向に軌道修正したようだ。このことは、中国外交部が「北朝鮮の行動はこれまでの安保理決議や国際的規範に違反しており、今回の制裁は当然である」と述べたことからもうかがえる。

とはいえ、前述のように中国は国内・周辺地帯に不安要因を抱えており、中国を国際社会の側に引き寄せるためには、北朝鮮との軍事衝突や体制崩壊に対する中国側の不安に配慮することが必要だと増田氏は説く。

その上で、日米同盟による軍事的圧力、安保理の制裁実行、中国による経済的圧力などの手段により、いくつかの既存の枠組みを組み合わせた複合的圧力をかけて行くことが必要と増田氏は結んだ。

真の狙いは核保有と米との友好関係

次に報告を行ったカーティス氏は、まず今年2月にスティーブン・ボズワース北朝鮮問題担当特別代表を団長とする米国の民間人7名からなる訪朝団の一員として、ピョンヤンを訪問した時の話を紹介した。

この訪朝団は昨年春にもピョンヤンを訪問しているが、その時はニョンビョンの無能力化に向けて米朝間の交渉は比較的うまく行っているとの印象を受けた。

ところが今回は延べ10時間を超えるキム・ケガン外務次官との話し合いの中で、同次官は終始強気の態度を押し通したのが印象的だったとカーティス氏は述べた。

キム・ケガン次官は、核保有国となった北朝鮮が核を放棄するには、国交正常化という形式的な条件も必要だが、もっと実質的な条件が必要であると強調した。つまり、軽水炉2基の提供に加えて、アメリカが韓国に与えている拡大抑止(核の傘)の撤廃が必要になると述べた。

カーティス氏は、北朝鮮の真の狙いは、インドやパキスタンのように、核を保有しながらアメリカと友好関係を持つことだと見る。しかし、もしそれが現実には叶わないことだと北朝鮮が認識した時、核保有を推進するか、あるいは核放棄を条件にアメリカとの関係改善を図るか、どちらの選択をするかはわからないと言う。

カーティス氏は、日本こそ率先して北朝鮮の核放棄を働きかけるべき立場にありながら、拉致問題を理由に十分な役割を果たしていない点を指摘する。例えば、ニョンビョンの無能力化の条件として合意した重油支援を日本は拒否した。

こうした相互不信の中で先行きが見えない北朝鮮の核問題にどう対処したらよいか。カーティス氏は北朝鮮の核放棄を働きかける際の中国の役割を重視する。北朝鮮に対する制裁が効果を発揮するためには、北朝鮮とのつながりが深い中国の参加が不可欠である。

一方、中国の北朝鮮に対する立場は微妙であり、圧力をかけ過ぎて北朝鮮の体制が不安定化し難民が流出してくることは困る。他方、朝鮮半島が米国の同盟国である韓国の下に統一され国境を接することになるのは、中国の安全保障上好ましくない。

カーティス氏は北朝鮮の核問題に関して二つのポイントを強調した。一つは中国が恐れる日本と韓国の核武装を防ぐこと。そのためにアメリカは、両国に対して拡大抑止を再確認することが重要である。この点でブッシュ政権の失敗を繰り返してはならない。

もう一つは、これまでの問題対処型や段階的アプローチではなく、包括的なアプローチを取ることが重要であり、しかも米国の特使がピョンヤンへ行き直接金正日とその包括的合意の中身を話し合うしか、現実的な解決策はないとの見方を示した。

NGOの人道支援が北を変える可能性あり

その後のパネルディスカッションでは、渡部氏の質問に応える形で各パネリストが議論を展開した。

まず米人ジャーナリストが逮捕され12年の労働教化を言い渡された事件について、道下氏は、北朝鮮は1968年のプエブロ号事件でも人質を交渉カードとして使って成功した経緯があり、今回の事件も同様の目的で行ったと見る。

健康不安が噂される金正日の後継問題については、北朝鮮の外交政策を見る限り、整然と交渉カードが切られており、健康問題や後継問題により、国内が混乱している様子はないと道下氏は見る。

また対北朝鮮政策について、道下氏は、?エンゲージメント、?レジーム・チェンジ、?「日和見」という3つの選択肢があるとし、いずれの政策を取るにしても一貫性を持って対処すべきと主張した。

次に、中国、特に人民解放軍が朝鮮半島の統一についてどうみているかという点について、増田氏は、公式には中国は朝鮮半島の統一は不可避とみているが、その過程で国連により設置されるであろう暫定統治機構に中国が影響力を行使できるような移行プロセスを検討していると見る。

また、2005年に行われたロシアとの合同軍事演習において、台湾ではなく北朝鮮を念頭に置いた演習を行った際の中国は、「統一朝鮮に至るプロセスで中国が軍事的な役割を演じることができることをアピールした」と見る中国の専門家の話を紹介した。

日本の策源地(敵基地)攻撃能力について中国は恐れているかとの問いに対して、中国では日本の軍事・安全保障に関する専門家と情報がほとんどない中で、策源地攻撃の議論がなされることはなく、中国側が最も恐れているのはミサイル防衛の強化であると増田氏は指摘する。

カーティス氏は、北朝鮮に拘束された米人ジャーナリストについて、米上院議員がオバマ大統領に断固たる対応を迫る手紙を書いたのは選挙民対策であり、オバマ大統領は慎重な姿勢で対応していることを強調した。

ワシントンでは、拘束されているジャーナリストが所属する会社の共同設立者であるゴア元副大統領を北朝鮮に特使として送り、二人の釈放を交渉するという話が流れているが、問題解決には少なくとも数ヶ月程度はかかるだろうとカーティス氏は見る。

オバマ大統領が打ち出している対話路線を、弱腰外交であると批判される懸念について、カーティス氏は、オバマ政権にとっては、北朝鮮より優先度の高いイラン、イスラエル・パレスチナ、アフガニスタン、パキスタン問題に効果的に対処するためにも、北朝鮮に対して弱腰の姿勢は取れないと指摘、対話路線は弱腰外交を意味しないことを強調した。

北朝鮮が本当に核を放棄する意思があるのかどうかわからない現状で、アメリカとしては、いつでも北朝鮮と交渉する用意がある姿勢を保ちながら、北の核拡散を防止することを最優先して、中国と協調しつつ制裁が効果を上げるように努力するしかない、というのがカーティス氏の結論だ。

続く質疑応答では活発な議論の応酬があったが、カーティス氏がセカンド・トラック外交の重要性、人道支援の重要性を強調した点は、日本にとって大変示唆に富むものだろう。「NGOなどによる人道支援が北朝鮮社会を変える大きな可能性を秘めていることにもっと注目すべきだ」とのカーティス氏の指摘には、大いに耳を傾ける価値がある。

(報告:政策研究部 片山正一)