タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/9/5

2008年民主党全国党大会をめぐる雑感  久保文明

全国党大会の機能

規則上は公認大統領候補の決定機関であるが、近年は予備選挙・党員集会を通じて、立候補者が獲得した代議員数が大会開催前におおよそ明らかになっているために、その機能も大きく変わってきた。全国党大会は、決定の場としてより、公認候補者を国民に紹介し、売り込む場として重要になっている。むろん、1968年の民主党、1976年の共和党のように、その場で決着がついた大会も存在する。ただ、最近ではそれは例外である。
ただ、本年の民主党の場合、バラク・オバマとヒラリー・クリントンがどちらも明確に過半数の代議員を獲得しないで大会に臨んでいれば、本番での決着なる可能性があった。その場合には、振り付け、宣伝のための大会とならなくなる。

全国党大会は周知のように、近年は通常4日間にわたって開催される。ABCニュースなどネットワーク・ニュースによる生中継は、最近、以前と比較すると格段に減ってきたといわれる。それでも、指名を獲得した大統領候補の指名受諾演説など、いくつかの重要行事は夜のプライムタイムに生中継される。一般のアメリカ人が大統領選挙に本格的な関心をもつのは、全国党大会からである。ここで初めて、大統領候補者をじっくり見、その演説を聞く。そういう有権者が多い。候補者にとってとくに重要なのは、一般有権者への「自己紹介」をすることである。政策だけでなく、生い立ち、家族、信条など、すなわち人生と自分の物語を国民に知ってもらう必要がある。有権者は、候補者がどのような人物であるかを知らないと、気持ちよく投票してくれない。

かくして、党大会はまさに選挙戦の一連の行事の中で、中核的な重要性をもたされているのである。

大会後の「バウンス」ないし「バンプ」

ちなみに、これまでの党大会の「実績」を振り返ってみよう。『ナショナル・ジャーナル』誌(2008年8月23日号30頁)によると、1964年以降の全国党大会後のバウンスの平均値は民主党の場合6.2%、共和党で5.3%である。2004年のジョン・ケリーの場合、マイナス1%であった。これは例外中の例外である。最近の顕著な成功例は1992年のクリントンであり、16%もの支持率上昇を獲得している(表1)。今回の党大会にあたって、オバマ、マケインともそれぞれできれば10%程度の、少なくとも4-5%前後の支持率上昇を実現したいところである。

(なお、党大会後の「バウンス」について、数字はやや違うがインターネット上の資料として以下のサイトが参考になる。http://blog.newsweek.com/blogs/stumper/archive/2008/08/20/expertinent-why-obama-needs-a-big-convention-bump.aspx)。

過去の失敗例

最近では1968年の民主党大会が失敗の典型例として挙げることができよう。抗議デモ、警察犬、催涙ガス、そして怒号の中、ヒューバート・ハンフリーが指名を勝ち取った。党の分裂は明らかであった。64年の共和党大会も、バリー・ゴールドウォーターとネルソン・ロックフェラーが激しく争った過去がある。76年もジェラルド・フォードとロナルド・レーガンが大会の場で争った。

そこまで行かなくても、党内の亀裂が露わになった例は案外多い。1980年の民主党大会では、保守旋回する現職カーター大統領に対し、リベラル派エドワード・ケネディ上院議員がリベラリズムの大義を掲げて党内路線の対立が顕在化した。1984年の民主党大会ではジェシー・ジャクソンが基調講演を行い、党内での黒人勢力の強さを印象付けた。88年も同様にジャクソンが演説を行い、また約29%の代議員を獲得した成果として、彼の周辺は副大統領候補に彼を指名するよう強く迫った。

当時、民主党について、黒人、労働組合、フェミニスト団体、同性愛者団体など、メインストリームからはずれた特殊利益団体の寄せ集めであるとの批判が寄せられていたが、84年ないし88年の大会は、そのようなイメージを払拭することに成功しなかったどころか、むしろそれを強化してしまった。ちなみに、1992年の選挙にあたっては、民主党全国委員長であったロン・ブラウン(ジャクソンと同じアフリカ系アメリカ人)がジャクソンに対し、立候補しないよう懸命に説得した。

共和党では、1992年の大会で、パット・ブキャナンが「文化戦争」という表現を使った演説を行い、不寛容な右派勢力の虜になっているという印象を同党に与えることになった。その結果、穏健派の票をクリントン陣営に追いやったと指摘される。96年にも、右派と穏健が、選挙綱領をめぐって激しく争った。

このように見てくると、左右の極端な勢力、あるいは「特殊利益団体」の突出を防いで、亀裂をうまく包み込み、党内外の幅広い層にアピールできるような党大会を行うことは実はそれほど容易でないことがわかる。

2008年民主党全国党大会(8月25日から28日)の課題

今回の民主党大会の課題は、何よりオバマ支持者とクリントン支持者の融和を図ることであったが、同時に支持率でやや伸び悩むオバマ候補を一般国民に「紹介」し、人物像の浸透を図ることも重要な目的であった。後者の点についていえば、強い関心を持つ有権者を別にすると、政治に強い関心をもたない多くの人々の間では、まだオバマをよく知らない人が多く、また彼がイスラム教徒であると思っている人も少なくない。マケインの側は一貫してオバマを、一般庶民の生活感覚をもたないハーヴァード・ロースクール出の超エリートであり、また「セレブ」であると描こうとしてきた。その宣伝はかなり浸透したと見られ、多くの世論調査で6月から8月半ばにかけて、マケインの支持率が上がり、一部でオバマを追い抜くに至った。また、民主党予備選挙・党員集会でクリントンを支持した有権者でマケインに投票すると答える人も、6月末の16%から8月には27%に上昇しており(有権者登録をした民主党員の間での調査)、オバマ陣営にとって、彼らとの「和解」は大きな課題として浮上していた(http://www.cnn.com/2008/POLITICS/08/24/election.2008.poll/index.html#cnnSTCText?iref)。

ジョー・バイデンを副大統領候補に選んだのも、安保・外交での経験だけでなく、彼がカトリックであり、労働者階級の家庭の出身であり、ペンシルヴァニア州スクラントン生まれであるからでもあった。

以下、時系列に沿って、大会の狙いや成果を概観してみよう。

第一日目”One Nation”
(議事の詳細はhttp://www.demconvention.com/monday-schedule/参照)

本大会は、一日ごとにおおよその焦点ないし目標が設定されている。たとえば、初日は上記のように、”One Nation”がテーマである。ただし、この日のハイライトは何よりミシェル・オバマを紹介するビデオの上映であり、また彼女のスピーチであった。それによって、一部で夫同様エリートと見られている彼女について、ごく貧しい典型的な黒人家庭の出身であり、努力で這い上がってきたことを示すこと、そして彼女が忠実な愛国者であることを示すこと(夫が民主党予備選挙・党員集会で快進撃を続けた際に、「私は初めて自分の国に誇りを感じた」と発言して、共和党から批判されてきたことを踏まえ、それに反論すること)が目的であった。

オバマについては、家族があり、かわいい子供がいて、普通の父親であることを知らない有権者が多い。陣営としては、そのような空白を埋める必要があった。かつて、1992年にビル・クリントンが立候補した際、強烈なフェミニストとのイメージが強かったヒラリー・クリントンに娘がいることを知らない有権者が多いことに驚愕した陣営は、急遽その点を懸命に宣伝し始めたことが思い起こされる。

ビデオでは、貧しい幼少時の家庭、一生懸命娘と息子を育てた両親、オバマとの出逢い、二人の娘達などが効果的に紹介されていた。また、ミシェル・オバマの演説も、政治家でない素人の演説としては、ところどころ素人らしさを残しながらも、必要とされていた課題をほとんどすべてこなすものであった。貧しいながら苦労して自分を育ててくれた両親、母子家庭であり、なおかつブルーカラー層に属していた祖父母に育てられたバラク・オバマの生い立ち、ブルーカラーの人々と同様「勤勉」(hard work)という価値観を基礎にして二人で生きてきたこと、高給を保証する職を断り、シカゴのサウスサイドでのコミュニティ活動を敢えて選んだ夫のこと、そして希望を与えてくれるこのアメリカを愛していること。これらを網羅した演説であった(演説の映像とドラフトは次を参照されたい。http://elections.nytimes.com/2008/president/conventions/videos/20080825_OBAMA_SPEECH.html#)。

会場で聞いていた限りでは、大変好評であった。おそらく、多くの代議員の期待を上回る出来であった。ビデオで紹介された彼女の貧しい幼少時代、とくに病に苦しみながら子供を育てた父親が強い印象を与えたようだ。かなりの政治オタクの人でも、このような部分については、知らない人が多かったのではないだろうか。当然ながら、シカゴのスラムに典型的な貧しい黒人家庭の話しである。そこから努力で這い上がってきた彼女の生い立ちには、多くの人が敬意を払わざるを得ないであろう。

ただし、テレビでは評論家が、彼女の演説が政策にも踏み込んだものであったことに驚きを表明していた。非政治的なものに留めた方がよかったというニュアンスの指摘もあったが、むしろ代議員を活気付けよかったという評価もある。将来のヒラリー・クリントンを見る人もいたようだ。

ただし、ジェームズ・カーヴィルは、オバマは丸一日を無駄にしたと大会初日の内容を厳しく批判した。彼の意見では、民主党は初日からマケイン攻撃を全面的に展開すべきであった。これに対してオバマ陣営は、それは二日目から始まると答えた。初日はあくまでオバマとその家族の紹介が主目的という位置づけであった。カーヴィルの見解は、圧倒的に少数派であったように思われる。

第二日目”Renewing America’s Promise”
(議事の詳細はhttp://www.demconvention.com/tuesday-schedule/ 参照)

二日目のハイライトはヒラリー・クリントン上院議員の演説であった。女性参政権獲得 88周年となるこの日を記念して、女性運動の成果を語る日でもあり、民主党の女性現職上院議員8人が壇上に勢ぞろいした。キャスリーン・セベリウス・カンザス州知事、ジャネット・ナポリターノ・アリゾナ州知事も登場した。また同時に注目に値するのが、ブルーカラー層にターゲットを絞った影響力ある重要な政治家も何人か演説したことである。エド・レンデル・ペンシルヴァニア州知事、ロバート・ケーシー2世上院議員(ペンシルヴァニア州)、テッド・ストリックランド・オハイオ州知事らである。彼らはまず、オハイオとペンシルヴァニアという重要な接戦州で影響力のある政治家であるが、同時にブルーカラー層にも人気がある。レンデル、ストリックランド両知事はヒラリー・クリントン支持者であり、ケーシー2世はオバマ支持であった。ヒラリー・クリントンの登場とともに、とくにこれら二つの州の、とくにカトリックのブルーカラー層にターゲットを絞っていることが明確にわかる布陣であった。

なお、とくにケーシー2世で注目されるのは、彼が人工妊娠中絶禁止派(pro-life)であることだ。今回、オバマ陣営は、党内で異端の見解をもつ政治家にも、壇上で意見を披露させた。1992年、ビル・クリントンが指名を獲得した際、民主党はケーシー2世の父(ペンシルヴァニア州知事であり、やはり人工妊娠中絶禁止派)に登壇させなかったという経緯がある。今回は、かつてのリジッドな姿勢を若干緩和し、反対派にも意見を表明させた点が注目される。これは、オバマの基本的方針、すなわち女性の中絶を選択する権利を尊重する一方で、さまざまな方法でその件数を極力減らしていこうという方針の反映ともいえる。

さて、ヒラリー・クリントンの演説であるが、会場で聞いていてすぐに察知できたのは、終了後涙を流している女性代議員が非常に多かったことだ。冒頭部分で、以下のように強くオバマを支持することを言明した。

Barack Obama is my candidate, and he must be our president.

とくに、説得力があったのは、以下のように述べて、さまざまな困難を抱えてきた人々のための大義を持ち出したときであった。

I want you - I want you to ask yourselves: Were you in this campaign just for me, or were you in it for that young Marine and others like him?
Were you in it for that mom struggling with cancer while raising her kids?
Were you in it for that young boy and his mom surviving on the minimum wage?
Were you in it for all the people in this country who feel invisible?

このように述べて、クリントンは彼女の支持者に対して、オバマを支持するように強く訴えた(http://www.demconvention.com/hillary-rodham-clinton/)。

テレビに登場した共和党系評論家は、この演説で、クリントンはオバマが大統領に適格であるとは一言も言わなかったと指摘した。これは正しいであろう。それはクリントンがオバマに対して一貫して批判してきた点でもあった。ある女性コメンテーターは、これはまだ「プラトニック・ラブ」に過ぎないとも言った。

ただ、クリントンは今後の自分の政治的生き残りのためにも、ここで最大限オバマ支持を表明せざるをえなかった。そして、この日の演説は、オバマ陣営が期待した以上の内容であったといえよう。話しぶりも堂々としていて、メッセージもわかりやすく、彼女としてもベストの演説に近いのではなかろうか。支持者には、このような演説はもっと早く、去年、ないし今年の1月-2月にでもやっていて欲しかったと漏らす人もいた。

かくして、本大会の最大の目標の一つであったヒラリー支持者との和解は、一定程度成し遂げられた。むろん、これは党大会としてできることは、相当程度達成されたという意味である。これによって、ブルーカラー層が100%オバマ支持に向かうわけではない。たとえば2004年にカトリックのジョン・ケリーが立候補しても、カトリック票の48%しか民主党は獲得できなかった。

第三日“Securing America’s Future”
(議事の詳細はhttp://www.demconvention.com/wednesday-schedule/参照)

まず、大統領候補の指名が行われた。ヒラリー・クリントンが自分の代議員に対して、彼女を支持する義務を解除(release)したため、その代議員たちがどのように投票するかが注目されたが、アラスカ州でオバマ48人、クリントン5人など、かなりの代議員がオバマ支持に動いたように見えた。アルファベット順で投票が進んだが、代議員を多数抱えるカリフォルニア州は「パス」、同様にイリノイ州も「パス」であった。ニューヨーク州の番になった時、ヒラリー・クリントンが登場し、発声投票によってオバマを指名する動議を提出した。その結果、その後の投票は中止され、満場一致でオバマ指名が獲得した。

事前にこのように決着をつけるべく、話しができていたようである。カリフォルニア、イリノイなど大州が「パス」したのも、ニューヨーク州の順番が来る前にオバマが過半数を獲得してしまわないようにするためのちょっとした「工夫」であった。最後までロール・コールを進め、クリントン票が意外に少ないと彼女を傷つけ、意外に多いとオバマを傷つける。クリントンの提案によって満場一致にする、というのがいろいろな意味で円満な終結方法であったといえよう。ちなみに、ニューヨーク州の前までの段階で、投票をした州の集計結果は、オバマ1549.5人、クリントン341.5人であった。クリントン派の代議員のかなりがオバマ支持に動いた様子が伺える。

さて、この日のもう一つの重要行事は、ビル・クリントンの演説であった。彼はオバマを支持すると強く言明しただけでなく、以下のように彼が大統領として、外交・安全保障政策の責任者として、そして軍最高司令官として、きわめて適任であることにまで踏み込んだ。

Clearly, the job of the next president is to rebuild the American dream and to restore American leadership in the world. And here's what I have to say about that. Everything I learned in my eight years as president, and in the work I have done since in America and across the globe, has convinced me that Barack Obama is the man for this job.

全体として、人を惹きつけるビル・クリントンの演説力は健在であった。代議員の間での彼の人気も圧倒的である。最近ではフランリン・D・ローズヴェルトを除くと唯一2回(以上)連続して民主党に政権をもたらしてくれた大統領である(http://www.nytimes.com/2008/08/27/us/politics/27text-clinton.html)。

この日の多数の演説で、他に相当高い点をあげてよいと感じたのは、2004年の民主党大統領候補、ジョン・ケリーのものであった。無表情で淡々と語られた演説であったが、以下の部分で一挙に盛り上がった。おそらくあえてここまで淡々と進めたのであろう。会場は爆笑であった。そのおかしさが、おわかりになるであろうか。

To those who still believe in the myth of a maverick instead of the reality of a politician, I say, let’s compare Senator McCain to candidate McCain. Candidate McCain now supports the wartime tax cuts that Senator McCain once denounced as immoral. Candidate McCain criticizes Senator McCain’s own climate change bill. Candidate McCain says he would now vote against the immigration bill that Senator McCain wrote. Are you kidding? Talk about being for it before you’re against it. Let me tell you, before he ever debates Barack Obama, John McCain should finish the debate with himself.

これは非常に自虐的なギャグである。2004年の選挙戦の最中、イラク戦争関係の法案でケリーは反対する前に賛成した・・・といった趣旨の発言をして失笑をかったことがある。戦争について賛成・反対の立場をころころ変えたため、ブッシュ大統領は候補者同士の討論会の前に、「ケリー氏はまず自分自身と討論した方がよい」と嘲った。お高くとまっていると見られがちなケリーの口から発せられたジョークだけに余計盛り上がったといってよかろう。

ただし、彼がついた点は、マケインの大きな弱点であるように思われる。信念の人、原則の政治家というイメージの強いマケインであるが、実はいくつかの重要政策ないし問題について、相当大きな態度変更を行っている。オバマ自身が行うかどうかは別にして、民主党はこのマケインのイメージを崩す必要があろう。敵の一番強い部分を粉砕する・・・これは選挙の要諦の一つである。ヴェトナム従軍兵という最大の強みを崩されて敗北したケリーは、まさにそのことの重要性を身をもって語ったようにも思われる。

さて、第三日目のハイライトは、副大統領候補バイデンについての紹介と彼の演説であった。バイデンはデラウェア州選出のベテラン上院議員であり、司法委員長、外交委員長も務めた。大統領選挙にも1988年と2008年に出馬している。

彼のブルーカラーの家庭での生い立ちがビデオで紹介された後、演説が行われた。まずは自分の貧しい子供時代を語り、オバマと共通する部分を強調した。その後、オバマを強力に推す議論を展開した。ある意味で本大会の演説はすべてがオバマを売り込むための演説である。マケインを徹底的に批判しながら、同時に最大限オバマを賞賛する演説を展開した。雄弁家で知られたバイデンは代議員の期待通りの強力な演説を行ったといえようhttp://www.demconvention.com/joe-biden/)。

すでに述べたように、1日目はマケイン批判はあまり前面に出ていなかったが、2日目からは容赦の無いマケイン批判が展開された。バイデンの演説もその典型例である。それは4日目にクライマックスを迎える。

第四日目”Change You Can Believe In”
(議事の詳細はhttp://www.demconvention.com/thursday-schedule/ 参照)

四日目は会場をフットボール場に移して行われた。8万人以上、メディアによると8万3千人もの人が詰めかけたと報道された。巨大な会場は確かにほとんど完璧に満席であった。屋外での指名受諾演説はジョン・F・ケネディ以来といわれる。

多数のエンターテイメントを挟みながら、最終日は、ビル・リチャードソン、アル・ゴアらの演説も交えて進められた。どちらの演説に対しても、満員の参加者は熱狂的に反応した。老若男女満遍なく多種多様な人が参加していたが、若者が多いことがとくに眼についた。

この日、この時間は、これまであまり選挙に関心を払っていなかった国民に対して、オバマという人物を売り込む最大のチャンスとなる。まずは巨大スクリーンに映されたビデオによって、生い立ち、母、父、祖父母らが紹介され、その後サウスサイド・シカゴでの活動、ミシェルとの出逢いが紹介された。重要な点は、苦労して育ってきたこと、まさにアメリカの夢を体現する人生であったことである。ハーヴァード・ロースクール出であることなどは、ここではわずかに触れられるのみである。

クライマックスのオバマの演説は、彼のトレードマークである高らかに夢を語るものとはかなり異なるものであった。むしろ、具体的な政策を数多く語った。そして正面から痛烈にマケインを攻撃した。その意味では、かなり党派的な演説であったともいえよう。忠実な民主党支持者を喜ばせるにはまことに十分であった。具体論が乏しいと批判されていることに対する対応と言う意味もあったと思われる。マケインの強みとされる外交・安全保障政策でも正面からマケインに挑戦した。

また、基本的には民主党リベラル派のオーソドックスな政策を並べたが、人工妊娠中絶問題では件数を減らすことを目指すと言明するなど、いくつかの部分で、現在の硬直した対立構造を緩和していく方向性も示唆した。以下に引用したように、政府にすべて頼ろうとする傾向にも警告を発している。

Ours is a promise that says government cannot solve all our problems, but what it should do is that which we cannot do for ourselves - protect us from harm and provide every child a decent education; keep our water clean and our toys safe; invest in new schools and new roads and new science and technology.

演説の結びは、1963年8月のワシントン大行進での歴史的なマーティン・ルーサー・キング二世牧師の演説の45周年記念にちなんで、次のようなものであった。「アメリカは分かれて生きていくことはできない。われわれの夢は一つである。われわれは一人で歩くことはできない。そしてアメリカは多くの課題を残したまま後戻りもできない。前に進もう」。

But what the people heard instead - people of every creed and color, from every walk of life - is that in America, our destiny is inextricably linked. That together, our dreams can be one.
"We cannot walk alone," the preacher cried. "And as we walk, we must make the pledge that we shall always march ahead. We cannot turn back."
America, we cannot turn back. Not with so much work to be done. Not with so many children to educate, and so many veterans to care for. Not with an economy to fix and cities to rebuild and farms to save. Not with so many families to protect and so many lives to mend. America, we cannot turn back. We cannot walk alone. At this moment, in this election, we must pledge once more to march into the future. Let us keep that promise - that American promise - and in the words of Scripture hold firmly, without wavering, to the hope that we confess.
(http://www.barackobama.com/2008/08/28/remarks_of_senator_barack_obam_108.php)

これをもって2008年の民主党全国党大会は終了した。まことに多数の演説がここで行われた。4日間、およそ午後3時から9時まで(3日目は午後1時から)。音楽やビデオ上映も挟まれているが、基本的にはまさに演説の競演であり、演説で評価を競い合う空間であった。日本の政治にこのような場がないことも確かであろう。熱心な党員が多いとはいえ、ずっと聞き続ける聴衆の熱意にも感心させられる。聞いていてもおもしろい演説が多かったが、何より感じたのは、話し方のテクニックも重要だが、やはりメッセージが大切であるということであった。

大会そのものについては、成功であったというのが、テレビでのコメントや印刷メディアでの評価、あるいはインターネットにおいても、圧倒的な多数意見であるように感じた。実際に世論調査でどの程度の数字が出てくるかはわからないが、党大会としてできることはかなり完璧に遂行したといえる。また、屋外の大集会には様々なリスクが付きまとうが、それも成功させたといえよう。

ちなみに、今回の民主党大会に出席した代議員には多数の若者が含まれていた。代議員の16%が35歳以下であった。これは民主党全国委員会の発表によると、新記録である(共和党についてはデータが存在しない)(http://www.nytimes.com/2008/08/31/us/politics/31vote.html?ref=politics)。

全体として、大会はほとんど予定された時刻表にしたがって進められた。民主党にしては規律がある??との評判であった(かつてクリントンと彼のホワイトハウスは時間にルースなことで悪名高かった)。ただし、最終日、会場をフットボールに移しての運営では、例えば暑い中、身体障害者が長時間外で待たされるなどの例が報告された。終了後も、何しろ8万人がいっせいに立ち去るにも関わらず、人の流れの整理や準備が悪く、会場をでるのに3-4時間かかった例もあった。やはり身体障害者団体の活動家が強く抗議したことが、地元紙で報告されていた。

民主党大会の評価

最終日にオバマが見せ付けた動員力は脅威であると、多くの共和党関係者は認めた。マケインが同じことをしてスタジアムを埋めることはできないことを彼らは認識している。テレビで見た人の数も、約3840万人と推測されている。これに対して本年の北京オリンピック開会式は3420万人、人気番組『アメリカン・アイドル』の最終回は2170万人、オスカー授賞式で3160万人であった。驚異的な数であることは否定しがたい(http://www.guardian.co.uk/media/2008/sep/02/tvratings.democrats2008)。

さて、肝心の大会後の「バウンス」であるが、今回は民主党大会終了後の4日後にすぐに共和党全国党大会が始まり、しかも今回は最終日翌日の8月29日に、マケインが副大統領候補をアラスカ州知事のサラ・ペーリンに決定したことを発表した。それによってかなりの程度相殺される可能性があるため、純粋にバウンスを測定することがやや困難な面もある。その点を前提に、発表されている世論調査をいくつか紹介しよう。

最初に数字が出たのが、ギャラップのデイリー・トラッキング調査で、毎日行われている世論調査である。3日間の数字の平均が発表される。オバマの演説を見た人は多くても3分の1しかいないが、同調査でそれまでマケインとオバマが同数であったのが、オバマ8%リードと出た。翌日もだいたい同じ数字であった。結局、オバマの支持率は、大会直前で45%、最終日翌日、翌々日で49%なので、ギャラップでみると4%程度のバウンスということになる。ちなみに、9月2日にはオバマの支持率は同調査で初めて50%に届いた。平均値よりは少ないが、これは8月29日のマケイン副大統領候補発表でかなり相殺されている可能性がある。ただ、このあたり、当地で話しをした『ナショナル・ジャーナル』誌のロン・ブラウンスタインによると、1%あげることも大変なことだという。その意味では、成功に近いといえよう(http://www.gallup.com/poll/109960/Gallup-Daily-Obama-Hits-50-First-Time.aspx)。

ちなみに、CNNはCNN/Opinion Research Co.の調査結果として8月31日に、わずか1%差でオバマリードという数字を発表した。こちらではほとんどバウンスはなかったことになる。これは8月29日から31日に行われた調査であり、ペーリン指名要素が含まれている(http://www.cnn.com/2008/POLITICS/08/31/obama.mccain.poll/index.html)。

9月3日現在、realclearpoliticsのサイトで比較すると、CNNだけが1%差であり、他は5~9%でオバマがリードしている(表2)。これが、民主党大会後の情勢である。

 ペーリン指名と共和党大会については、稿をあらためたい。

表1.
全国党大会前後での支持率の変動(1964-2004) National Journal, Aug. 23, 2008, p.30.
登録した有権者、大会直前と大会直後の調査。ギャラップの世論調査による。

1992 クリントン 16
1980 カーター 10
1984 モンデール 9
1976 カーター 9
2000 G.W.ブッシュ 8
2000 ゴア 8
1980 レーガン 8
1988 デュカキス 7
1972 ニクソン 7
1988 G.H.W.ブッシュ 6
1996 クリントン 5
1992 G.H.W.ブッシュ 5
1976 フォード 5
1968 ニクソン 5
1964 ゴールドウォーター 5
1984 レーガン 4
1996 ドール 3
1964 ジョンソン 3
2004  G.W.ブッシュ 2
1968 ハンフリー 2
1972 マクガヴァン 0
2004 ケリー -1


表2 世論調査の比較(2008年9月3日) (http://www.realclearpolitics.com/epolls/2008/president/us/general_election_mccain_vs_obama-225.html)

Poll Date Sample Obama (D) McCain(R) Spread
RCP Average 08/29 - 09/02 -- 48.8 43.0 Obama +5.8


Gallup Tracking 08/31 - 09/02 2767 RV 49 43 Obama +6

Rasmussen Tracking 08/31 - 09/02 3000 LV 50 45 Obama +5

Hotline/FD 08/29 - 08/31 805 RV 48 39 Obama +9

CNN 08/29 - 08/31 927 RV 49 48 Obama +1

CBS News 08/29 - 08/31 781 RV 48 40 Obama +8


註) 今回の党大会視察に当たっては朝日新聞社アメリカ総局長加藤洋一氏他スタッフの方々に大変お世話になった。記して謝意を表したい。