タイプ
レポート
日付
2009/11/9

市民参加の精神を学んだ米国オレゴン州ポートランド視察―自治体職員研修プログラム「週末学校」

東京財団では、自治体職員の人材育成プログラム「週末学校」を実施している。5月から10月まで10回の週末を利用して行われた今年度の研修には、30の自治体から36名が参加、地方自治の理念とその実践方法を学んできた。
以下は、「週末学校」の終盤に行われた米国オレゴン州ポートランド視察の報告である。
(主な研修講義内容・スピーカーと研修生の感想はこちら



研修生一行は、シルバーウイークを利用して、9月19日(土)から9日間の日程でオレゴン州ポートランドを訪れた。ポートランドはアメリカ合衆国西海岸に位置し、人口約57万人、面積376平方キロメートル。全米でも市民活動が盛んな都市として知られる。行政への市民参加や、行政とNPO等との連携が幅広く行われている。「市民参加」がどのようにおこなわれているか、それが行政とどのように関わりを持ち、市民のための行政が実現されているかを知り、日本の現場で生かしていく方法を考えることが、今回の視察の目的であった。

市民参加を促進するコミッション(Commission)制度

ポートランドは、コミッション制度を採用している米国でも数少ない市のひとつである。市長と4人のコミッショナーが公選され、この5人で構成するコミッションが、日本で言う「市議会」の役割と、行政機関のトップの両方の役割を果たしている。市長は4人のコミッショナーに対し、どの行政分野を担当するかを割当てる権限を持ち、市を代表する立場にあるが、それ以外の権限は、議決権も含め他の4人と同等である。

この5人で議会を開き、その結果を反映させて行政を進めていくので、自治体運営は機動的である。ポートランドと同規模の人口を持つ日本の八王子市の議員定数が40名であるのと比較すれば、この制度が特徴的であることがわかる。市民の側から見ると、どの行政分野をどのコミッショナーが統括しているかがはっきりしているので、その人物の議会での発言を通じて行政運営の方向性が理解でき、自分たちの声を行政に届けやすい。またコミッショナー選挙は市全域がひとつの選挙区であるため、各コミッショナーを有権者全員で審判することができ、一般市民の声が反映されやすいという特徴がある。

ポートランドが市民参加を促進する背景には、市長および各コミッショナーが市民の声に敏感にならざるを得ない、こういった政治システムの存在がある。このようにして市民参加がひときわ高く実現されている点が、「週末学校」の研修先としてポートランドが選ばれている理由でもある。

また同市には、市民の声を政治によりよく反映するため、公的に選挙資金を援助する制度がある。この制度を利用した初の当選者であり、現在コミッショナーを務めているアマンダ・フリッツ氏は次のように話している。

「選挙にはお金がかかるが、私のような一般市民が選挙に出馬できたのは、ポートランド市が資金提供してくれるシステムがあるから。選挙資金をもらうには、選挙区の有権者が自分を支持していることを証明するため、1000人の有権者から5ドルずつ集める必要がある。最初は自分の直接の知り合いを中心に250人ほどにしかならなかった。そこで友人からさらにその友人に声をかけてもらって増やしていき、ようやく1000人からの寄付金を集め、市からの選挙資金を獲得する資格がとれたのよ。」

市民の目線に立てる人が、行政と立法のトップにいることは、ポートランドの市民参加の推進力となっている。

積み重ねられた成功体験

ポートランド市街の中心部を流れるウィラメット川では、川沿い約1.5キロにわたって緑の公園が続き、美しいウォーターフロントをなしている。1960年代までは、ここをハーバー・ドライブという高速道路が走っており、市民が川岸を散策したり水辺で憩うことはできなかったという。連邦政府と州がこの高速道路の拡張計画を打ち出した1968年、人々の反対運動が盛り上がった。そこで、市民が何を望んでいるかを調べるためにオレゴン州知事の指示でタスクフォースが作られ、その結果、拡張とは逆に高速道路を取り壊し、市民の憩いの場となるような公園を創設することになった。時あたかもモータリーゼーション、全米で高速道路建設が盛んな時代にこの運動を成功させたことで、ポートランド市民は自信を得、行政への市民参加が盛んになるきっかけとなったという。

ハーバー・ドライブ拡張反対運動が盛り上がったのと同じころ、連邦政府は、オレゴン州最高峰のマウントフッドと市内をつなぐ新たな高速道路建設を策定した。市民は環境破壊を理由に反対運動を起こし、市長選挙で高速道路建設撤回を公約した候補を当選させ、計画を中止に追い込んだ。代わりに、高速道路建設予算の半分程度を使い、都市交通の整備をおこなうことになった。この時の決断が、路面電車、路線バスなど公共交通機関が発達した現在のポートランドの姿につながっている。

街の中心部にある広場「パイオニア・コート・スクエア」も、市民の声が反映されて生まれたものだ。もともとは高層駐車場になるはずが、「街の中心なのだから、駐車場ではなく広場が欲しい」という意見が出てきた。何度か公聴会を開いて、広場建設が決まったという。市民は要求するばかりではなく、広場建設の資金集めにも参加、協力した市民ひとりひとりの名前は、広場に敷き詰められたレンガに今も刻まれている。

このような一連の成功体験が、現在のポートランド市民の恒常的な政治参加につながっている。

市民と行政の協働

それでは実際にどのような仕組みが機能しているのだろうか。同市には、日本の町内会に似た地縁型組織「ネイバーフッド・アソシエーション」がある。1974年の市条例で、市の政策決定プロセスに関わる一機関としての役割が明確に規定されており、この公的な位置づけが、ポートランドにおける市民参加の推進力になっているともいわれている。現在市内にはこの組織が95あり、その上部組織として地区連合が7つ存在する。それを統括し支援する部署が市役所の中に設けられ、30名の市職員が業務にあたっている。市民への情報提供を行うと同時に、あらゆる市民の声が行政に届くよう、さまざまな支援活動を行っている。

同市では、予算編成プロセスへの市民参加を積極的に推進している。参加するためにはまず、市民が基本となる情報を知っていなければならない。上記の「ネイバーフッド・アソシエーション」は、この情報周知段階で大きな力を発揮している。

また、行政コストを削減するともに、環境や行政への市民の参加と関心を高めた最近の事例がある。市では、下水道の許容量を越えた汚水が市内の川に流れ込むという環境問題に悩まされていた。これを解決するため、排水管と雨どいを分離して雨水を各家庭の庭に排水させ、雨どいの水が下水道に流れ込まないようにすることを計画。市職員、市民ボランティアだけでなく、市民自らが各家庭で分離作業をする制度を作り、新たに下水道を整備した場合のわずか4%のコストで問題の解決を実現した。

今回の視察は、市長、コミッショナー、市当局者から話を聞くだけでなく、ポートランド市および近郊で毎日のように開催されている市民対象の様々な会合に積極的にオブザーバー参加し、市民と行政がどのように関わっているかを直接体験する貴重な機会となった。

もちろん、ポートランド市は、日本の行政単位としての「市」とは役割も成立の過程も異なる。制度も異なる外国の自治体から何を学ぶのか。それはこの週末学校の最終回に校長の福嶋浩彦氏が述べたこの言葉に集約されよう。

「改革をしようとするとき、制度論に逃げてはいけない。根本的なものの考え方を見直し、本来市民や、議会が果たすべき役割は何かと考えた上で、今の制度をうまく活用することが大切だ」

今年度の週末学校はすでに終了したが、研修生が学んだことを現場で生かし地方の変革をおこしていけるよう、東京財団は引き続き支援していきたいと願っている。(文責:広報部)


2010年度の週末学校研修生募集を開始しました。■募集要項はこちら
多くの自治体職員の応募をお待ちしています。



【参考】
2009年度ポートランド視察研修
主な研修講義内容とスピーカー


米国の地方自治およびオレゴンのローカルガバメント概要 
ローカルガバメントの種類、役割と歳入・歳出、予算編成のプロセスについて。
Mr. Tom Linhares Director, Tax Supervising and Conservation Commission (TSCC)【税監督・保全理事会ディレクター】

市民と取り組む新ガバナンス
ポートランド市の 「コミッショナーシステム」の紹介。排水・汚水処理に関して市民・コミュニティ・行政が一体となり取り組んだ事例紹介。ガバナンスモデルに関するディスカッション。
Mr. Dan Vizzini, Bureau of Environmental Services (BES), City of Portland【ポートランド市環境・下水道局】

市民と取り組む予算つくり:コミュニテイー バジェテイング
財務プロセスにおける新しい市民参加のモデルについて。
Ms. Laurel Butman, Jeramy Patton, &Diana Fielitz, Office of Management and Finance (OMF), City of Portland【ポートランド市管理・財務部】

パフォーマンス監査 と行政のアカウンタビリテイー
ポートランド市におけるパフォーマンス監査の在りようと行政のアカウンタビリテイーに関するディスカッション。
Mr. Drummond Kahn, Director of Audit Service, Auditor’s Office, City of Portland【ポートランド市監査局監査サービスディレクター】

市民の目から見た市民参加
市民の観点でポートランド市における市民参加についてディスカッション。
Ms. Linda Nettkoven, Citizen Advisory Committee, City of Portland【ポートランド市・市民諮問委員会】

行政の効率的運営に向けての革新的取り組み
クラカマスカウンティで効率的に行政サービスを提供するための取り組みとして実験的に行った週4日・1日10時間労働制度の紹介。
Mr. Steve Wheeler, County Administrator, Clackamas County
【クラカマスカウンティカウンティ長官】
Ms. Nancy Drury, Director of Employee Services, Clackamas County
【クラカマスカウンティ雇用サービスディレクター】
Ms. Karen Pearson, Human Resources Program Coordinator, Clackamas County
【クラカマスカウンティ人材プログラムコーディネーター】

研修生の感想から
・市民参加に欠かせない情報公開は、単に公開していればいいというものではない。市民にどのように興味と関心を持ってもらうかという工夫が大切だ。それを現場で考えていきたい。

・ポートランドで見た、「自分たちの意見を反映させて政府をつくっていく」という市民の姿勢が印象的だった。このような姿勢を日本の制度の中で実現する道を見つけていきたい。

・日本では市民参加を促進するために行政が何をするか役割がはっきりしていない。市民の意見を聞く仕組みづくり、市民の意識を高める仕組みづくりを考えていきたい。
・ポートランドでは、問題の内容や種類によって市民の関わり方が異なることを知った。日本でも状況にあわせて、少しずつその手法を取り入れていけると思う。