タイプ
レポート
日付
2012/12/10

楽器とともに 音楽とともに 仲間とともに


みちのくウインド・オーケストラ

8月17日 サントリーホール(東京都港区)
主催:(公財)東京財団
制作協力:サントリーホール/カーニバルカンパニー

文―『教育音楽』編集部
写真提供-景山正夫





2011年3月11日―あの日、沿岸の学校で吹奏楽に情熱を傾けていた中高生たちも、教室や音楽室から身一つで避難した。友としていた楽器は、あるものは行方不明になり、あるものは泥だらけで見つかった。
日常を少しでも取り戻すために必要なのは、今までどおりの音楽に汗する青春だった。「でも、楽器が足りない・・・・・」その声は宮城県吹奏楽連盟を通じて、NPO法人「国境なき楽団」や、音楽企画集団「カーニバルカンパニー」に届き、全国的な楽器寄付の呼び掛けに発展した。そして持ち主の思いを託された1400もの楽器が集まり、昨年5月、被災地の生徒たちに届けられた。

一方、地球の裏側で起きた災害に、ヨーロッパやアメリカで胸を痛めた若き奏者たちがいた。「僕たちはビルを復元することはできない。でも、音楽家として人々の心に寄り添うことはできる。僕たちは自分のできることで被災地を支えたい・・・・・」(公演中のトークより)。(公財)東京財団運営の「ヤングリーダー奨学基金プログラム(Sylff) 」という、同じ奨学金で学ぶ者同士で、室内楽グループ「シルフ・チェンバー・アンサンブル」を結成し、悶々と抱えていた思いを演奏に昇華させることになった。

楽器と音楽を取り戻した被災地の生徒たちと、彼らに心を寄せる世界の若き音楽家たち。両者の感謝と熱意を表現するべく結成された、この夏限りの吹奏楽団「みちのくウインド・オーケストラ」。総勢約150名の熱いメッセージが、管楽器の音となって東京・サントリーホールに響き渡った。


祈りと生命をうたうプログラム



客席に招待された、楽器の寄贈者をはじめとする応援団の人々がコンサートを見守る。まずは東北の生徒たちによるステージ。オープニングは、震災からまもなく「被災地の人々を励ますために」と作られた曲『陽はまた昇る』(スパーク作曲)。厳かなコラールのごとき音の重なり、光降るウィンドチャイム、希望を導くような和音の進行に、演奏者一人ひとりが味わっただろう苦難とこの舞台までの道程が思われ、目頭が熱くなる。

『アレルヤ!ラウダムス テ』(リード作曲)、『ディズニーメドレー』(岩井直溥編曲)と吹奏楽の人気曲が演奏された後、シルフ・チェンバー・アンサンブルが入っての合同演奏は『東北地方のための哀歌』(コミタス作曲)。東北の民謡をモチーフにしたこの曲で、『南部牛追い歌』や『会津磐梯山』などのメロディーを、彼らも情感たっぷりに歌い上げる。

2台のマリンバとウィンドアンサンブルによる『プリズム・ラプソディ?』(安倍圭子作曲)でソリストを務めたのは、シルフ・チェンバー・アンサンブルのパーカッショニスト:オーストリアのデイビッド・パンツェル氏と、宮城県管打楽器ソロコンテスト金賞・特別賞の川名愛さん(東北高校3年)、そして世界的マリンバ奏者である安倍圭子氏(賛助出演)。3世代の類稀なる才能の協演を、生命力ほとばしる吹奏楽が力強く支える。

この歓声が、未来へつづくことを願って

後半では、シルフ・チェンバー・アンサンブルが精妙な技で数名ごとの小品を披露した後、『A SONG FOR JAPAN』(フェルヘルスト作曲)を全員で演奏。静かな感動がホールを満たしたところで一転、東北の生徒たちも再登場して、高らかなマーチの『アルセナール』(ヴァンデルロースト作曲)と疾走感に満ちた『エル・カミーノ・レアル』(リード作曲)を元気いっぱいに吹き鳴らす。最後は『ラデツキー行進曲』(シュトラウス作曲/岩本伸一編曲)で、ステージと客席が一体になる。様々な人の思いが込められたサウンドが、爆ぜるように花開いた2時間半のステージは、盛大な拍手の中で幕を閉じた。

「音楽の力に疑問を持った時もあった。『何にもできやしない・・・・・』と。でも、音楽家は音楽で生かされているということを、音楽を取り上げられた時に実感した」と、賛助出演でタクトを振った山下一史氏。「音楽が物理的に誰かを助けることは不可能だけど、悲しみから救う力、元気を与える力は、想像以上にあるんです」と、また賛助出演の指揮者・三石精一氏もステージで語った。数多の音楽家があの時、同じ苦悩に直面しただろう。しかしその答えの一端を、この日のメンバーの笑顔が証明してくれたような気がする。一方で、彼らが演奏後に帰る故郷の多くが、いまだ震災前とは遠くかけ離れた状況にあることも忘れてはならない。復興も支援も、まだ始まったばかりだ。


『教育音楽』2012年11月(株式会社音楽之友社)より転載