東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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02ているかどうかである。一方、中国のような社会主義国では、政策プロセスの透明性は明らかに欠如している。全国人民代表大会は民主主義国家の議会の役割を果たしておらず、「ゴム印」と揶揄されている。政策の決定と実行について十分な論議が行われず、往々にして権力者のトップダウンによって決定され、そのまま実行に移される。中国の歴代指導者は歴史に自らの名を残そうとするために、いわゆる「面子工程」(メンツプロジェクト)の建設を行うことが多い。1980年代、最高実力者だった鄧小平は世界最大規模の三峡ダムの建設を推進し、李鵬元首相はそのプロジェクトの遂行に尽力した。しかし、三峡ダムは建設当初から生態環境に悪影響を及ぼすと専門家から指摘されている。実際の建設では、下請け会社による手抜き工事が行われているとの指摘もある。今世紀のビッグプロジェクトは負の遺産となっているかもしれない。同様に、江沢民政権(1993-2003年)は、西部大開発と南水北調プロジェクト(運河を建設して長江流域の水を水不足の黄河流域に流していくこと)に取り組んだ。西部内陸部の経済発展を政府主導で押し上げていくことを目的とする西部大開発は、経済合理性が欠如している。実際に莫大なインフラ投資を行ったものの、西部地域の経済発展には、期待したほど役立っていない。南水北調にしても三峡ダムと同様に生態環境に悪影響を及ぼす負の遺産である。さらに、胡錦濤政権(2003-2012年)は、東北新興プロジェクトを打ち出したが、頓挫した。どんなプロジェクトを推進するかは、政治指導者個人の意思ではなく、専門性の高いテクノクラートと専門家からの提言を受け、経済性と実効性を客観的に検証してから実行に移すべきだ。とくに実行の段階においてガバナンス機能の強化が求められている。一国の政府が政策を決定し実行に移す過程を政治学、経済学、社会学などさまざまな観点から考察し解明することは重要である。とりわけ、政策の有効性を検証するうえで重要な意味がある。拙稿は中国の政策プロセスを解明するためのものである。民主主義国家であれば政策決定プロセスでは議会の審議を受けることになる。よって比較的透明で見えやすくなっているが、それでも、政治、行政と財界の暗黙知に基づいた政策の“決定”と“実行”は、不明瞭で曖昧な部分が少なくない。米国の経済学者であるGeorgeJ.Stigler教授は、1971年に「規制の経済理論」を発表し、Capture(cid:31)eory(捕獲理論)を提示した。これは、公共利益を最大化するはずの規制は利益集団によって「捕獲」されてしまう、との考え方だ。GeorgeJ.Stigler教授は米国のトラック業界に関する実証研究によって、この結論を導き出した。近代経済学の命題の一つは「大きな政府」か「小さな政府」かとの論争がいまだに続いていることだ。しかし、重要なのは行政に対するガバナンス機能が確立できるかどうかである。政治家は問題を先送りし景気浮揚のみに関心を持つ近年、政治学はポピュリズムに焦点をあて、政治家が大衆に迎合して、結果的に政策トレンドは近視眼的になりがちになっている。要するに、政治家は構造問題の解決を先送りし、目先の景気浮揚を図るだけである。なぜならば、大衆に迎合した方が選挙で票を集めやすいからだ。たとえば、日本銀行は異次元の金融緩和政策に加え、マイナス金利まで導入している。その評価は、学会でも批判が少なくない。ここで問われているのは、具体的な政策の是や非よりも、日本銀行の中央銀行としての独立性が守られ序論/政策の有効性を検証する方法とは?決定と実行の過程解明が重要。暗黙知に基づく中国では困難問題は「大きな政府」か「小さな政府」ではなくガバナンス機能。ChinaWatch3


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