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「現代アメリカ政治研究プロジェクト」第1回研究会報告

June 7, 2007

東京財団「現代アメリカ政治研究プロジェクト」
第一回研究会 議事録

開催日時:2007年4月27日(19:00~21:00)
開催場所:東京財団A会議室
参加者:
・全体統括者
北岡伸一(東京財団主任研究員)
・プロジェクトリーダー
久保文明(東京大学法学部教授)
・報告者
中村克彦(アジアフォーラム・ジャパン主任研究員)
細野豊樹(共立女子大学国際学部教授)
他メンバーの参加

1 プロジェクトの概要

東京財団が主催する、「現代アメリカ政治研究プロジェクト」の第一回会合が、4月27日の午後7時から、東京財団A会議室(日本財団ビル三階)にて開催された。本プロジェクトは、東京財団の主任研究員であり、東京大学教授の北岡伸一氏が統括する「外交・安全保障研究プログラム」の、五つのプロジェクトのうちの一つである(他に、安全保障研究プロジェクト、国連研究プロジェクト、政治外交検証プロジェクト、アジア研究プロジェクトの四つが存在する)。このプログラムは、現在、日本版NSCの設立など、先見性を持った総合的な外交政策の必要性がますます高まっているなかで、日本にとって重要な分野や地域についての知識と人材を蓄積し、外交・安全保障の知的基盤を拡充することを目的としている。そして、政府による日本版NSC設立の動きとは別に、民間レベルでも、外交・安全保障分野における戦略的知的集団の確立を目指そうとするものである。
このうち、本「現代アメリカ政治研究プロジェクト」は、日本にとって最重要国のひとつであるアメリカ合衆国の現代政治について、研究することを目的としている。プロジェクトの基本的な狙いは、アメリカの内政・外交に関する最新の情報を収集し分析を行うとともに、それを内外に積極的に発信していく点にある。プロジェクト・メンバーは、アメリカ政治の現場を詳細に分析している気鋭の研究者や専門家から構成され、年に6~10回のペースで研究会を開催し、メンバーや講師の報告をもとに、現代アメリカ政治についての理解を深める。毎研究会の報告は、適宜ウェブやニューズレターのかたちで外部に発信していくとともに、年度末には報告書をまとめ、随時政策提言も行っていく。そして最終的には、一定の研究成果が蓄積された段階で、それを新書などの形で公刊することを予定している。

2 第一回研究会の目的

4月27日は、プロジェクトが開催する研究会の第一回目の会合であった。初回であるため、まずプロジェクトについての全体的な説明が行われた。最初に、主任研究員の北岡伸一氏が「外交・安全保障研究プログラム」の全体像について概観したあとで、プロジェクトリーダーである久保文明氏(東京大学)のほうから、具体的なプロジェクトの内容や進め方についての説明があった。そしてメンバーの間で簡単な自己紹介が行われたあとで、細野豊樹、中村克彦両氏による報告が行われた。
第一回研究会のテーマはともに選挙についてであり、具体的には、前回2006年度中間選挙結果についての総括と、次期2008年大統領選挙に向けた政治資金面での動向のふたつが、取り上げられた。第一回研究会においてこうしたテーマを取り上げたのは、2006年中間選挙および2008年大統領選挙は、現代アメリカ政治の重要な転換点として位置づけられるからである。周知のように、2006年の中間選挙において民主党は大勝し、上下院で多数を占めた。これは、1994年以来の議会での共和党の優位体制が、大きな転換の兆しをみせはじめたことを意味する。それゆえ、中間選挙での結果を総括し、共和党がなぜ敗北し、民主党がなぜ勝利したのか、という点を理解する作業は、今後のアメリカ政治の動向を占う上で、きわめて重要である。
また、今後イラク戦争の泥沼化がさらに続けば、来る2008年大統領選挙においても、共和党は苦戦を強いられることが予想される。八年ぶりに民主党が大統領の座を奪還することも、十分ありえよう。そして次期大統領選挙の行方を考えるにあたって、まずもって重要なのが、予備選挙において民主、共和両党の候補者の誰が勝ちのこり、最終的な本選挙を戦うかという点である。この点を占う上で、各候補の選挙資金の動向を理解することは、不可欠といえる。現時点で、各政党の候補者が支持者からどの程度の資金を収集しているかを理解することは、今後の大統領選挙における候補者指名や、さらに本選挙での戦いを占う上でも、無視できないからである。またそもそも、このプロジェクトの早い段階で、さまざまな政治資金上の規則を適切に認識しておくことは、きわめて肝要である。
第一回研究会のテーマを、2006年中間選挙の総括と、2008年大統領選挙に向けた政治資金の動向という、二つに据えた理由は、以上の点にある。

3 報告1:細野豊樹氏「2006年中間選挙における共和党の敗因」

最初に細野豊樹氏(共立女子大学)が、「2006年中間選挙における共和党の敗因」という題目で、報告を行った。2006年11月に行われた中間選挙において、民主党は上院で45から51へ、下院では200から233へ、大幅に議席を伸ばす一方で、共和党はそれぞれ、55から49、224から202へと議席を減らし敗北した。とりわけ、北東部と中西部では、共和党の現職議員が、大量に落選する事態が生じた。細野氏の報告は、なぜ中間選挙において共和党が敗北したのかという点について、分析したものだった。当初選挙は、高い現職議員の再選率、有利な選挙区の区割り、minority-majority districtの増加、巧みな選挙戦術などの構造的な優位から、共和党に有利であるとみられてきた。しかし、最終的に共和党が敗北を喫したのは、全米レベルで同党に対する逆風が吹き荒れたからである。こうした逆風の背景には、共和党内のスキャンダルの連鎖、ブッシュの支持率低下を背景とする共和党内の造反、キリスト教保守派の支持獲得のための露骨なパフォーマンスの失敗、ブッシュの不法移民対策に対する共和党内の反発やヒスパニック層の離反など、様々な要因が存在した。しかし最も重要なのは、対イラク戦争の泥沼化によって、支持政党なし層が大量に離反した点である。実際、世論調査などでも、対イラク戦争への支持が大幅に減少する一方で、対イラク戦争はテロ対策ではないと考える人々が増加している。このように対イラク戦争(そしてスキャンダル)によって、支持政党なし層が大量に離反したことが、今回の中間選挙での共和党敗北の最大の要因であった。細野氏は、この離反した支持政党なし層を奪回しなければ、2008年選挙でも共和党は苦しい戦いを迫られるであろうと指摘し、キリスト教保守派が大きな影響力を持つ共和党の大統領予備選挙で、現在穏健派のジュリアーニが首位を走っている背景には、こうした支持政党なし層の支持を奪還するという戦略的な意図が存在するのではないか、と指摘した。

4 報告2:中村克彦氏「米政治資金動向:2008年大統領選挙に向けて」

次に、中村克彦氏(アジアフォーラムジャパン)が、「米政治資金動向:2008年大統領選挙に向けて」と題する報告を行った。まず報告では、大統領選挙における、公費助成の動向に焦点が当てられた。アメリカでは、有権者の税金を財源に、大統領選挙候補者に対して公費助成を行う制度が存在している。2004年大統領選挙では、共和党のブッシュ、民主党のケリーともに予備選挙は自前の資金で戦い、本選挙では、公費助成を受け取った。現在、民主党の大統領選挙候補のひとりであるヒラリー・クリントンは、予備選、本選挙ともに、公費助成を受け取らないと表明しており、これが現実のものとなれば、公費を全く受け取らない初めての大統領選候補となる。オバマ、エドワーズなど、他の民主党有力候補も、公費を受け取らない旨を表明しているが、オバマについては、候補者指名されれば本選挙では公費助成を受け取る可能性を示唆している。次に、2007年第1四半期における各大統領候補の資金集めの動向について、具体的な数字を交えた分析が行われた。現在、民主、共和両党の有力候補のうち、最も資金を集めているのは、民主党のヒラリーであり、次にオバマ、さらに共和党のロムニー、ジュリアーニ、民主党のエドワーズ、そして共和党のマケインという順番になっている。ただ予備選挙だけに限定すれば、ヒラリーよりも、ロムニーやオバマのほうが多額の資金を集めている。またいずれの候補も、政治活動委員会(PAC)からの献金はわずかであり、個人からの献金が圧倒的に多い。今後の展望としては、民主党の間では、既に限度額一杯に献金している支持者が多いヒラリーよりも、オバマのほうが資金を集める可能性が高いであろう、ヒラリーは支持の裾野の更なる拡大を迫られるだろう、といった指摘がなされた。ただ、財界でも、夫のビルではなくヒラリーの場合、「リベラルすぎる」として、献金を躊躇するケースも見られる。また、現在予備選挙を2月5日に前倒しすることが検討する州が増加していることによって、候補者の資金集めがさらに加速する可能性が高いこと、2002年に政党全国委員会のソフトマネーが禁止されたことによって、ハードマネーの比重が高まる一方で、政党全国委員会以外の組織によるソフトマネー利用はまだ存在し、その影響には依然、注意が必要、などの点が指摘された。

5 質疑応答

両氏の報告が行われたあと、他の参加メンバーとの間で質疑応答が行われた。
細野氏の報告については、支持政党なし層の共和党離れと民主党に対する支持は、今回の中間選挙だけの一過性の現象なのか、それとも今後も持続していくのか、共和党は団結力、資金力、動員力などの点で、1994年以来優位に立ってきたが、それは今度の選挙を機に変化するのか否か、共和党敗北の要因としては、ブッシュ大統領だけでなく、財政規律を失い「ビッグ・スペンダー」になってしまった議会共和党への反発という要因も存在したのではないか、共和党は、自らの支持基盤を固めるだけでなく、支持政党なし層を奪回しなければ次期選挙にも苦戦を強いられるのか、といった点について、質問がなされた。
また中村氏には、収集した政治資金量は、実際に選挙結果にどのような影響を与えるのか、民主党と共和党の間の政治資金力の差は縮まっているのか否か、オバマは現在のところ、相当善戦していると考えてよいのか、ヒラリーは今後どのような資金収集戦略をとるのか、予備選挙が2月5日に早まることは、政治資金収集にいかなるインパクトを与えるのか、たとえば、宗教保守派の影響力の強い共和党の予備選挙にどのようなインパクトを与えるのか、ソフトマネーの廃止は、政治資金面での利益団体の役割に対して、どのような影響を及ぼしたのか、といった点について質問が寄せられた。最後に、現在戦費を含む補正予算をめぐって争われている民主党多数議会とブッシュ・ホワイトハウスの対決も、大統領選挙にさまざまな影響を及ぼすのではないか、とのコメントもなされた。

文責:天野拓

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    • 天野 拓
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