タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/5/4

ワシントンUPDATE 米国はシリアから撤退するか

ポール・J・サンダース

センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事

 

トランプ大統領がシリアの化学兵器施設を標的にしたミサイル攻撃を実行した。しかし、この決断は米国の同盟国や米外交政策主流派の一部に存在する、トランプ氏が米国は「シリアから出ていく、すぐにだ」という3月の撤退発言を実行するのではという懸念をほとんどぬぐい去りはしなかった。

[https://www.politico.com/story/2018/03/29/trump-syria-military-isis-491856?cmpid=sf]

このことから次に起きるかもしれないことについてのいくつかの重要な疑問が生まれる。

トランプ大統領の真意は?

最初の疑問はもちろん、「シリアから出る」が意味するもの、さらに言えば「すぐに」が意味するものだ。どちらの表現も特にはっきりしない。しかし、文脈や大統領の過去のコメントから考えれば、それは「米軍の戦闘からの撤退」と「米国の要員たちを必要以上のリスクにさらさず出来るだけ迅速に」を意味すると当然推定される。トランプ氏を批判する人びとは彼の言葉を、確実にこのように解釈するように思える。しかし、ワシントンが(例えば、反アサド大統領派の勢力に武器を与えることによって)戦争での役割を維持するか、あるいは(軍事的役割なしでより強硬に、しかし超大国にとって決して不可能でない)外交的役割を追求するのかどうかはわからない。

 

第2の疑問は大統領の発言には好みや信念、決意が反映されているかどうかである。側近や上級将校は大統領の心を変えることができるだろうか。トランプ氏の他の問題に関する過去のふらつきーたとえば環太平洋経済連携協定(TPP)復帰検討という新たな意向らしきもの

[https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-02-28/mnuchin-says-trump-willing-to-negotiate-u-s-return-to-tpp]——を考えるとどんな行動方針への言質も評価が難しい。これは好都合でもあり不都合でもある。予測不能性はある状況では利点であり得るが、別の状況では問題が生じる。そして多くの場合両方が同時に起きる。

 

トランプ大統領の発言をめぐるほとんどの論評は、第3番目の疑問に集中している。すなわち、もし米国が紛争に軍事的関与をしないなら、シリアで何が起きるかである。理由は違うが、これまたはっきりしない。それは他の政府の出方によって決まる。特にバッシャール・アサド大統領に反対する勢力を支援してきた中東の国々である。彼らはどのように反応するか?

米国のパートナーはシリアで今以上のことができるか

おおまかに言って、ふたつの選択肢が存在する。第1は、シリアでの結果に大きな責任を取り、一層の努力をし、強力な交渉の立場の確立を視野にアサド政権の勢いを止める努力をすることである。とりわけ彼らに覚悟があれば、さらにはシリアの現体制に有利な現在の動きを逆転させることができるかもしれない。一方で、これはイランとロシアから現体制へのさらに強力な外部支援を誘発するかもしれないが。

 

どちらにしても、このアプローチは戦争を長引かせ、シリアの人々にとってすでに苛酷になっている人的、物的損害を増大させるであろう。しかし、もし反アサドの地方勢力がワシントンは軍事だけでなく政治的にも手を引いたと考えるのなら、このアプローチは紛争解決や紛争後のシリアに影響力を与えることのできる唯一の進路かもしれない。あるいは、トランプ大統領が武器や政治的影響力の面で支援する用意があるのなら、米国にとっては現在よりも安いコストで、アサド大統領にかなりの制約を与えるなどの交渉結果を生み出すかもしれない。「責任分担」の選択は、米国の同盟国やパートナーが既存の国際体制の維持費用をもっと多くを負担するのを期待するトランプ氏の要求を反映するものだ。

 

同盟国政府の第2の選択肢はトランプ政権の後を追い、7年間のシリア内戦から手を引くことである。ここでの重要な考察は、これらの政府がどの程度、目に見える米国の軍事的関与なしに、自らの作戦の維持だけでなく拡大もできると考えているかである。これには軍事的な構成要素(能力)と政治的構成要素(世論の支持を含む決意)がある。現在行われているワシントンの非戦闘支援(たとえば機密情報提供)もこの計算のもう一つの重要な要因になるだろう。

ロシアとイランはシリアで何を「勝ち取る」?

多くの人はあり得ないと考えるが、そのような努力がない場合に、米国の観測筋のほとんどは、ロシア、イラン、トルコの3国がアサド氏の権力掌握を承認し、維持するという政治的解決を取り決めることを恐れている。これは多分、戦争が早く終わることを意味するが、本国に残るシリア人たちは、さらに続くアサドの残虐な支配と荒廃した国で進む人道危機にほぼ確実にさらされるだろう。

 

しかし、ロシアとイランの軍事的勝利後に続く、アサド氏が権力を維持した政治的解決は長く続かないかもしれない。米議会も欧州各国の議会も、バッシャール・アル・アサド氏が変わらず率いるシリアの再建への財政支援に多分賛成票を投じないだろう。アジアと中東の米同盟国のほとんども、特にワシントンがそのような援助をやめさせようとするならば、おそらくそうした支援の手を差し伸べたいとは思わないだろう。ワシントンとそのパートナーたちは結束を固めて、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった西側が支配する国際機関からの支援を阻止できるだろう。さらに言えば、中国も商業的な取引条件以外のものに対して意味ある支援をすることはあり得ないと思われる。

 

このことからさらなる疑問が生じる。経済が停滞するロシアが、ロシア国民が自分たちの国に新たな社会的、物的インフラを渇望している時に、シリアに病院や学校、道路を再建するために何十億ドルも使うだろうか。そのような再建計画にかかるコストは、せっかく小規模で効果的な軍事介入をしたというのに、それをたいしたものでなかったかのようにしてしまうだろう。同じことは、経済的困難に直面しているのに、国内のニーズよりもシリアの内戦に金をつぎ込むことをいとわない指導者に国民が不満を持っているイランにも言える。

[https://www.wsj.com/articles/irans-spending-on-foreign-proxies-raises-protesters-ire-1514920398]

モスクワとテヘランがシリアにかなりの投資をできない、あるいはしたがらないのなら、戦闘が再開する可能性が高い。あるいはまた、シリアのエリート層がアサド大統領は政治的安定というよりむしろ経済破綻の支援者であるとの結論を下すなら、大統領は前例のない退陣圧力に直面するかもしれない。そのとき、米国や他の志を同じくする政府はシリアの将来にとてつもない影響力を持つかもしれない。

 

実際トランプ政権は、シリアの将来に横たわるかもしれない事態を徹底的に説明することで、現段階でも多くの人々が考えるよりも大きな影響力を持つことができるかもしれない。ワシントンは軍事的な勝利の後、安定を回復するために必要とするものについて大部分の国よりも多くの経験を有している。米国が学んできたことは、大規模な戦闘が今も進行する中で、思っている以上にずっとやりがいがのあるものだ。ロシアとイランは同じ様な経験をどれだけ学びたがるだろうか。

 

 オリジナル原稿(英文)はこちら


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