タイプ
レポート
日付
2007/10/11

奨学事業レポート「タンザニア北部地域におけるコミュニティー支援プロジェクト」

東京財団が運営するSYLFFプログラムでは、年3回 The SYLFF Newsletter という英文誌を発行しています。このニュースレターは、世界45カ国に広がるSYLFF校の動向や、9,000名を超えるSYLFFフェローの研究や活動を紹介するものです。最新号 No.19(2007年9月号)(PDF版)は、財団ホームページからダウンロード出来ます。 本ページの一番下をご覧ください。

今回は、今号のThe SYLFF Newsletter に掲載された、SYLFFフェローのチームによるコミュニティー支援プロジェクトの中間報告を日本語でご紹介します。東京財団が「協働プロジェクト支援制度(SYLFF Joint Initiatives Program: JIP)」により支援するこのチームは、アフリカ・タンザニア北部の農村において、現地NGOと協力しながら、持続可能な代替燃料の使用や省エネルギー技術を普及させるプロジェクトを実施しています。


「タンザニア北部地域における持続可能なエネルギー技術の使用普及を
目指した活動」
スチュアート・グラハム



世界では、約20億人の人たちが電気のない暮らしをしている。彼らは、料理をしたり、暖を取る際に、薪、木炭、糞、農業廃棄物などに頼るしかない。そのような多くの発展途上国において、女性や少女たちは、一日の大半を燃料集め、水運び、料理に費やしている。簡素な石造りのコンロを家の中に置いて料理している女性たちの多くは、煙に長時間さらされていることから、呼吸器の感染症や癌、眼疾患などの深刻な病気にもつながっている。極度の貧困下では、このような原始的な燃料に頼らざるを得ないが、その被害を最もこうむるのは、家事を担当する女性と子ども達である。タンザニア北部の女性たちもその例外ではない。

今回、「協働プロジェクト支援制度:(SYLFF Joint Initiative Program:JIP)」を通して私たちが立ち上げたチームは、タンザニア北部の女性たちが直面している、こうした燃料による被害を少しでも軽減させることに取り組んでいる。私たちのJIPチームは、私と、ナイロビ大学出身のSYLFFフェローであるステファン・ムティソ(Stephen Mutiso)がリーダーとなり、その他、2つのSYLFF校から集まった5人の研究者たちがプロジェクトメンバーとして参加している。私たちは、メンバーの出身国は4カ国(イタリア、ケニヤ、タンザニア、アメリカ合衆国)をカバーし、学問の専門分野では経済学、ジェンダー研究、農村開発学、社会学といった幅広い分野から集まっていて、非常にユニークで国際色に富んだチームである。

私たちのチームはまず、地元にエネルギー・センターを設置した。このセンターでは、女性や少女たちが、省エネ技術を学んだり、燃費の良い家庭用ストーブを製作したり、薪や木炭などに代わる様々な代替燃料を試したりすることができる。この他、センターが宣伝し、普及を進めているものには、太陽熱を効率よく集め、その熱で食べ物を乾燥させたり調理できるように工夫したソーラータイプの調理器具、植物油などの生物燃料を使用したロウソクやランプ、燃料が不要な断熱調理バスケット、省エネストーブ、バイオ(生物)ガスなどがある。また、代替燃料として、様々な材料(粉炭、おがくず、とうもろこしやコーヒー豆の殻など)をリサイクルして作った練炭、植物油から作った燃料、再利用灯油などを配給している。



このエネルギー・センターは地元の非営利団体 、The Women Development for Science and Technology Association (WODSTA) とJIPチームの協力によって運営されている。WODSTAのメンバーによる働きかけで、地元の人たちが省エネ技術の実演講習や燃費効率の良いストーブの作り方の研修などを受けている。また、WODSTAは、私たちJIPチームのプロジェクト終了後も、地元の女性たちがこのストーブを製作・販売することによって現金収入が入ることを目指し、活動を進めている。こうしてセンターで訓練を受けた女性たちは、自分たち自身の暮らしが豊かになるだけでなく、地域社会からも信頼を得るにちがいない。さらに、WODSTAは、地元の学校において燃料とジェンダーや文化について討議する場を設けたり、省エネ技術を広めることで、教育の進展につなげることにも取り組んでいる。WODSTAの協力を得ているおかげで、センターでのこうした活動は、JIPプロジェクト終了後も引き続き行なわれていくはずである。

ある女性の一日

ママ・ペレはタンザニア北部のソンベティニ村に住む5人の子供の母親である。ママ・ペレの一日は、朝5時に、家の中にある3つの石のコンロに火をおこすことから始まる。朝食用の薪は、毎日あたりが暗くなる前に、翌朝分を1時間以上もかけて集める。夜間や早朝の暗い時間に薪を探すのは危険だからだ。ママ・ペレは小1時間かけて、夫と子供たちのために朝食用のチャイ(ミルクティー)とウジ(とうもろこしでできたお粥)を作る。朝食の片付けが済むと、今度は昼食用の薪を集めに行く。しかし、他の村人たちも同じように薪を集めているため、昼食を調理するのに十分な薪を集めるのに1時間以上はかかってしまう。昼食後、今度は娘たちを薪集めに出し、ママ・ペレは家事をする。娘たちは、薪を集めて帰ってくると、洗濯や掃除、夕食の支度を手伝う。夕食は、日が沈む前に済まさなければなかない。村には照明器具が一つもなく、あたりが明るいうちに家事を全て終わらせなくてはいけないからである。一日3度もの薪集めは危険が伴い、環境破壊につながるだけではなく、家族の貴重な時間も奪っている。ママ・ペレと子供たちは、燃料集めさえなければ、教育や、現金収入を伴う仕事にもっと時間を費やせるのである。

ママ・ペレのような話は、タンザニア北部ではごく一般的な話だ。JIPを通して設立されたこのエネルギー・センターでは、ママ・ペレのような女性たちに代替燃料を提供することで、その家族に現金収入をもたらし、家族の健康を維持し、そして環境を破壊しない暮らしをすることを目標にしている。このセンターの活動は目新しいものではないのだが、ママ・ペレのように、時間的、金銭的な余裕が殆どなく、代替燃料についての知識のなかった人たちに、代替燃料の存在を知らせようとしている。私たちのJIPプロジェクトによって、代替燃料が、それを最も必要としている人たちに届くのである。

古いスペースの活用:使っていなかったセンターの修復

JIPプロジェクトの援助を受けているこのエネルギー・センターは、タンザニア北部アルーシャのすぐ南に位置するソンベティニおよびソコニ・ワン地区の中心部に位置している。同センターは、繁華街の近くにあり、村人たちが日常的に行きかう場所にあるおかげで、毎日たくさんの人々がセンターを訪れ、実演説明を見たり、ワークショップや研修に参加したり、省エネに関する資料を読んだりしている。実は、地域社会を潤していくこのようなセンターを設置する案は1995年からあった。2000年になってようやく運営に必要なものが揃い、レンガ造りの建物を建てることができた。建物が完成した当初の2002~2003年は、地元住民が一致して地域発展に取り組むことを目的として、教育や健康の向上、収入の増加、自然環境の保護などに取り組んできた。しかし、この地域の約80パーセントの住民が、1日1米ドル以下で暮らしており、活動は継続しなかった。建物はその後4年間放置されていたが、今回私たちSYLFFフェローが、WODSTAとの協力による地域のエネルギー・センターを設置するプロジェクトを提案し、JIPプログラムの支援を申請することにした。地元のリーダーたちはやる気満々で、2006年秋にはJIPの助成金を受け取ることができ、着々と準備が進められた。基礎調査は終了しており、地元のボランティアの人たちが運営するエネルギー委員会も設立された。2007年4月には、初めて、いくつかの実演説明が行われた。正式な開館式は6月23日に行われ、センターは、地域住民を支援するために再スタートを切ったのである。センターの活動は現在、順調に地域の人たちに浸透している。

私たちチームは、JIPプロジェクトとして、今年いっぱいセンターの活動に関わっていく。

●地元の女性による実演説明。タンザニア北部、ボンベティニ村のJIPの支援によるエネルギー・センターにて。(写真)






スチュアート・グラハム(Stuart Graham)

1999~2003年に カリフォルニア州立大学バークレー校(University of California, Berkeley/米国)よりSYLFF奨学金を受給。同校にて経営学博士号を取得し、現在は、ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology/米国アトランタ市)の経営学科で戦略的経営、起業家精神と法的環境を教える傍ら、同分野での研究も続けている。また、ニューヨーク州の弁護士として、ソフトウェアとバイオ技術分野における知的財産と訴訟戦略や、ヨーロッパとアメリカの特許制度に関する比較研究など、論文も多数発表している。2003~2007年には、SYLFFフェロー協議会(SYLFF Fellows Council)メンバーを務め、SYLFFのネットワーク構築・強化についての活動に精力的に参加した。


The SYLFF Newsletter No. 19 (2007年9月発行)(PDF)