東京財団政策研究所 No. 7

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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08イルス危機の起因に関する争いなど、問題は山積している。とりわけ新型コロナウイルス危機は、アメリカ人の生活を一変させてしまった。それを通じて多くのアメリカ人は、中国政府のやり方と態度について極端な不信を感じている。米国「PewResearchCenter」が2020年4月21日に発表した調査によると、「62%のアメリカ人は、中国をamajorthreat(主な脅威)と感じている」となっている。また、「66%のアメリカ人は、中国についてunfavorable(悪い印象)を持っている」、さらに、「71%のアメリカ人は、習近平国家主席についてnocon(cid:31)dence(信用できない)」というデータを示している。世論調査の結果を鵜呑みする必要はないが、このリサーチの結果を通じて、アメリカ社会における中国に対する見方の一斑を窺うことができる。問題は、米中はどのようにすれば、“囚人のジレンマ”から抜け出せるかということである。米中貿易戦争に象徴されるように、米中の対立は明らかにマイナスサムゲームである。両国の相互不信は、単なる利益をめぐる対立だけでなく、イデオロギーの違いも対立を助長させている。トランプ大統領と習近平国家主席は、それぞれの国内において、ナショナリズムによって強い支持を取り付けている。言い換えれば、米中両国の民意が変化しなければ、政治の対立は緩和されない。しかも、米中の対立が長期化すれば、全世界を巻き込むことになる。世界で進む「脱中国」の動き5習近平政権は、世界主要国からノーと言われているという難局に直面している。2013年3月に正式に誕生した習近平政権は、「一帯一路」外交を展開してきた。これは、かつての毛沢東外交の「第三世界理論」の精髄を受け継いだものである。第三世界理論とは、毛氏が、世界を米ソの先進国を第1世界、日本などの中進国を第2世界、その他の発展途上国を第3世界に分類した上、第3世界との関係を改善しながら、国際連合などでの発言力を強化するという国際戦略であった。今、世界最大の外貨準備高を誇る中国は、アフリカ諸国への経済援助を拡大している。そして、台湾の統一を急ぐ狙いで、台湾と国交関係けられている。これによって米中対立の新たな構図ができてしまった。トランプ政権になってから、アメリカ政府はイデオロギーの争いよりも、国際貿易と技術覇権の実利の獲得に力を注ぐようになった。一方、中国はトランプ政権との付き合いにおいて大きなミスを犯している。中国としては、貿易摩擦をできるだけソフトランディングさせるべきであったのだ。そうすれば、米中対立は国家の安全保障にまで及ばなくて済むはずだったが、中国政府が取った戦略は、「やられたらやり返す」というしっぺ返しの戦略である。そのなかで、新型コロナウイルスの感染はアメリカに飛び火し、同国での感染者数が170万人を超え、死者数は10万人を超えた(いずれも2020年5月29日現在)。それによってアメリカでは、中国に対する損害賠償の訴訟が複数起こされている。理由は、「新型コロナウイルスの発生源は中国であり、その感染がアメリカに飛び火したのは、中国がウイルス感染の情報を隠したことであり、その責任は中国にある」ということである。米中は古典的な“囚人のジレンマ”に陥っている(図表3参照)。図表3に示したのは、米中の場合の“囚人のジレンマ”を説明したものであるが、米中が互いを裏切らないで協調すれば受ける罰が一番小さくなるが、信頼関係が崩れたため、自分が裏切らなくても相手が裏切るであろうと考え、結局、裏切ることを選ぶことになるということを示している。国際政治における、こうした「しっぺ返し」のゲームは、米中を泥沼のジレンマに陥れていると考えられる。米中関係の現状をみると、互いに協力していく可能性は、ほとんど失われた。従来の人権問題をめぐるイデオロギーの対立に加え、地政学利益をめぐる覇権争い、貿易と技術をめぐる対立と新型コロナウ米中の対立がさらに深まり、長期化・泥沼化していく様相に!図表3●米中が陥った囚人のジレンマ中国(囚人B)協調中国(囚人B)裏切りアメリカ(囚人A)協調囚人A&B、それぞれ1年の刑囚人A3年間の刑囚人Bは釈放アメリカ(囚人A)裏切り囚人A釈放囚人Bは3年間の刑囚人A&B、それぞれ2年間の刑Resource:Milovsky,Nicholas.“TheBasicsofGameTheoryandAssociatedGames”(2014)ChinaWatch5


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