東京財団 外交史ブックレビュー

東京財団 外交史ブックレビューvol.030

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2011.03.28
◆◇ 東京財団 外交史ブックレビュー Vol.030 ◇◆
      http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19
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▼ ブックレビュー

日本政治外交に関連する最近の優れた書籍・論文等を、気鋭の研究者が紹介し
ます。外交の実務に携わる方々には必須のものばかりです。是非お読みくださ
い。

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│『基地の島沖縄 国策のまちおこし ― 嘉手納からの報告』
│ 渡辺豪著(凱風社、2009年)
│  評者:宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)
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昨今、「沖縄問題」なる言葉が聞かれる。主として沖縄に在日米軍基地が集中
していることに起因するさまざまな問題を指しているわけだが、あたかも沖縄
が問題を作り出しているように聞こえることに、いささか違和感を覚えないで
もない。

評者には近年、沖縄をめぐる議論が二分化する傾向を強めているように思われ
る。すなわち、一つは沖縄に基地を押しつけている不当さを告発するもので、
従来からの沖縄論の中心をなすものだと言ってよかろう。

これに対して近年盛んになっているのが、基地を代償として東京の政府からさ
まざまな振興策を引き出す沖縄の「したたかさ」、あるいは「甘え」を告発す
るものである。日本経済新聞の元那覇支局長・大久保潤氏の『幻想の島・沖
縄』(日本経済新聞出版社、2009年)、普天間基地移設問題の当事者であった
守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(新潮社、2010年)などが、その代表的なも
のと言ってよかろう。

そのような二極化に強い危機感を表しているのが、ここで紹介する渡辺氏の著
作である。過剰な基地負担の代償として特例扱いの振興策を注ぐという、「基
地と振興策」のバーターが、本土と沖縄を分断するというのである。ただし渡
辺氏の著作は、「沖縄論」それ自体を論じるのはない。沖縄随一の基地負担を
抱える嘉手納町が、それを逆手にとった「まちおこし」を試みる過程を丹念に
掘り下げる。その結果として上記の結論にたどり着くのである。

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 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=721

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│『国際連盟 ― 世界平和への夢と挫折』
│ 篠原初枝著(中公新書、2010年)
│  評者:細谷雄一(慶應義塾大学法学部准教授)
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本書は、日本語で書かれた最初の体系的な国際連盟史研究であり、また高い水
準の国際政治史研究でもある。新書という形式をとりながらも、スイスのジュ
ネーヴに所在する国際連盟史料やフランスのユネスコ史料などの一次史料を用
いて新鮮な解釈を試みると同時に、英文で書かれた最新の研究まで網羅した野
心的な一冊といえる。とりわけ、国際連盟と日本との関係について書かれた部
分については、いくつもの新しい視野を得ることが出来て高い価値をもつもの
といえる。

著者の篠原初枝早稲田大学教授は、国際関係史を専門として、シカゴ大学にて
入江昭教授の指導を受けて歴史学の博士号を取得している。その研究は、『戦
争の法から平和の法へ ― 戦間期アメリカの国際法学者』(東京大学出版会、
2003年)としてまとめられた。これまでは主として、戦間期のアメリカ外交史
および国際関係史を、アメリカにおける国際法学者の役割に注目して研究を発
表してきたが、本書『国際連盟』ではそのようなこれまでの研究を基礎とし
て、戦間期国際関係史の全体像を、国際連盟の発足から試練への直面、そして
終焉へと至るまで論じ、国際組織史を描くことに成功している。

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 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=724
 
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▼ 編集後記

このたびの東北地方太平洋沖地震によって、甚大な被害に遭われた皆さま、悲
しみと苦しみと不安の中にすごされている皆さまに、心よりお見舞い申し上げ
ます。

この二週間あまりは、震災の情報を収集し、関連する文献を読み、何が可能か
を考えて過ごして参りました。こうした生活に直結しない研究書が、かつてよ
りも疎遠な存在に感じられることもありました。本号で紹介した二冊の本は、
かつての研究生活との接点を結び直してくれました気が致します。

渡辺豪『基地の島沖縄 国策のまちおこし』は、沖縄県の嘉手納町長が国から
の財政支援をたくましく獲得していった手腕とその限界を柔軟な視線で跡づけ
ています。

篠原初枝『国際連盟 ― 世界平和への夢と挫折』は、国際連合が加盟国の衛生
や開発に深く関与していたという近年の指摘を踏まえ、その中で日本人、日本
政府がどのように寄与したかを描いています。

両書のスタイルやテーマは全く異なりますが、苦悩する地域を国や国際社会が
支援する方法と困難についての知見を豊かにしてくれるものでした。

生き延びた者たちの知識や人間関係は、衝撃の中にも再編され受け継がれてい
きます。震災後の日本の政治学が、政治や外交が、どうなっていくのか、この
研究会がそういうことを考える一つの場としても機能すれば幸いです。

(五百旗頭)

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日本外交に関心を持つ方々へ
北岡伸一(東京財団上席研究員、東京大学教授)

清沢洌は『外交史』(1940年)の序文に、「外交史に関する知識が、今日ほど
必要とされてゐる時はない。この知識を基礎とせずして造りあげられたる外交
政策と、外交輿論は、根のない花である」と書いています。

これは、時代を超えた真理だと思います。現代の日本は、当時ほど切迫した状
況にあるわけではありませんし、当時とは比較にならないほどの言論の自由が
あり、情報収集も容易です。にもかかわらず、現代の外交政策や外交世論が、
正確な外交史の知識の上に築かれているとは、決して言えないのではないでし
ょうか。

その一方で、戦後外交に関する研究は着実に発展しつつあります。外交文書の
公開や情報公開制度の利用等によって、新しい史料が利用可能となり、アメリ
カ等外国の文書に主として依拠した研究から、より総合的複眼的な視点が提示
されつつあります。それらの研究は、しかし、まだ専門研究者の間で共有され
るだけで、広い外交論議の基礎として十分利用されてはいないというのが現状
です。

このニューズレターは、そうしたギャップを埋めることを目指しています。す
なわち、戦後日本外交史およびこれに密接に関連する分野(日米関係史、日中
関係史、その他の国際政治史、日本政治史、地域研究など)において最近登場
した優れた研究を、対外政策に関心を持つ幅広い層、いわゆるforeign policy
constituency に紹介しようとするものです。日本外交を「根のある花」にす
るために、ささやかな貢献ができれば幸いです。

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『外交史ブックレビュー』第30号(2011年3月28日発行)

発行元:東京財団 政治外交検証研究会(リーダー:北岡伸一上席研究員)
    〒107-0052 港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
    http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19

編集責任者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)
      細谷雄一(慶應義塾大学法学部准教授)
      宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

編集担当:林大輔(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程)
     松下薫(東京財団広報渉外担当オフィサー)

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