タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/3/31

アメリカ大統領権限分析プロジェクト:戦争権限をめぐるオバマ政権の独自の姿勢

 渡部恒雄(東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員)

 

   オバマの大統領権限拡大は移民法や気候変動対策など幅広いが、その一つとして、対ISIL(過激派組織「イスラム国」)への戦争権限拡大がある。ただし他の場合と違い、戦争権限をめぐる議会対大統領の対立は、オバマ以前の過去の政権でも継続して起こってきたことであり、「オバマ政権独自の大統領権限拡大」という例ではなく、過去の議会対大統領の確執の延長上にある。現在のトランプ政権もこの延長上で、1月のイエメンでのアルカイダ掃討作戦や、イラクのモスルでの「イスラム国」掃討作戦を行っている。核ミサイル能力を高め、国際社会への挑発を続ける北朝鮮への米国の武力行使の可能性が囁かれる現在、大統領の戦争権限をめぐる議論は、ふたたび注目を浴びることになるかもしれない。

オバマ大統領と議会の戦争権限をめぐる確執の経緯

 

   オバマ政権は、2014年8月に開始したイラクおよびシリアでのISILへの有志連合との空爆の法的根拠について、既存の法律である2001年と2002年の議会によるブッシュ政権のアフガニスタンとイラクでの戦争権限への承認としていた。しかし空爆の際、1973年の戦争権限法に基づいて議会からの承認を得なかったことは批判された。

 

   1973年の戦争権限法というのは、同年の両院合同決議でアメリカ大統領の指揮権に制約を課した法律である。ベトナム戦争の反省から、議会の多数が支持し、ニクソン大統領の拒否権行使にもかかわらず、両院の三分の二以上の賛成による再可決により成立した。軍事力行使後48時間以内の議会への報告の義務や60日以内に議会からの承認がなければ軍を撤退させなければならない、という内容だ。これは日本の1999年の周辺事態法や2015年の平和安全法制などにおける国会の関与についての参考例ともなっており、日本人にもなじみがある法律だ。

 

   2014年11月に行われた中間選挙で、上下院ともに与党の民主党が惨敗し、共和党が議会で多数を取った後、オバマ大統領は、記者会見で議会から新たな戦争権限を得たいという意向を明らかにした。「これまでの戦闘ではなく、現在の戦闘に見合うような規模と内容を議会から承認を得ることが念頭にある」と発言している。[1]

 

   具体的にオバマ大統領が議会に求めているのはAUMF (Authorization for the Use of Military Force request, 軍事力行使のための権限要求)というもので、「ISILへの米国軍の使用についての限定的な権限の承認」を求めるものだ。[2]しかし議会はその後も、オバマ政権に軍事力行使の承認を与えていない。オバマ政権も議会の承認がなくとも空爆作戦を継続した。

 

   2015年4月には共和党のボブ・コーカー上院外交委員長は、「もし軍事作戦が成功するようなものであれば、オバマ政権と対話を始めたい」というそれなりに前向きなコメントを行った。しかし、大統領のAUMF承認をめぐり政治対立が起こり、ISIL対策で国家が分裂していると思われるようなプロセスは避けるべきだとも発言している。

 

   2015年2月11 日付のニューヨークタイムズの記事「Obama’s dual view of War Power seeks limits and leeway」(オバマの戦争権限に対する二重姿勢は制約と同時に隙間を狙うものだ)という記事は、オバマ政権の戦争権限への際どい方策を的確に指摘している。[3]

 

   オバマ大統領は過去半年あまりのISILへの軍事行動について、これまでの政権が行わなかったようなことをしてきた。オバマ大統領は議会に対しては、大統領の国外での戦争の権限を制限するように求めている。その内容は米軍の空爆などを3年の期限をつけて承認するように求めている一方で、特殊作戦は例外扱いを要求している。それにより、オバマ政権は、現在の空爆を行う権限の根拠として挙げている2002年のブッシュ政権時の戦争権限の承認を廃案にすることができる。一方で、オバマ政権は2001年のブッシュ政権によるアルカイダと関係するテロリストへのグローバルな戦争の承認については、まだ適用させる余地を残している。

 

   このオバマ政権の提案について、軍事作戦を支持する共和党議会は、「ISILへの戦争に多くの制限をつける提案」として批判的だ。一方で、民主党議会のリベラル派からは、2001年の戦争権限が残ることと、オバマ政権の文言の弾力性を考慮すると、政権は実質的には戦争権限行使の制限を受けない、と批判的だ。

議会の中にも戦争権限の合意はない

   議会は、オバマ政権が新しい承認を示唆しているのにも関わらず、政権の軍事行動に新しい議会決議を与えようとしていないため、メディアからは批判された。ミッチ・マコネル共和党上院院内総務は「オバマ大統領は明確な戦略を持っていないので承認を与えるわけにはいかない」と説明。一方で、ISISへの戦闘に積極的なジョン・マケイン上院議員(共和党)とティム・ケーン上院議員(民主党)は、議会はこの件を積極的に議論すべきだとしている。要は議会内でもコンセンサスが得られていないのだ。

 

   オバマ大統領は、2016年1月の一般教書演説でも議会に対して、以下のようなISILへのシリアとイラクでの戦闘に対して、戦争権限の承認を求めている。

 

   もし議会がこの戦争に勝とうと本気で考え、我々の軍隊と世界にメッセージを送るのであれば、ISILへの軍事力の行使を最終的に承認すべきだ。投票してほしい。

 

   この演説への議員の反応は、大きな拍手もなく、きわめて冷淡なものだった。しかし、だからといって、共和党議会が、オバマ政権のISILへの戦争権限を積極的に邪魔しているわけではない。オバマ大統領は,議会が一枚岩ではないことを理解しながら、巧妙な綱渡りをしているようだ。

 

   政治学者のアンドリュー・ルダルビジェ(Andrew Rudalevige) によれば、1973年の戦争権限法は政権に対して、米軍を敵対的な地域に送る際には議会の承認を義務付けている。一方で歴代の政権は戦争権限法を憲法違反だとして実質的に無視してきた。しかしオバマ政権は、戦争権限法に沿うような形を模索する一方で、その法律からの制限をうまくかわしてきているとそのユニークさを指摘する。[4]

 

   例えば、2011年のリビアへの空爆の際は、オバマ大統領は、リビアは「敵対的な地域」という要件を満たさないので戦争権限法は当てはまらないと議論した。2013年にシリア政府に対して化学兵器を使用した際には空爆をすると警告していたが、その軍事行動に議会の承認はいらない、と発言する一方で、空爆を決定する際にはその決定をあえて議会に諮っている。(結局、空爆を行わなかった)また、ISILへの空爆やシリアへの特殊部隊の覇権は、ブッシュ政権での議会承認がまだ有効という姿勢をとっている。

 

   これに対して異議を唱える訴訟も起こっている。オバマ政権のISILへの戦闘は、議会が承認していないため、違法であるという訴えが陸軍軍人から起こされている。ルダルビジェは、これらの問題は法廷闘争に陥るべきものではなく、議会が2001年の承認が現在の情勢にも必要なのかどうかを判断して、承認を与えるべきだと主張している。

歴史的な経緯からみたオバマ大統領の戦争権限解釈についての考察

   理論的にはルダルビジェの提案が最もクリアなはずだが議会は動いていない。前出のニューヨークタイムズの分析記事は、オバマ大統領の戦争権限の(大統領と議会の)境界を定めようという努力は、逃げ道は作ってあるにせよ、これまでの戦争権限をめぐる歴史の重みを背負っているものだと指摘し、明確な解決の難しさを示唆する。 [5]

 

   例えば、ハリー・トルーマン大統領は議会の宣戦布告を求めずに朝鮮半島に軍隊を送った。(その根拠は国連憲章と安保理決議)リンドン・ジョンソン大統領は、ベトナムでのトンキン湾決議でタイム・リミットを設けなかったため、本格的にベトナムに介入することになり泥沼に陥った。ビル・クリントン大統領はコソボ空爆を議会の承認なしに遂行した。(根拠はNATOの履行義務と人道的要請)ジョージ・HW・ブッシュ ジョージ・W・ブッシュ どちらの大統領のイラクでの戦争も、承認された権限以上の戦闘をした。(ただし、一応、議会は承認している)

 

   ベトナム戦争の反省から生まれた1973年の戦争権限法だが、ベトナム戦争の前も後も、民主・共和のどちらの政権も、議会からの大統領戦争権限への制約を否定してきているのが米国の歴史なのである。

 

   こうしてみてみると、オバマ政権の戦争権限拡大のケースは、他のケース(移民法、気候変動)などの「オバマ政権独自の大統領権限拡大」という例とは異なり、過去の歴代政権も行ってきた戦争権限をめぐる議会対大統領という構図の延長上にあることがわかる。特に、議会が神学論争に陥って、米国の戦争あるいは軍事力遂行能力に不要な足かせをかけて、米国の安全保障上の優位性や信頼性を損なわないように、厳密な判断を避けている、という構図は、過去のケースにも通じるものではある。

 

   唯一、今回のオバマ政権が過去のケースと違う点は、オバマ政権はポーズにしても、自らの戦争権限に一定の歯止めをかけるという内容を入れて、議会からの承認をとろうとしていることだろう。ここには、憲法学者としてのオバマ大統領の思いがあるのかもしれない。また、共和党議会とオバマ大統領との対立がきわめて大きくなり、議会とオバマ政権のスムーズな意思疎通ができなくなってきているという党派対立の激化という背景も影響しているだろう。

 

   疑問が残る部分は、オバマ大統領は他の政策でも大統領権限の拡大という態度をとっているが、それがどの程度、議会との戦争権限をめぐる態度に影響を与えているのか、という部分だ。今後の検証が待たれる。

 

   またオバマ大統領は、地上兵力派遣にはハードルを上げているが、ドローンによる爆撃やサイバー戦にはより多くの予算を投入している。今後、このような戦闘の形態の変化が、大統領および議会の戦争権限についての態度にどのような影響を与えていくのだろうか? 大規模な地上兵力派遣を伴うイラク戦争のような主権国家同士の戦争ではない対テロ戦争という形態だからこそ、議会も戦争権限の問題を大きく政治問題化させていないのかもしれない。

 

   オバマ政権以上に大統領の権限を使用してきているトランプ政権では、戦争権限をめぐる大統領と議会の綱引きが、どのような展開をなるのか、大いに注目される。

 

[1]Obama to seek new authorization for fight against Islamic State,” November 5, 2014, The Washington Post,   

[2] オバマ大統領から議会に戦争権限を求める書簡のテキストは、適宜、ホワイトハウスに掲載されている。例えば、以下のリンクは2016年10月14日の書簡。

[3] Peter Baker, “Obama’s dual view of War Power seeks limits and leeway,” February 11, 2015, The New York Times,

[4] Andrew Rudalevige, “Is the war against the Islamic State illegal? A new lawsuit should prompt Congress to decide, May 11, 2016, The Washington Post

[5] Peter Baker, 前掲書。