東京財団 外交史ブックレビュー

東京財団 外交史ブックレビューvol.033

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2011.09.08
◆◇ 東京財団 外交史ブックレビュー Vol.033 ◇◆
      http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19
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▼ ブックレビュー

日本政治外交に関連する最近の優れた書籍・論文等を、気鋭の研究者が紹介し
ます。外交の実務に携わる方々には必須のものばかりです。是非お読みくださ
い。

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■┓『インドネシアと日本 ― 桐島正也回想録』倉沢愛子著
┃┃ (論創社、2011年)
┗┛  評者:宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

本書の語り手である桐島正也は、日本=インドネシア関係に携わる人々の間で
は、深田祐介の小説『神鷲商人』の主人公のモデルとして「知る人ぞ知る」存
在である。この小説で主人公の商社マンは、インドネシアへの戦争賠償に絡ん
で激しい商戦が行われていた1950年代末、インドネシア建国の父・スカルノ大
統領の夫人となる日本人女性に付き添って海を渡る。いうまでもなくモデルは
デヴィ夫人である。深田の小説は、スカルノ失脚を招いたクーデター、9.30事
件(1965年)をクライマックスに、波乱に富んだインドネシア現代史と日本の
関係を描くが、その内容は一部の設定を除き、ほぼ事実に沿ったものだと言え
よう。

深田祐介が学友であったことをきっかけに、桐島の希有な体験が小説になった
のだが、実際の桐島は、その後もインドネシアにとどまり、今日に至るまで半
世紀にわたって現地で手広く事業を展開する実業家である。その経験を日本=
インドネシア関係史の貴重な側面だと考える倉沢愛子・慶応大教授が聞き取
り、取りまとめたのが本書である。

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 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=805

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■┓『明治立憲制と内閣』村瀬信一著(吉川弘文館、2011年)
┗┛  評者:黒澤良(学習院大学法学部兼任講師)

2009年の政権交代後に民主党・鳩山政権が、政治主導の確立をもとめて事務次
官会議を廃止したことは記憶に新しい。民主党が改革の俎上にのせた次官会議
が重用されるようになったのは、戦前にさかのぼり、1932年の5・15事件で政
党内閣が継続しなくなって後の、いわゆる挙国一致内閣期以降である。

本書『明治立憲制と内閣』は、明治憲法下の内閣制の運用が20世紀初頭(桂園
内閣期)に確立し、その運用が、次官会議が重用されはじめ、声高に内閣機能
強化が叫ばれた1930年代までは機能したとする。本書をひもとき、明治憲法の
もとで「政治の所産であるところの政治制度(=内閣)が、まさに政治を通じ
てどう使いこなされ、機能していくのか」(P317)を知ることは、新たな内閣
制度が模索される21世紀の今日にも貴重な示唆を与えよう。

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 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=806

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▼ 編集後記

円高による空洞化は心配ですが、いざ海外に移転した場合には、たしかな足跡
を残せる日本人であって欲しいと思います。本号で取り上げた『インドネシア
と日本―桐島正也回想録』には、インドネシアに進出した日本人について、
「日本人は、例えればインドネシアという川の底にある砂利だ。それに対し、
中国人は苔、白人は岩だ。嵐が来れば、小砂利は全部なくなる。しかし岩と苔
は、残る」という言葉が紹介されています。

もう一冊、新政権の誕生にふさわしい本を取り上げることが出来ました。『明
治立憲制と内閣』では、制度の大きな変革が難しい中、運用の工夫が重ねられ
た経緯が描かれています。一方で、運用で切り抜けられてしまうと、制度の変
革が遠ざかるという逆説も指摘されています。

それでも、運用には制度の補完に留まらない意義があるように思います。所与
の条件の下で、粘り強く努力する精神につながる点です。歴史の苔になるため
に、必要な精神でしょうか。(五百旗頭)

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日本外交に関心を持つ方々へ
北岡伸一(東京財団上席研究員、東京大学教授)

清沢洌は『外交史』(1940年)の序文に、「外交史に関する知識が、今日ほど
必要とされてゐる時はない。この知識を基礎とせずして造りあげられたる外交
政策と、外交輿論は、根のない花である」と書いています。

これは、時代を超えた真理だと思います。現代の日本は、当時ほど切迫した状
況にあるわけではありませんし、当時とは比較にならないほどの言論の自由が
あり、情報収集も容易です。にもかかわらず、現代の外交政策や外交世論が、
正確な外交史の知識の上に築かれているとは、決して言えないのではないでし
ょうか。

その一方で、戦後外交に関する研究は着実に発展しつつあります。外交文書の
公開や情報公開制度の利用等によって、新しい史料が利用可能となり、アメリ
カ等外国の文書に主として依拠した研究から、より総合的複眼的な視点が提示
されつつあります。それらの研究は、しかし、まだ専門研究者の間で共有され
るだけで、広い外交論議の基礎として十分利用されてはいないというのが現状
です。

このニューズレターは、そうしたギャップを埋めることを目指しています。す
なわち、戦後日本外交史およびこれに密接に関連する分野(日米関係史、日中
関係史、その他の国際政治史、日本政治史、地域研究など)において最近登場
した優れた研究を、対外政策に関心を持つ幅広い層、いわゆるforeign policy
constituency に紹介しようとするものです。日本外交を「根のある花」にす
るために、ささやかな貢献ができれば幸いです。

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『外交史ブックレビュー』第33号(2011年9月8日発行)

発行元:東京財団 政治外交検証研究会(リーダー:北岡伸一上席研究員)
    〒107-0052 港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
    http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19

編集責任者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)
      細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)
      宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

編集担当:林大輔(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程)
     松下薫(東京財団広報渉外担当オフィサー)

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