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レポート
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ギングリッチ元下院議長の講演会:「グローバル化時代のアメリカとアジア」

日時
2009/8/18  18:00~19:30 [終了しました]
場所
日本財団ビル2階 大会議室
担当
片山

第27回 東京財団フォーラム
「グローバル化時代のアメリカとアジア」

 

【講師】ニュート・ギングリッチ元下院議長
【モデレーター】久保文明(東京財団上席研究員、東京大学教授)
【日時】2009年8月18日(火) 18:00~19:30
【場所】日本財団ビル2階 大会議室


ギングリッチ元米下院議長 講演要旨


今日の講演では、アメリカと日本が三つの大きな現実に直面している状況からまず話を起こしたい。

第一は、今後25年間に、我々はこれまでの25年間に比べて4倍から7倍の新しい科学的知識を作り出すという状況だ。科学者同士、また科学者とベンチャー資本は電子メールや携帯電話によって繋がれており、新しい科学的知識が実験室から市場へかつてないスピードで広がる。

25年後、すなわち2035年の日本を設計することは、国家のデザインを考える者にとってさほど遠い未来の話ではない。

しかし、4倍の知識量と言えば、自動車も飛行機も電球も電話も映画もテレビもラジオもコンピューターもない1880年当時の計画委員会が、日本の将来について、つまり今日の社会について予測するようなものだ。

7倍となれば、1660年当時、微積分を完成させようと努力していたニュートンの時代にまで遡ることになる。

なぜこのことが重要かと言えば、科学の進歩によってもたらされる新たな能力、機会、可能性によって、国家の安全保障、環境、医療、雇用などが大きく左右されるからだ。新しい科学技術と言えば、日本は、ロボット工学やナノ・テクノロジーなどの分野で世界の最先端を行っている。

そして第二の現実と関連するが、中国とインドの台頭により、アメリカがこれまで行った国家安全保障への資本投下が陳腐化されてしまうという現実である。

1880年に戻れば、戦艦「ドレッドノート」の出現により、当時の英国海軍の艦船が陳腐化するのは26年後の1906年のことである。ドレッドノートの建造は世界のあらゆる戦艦を旧式化させ、英国海軍とドイツ海軍の間で熾烈な艦船競争を繰り広げるきっかけとなった。

また、1906年ライト兄弟が発明した動力飛行機の出現は、1066年以来英国海峡によって守られてきた英国にとって、力の均衡が変わるきっかけとなった。すなわち、早くも1915年にはドイツ空軍機が英国の上空を脅かすことになったのだ。

このように、4倍から7倍の新しい科学が出現するということは、新しい産業や生産力が出現し、医療、環境、エネルギー、安全保障などの分野で新しい躍進が見られるということにほかならない。

第二のポイントは、中国とインドというかつて経験したことのない巨大な競争相手が出現したという現実である。中国は13億、インドは10億の人口を抱えている。

この23億の人々が、近代産業、生産力、安全保障を発展させるために、鋭意努力している現実に、日本とアメリカは直面しているのだ。

日米両国が安全と自由を守るためには、すなわち、国家の安全保障を確保するためには、世界で最も生産的、創造的で繁栄する国家であり続けなければならない。そのために戦略的に何をなすべきか、これが日米両国にとって大きな課題である。

第三には、破滅的な被害をもたらす脅威の増大である。核兵器に加えて、生物兵器、精密な爆発物などの非核攻撃能力といったものだ。そして電磁波(EMP)兵器に至ってはまだほとんど注目されていないが、非常に現実的な脅威だ。

EMPは、地上の発電機を完全に破壊し近代文明を崩壊させるほどの能力を持つ、大変危険な核兵器の一種である。10万フィートの上空で「爆発」させれば、日本中の電気を破壊するのに1発、アメリカ全土でも3発あれば十分という代物だ。

このEMPについて、私はビル・フォーチュンとの共著「One Second After(1秒後)」という小説の中でその恐ろしさを描いている。

破滅的な脅威のもう一つの例はサイバー攻撃である。ロシアと中国の得意な分野であり、その技術は急速に進化し、安価になっている。米国防総省に対する連日のサイバー攻撃は目に余るものがあり、加速する傾向にある。

通信、航空管制、発電システムなど社会的インフラにサイバー攻撃が仕掛けられた場合、現在、これに対して十分な対処法が準備されているわけではない。しかし、サイバーという「大量撹乱兵器」は、「大量破壊兵器」に匹敵する被害を与え得る。

こうした文明の高度化に伴って増大する破滅的な脅威に対処するためには、情報・諜報、国家安全保障、国土の安全確保における投資を増やす必要がある。

以上の三つの現実に直面するアメリカにとって、国民の安全、繁栄そして自由を保障するために七つの抜本的な改革が求められている。すなわち、訴訟、規制、税制、教育、医療、エネルギー、インフラの改革である。

アメリカでも日本でも、産業はコストが高すぎるしスピードが遅すぎる。官僚機構もコストが高すぎるし効率が悪すぎる。自由社会であるアメリカや日本にとっては非常に深刻な課題であるが、これらの改革なくしては国際競争力を失ってしまうことは確実だ。

教育の現場で何が起こっているかと言えば、ボブ・コンプトンが「Two Million Minutes(200万時間)」という映画の中で描いているように、インドの高校生が10年生から11年生に進級する際に受ける試験をアメリカの高校生4000人に受けさせたら、全員が落第というありさまである。

インドでは10年生が終わるまでに物理を4年間勉強するが、アメリカではそんな学校は1校もないという教育の差が、この驚くべき結果をもたらしたのだ。

アメリカにおける教育の失敗は、1983年に発表された「A Nation at Risk(国家の危機)」という報告書によって初めて指摘されたが、私も、2001年、国家安全保障に関するハート・ラドマン委員会のメンバーとしてその報告書の中で、アメリカにとって、数学・科学教育の失敗が核兵器に次いで2番目に深刻な脅威であると指摘した。

また、私は今年の春、オバマ大統領と会談して、アーニー・ダンカン教育長官やアル・シャープトン師とともに、抜本的な教育改革を訴えるための全国遊説に参加することに同意した。

日本の教育はアメリカよりましな状況だと思うが、インドや中国との競争に勝つためには、日本は、アメリカの経験を他山の石として、初等中等教育の大幅な見直しを行うべきだ。

しかし、これは、実現するまでに三つの段階を経なければなければならないという大変困難な課題だ。まず国民を説得すること、すなわち選挙に勝つことが第一歩。改革に消極的な官僚を動かし改革を実行させることが第二歩。第三に、改革に断固反対する既得権益を打破することである。

このような変革は、日本にとって、1868年の明治維新から1928年頃までの近代化の時期、そして1950頃から1988年に至る高度経済成長期に続く、第三の歴史的な変革と言える。

科学技術が競われるこの時代に、中国やインドと競争するためには、そのくらい大規模な変革が必要だということだ。

ここで言う変革がどの程度の規模であるかを理解するのに役立つ本が3冊ある。サルコジ大統領の「Testimony(証言)」、クレア・バーリンスキーの「Why Margaret Thatcher Matters(なぜマーガレット・サッチャーが重要か)」、そしてトム・エバンズの「The Education of Ronald Reagan(ロナルド・レーガンの教育)」である。

アメリカはこの種の変革を歴史上8回経験している。独立戦争を戦った革命世代、連邦派(フェデラリスト)、ジェファーソン派、ジャクソン派、リンカン共和党、革新派、ローズベルトとニューディール・リベラル派、レーガン保守派の変革である。

これらの変革はどれも政府のあり方を根本的に変えたのだが、アメリカはいま同様の変革を必要としている。

しかし、「The Right Nation(正しい(右派)国家)」という本で説明されているように、アメリカは左派による統治が成功しない国である。したがって、左派のオバマ大統領は穏健派に転向でもしない限り、キャンペーンで約束したような変革をもたらすことはできないのだ。

最後に日米同盟の重要性に関連して、3点指摘したい。第一に、北朝鮮に対しては、拉致問題においても、核ミサイル開発問題においても、北朝鮮船舶に対する臨検においても、日米が断固たる姿勢を貫くことが重要である。

第二に、中国に対して、日米が協力して中国の民主化を説得する努力をすることが重要だ。中国は経済の開放は十分行ったものの、政治の開放は満足に行っていない。中国が巨大な独裁国家になるのを防ぐには、日米が別々に中国と対話するのではなく、共同で対話する必要がある。

第三に、日本がイラクで行った支援、そしてアフガニスタンで行っている給油活動、警察官の給与支援、道路建設、開発支援、教育支援などに大変感謝している。日本が近隣諸国に限らず、こういった広い地域において国際貢献を行うことは非常に重要である。

それゆえ、私は日本がインドとともに国連安全保障理事会の常任理事国に加わるべきだと以前から主張してきた。

日米は、過去50年間、より良い世界を築くために貢献してきた。両国が協力すれば今後50年で、さらに良い世界を築いて行けると確信する。


質疑応答


Q(モデレーター):アメリカは小さな政府を志向する国であるのに、レーガン時代に十分な歳出削減ができなかったし、ジョージ・W・ブッシュ政権では共和党が多数派であったにもかかわらず歳出削減ができなかった。これは保守主義の限界なのか。あるいは政治制度すなわち利益誘導型政治のためなのか。

A:私は、下院議長としての4年間に、毎年2.9パーセントの歳出削減(1920年代のカルビン・クーリッジ以来の成果)、福祉に頼っていた65パーセントの人を自立に向かわせた福祉改革、2000億ドルを節減したメディケア改革、減税による経済成長、4年間継続した均衡財政(70年ぶり)と4050億ドルの借金返済、といった成果を上げた。これらはすべてクリントン政権の下で達成した成果だ。しかしブッシュは歳出削減に失敗した。レーガンの場合は、民主党が議会を支配していたために、歳出拡大を避けられず、そのためには増税か赤字しか選択肢がなかった。レーガンは増税ではなく財政赤字を選択したが、それは、経済に悪影響を及ぼす増税ではなく、ソ連を崩壊させるために軍事費を拡大するという、レーガンの意図的な選択だった。

Q(モデレーター):教育改革について、ブッシュの「No Child Left Behind Act(落ちこぼれ防止法案)」には多くの共和党議員が反対した。ギングリッチ氏の提唱する教育改革はどのように実施したらよいか。連邦政府は小さな役割にとどめ州政府・地方政府に大きな役割を与えるべきか。

A:3つの阻害要因が働いている。第1に、アメリカは運動能力、経済力、社会的地位などは評価するが、勤勉を尊ぶ文化がないこと、第2に、リベラル教育において数学・科学、歴史が軽視され、教育は革命的営みであるとみなすイデオロギーの問題、第3に生徒にも教師にも競争原理を排除しようとする強力な官僚的組織としての組合がある。これらは大変深刻な問題であるが、教育改革をどうするか、一言で言えば、親に子供の学校を選択する権利を取り戻させることだ。

Q:アメリカは多様な国であり、アメリカの教育が数学・科学を軽視すると言うのは単純化しすぎる。また、日本は教育、医療保険、安全、環境などでアメリカより優れたものを持っている。アメリカは他の国に「ああしろ、こうしろ」と言うだけでなく、他の国からも学ぶべきだ。

A:まず、私の教育論はアメリカのリベラル教育についての批判である。デューイ以来、リベラルは客観的学習としての教育には反対の立場であり、ウイリアム・アイヤーズの言葉を借りれば、「革命的経験としての教育」を目指している。また、日本の核燃料再処理と原子力関連技術、インドと中国の学習方法など、アメリカが他国から学ぶべき点については十分承知している。ただし、日本の医療については二つの側面がある。一方で入院期間が長いという点を含め問題点が少なくない。他方、日本は世界一の長寿国だ。長寿の秘訣は日本の食文化にあり、アメリカは大いに学ぶべきだ。「Blue Zones(ブルー・ゾーン)」という本に、沖縄を含む世界の長寿地域6か所が紹介されているが、すべての地域でファーストフードの普及により長寿が保てない危機に直面している。

Q:日本は間もなく選挙を迎えるが、民主党が政権を取るとインド洋の給油をやめるなどアメリカの政策に必ずしも同調しないかもしれない。つまり、日本人のアメリカに対する考え方が変わることに対してどう思うか。

A:日本の国民がどちらの政党を選択しようと、アメリカ政府はその政党を相手に仕事をするということだ。かつてドイツ社会民主党(SPD)の党首が選挙で反米キャンペーンを繰り広げて勝利を勝ち取ったが、これは選挙に勝つための手段であって本音ではなかった。だからアメリカはこの首相ともうまく仕事をしたわけである。

Q:2008年の選挙で、共和党はあまり保守的でなかったために負けたのか、それともあまりに保守的だったから負けたのか。今後共和党はどこへ向かおうとしているのか。

A:どちらも正しくない。2006年の中間選挙、そして2008年の大統領選挙では、過剰支出、汚職、イラク戦争の失敗、ハリケーン・カトリーナの被害を受けたニューオーリンズでの失態、連邦政府の改革失敗など、期待された成果を上げられなかったのが共和党の敗因だった。共和党は改革の党であってこそ共和党だ。その改革は時には穏健であり、時には保守的である。ニュー・イングランド、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルバニア、ワシントン、オレゴン、カリフォルニアを押えなければアメリカの統治はできないのである。問題は、あまり保守的でないかあるいはあまりに保守的であるかではなく、国民のニーズを把握し、それを満たすための解決策を見出すことが重要だ。もし我々が中国やインドとの競争に勝とうと思うなら、お役所仕事を減らし効率を上げること、すなわち金のかからない小さな政府にすることが必要だ。

Q:共和党を立て直す次のリーダーはだれか。

A:まだわからないが、候補者はたくさんいる。ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事、ボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事、ミッチ・ダニエルズ・インディアナ州知事、ハリー・バーバー・ミシシッピ州知事、ポール・ライアン下院議員、ケビン・マッカーシー下院院内副幹事、エリック・カンター院内幹事などが挙げられる。

Q:11月にオバマ大統領が来日する際、広島・長崎を訪問するかどうかの議論があるが、もしギングリッチ氏が大統領だったらどうするか。

A:オバマ大統領がどうすべきかについてはコメントしないが、もしアメリカの大統領が招待されたのであれば、広島・長崎を訪問することは全く適切だ。空襲で多くの犠牲者が出たハンブルグやドレスデンや東京を訪問することが適切であるのと同じだ。しかしそれはまた、日本の首相が南京を訪問するようなものだ。戦争は核戦争であれ伝統的な戦争であれ悲惨であることに変わりはない。アメリカの大統領が広島・長崎を訪問すること自体に問題があるのではなく、原爆の被害だけを強調するのが問題なのだ。我々は同じ人間に対するどのような暴力も最小限に食い止めることを目指さなければならない。

Q:最近、アメリカではクリントン元大統領が2人のジャーナリスト釈放のために北朝鮮を訪問したこと、韓国では社員を救うため現代グループの会長を北朝鮮に派遣したこと、これは一方で人道的措置と言えるが、他方で北朝鮮の包囲網が崩れてしまった。これをどう考えるか。

A:アメリカのような大国の元大統領が金正日のような小国の独裁者と交渉することは、相手のプロパガンダを成功に導くだけで大変危険である。相手はますます図に乗って次はどうやってゆすってやろうかと悪知恵を絞る。核開発で危険度を増す北朝鮮に対しては、あらゆる手段を尽くして核を放棄させるべきだ。