タイプ
その他
日付
2012/8/9

「みちのくウインド・オーケストラ」ができるまで ~東北から世界に共鳴してゆく音楽の輪~

○楽器を贈ろう
2011年3月の東日本大震災で被災した中学校や高等学校の吹奏楽部では、建物や楽器が津波で流されたり錆びて使えなくなったり、また、学校の予算がつかず新しい楽器が購入できなくなるなどして、なかなか部活動が再開できずにいました。被災生活という非日常の中にあっても、できる限り普通に学校生活を継続していきたいと復興に励む現地の高校から「楽器がたりないので送って欲しい」との連絡を受けた、宮城県吹奏楽連盟や東京のNPO法人「国境なき楽団」(代表:庄野真代)、音楽プロデューサのしおみえりこさんが所属するグループ「カーニバルカンパニー」(代表:橋爪恵一)は、直ちに各地で楽器集めのための呼び掛けを始めました。するとリコーダーや鍵盤ハーモニカ、金管、木管、さらにはリードやマウスピースなど多種多様な楽器や用具が、首都圏のみならず兵庫県や愛知県などからも寄せられました。寄せられた楽器にこめられた「応援」の気持ちを乗せて、しおみさんたちはステージトラック「つばさ号」で被災地の学校に届けました。

○海外から寄せられた声
一方、大震災のニュースが世界に報じられた直後から、公益財団法人・東京財団には、同財団が世界44カ国、69大学で展開する「ヤングリーダー奨学金プログラム」(Sylff。X頁参照)で学んだフェローたちから続々と支援の申し出が届いていました。その中に、ウィーン国立音楽大学(オーストリア)、パリ国立高等音楽院(フランス)、ジュリアード音楽院(米国)で学んだ若き音楽家たちからの「被災地の子どもたちを音楽で励ましたい」との願いがありました。今は若手のプロ音楽家として活躍する彼らが、楽器に本格的に親しみ始めた中高校生のころの気持ちを思い出しながら、「日本の生徒たちみんなと心を合わせて演奏したい」と来日演奏会を提案したのです。

このふたつの話を聞いたサントリーホールと東京財団は、楽器を取り戻した中高生たちからの感謝の気持ちと3つの音楽大学のSylffフェローたちの熱意を一つにすべく、この夏だけの特別なコラボレーション「みちのくウインド・オーケストラ」を結成し、仙台で合同練習会をしたのち、東京サントリーホールで演奏会を行うことにしました。

○大編成オーケストラへの道
真夏のしかもお盆の時期に果たして被災地の中高生は参加できるだろうか。心配は尽きないまま、岩手、宮城、福島で「楽団員募集」が始まりました。蓋を開けてみれば、中学生、高校生から続々と申し込みがありました。最初は「高校生にまじってついていけるだろうか」と不安に思っていた中学生も、少し勇気をだして自ら応募してくれました。こうして最終日には募集予定人数を大幅に上回る120名余となりました。

海外の音楽家たちをまとめてくれたのは、ニューヨークにある名門ジュリアード音楽院で、副学部長を務めるバーリ・ヌジェント氏。みずからフルート奏者として活躍しながら、30年にわたって世界各地の高校生たちと室内楽のワークショップを開いた経験から、即座にパリとウィーンの音楽大学に呼びかけを行い、あっという間に9名の若手音楽家による室内楽グループSylff Chamber Ensembleを作り上げました。

共鳴の輪はさらに広がりました。この話を聞いた指揮の三石精一氏と山下一史氏、さらに国際的なマリンバ奏者・安倍圭子氏が、続々と賛助出演を申し出てくれました。

こうして、岩手、宮城、ニューヨーク、パリ、ウィーンから集った総勢130余人による大編成の「みちのくウインド・オーケストラ」ができたのです。

○広がる共鳴の輪
次なる課題は、大編成の吹奏楽コンサートを曲目も含めてどのように作り上げるかでした。そこで協力を申し出てくれたのが、洗足学園音楽大学の岩本伸一さん。岩本さんは昨年から被災地の吹奏楽連盟と連携してすでにいくつもの合同演奏を行なっていました。今回のプログラムを構成するにあたり、まず中高生ひとりひとりが自分の楽器を活かすことができ、その上で若手音楽家の実力をも引き出し、さらに賛助出演者との融合が可能となるよう、みずから選曲と編曲を行いました。

次なる課題はこの大人数が一同に練習できるとこはあるのか、ということでした。これには、フィギュアスケーターの荒川静香さんやメジャーリーグのダルビッシュ有選手、プロゴルファーの宮里藍選手など数々のアスリートを輩出している東北高校(五十嵐一彌校長)が、郊外の丘陵に広がるキャンパスを練習会場として提供してくれました。

こうして、8月13日から15日まで、盛夏の仙台で冷涼な風を満喫しながら3日間のワークショップが行うことが決まりました。東北の中高生と、パリ、ニューヨーク、ウィーンの若手音楽家が、言葉の壁や練習方法の違いを楽しみながら、10曲余りを完成させることになっています。将来有望な音楽家たちのソロ演奏に圧倒されたり、ともにお弁当を食べたりパート練習を行ったり、また、安倍圭子さんとの全体練習臨んだり、さまざまな体験をすることでしょう。

海外からの9人の音楽家は、その後さらに、被害の大きかった石巻市中央の商店街を訪問し、廃業した洋品店を利用してうまれた交流拠点「ジョイナス・アイトピア」でミニコンサートを開きます。津波ばかりか火災にまで見舞われた小学校、泥まみれになったピアノ、毎日新たな生花が備えられている鎮魂碑―今なお爪痕と隣り合わせでありながら、前を見て明るく出迎えてくれる石巻の人々との出会いから、9人は、何を感じるでしょうか。

そして8月17日は、東京サントリーホールで、ニューヨーク、パリ、ウィーン、そして東北から集まった130余名の思いが、会場いっぱいに共鳴するはずです。文字通り、一夏限りの「みちのくウインド・オーケストラ」が奏でる復興の「証」を、最後までご一緒にお楽しみください。
(プログラムより抜粋)