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2007 7.23 MON

第6回東京財団フォーラム「日本を救うのは稲作漁労か武士道か~グローバリズムと伝統文化の並存の道は?」

7月23日に第6回東京財団フォーラムとして、「日本を救うのは稲作漁労か武士道か~グローバリズムと伝統文化の並存の道は?」が開催されました。武士道や稲作漁労といった日本独自の叡智から現代社会へのヒントを探ろうという今回のフォーラムには、メディア、NPO関係者、企業、研究機関など、様々な分野の方々にご参加いただきました。

まず、笠谷和比古先生(国際日本文化研究センター教授)より「武士道と現代」と題して講演がありました(配布資料はこちら)。笠谷先生は、まず、昨今「武士道」が関心を集めていることについて、武士の生き方の中にみられる、困難に対してただ一人立ち向かっていく潔さ、強い個性を備えた自立した人格の像が多くの人々をひきつけているのではないかと述べた上で、「武士道の精神は、相次ぐ組織不正に見られる内部自浄努力の欠如、あるいは弱い者いじめや車内での化粧に見られる『恥』の概念の希薄化といった今日の社会の病理を解決する上で重要な意義を持っている」と指摘しました。

そして、とくに重要な点として、武士道の本質にある、筋を通してものを考え、不正に対しては、たとえそれが組織の上層部によるものであろうと、正すよう意見する「諫言(かんげん)」(異議申し立て)の姿勢について詳しく説明されました。笠谷先生によると、武士道の真髄として知られる「忠義」の精神は、滅私奉公・絶対服従を意味するものではなく、個人の能動性、主体性に基づくものであり、現代のコーポレート・ガバナンスにとっても、学ぶべき点は多いとのことでした。(講演の要点はこちら

つぎに、安田喜憲主任研究員より「稲作漁労と現代」と題して講演がありました。安田主任研究員は、西洋の牧畜農耕文明と日本の稲作漁労文明の対比から、大地に自らのエネルギーを投入し田を耕すことで勤労の喜びを得る日本の価値観こそが武士道を生み出したと述べました。

そして、伊勢神宮で1200年続く式年遷宮では100年先、200年先の遷宮のための植林が行われていることを事例に、人を信じ、自然を信じる稲作漁労の考え方の大切さを挙げ、こうした自然崇拝に見られる慈悲の心は、江戸時代に鉄砲を捨てた武士道に通じるものがあると指摘しました。

続いて、東京財団会長の加藤秀樹の進行のもと行われた討論では、現代の社会においていかに「恥」の観念や「もののあわれ」を感じる感性を復活させるかが議論されました。その中で、7世紀における天武天皇の肉食禁止令が日本の森と海を守ることに繋がったこと、魚食か肉食かによって武士道と騎士道が袂を分かつことになったことが取り上げられ、稲作漁労と武士道のつながりが再確認されました。

また、90年代からの急速なグローバル化について、「伝統かグローバルスタンダードか」といった対抗軸で考えるのではなく、それぞれの国の持つよさを発信し、選択するという、「多元的グローバリズム」という発想が必要なのではないかと、笠谷先生が主張されました。

最後に会場に来られた皆様との質疑応答も活発に行われ、笠谷先生、安田主任研究員による熱のこもった討論は盛会のうちに終了しました。


■プログラム

18:30~18:35 開会の挨拶
18:35~19:05 基調講演(1)「武士道と現代」
19:05~19:35 基調講演(2)「稲作漁労と現代」
19:35~20:10 スピーカーによる討論
20:10~20:30 質疑応答

■安田喜憲(やすだ・よしのり)
東京財団主任研究員、国際日本文化研究センター教授
1946年生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程退学。理学博士。京都大学大学院理学研究科教授(併任)、フンボルト大学客員教授などを歴任。2001年、地球科学や環境科学の分野で著名なクロホード賞にノミネートされる。スウェーデン王立科学アカデミー会員。
人類の歴史や文明の興亡を環境史との関係において再考察し、過去から現在を見通すなかで未来を予測することをめざす、「環境考古学」を提唱・確立。湖底の堆積物を分析する「年縞(ねんこう)調査」により過去の気候変動や海面変動、さらには人間による環境破壊の歴史を年単位で復元し、環境と人間の歴史を正確な年代軸に基づき実証することを可能にした。

著書に『気候変動の文明史』(NTT出版)、『長江文明の探求』(共著、新思索社)、『日本よ、森の環境国家たれ』『文明の環境史観』(いずれも中公叢書)、『森のこころと文明』(NHKライブラリー)、『気候が文明を変える』(岩波科学ライブラリー)、『龍の文明・太陽の文明』(PHP新書)、『一神教の闇―アニミズムの復権』(ちくま新書)など多数。

■笠谷和比古(かさや・かずひこ)
国際日本文化研究センター教授
1949年生まれ。京都大学文学部史学科卒業。文学博士。96年4月より現職。ドイツ・チュービンゲン大学、ベルリン・フンボルト大学、中国・北京外国語学院、ベルギー・ルーヴァン・カトリック大学、フランス・パリ大学の各客員教授を歴任。専攻は日本近世史(武家社会論)。江戸時代の政治史研究を通じて、従来の江戸暗黒史観を打破する新たな歴史観を提唱。特に、大名家(藩)における主君「押込」の慣行の発見をとおして、従来の武士道観、忠義観を大きく変革する業績をあげた。武士道研究の第一人者。また、歴史家の視点から下す、現代日本社会の終身雇用や年功序列といった組織特性分析には定評がある。能・歌舞伎・文楽をはじめとする日本古典文化の普及運動にも尽力。NHK「その時、歴史が動いた」のゲストコメンテーターとしても知られる。

著書に、『新訂 日暮硯』(校注、岩波文庫)、『主君「押込」の構造―近世大名と家臣団』(講談社学術文庫)、『近世武家社会の政治構造』(吉川弘文館)、『士<サムライ>の思想』(岩波同時代ライブラリー)、『徳川吉宗』(ちくま新書)、『近世武家文書の研究』(法政大学出版会)、『江戸御留守居役』(吉川弘文館)、『関ヶ原合戦と近世の国制』(思文閣出版)、『武士道と日本型能力主義』(新潮選書)など多数。

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