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現代アメリカプロジェクト 久保文明リーダー出張報告 : CPAPを中心に

February 13, 2008

2月7日から9日にかけてワシントンDCで開催されたCPACに出席した。保守政治行動会議(the Conservative Political Action Conference)は1974年に初めて開催され、今年は35回目となる。アメリカ保守同盟(the American Conservative Union)の主催であるが、保守系の多くの団体が共催者に名を連ねている(www.cpac.orgを参照)。今でこそ共和党内の主流派であるが、発足当初は中道穏健派が共和党を支配する中、少数派による対抗運動であった。主流派となったのはレーガン政権時代であると言ってよかろう。実はレーガン自身CPACと切っても切れない縁をもち、発足当初から頻繁にこの場で講演している。特に大統領在任中は毎年欠かさず講演した。
本年はG.W.ブッシュ政権下で最後のCPACとなるが、初めて正副大統領が揃って参加しただけでなく、マケイン、ロムニー、ハカビー、そしてポールと、すべての共和党大統領候補が登場して演説したことも今回の特徴であった。以下、参加したセッションの中から適宜選んでその概要を紹介したい。

2月7日午前11:00  ディック・チェイニー

これまで7年間のブッシュ政権の功績を強調し、称える演説であった。テロとの戦いでは攻勢を維持し、勝利することにコミットしていること、レーガン政権と本政権が証明したように、減税は経済に常にプラスであること、景気刺激策は時限的であること、ブッシュ減税を失効させてはならないこと、議会による選挙区向けの無駄な支出計画に対しては大統領が今度こそ拒否権を発動するであろうことなどを力説した。とくに副大統領が強調したのは、9-11事件後一度もアメリカに対するテロ攻撃がなされていないことであった。そして、イラクでの増派が成功していることを強く主張した。アメリカは “a nation of character”であり、“a good and decent country”であると述べると拍手喝采が起こった。
会場は副大統領登場のかなり前から満員であり、また演説は頻繁にstanding ovationによって中断された。全体として、チェイニー副大統領も、このCPACでは大変な人気であることが実感できた。
普通は、2期8年の任期満了時には副大統領が政権の維持を目指して立候補する。今回の大統領選挙は、まさに彼が立候補していないことが、重要な特徴となっている。(http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/02/20080207-11.html)

2月7日午後12:30 ミット・ロムニー

会場に向かうホテルのエレベーターの中で、CPAC参加者が、この場でロムニーが撤退を表明するとの噂があると述べていた。会場は、チェイニーの演説と同様、熱心な支持者・応援団ですでに満杯であった。
ロムニーの演説はアイオワ州のデモインで聞いて以来2回目である。テンポはよいが、あまり人を興奮させる演説ではない。ただ、この日は熱心な支持者からの拍手も多く、力が入っているように感じられた。自分こそが保守の中の保守であること、アメリカのみが戦争で勝ちながら領土を取らない唯一の国であること、機会こそがアメリカの特徴であり、依存の精神(dependency)が文化にとって有毒であること、選挙で選ばれていない判事が勝手に法律を作ることを阻止すべきこと、プーチンの人質にならないためにもエネルギーの自立を進める必要があること、エンタイトルメント支出(政府の社会保障給付、農業補助金など)を削減すること、そしてGDPの4%を軍事費に支出することなどを力説した。
さらにロムニーは、1976年のレーガン候補のように、共和党全国党大会まで戦うことができるとさえ述べた。しかし、76年と違い今は戦時であることに触れ、アメリカのため、そして共和党のために、撤退することを表明した。会場は演説で盛り上がっていただけに、まことに唐突な撤退表明に驚いた支持者から“No”の声が多数発せられた。
あっけない選挙戦の幕切れであった。意気阻喪した多くの支持者の顔が印象的であった。
(http://www.realclearpolitics.com/articles/2008/02/romneys_withdrawal_speech.html)

2月7日午後2:30 ジョン・マケイン

ロムニーの突然の撤退で、ますます公認候補としての地位を固めたマケインであるが、最大の焦点は、保守派からどの程度支持を獲得できるかである。マケインは2007年のCPACを欠席したことで保守派から批判された。これまでに環境保護政策、宗教保守への批判、マケイン=ファインゴールド選挙資金改革法と呼ばれる政治改革法への支持、ブッシュ減税への反対投票など、さまざまな政策で保守派と衝突してきた。近年はとくに不法移民政策できわめて感情的な対立を抱えている。
マケイン登場前に、ジョージ・アレン前上院議員が登場して、民主党は降伏の党であり、また無駄な支出の党であると批判した。本来、この政治家がACUなどの保守派の本命候補として期待されていた。2006年中間選挙以前に行われたCPACでは、彼が基調講演者に抜擢されていた。彼が同年11月の再選に失敗し、保守派の戦略がすべて水泡に帰した。
さらにオクラホマ州選出のトム・コバーン上院議員が登場してクリントンあるいはオバマ政権を絶対許してはならず、マケインを支持するように訴えた。
この後に登場したマケインは「レーガン革命の一兵卒」として長く保守政治家としての経歴を持っていることを強調した。24年間、pro-life(人工妊娠中絶反対)派としての記録を持つことも訴えた。マケインは党を統一し、保守派のエネルギーからの支援を受けないと11月に勝てないことを率直に認めた。
不法移民政策について触れた際には、一部からブーイングの声が上がった。ただ、日米の新聞で報道されているほどの大きなブーイングとは思えなかった。少なくとも会場全体から抗議の声が沸きあがった、とは言えない。一部の参加者が散発的な抗議の声を上げていたという印象の方が強い。CPACでしばしば見受けられるもっと強い反発の声よりは、かなり抑制された抗議であったようにも思われた。
ちなみに、マケインによる不法移民政策は、まずはともかく国境での監視を強化するというものであった。これには壁の建築も含まれるのであろう。
その上で、民主党との違いがいかに大きいか、今年の選挙がきわめて大きな違いをめぐる選挙になることを指摘した。項目別拒否権の復活、ブッシュ減税の延長、ロバーツあるいはアリートのような保守派判事の任命、強硬なテロ対策などがその柱であった。とくにイラクでは必ず勝利することを言明し、敗北は危険であることも指摘した。また、オバマもクリントンもイランによる核兵器開発への野心がもつ危険性について、十分認識していないと批判した。
全体として、当然ながら保守的であることを強調した演説であり、具体的な政策提案のリストにも保守派に対する融和のメッセージが多数含まれていた。また、信念に立脚した選挙戦を遂行することを表明した演説でもあった。ちなみに、この演説は、当面の景気対策などには全く触れなかった。
(http://www.johnmccain.com/Informing/News/PressReleases/b639ae8b-5a9f-41d5-88a7-874cbefa2c40.htm)

2月7日午後4:30 ロン・ポール

ロン・ポールが指名を獲得する可能性はまったくないと言ってよいが、徹底したリバタリアン思想の持ち主としての彼に対する支持は、実はかなり根強い。とくに資金調達力は抜群である。
ボブ・バー元下院議員によって紹介されたポールは、その思想、とくに個人の自由を中核とした思想を力強く語った。放漫財政を批判し、より厳密に憲法に立脚することを主張した。イラク撤退論に対しては、拍手とブーイングの両方が起きた。
ポールは、2月9日に行われたワシントン州の党員集会でも、まだ最終集計ではないが21%の支持を集めている。共和党の中でイラク反戦を貫きながら獲得したこの数字は、それなりに注目すべきであろう。
(http://jp.youtube.com/watch?v=-oaD9oM4xQo)

2月8日午前7:15 ジョージ・W・ブッシュ

当初午後に予定されていた大統領の演説は、竜巻に襲われたテネシー州訪問のため、この時間に変更された。朝5時からの受付開始であったが、新聞報道によるとすでに3時から並んだ人がいたようである。私が会場に入った6時過ぎにはすでにほぼ満席であった。移民政策、不十分な歳出削減、教育政策などでブッシュに批判的な保守派は多いが、実は大統領はCPACでは依然圧倒的な人気を誇る。共和党の予備選挙においても、彼を直接批判する候補がほとんどいないのも同様の理由からである。共和党員の間での支持率や人気は相変わらず高い。しかも共和党による来年の政権維持が微妙になる中で、2回の勝利をもたらしてくれたブッシュは、やはり重要な存在なのであろう。2000年の共和党候補者選びでも、彼は当初から保守派の本命であった。逆に、本年の選挙では、それに相当する、あるいは1980年のレーガンに相当するような保守の本命候補、勝利をもたらしてくれる可能性が高く、同時にさまざまな流れの保守派を糾合してくれる候補が当初から欠如していたことが特徴である。
ブッシュの演説は、まず減税、長期の経済成長、テロ対策などでの7年間の成果を強調した。アフガニスタンでは、少女が学校に通うことが可能になったと指摘した。イラク戦争は正しい決定であったし、今でも正しいと述べ、自由がもたらす世界を変容させる力も強調した。「アメリカは世界の導きの光である」。
マケインの名前こそ出さなかったが、2008年にホワイトハウスを維持することがいかに重要かを力説した。そして、協力して「われわれの原則を共有する大統領」をこの11月に選出しようと強く訴えた。
会場で聞いている限りでは、マケイン指名獲得を前提として、党の団結とマケイン勝利への協力を求めた演説であることは確実であった。
演説は圧倒的かつ熱狂的な支持の中で読み上げられ、きわめて頻繁に熱心な支持者によるstanding ovation によって中断された。世論調査ではすでに30%ぎりぎり程度の支持率しか持たないブッシュ大統領であるが、CPACにおいては英雄であった。
(http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/02/20080208.html)
ちなみに、10日に放送されたインタヴューでもブッシュは以下のように述べ、より立ち入ってマケインが保守であることを強調した。
If John is the nominee, he has got some convincing to do to convince people that he is a solid conservative, and I'll be glad to help him if he is the nominee," Bush said on "Fox News Sunday." "But he is a conservative. Look, he is very strong on national defense. He is tough fiscally. He believes the tax cuts ought to be permanent. He is pro-life. His principles are sound and solid, as far as I'm concerned."
(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/02/10/AR2008021002144.html?hpid=topnews)

2月8日午後7:30 ジョージ・ウィル(ロナルド・レーガン晩餐会にて)

ジョージ・ウィルの演説は深みがあり、興味深い内容であった。論点は一つ。マケインへの不信感を露にする多数のCPAC出席者に対して、彼を支持すべきであると訴えることであった。まず何よりも、マケインはルールに従って勝利したではないか。しかも、保守主義は、もはや少数派による異端の思想ではない。多数派の思想となっている。統治の責任もあるではないか。皆さんは、不法移民をすべてアメリカ社会から追い払うことが可能であると、本当に信じているのか。ウィルはCPAC参加者に対して冷静によく考えるように諭した。一部からはブーイングもあった。ただ、聴衆は、その迫力に気押されていたようにも感じられた。この演説も盛大な拍手で迎えられた。内容的にも出色の演説であったと思う。

2月9日午前9:00 マイク・ハカビー

ハカビーにも熱狂的な支持者がいる。彼らは1時間以上前から前列に陣取っていた。“No to McCain Amnesty”といったサインをもった活動家も目立った。やはりこだわっている人は多い。
アーカンソーのホープ出身の彼は、クリントンの名前こそ出さなかったが、“give us one more chance”と述べて会場から笑いを誘った。少年時代にはキリスト、エルヴィス、そしてFDRが英雄であったと自己紹介した。少年時代にフィリス・シュラフリーの本を譲り受け、熟読したことにも触れた。人工妊娠中絶への反対、国際組織に主権を譲り渡すことへの反対、軍事費をレーガン時代の水準にまで戻すこと、「イスラム・ファシズム」と断固戦うこと、国境の厳格な管理、所得税を廃止した公正な税制などがその政策である。この場で撤退を表明するとの噂があるようだが、と前置きしながら、それはありえないと強く否定した。現在の立場は、マケインが過半数の代議員を獲得するまで戦うということである。
ロムニーが撤退して、マケインとハカビーが一対一で対決した9日の党員集会・予備選挙では、カンザスとルイジアナでハカビーが完勝し、ワシントン州ではマケインが辛くも勝利した。このような結果に、これまでのマケインの勝利が、保守派候補の分裂と乱立に助けられていたこと、そして彼の基盤がやはり磐石でないことがよく示されている。(http://www.hucksarmy.com/videos/HuckCPAC2008.html)

さて、以下は晩餐会での会話の一部である。
ある参加者は、次のように述べた。2月12日のヴァージニアの予備選挙は党員でなくても投票できる。共和党はすでにマケインで決まりだ。むしろ民主党で投票してヒラリー・クリントンに一票を入れようと仲間と話している。共和党をまとめることができるのは、もはや彼女しかいない。
他の参加者も、「オバマは無党派の票をさらっていく、共和党にとって非常に危険な候補だ」と述べた。
「クリントンについて我々は十分に定義してきた。しかしオバマについてはまだできていないし、ネガティヴな部分がまだあまり見つかっていない。難しい相手である」と述べた参加者もいた。オバマが候補の場合、どのような選挙戦になるか、まったく想像がつかない、とのコメントもあった。いずれにせよ、オバマが持つ勢いと党派を超えたアピールに対する警戒心が強いようである。

閉会時に主催者であるアメリカ保守同盟会長デイヴィッド・キーンから、本年は6,800人の参加者があったことが報告された。

  • 研究分野・主な関心領域
    • アメリカ政治
    • アメリカ政治外交史
    • 現代アメリカの政党政治
    • 政策形成過程
    • 内政と外交の連関

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