タイプ
その他
日付
2008/9/24

7週間の米国研修を終えて―市区町村職員国内外研修プログラム―

7週間の米国研修を終えて―市区町村職員国内外研修プログラム―
岩永有美子(奨学事業部プログラムオフィサー)
 

 東京財団奨学事業部では、全国の市区町村職員を対象とする「市区町村職員国内外研修プログラム」を2004年から5年間、実施してきた。この研修は、早稲田大学大学院公共経営研究科と米国ポートランド州立大学マーク・ハットフィールド行政大学院の協力を得て実施されてきたもので、9月13日、米国研修を無事終えて、今年度の研修生13人(*1 参加者名は巻末をご覧ください)が帰国した。

(写真右:同大学のモットー。多くの卒業生が大学で学んだ知識を生かし、街づくりに貢献している)

 なぜ、東京財団がこのような人材育成プログラムを行うのか。それは今こそ、地方自治体職員のエンパワメントが求められていると考えるからだ。改めて言うまでもなく、国の財政難が地方自治体にも影響し、少子高齢化もあいまって、多くの地方自治体が財政難に苦しんでいる。その一方で、福祉や教育など住民のニーズは高まっており、それぞれの自治体が住民ニーズを反映させた行政を展開していく必要性がある。こうした時代には、自らが考え、議員や住民、マスコミと対話をし、組織内で積極的に行動できる職員が不可欠である。
 東京財団では人材がカギになると考えている。当プログラムでは、国内外の事例から地方自治の最新理論や知識を学ぶと当時に、実際に事業を展開するために必要なツールや手法を習得する実践的な研修を行ってきた。研修の具体的な成果として、各研修生が所属自治体の課題を解決するためのプロジェクトを立案することを求めている。少数精鋭を旨としてきたが、応募者は年々増え、これまで全国28の自治体から49人の職員が参加している。

早稲田と米国で学ぶ半年間
 では、どのような研修内容になっているのか。この研修では、事前に各研修生がテーマを設定し、“自治体が抱える問題”の解決策を研究する。半年間の研修期間は主に2つに分かれており、まず4月から7月までは早稲田大学大学院公共経営科において、各研修生の研究ニーズに合わせた科目の履修、研修生のみを対象にした同大学院教員による講義、先進行政事例の視察(東京都杉並区、練馬区、岩手県北上市)、ワークショップ(地方自治の政策をプロジェクトとして立案・管理・運営する上で有効な「プロジェクト・マネジメント(PM)」手法)などを研修生は学んだ。7月5日には、研修生の自主企画による中間報告会「第1回プロジェクト報告会」が行われた。13人のプロジェクトは多岐に渡る。例えば、東京都荒川区職員の森田修康さんのテーマは、「職員の創意工夫による効率的・効果的な区政の実現予算」であり、神奈川県伊勢原市職員の竹間美加子さんのテーマは、「子どもが安全で歩きやすいみちづくり」である(*2 研修生すべてのプロジェクトは巻末を参照ください)。
 そして、7月後半から7週間は、米国オレゴン州のポートランド州立大学マーク・ハットフィールド行政大学院で、PM手法についてマーカス・イングル教授、西芝雅美教授らの講義、グループ作業、現地の行政機関、NPOなどの団体、研究者、市民らへの訪問インタビュー、プロジェクトの研究などを行った。こうした経験を所属自治体に持ち帰り、各研修生はプロジェクトの立案をまとめ、11月29、30日に東京財団で行われる総括研修では各自が発表することになっている。


ポートランド、ありがとう
 9月9日に開催されたシンポジウム、10日に開催された自己評価のセッションに立ち会った。シンポジウムは公開式によるもので、ポスターセッションとグループ発表の2つが行われた。まず、ポスターセッションは、各研修生が自分のプロジェクト内容を書いた紙を10~20枚並べて張り出し、来場者が自分の報告の前に立つたびに適時説明を行う方式で実施した。例えば、福岡市職員の今村寛さんは、財務予算管理改革をテーマに発表を行っていた。研修生各自に学生通訳が付いたため、英語に自信がない研修生も胸をはって来場者の質問に答えていた。来場者の多くは、この米国研修期間中に研修生がサイトビジットで視察、訪問した地方自治体やNPO関係者らで、日本語に関心のある学生もいた。
 また、研修生全員によるグループ発表は、英語のパワーポイントに、研修生の日本語の発表と西芝教授による英語の逐次通訳の形で行われた。自治体職員と住民の関係が近く、地方自治のいたる面で住民の声が反映されているポートランド。ここで7週間、研修を受けた研修生たちは、「職員の気づき」「市民と行政の対話」「市民参加」を自治体改善の鍵と考えたようだ。発表では、市民の声を論理的に理解、分析して、初めて自治体内部を説得することがこれからの自治体運営に重要であることも、劇も織り交ぜながら伝えた。熱のこもった研修生たちの劇は、会場の笑いを誘い、とても盛り上がった。
 また、印象的だったのは、研修生たちが、“ポートランドありがとう”ということでスライドを公開したことだった。今回の5期生が滞在した7週間の様子だけではなく、これまでの1~4期の研修生の当時の研修風景も映され、ポートランド州立大学の関係者らが目を赤くしていた。また、シンポジウムの最後には、大学の卒業式でかぶる角帽と証書が一人ひとりの研修生に、イングル教授らから手渡された。感激のあまり泣き出す研修生もおり、研修という枠組みを超えた熱い関わりが研修生と同大学の関係者の間にあったことを感じさせた。

(角帽をかぶり、大学から手渡され証書を手にする研修生たち)

7週間の研修の前と後
 西芝先生による9月10日の自己評価が、米国研修の最後の授業であった。13人の研修生は3班に分かれ、各自が米国研修で学んだことを紙に1つひとつ書き、それを図表などにまとめたあとで各班による説明が行われた。その後、7週間前に米国研修が始まった時に研修生たちが何を学びたいかを書いて、図にしたペーパーとの比較が行われた。その結果、?今の図表のほうが論理が通った説明ができるため、論理的な思考が身についたといえる、?市民(参加)という言葉が多く、市民とともに一緒に活動していこうという意欲が表れているーーといった声が研修生らから挙がった。
 また、最初に学びたいと思った項目についての、各自の自己評価も行われた。「異文化体験」、「(PMを通しての)思考」など、授業などの経験を通し、養うことができた個人の能力面に対する項目は高い自己評価の人が多かったが、「地域がよくなる」、「自信」など、研修を終え、職場に帰ってみて、住民、上司、同僚らからの反応がなければ分からないもの、個人の意識の差が大きいものなどに対しては、自己評価のばらつきがあった。研修生一人ひとりがこの自己評価をどのようにとらえ、今後の自治体業務に生かすのか。これからが正念場であろう。


総括研修、そしてその後に向けて
 9月13日に帰国した研修生の多くが、翌週には所属自治体に戻り、通常の業務が始まった。それと平行して、各研修生たちはこの半年間、研究したプロジェクトを職場で発表し、実際にどのように実現していくのか、検討していくことになる。
 11月29、30日に東京財団で開催される総括研修では、各研修生が各自治体での反応を反映させた政策プロジェクトの発表が行われる。それぞれの研修生は、政策を立案し、実現することを通し問題を改善、解決させ、地域住民の生活をよくしたい、との思いからこの半年間の研修を乗り切った。特に、早稲田の研修時は、関東近郊の自治体職員のみならず、例えば長野県塩尻市職員の大村一さんは週4日間、通常勤務をしながら、2足のわらじを両立させた。こうした努力が身を結び、各地域に何らかの形で還元させることを心より願いたい。

(*1、2)
今年度の研修生の氏名、所属自治体及び「第1回プロジェクト報告会」で発表された各研修生のテーマ(五十音順、敬称略)
今村寛(福岡県福岡市)、「予算編成におけるコミュニケーション改革」
大村一(長野県塩尻市)、「市議会を活性化して市民と行政を近づけるプロジェクト」
小寺正浩(徳島県鳴門市)、「職員の能力向上プロジェクト」
佐鳥秀樹(東京都荒川区)、「高齢者の力を活かした子育て支援」
春原信行(長野県小諸市)、「自主防災組織システムを効果的に機能させるプロジェクト」
竹間美加子(神奈川県伊勢原市)、「子どもが安全で歩きやすいみちづくり」
殿城元康(千葉県酒々井町)、「酒々井町における防犯プロジェクト」
藤崎博之(熊本県上天草市)、「上天草市羅針盤プロジェクト」
松井英樹(愛知県蒲郡市)、「高齢者を中心としたデジタルデバイド救出プロジェクト」
松尾真介(埼玉県さいたま市)、「まずはきっかけづくりから」
水谷留尉(三重県四日市市)、「地域で支える地域医療プロジェクト」
棟方達郎(滋賀県高島市)、「スポーツ・サービス向上プロジェクト」
森田修康(東京都荒川区)、「職員の創意工夫による効率的・効果的な区政の実現」