東京財団政策研究所 No. 7

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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02世界主要国は、この危機による経済への影響を最小限に食い止めるために、金融緩和と財政出動などの政策を実施している。しかし、新型コロナウイルスが完全に撲滅されていないなかでは、その経済活動の停滞に対する政策手当の効果も限定的だといえる。重要なのはまず、感染拡大を食い止めることである。現状、新型コロナウイルスの発生源はまだ特定されておらず、ワクチンと治療薬も開発途上にある。各国が力を入れているのは、ひたすら感染者を隔離する措置であり、経済を本格的に再建できるのは、もっと先のことだと思われる。新規感染者が減少する世界主要国も経済活動の再稼働には時間がかかるそもそも経済活動は、「ヒトの流れ」「モノの流れ」「カネの流れ」からなっている。新型コロナウイルスの感染拡大防御のため、主要国は都市のロックダウンを実施して「ヒトの流れ」を止めたが、その結果、物流も深刻な影響を受けている。一方、日本は都市のロックダウンこそ実施していないが、外出の自粛要請でヒトの流れの8割減を目指した。その狙いは、経済活動をできるだけ維持しながら、人々のソーシャル・ディスタンス(人々の生活距離)を保つことで感染予防対策を講じることである。世界主要国で新型コロナウイルス危機の終息が見えないなかで、中国は、先んじて勝利を宣言した。いまだ中国国内のところどころで新規感染例が報告され、感染の第二波も懸念されてはいるが、感染が急速に広がった本年1月のときのような“油断”はなさそうである。従って、再度、感染拡大・大流行するとは考えにくい。なによりも、もともと3月5日に開催される予定だった全国人民代表大会(日本の国会に相当する。以下、全人代)が、2か月以上遅れて、5月22新型コロナウイルス危機は、世界経済を停滞させている。冷戦終結後の30年間、グローバルサプライチェーンは、際限なく効率化を追求してきたが、とりわけ、ここに影響がみられる。サプライチェーンの効率化とは、物流の利便性を高め、在庫を最小限にとどめることである。その最たるモデルは、トヨタ自動車で採用されている「justintime」のかんばん方式といえる。しかし、今回の新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、グローバルサプライチェーンが寸断されてしまい、その脆弱性が露呈することになった。多くの場合、効率化と強靭化はトレードオフの関係にあるものである。これまで多国籍企業はリスク管理について、局所的な対応を重点的に行ってきた。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでに起こった同時多発テロよりも、遥かに広範囲にわたる深刻な影響を及ぼしている。序論/世界経済が停滞するなかで中国はどう動くのか?全国人民代表大会で選択された経済再建策によって復興を進める中国南京市生まれ。1988年来日。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。2018年より現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授・広島経済大学特別客員教授兼務。主な著書に『中国「強国復権」の条件「一帯一路」の大望とリスク』(慶應義塾大学出版会、第13回樫山純三賞受賞)、『中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで』(日本経済新聞出版社)など多数。柯隆東京財団政策研究所主席研究員グローバル化が進んだ今、中国だけが全力疾走することは不可能!ChinaWatch5


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