タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/11/15

アメリカ大統領権限分析プロジェクト:トランプ政権と州司法長官の対立――入国禁止令を事例に

梅川葉菜(駒澤大学専任講師)

はじめに

 筆者はこれまで、東京財団アメリカ大統領権限分析プロジェクトの二つの拙稿(2016年11月付の「オバマ大統領による政策実現を阻む州司法長官」[i]及び2017年3月付の「トランプ大統領による政策実現を阻む州司法長官」[ii])にて、とりわけオバマ政権以降、州司法長官が大統領の政策実現に対抗する主体として台頭してきていること、そしてそうした傾向が今後も継受されうることを指摘した。

 2017年10月末日までのトランプ政権を観察する限り、こうした傾向は維持されているどころか、アメリカ政治を理解する上で欠かせない着眼点にすらなっている。現在までに、州司法長官たちによる大統領への挑戦がしばしば政治的に非常に注目を集め、また実際に幾度となく大統領の政策実現の阻止に結びついているからである。トランプ大統領による3度にわたる入国禁止令や環境保護関連法の義務の履行の延期[iii]に対する訴訟は、州司法長官が勝利した事例である。現在、係争中のものとしては、トランプ大統領による国境の壁建設[iv]、不法移民への寛容な政策(DACA)の廃止[v]、オバマケアに基づく低所得者向けの医療補助金の支出停止[vi]、悪質な営利目的の大学から多額の学生ローンを負わされた学生を救済する措置の実施の延期[vii]に対する訴訟などが挙げられる。

 そこで本稿では、2017年10月末日までのトランプ政権と州司法長官との間の争いについて、特に入国禁止令に焦点を当てて概観したい。経緯を全て紹介すると煩雑になるため、重要なものに留めることとする。

(1)入国禁止令1.0

 現在までに、トランプ大統領は3回も入国禁止令を出している。2017年1月27日の行政命令 (executive order) 13769号[viii]、3月6日の行政命令13780号[ix]、そして9月24日の大統領布告(presidential proclamation)[x]である。現在、アメリカではこれらの入国禁止令は、順に「入国禁止令1.0」、「入国禁止令2.0」、「入国禁止令3.0」などと呼称されている。

 なお、入国禁止令3.0は他の入国禁止令とは若干違うことに注意したい。入国禁止令1.0と入国禁止令2.0は、特定国の国籍を有する人物の入国の一時停止だけでなく、世界中からの難民の受け入れの一時停止も含むものであった。それに対し、入国禁止令3.0は難民については扱わず、特定国の国籍を有する人物の入国の一時停止のみが意図されていた。難民の受け入れについては、別に、10月24日に行政命令13815号[xi]が出され、入国禁止令2.0の下での難民の受け入れの停止措置のほとんどが解除される一方で、より厳格な審査手続きが導入されることとなった。

 以上の点に注意を払いつつ、入国禁止令のこれまでの経緯を整理する。既にこれまでの拙稿の中で入国禁止令1.0と入国禁止令2.0の途中経過までは述べているが、分かりやすさのため、入国禁止令1.0から改めて経緯を説明したい。

 1月27日の入国禁止令1.0は、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国のいずれかの国籍を持つ人物の入国を90日間禁じ、また難民の受け入れを120日間停止し、それからシリア難民の受け入れに関しては無期限停止するというものであった。署名後にすぐさま適用されたこともあり、混乱は全米だけでなく世界全体へと波及した。

 これに対し、民主党所属の州司法長官たちを中心とする17もの州とワシントンD.C.が、宗教差別であり合衆国憲法に反するとして訴訟に乗り出した。入国禁止令1.0の署名から僅か1週間後の2月3日、シアトルの連邦地方裁判所は、この行政命令の執行の一時差し止めの判断を下した[xii]。さらに2月9日、トランプ政権の上訴を受けた第9巡回区控訴裁判所は、7か国のいずれかの国籍を持つ人物がアメリカの国益を損なわせることを示すのに十分な証拠がないなどとして、同様に執行の一時差し止めの判断を下した[xiii]

(2)入国禁止令2.0

 3月6日、大統領は差し止められた行政命令と類似する入国禁止令2.0を出した。これは、前回の入国禁止令1.0で対象となった7か国のうちイラクを除いた、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの6か国のいずれかの国籍を持つ人物の入国を90日間禁じ、また難民の受け入れを120日間停止するものであった。前回の行政命令で生じた混乱を踏まえたからか、適用は署名から10日後の3月16日からとされた。

 新たな行政命令に対しても、前回の行政命令の経過をなぞるように、民主党所属の州司法長官たちが、再び阻止を目指して動き出した。入国禁止令2.0が適用される前日の3月15日、ハワイ州の連邦地方裁判所は、この行政命令がイスラム教徒に対する差別を意図したものであると述べた上で、新たな行政命令の執行の一時差し止めを命じた[xiv]。3月29日には、新たな裁判所の判断までの無期限の執行の差し止めを命じた[xv]

 もちろん、入国禁止令2.0をめぐる法廷闘争では、必ずしも常にトランプ政権が敗北し続けたわけではなかった。6月26日、裁判所による執行停止の判断を不服としてトランプ政権が訴えた裁判で合衆国最高裁判所は、入国禁止措置の一部執行を認める判断を示した[xvi]。アメリカと「真正な関係(bona fide relationship)」を持たない人物が入国禁止の対象とされ、3日後の29日、ようやく入国禁止令2.0が部分的に実施された。「真正な関係」の具体的な内容についてまでは裁判所が言及していなかったため、トランプ政権は独自に「真正な関係」者を限定的に解釈することで、事実上、多数の人々の入国を禁止しようとした。すなわち、両親、配偶者、婚約者、子ども、子どもの配偶者、きょうだいなどは真正な関係者と認める一方で、祖父母や孫、おじ、おば、甥、姪などを認めない形で運用を開始したのだった[xvii]。ただし、7月と9月の裁判所の判断によって、トランプ政権が限定していた「真正な関係」の対象範囲が広げられ、上記で排除された近親者も「真正な関係」があると認められた[xviii]

(3)入国禁止令3.0

 9月24日、入国禁止令2.0が定めている90日間という入国禁止措置の期限を迎え、トランプ大統領は入国禁止令3.0を出した。これは、前回の入国禁止令2.0で入国を禁じていた国々のうちスーダンを除くイラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメンに対する規制は継続し、新たにチャド、北朝鮮を加えた計7か国のいずれか国籍を持つ人物と、ベネズエラの一部の政府職員の入国を禁止するものであった。この措置も前回と同様に適用までの猶予期間が設けられ、10月18日に適用されることになっていた。

 ところが、この措置に対しても州司法長官によって訴訟が提起された。入国禁止令3.0が実施される前日の17日、ハワイの連邦地方裁判所は、イラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメン、チャドの6か国のいずれかの国籍を持つ人物がアメリカの国益を損なわせることを示すのに十分な証拠がないなどとして執行を差し止めた[xix]。ちなみに裁判所は、北朝鮮やベネズエラに対する措置は差し止めなかった。本件は2017年10月末現在、係争中である。

(4)難民の受け入れ停止措置のほとんどの終了

 10月24日、入国禁止令2.0が定めている120日間という難民の受け入れ停止期間の期限を迎えるにあたって、トランプ大統領は、新たな行政命令13815号を出した。これは、難民の受け入れを再開すると同時に、審査手続きを厳格化する措置であった。また、「一部の国」については、90日間の受け入れを停止するとともに、追加措置の判断のための更に厳格な審査をおこなうとした。その「一部の国」は非公表とされていたが、報道によれば11か国あり、また特別な事情があれば90日間よりも早くに受け入れられる可能性があるという[xx]

おわりに

 いずれの入国禁止令に対しても、州司法長官たちはすぐさま訴訟を提起し、これらの入国禁止令の多くの部分の執行の一時差し止めの判断を裁判所から勝ち取った。入国禁止令1.0が適用されてから10月末日までの9か月間のうち、3つの入国禁止令のいずれかが部分的にでも適用されていた期間は僅か3か月間ほどに過ぎない。しかも、「真正な関係」を持つ人物であれば、指定した6か国のいずれかの国籍を有する人物であっても入国が認められたのだった。

 3度目の州司法長官たちの勝利を受け、訴訟の主導的な立場の一人であるハワイ州司法長官ダグラス・チンは、「国籍や宗教に基づく差別であるトランプ大統領の入国禁止令を阻止したのはこれで3度目になる。今日は法の支配の勝利の日でもある」[xxi]と述べ、大統領の振る舞いが大統領に与えられた権限を踏み越えたものであると主張した。

 以上のように、入国禁止令をめぐる政治は、もはや州司法長官や裁判所の動向なしでは論じられないものになっている。今後も入国禁止令についてはもちろんのこと、他の政策分野についての州司法長官の動向にも注目していきたい。


[i] 梅川葉菜、『アメリカ大統領権限分析プロジェクト:オバマ大統領による政策実現を阻む州司法長官』<http://www.tkfd.or.jp/research/america/dpv5c2-1> (2017年10月30日)。

[ii] 梅川葉菜、『アメリカ大統領権限分析プロジェクト:トランプ大統領による政策実現を阻む州司法長官』<https://www.tkfd.or.jp/research/america/o9qitg#_edn1> (2017年10月30日)。

[iii] Devin Henry, “States Sue EPA over Ozone Rule Delay,” The Hill, August 1, 2017, <http://thehill.com/policy/energy-environment/344816-states-sue-epa-over-ozone-rule-delay >(2017年10月30日).

[iv] Patrick McGreevy and Jazmine Ulloa, “California Again Steps up to Trump, This Time to Stop the Border Wall,” Los Angeles Times, September 20, 2017, <http://www.latimes.com/politics/la-pol-ca-xavier-becerra-trump-wall-lawsuit-20170920-story.html>(2017年10月30日).

[v] Alexander Burns and Vivian Yeesept, “Democrats Begin Legal Assault on Trump’s Move to End ‘Dreamer’ Program,” New York Times, September 6, 2017, <https://www.nytimes.com/2017/09/06/us/daca-lawsuits-trump.html>(2017年10月30日).

[vi] Rachel Roubein, “18 States Sue over Trump-Halted ObamaCare Payments,” The Hill, October 13, 2017, <http://thehill.com/policy/healthcare/355360-15-states-sue-over-trump-halted-obamacare-payments>(2017年10月30日).

[vii] Danielle Douglas-Gabriel, “Attorneys General Sue DeVos Over Delay of Rule to Protect Students from Predatory Colleges,” Washington Post, July 6, 2017, <https://www.washingtonpost.com/news/grade-point/wp/2017/07/06/attorneys-general-sue-devos-over-delay-of-rule-to-protect-students-from-predatory-colleges/?utm_term=.ebc6a3e5b2b4>(2017年10月30日).

[viii] Donald J. Trump, “Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States,” February 1, 2017, Public Papers of the Presidents of the United States: Donald J. Trump, 2017, 8977-82.

[ix] Donald J. Trump, “Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States,” March 9, 2017, Public Papers of the Presidents of the United States: Donald J. Trump, 2017, 13209-19.

[x] The White House Office of the Press Secretary, “Presidential Proclamation Enhancing Vetting Capabilities and Processes for Detecting Attempted Entry Into the United States by Terrorists or Other Public-Safety Threats,” September 24, 2017, < https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/09/24/enhancing-vetting-capabilities-and-processes-detecting-attempted-entry >(2017年9月25日).

[xi] Donald J. Trump, “Resuming the United States Refugee Admissions Program With Enhanced Vetting Capabilities,” October 24, 2017, Public Papers of the Presidents of the United States: Donald J. Trump, 2017, 50055-8.

[xii] Temporary Restraining Order, Washington v. Trump, Case No. C17-0141JLR (W.D. Wash. Feb. 3, 2017), <http://agportal-s3bucket.s3.amazonaws.com/uploadedfiles/Another/News/Press_Releases/Washington%20v.%20Trump_Temporary%20Restraining%20Order.pdf>(2017年10月20日).

[xiii] Per Curiam Order, Washington v. Trump, No. 17-35105 (9th Cir. Feb. 9, 2017), <https://cdn.ca9.uscourts.gov/datastore/opinions/2017/02/09/17-35105.pdf>(2017年10月20日).

[xiv] Order Granting Motion for Temporary Restraining Order, Hawaii v. Trump, No. 17-00050 DKW-KSC (D. Haw. Mar. 15, 2017), <https://cases.justia.com/federal/district-courts/hawaii/hidce/1:2017cv00050/132721/219/0.pdf>(2017年10月20日).

[xv] Order Granting Motion to Convert Temporary Restraining Order to a Preliminary Injunction, Hawaii v. Trump, No. 17-00050 DKW-KSC (D. Haw. Mar. 29, 2017), <https://docs.justia.com/cases/federal/district-courts/hawaii/hidce/1:2017cv00050/132721/270>(2017年10月20日).

[xvi] Per Curiam, Trump v. IRAC et al., 582 U.S. ___ (2017), <https://www.supremecourt.gov/opinions/16pdf/16-1436_l6hc.pdf>(2017年10月20日).

[xvii] Department of Homeland Security, “Frequently Asked Questions on Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States,” June 29, 2017, <https://www.dhs.gov/news/2017/06/29/frequently-asked-questions-protecting-nation-foreign-terrorist-entry-united-states-0>(2017年10月20日).

[xviii] Order in Pending Case, Trump v. Hawaii, 16-1540 (July 19, 2017), <https://www.supremecourt.gov/orders/courtorders/071917zr_o7jp.pdf>(2017年10月20日); Opinion, Hawaii v. Trump, No. 17-00050 DKW-KSC (9th Cir. Sep. 7, 2017), <http://cdn.ca9.uscourts.gov/datastore/opinions/2017/09/07/17-16426.pdf>(2017年10月20日).

[xix] Order Granting Motion for Temporary Restraining Order, Hawaii v. Trump, No. 17-00050 DKW-KSC (D. Haw. Oct. 17, 2017), <https://ag.hawaii.gov/wp-content/uploads/2017/01/News-Release-2017-140.pdf>(2017年10月20日).

[xx] Peter Baker and Adam Liptak, “U.S. Resumes Taking in Refugees, but 11 Countries Face More,” New York Times, October 24, 2017, <https://www.nytimes.com/2017/10/24/us/politics/trump-lifts-refugee-suspension.html?_r=0>(2017年10月30日).

[xxi] Department of the Attorney General of Hawaii, “Hawaii Blocks Third Trump Travel Ban,” October 17, 2017.