走れインドの救急車―インドレポート(6)

2010-2011東京財団AFFPフェロー藤田周子さんは、ニューヨークでのリーダーシップ研修(2カ月)の後、2010年11月半ばからマハーラーシュトラ州の州都ムンバイにあるアキュメン・ファンドの投資先Dial 1298 (Ziqitza Healthcare Limited)で研修を行っています。インド流の「なるようになるさ」的オペレーションは、はたして有効に機能したのでしょうか。先月のレポートと併せてお読みください。

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活動概要

先月に引き続き6月もムンバイで活動。今月は、インド北西部のパンジャブ州でのITシステム及び業務プロセス定着支援、その南にあるインド最大の州ラジャスタンへのITシステム導入準備(業務要件定義)が主なテーマであった。

6月初めからモンスーンが始まった。平均最高気温が30度を超える高温のうえ、雨が毎日降り続く。湿度は80パーセント以上。急な気候の変化のためか、途中体調を崩し、1週間ほど会社を休むことになった。

リーダーシップについての学び


忍耐、忍耐、忍耐~インド流と対峙~
先月のレポートでコミュニケーションスタイルの違いに触れた。遠く離れたパンジャブ州のチームに、新しい業務手順を伝達・教育したこと。その際、私の想定に反して、文書(業務マニュアル)を用いず、ひたすら口頭(電話)で伝達するやり方を取ったこと。それをインドの独自性として尊重すべきなのか、欧米・日本流の方が普遍的・効率的なのだと押し切るべきなのか悩んだこと。今月はその後日談である。

現場マネージャーから「指示通りのスケジュール、内容で研修終了」との報告が届いてから2週間後、CEOがパンジャブ州のオフィスを訪問する機会があった。コールセンター、フィールドマネージャー、経理、人事など主要部門の状況をレビューした後ムンバイに戻ってきた彼女が言うには、
「(研修を受けるはずだった人の中に)研修を受けていない人がいた。」
「(研修で教えられているはずだったシステムの新しい機能について)その存在すら知らない人がいた。」
「(主要な機能について)まったく誤った使い方をしていた。」
報告と違う!!!と憤慨したが、すぐに「やっぱりそうか」と思い直した。伝言ゲームはそんなにうまく運ばない、と心のどこかでやはりわかっていたのだ。

まず、指示・伝達のチェーンが長くなれば長くなるほど、当初計画に比べて実現される量は小さくなっていく。それを割り引いた上で最低限許容できる結果を出せるか判断すべきだった。先月はインドの文化・土壌だとこういうやり方でもうまく行くのかも、と判断したわけだが、そううまくはいかなかったということである。カバーすべきトピックのリストもなく(私は持っているけど現場チームには渡っていない)、個々のトピックのコンテンツも電話で伝えただけで(業務マニュアルは送付せず仕舞い)、こまめにノートを取る習慣のない彼らが、いくら賢くても100%をカバーできるわけがない。(私だったら絶対に無理。)

次に、(というかむしろ)ショックだったのは、研修完了の報告が嘘だったこと。嘘というのは、言い過ぎかもしれない。おそらく研修はやったのだ。問題は、それがこちらの期待する成果を達成したか、どのようにその確証を得るか。掘り下げて質問したり、質問の仕方・構成を工夫したり、報告の受け方を向上させねばと思う。

作るより使う(使わせる)方が大変!
振り返ってみれば、今まで私は新しいモノ(例. プロジェクト、組織、業務、マーケティング資料、IT システム)を作る機会が多く、作ったモノを誰もが使いこなす・こなせるように徹底する、という段階にはあまり携わってこなかったような気がする。(日本ではそこそこみんな使いこなしてくれるから、そこにあまりエネルギーを注ぐ必要がなかったということだろうか?それとも私が注意を払っていなかっただけか?)

対照的に、今回はつくづく、作るよりも使わせることのほうが大変だと感じた。起業というと、アイデアや事業の形をつくるプロセスに目が行きがちだが、その事業・会社が成功するには、ひたすら社員たちをフォローして、オペレーションが回転し続けるようにしないといけない。地理的に分散していたり、従業員の教育・スキルレベルがまちまちだったりすると、これは短期間で達成できることではない。何度も何度も同じことを繰り返し伝え、理解させ、実行に移されていることを確認し、もし実行されていなければ実行されるまでフォローし続ける、一度実行されても安心しないで定期的にフォローする、そんな忍耐強さが不可欠なのだと思う。

これにはトップダウンには限界があり、ボトムアップの力も育たないといけない。現場が強い日本に比べて、インドはトップダウンの傾向が強く、現場力育成とやや相容れないところがあり(少なくとも日々のオペレーションにおいては)、どうバランスを取っていくか、私にはストレスのたまることが多い。これについてはまた別途書きたいと思う。

元アキュメンフェローと思いを共有
ところで、今月は、1298の元アキュメンフェローのChrisが出張のついでに我々のオフィスにも立ち寄ってくれた。彼と話す中で、私がコミュニケーションスタイルの違いが一番のチャレンジだと言ったところ、彼もまったく同じ体験をしたとのこと。Chrisがいた3年前は1298もまだムンバイのみで運営していて、彼は認知度アップのためのマーケティング活動を主にやっていたようだ。会社の状況も、役割も、今の私とはだいぶ違うわけだが、それでも同じ戸惑い・苦労を味わっていたとは、嬉しい驚きだった。やりがいも苦労も理解しあえる仲間とこうして時々話し合えることは、自分の状況を客観的に見直すよい機会になると感じた。

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