タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2009/5/11

第16回 現代アメリカ研究会報告

1.本研究会の目的
4月16日に第16回現代アメリカ研究会が開催されました。本研究会では、アフガニスタンとパキスタンについての歴史的経緯と現在の政治状況、アメリカの政策の動向がテーマでした。アフガニスタンの安定は、オバマ大統領が選挙中から繰り返し重要性を主張していた問題であり、ホワイトハウスは3月27日にアフガニスタンとパキスタンとを包含した新たな戦略を発表したばかりであり、時宜を得た研究会となりました。まず、広瀬祟子氏(専修大学教授)からアフガニスタンとパキスタンの情勢についての報告があり、次に、堀本武功氏(尚美学園大学教授)より、アメリカの新政策についての報告がありました。

2.第一報告、「パキスタン・アフガン情勢」広瀬祟子氏(専修大学教授)
広瀬氏から、今日のパキスタンとアフガニスタンの情勢の説明と、現在の状況を形成した歴史的背景についての報告がなされた。現在のパキスタンは、アフガニスタン情勢を考える上での鍵となっているが、パキスタン・アフガニスタンが抱える複雑な現実を理解するためには、歴史をひもとかなければならない。

パキスタン問題の根源は、パキスタンという国家の成立の時期に根ざしている。独立以来パキスタンは「インドの脅威」に取り付かれているが、歴史を振り返ってみると、パキスタンとインドは英領から分離独立して以来、国家理念をめぐって対立している。インドが異なる宗教でも共存できるという政教分離国家であるのに対して、パキスタンの建国者たちは、ヒンドゥーとムスリムは別の「民族」であるという「二民族論」を主張し、ムスリムのための国家が必要と主張したのである。「どちらの国でムスリムはより幸せに暮らせるのか」をめぐって、パキスタンとインドは「宿命の対決」の関係にあるのである。

パキスタンとインドの対立の象徴がカシミール問題である。カシミールは住民の多数をムスリムが占めるために、パキスタンは自国領への併合を主張しているが、インドは政教分離主義の正しさを証明するためにも、宗教を理由としてカシミールをパキスタンに編入させることを許さなかった。

「インドの脅威」にパキスタンが本格的に取り付かれるようになったのは、1971年の第三次印パ戦争に敗北し、バングラデシュの独立によって印パの軍事バランスが崩れてからである。パキスタンはインドに対抗するために新たな武器に手を伸ばした。一つがカシミールで行う越境テロであり、もう一つが核兵器であった。パキスタンは新しい武器とともに、戦略的深みを担保するためにアフガニスタンをも必要とするようになった。

1979年に、ソ連軍がアフガニスタンに侵入すると、パキスタンには、アメリカからの大量の軍事援助とアフガニスタンからの難民が流れ込んだ。パキスタンはアフガン難民に対して、この戦争を「聖戦」であると定義し、武器を与え、ムジャヒディーンを育てた。その中には、ウサマ・ビンラーディンも含まれていた。

パキスタンとアフガニスタンの国境付近にはアフガン難民のキャンプが立ち並び、戦争の長期化とともに、難民キャンプの中にはマドラサと呼ばれるムスリムの宗教学校が増えていった。マドラサではコーラン教育と反西洋教育が施され、中には軍事訓練を行う学校まであった。

マドラサは今日もパキスタン全土におよそ1万校が存在し、パキスタン政府も手を出すことが難しい存在になっている。パキスタンとアフガニスタンの国境には、パキスタン政府が介入できないエリアとして連邦部族直轄地域(FATA)がある。ここにはアフガニスタンで最大民族を構成しているパシュトゥーン人が居住しているが、彼らは自由にアフガン国境を横断することができ、現在では麻薬と武器の売買ルートとなっている。

現在のパキスタンには、マドラサで教育されたムスリムの戦士、アフガニスタンから流れる麻薬と武器、さらには核兵器といった危険な要素が満ちている。パキスタンが抱えた火薬に火がつくかどうかが今後の問題だが、パキスタンの国内情勢には問題が山積している。

パキスタンの国内政治には、2つの課題がある。民主化の促進と、テロとの戦いを支える基盤の弱さである。2008年8月に、軍事政権の指導者であったムシャラフ大統領が辞任し、ザルダリ大統領が権力の座についた。ただし、政治の実権は未だに軍が掌握していると言われている。「民主的に」選出された指導者たちは権力闘争にあけくれ、収賄も横行している。2008年の民主化以降、早急の課題である福祉政策にも教育政策にも、何の動きも見られない。

パキスタンがテロとの戦いに取り組めるかどうかは、パキスタン国民がテロをどのように捉えるかに左右される。国民の大多数を占める穏健なムスリムはテロを嫌っているが、何もしてくれない政府のために立ち上がる気もないのである。パキスタン政府がいかに過激派を制御できるかが問題となる。

パキスタンがアフガニスタン情勢においてどのような役割を果たしうるかは、アメリカとの関係、インドとの関係によるところが大きい。アメリカは長期にわたり、パキスタンに対して軍事援助と経済援助を続けてきたが、自らの都合でこの国を見捨てたことも何度かある。パキスタンにとっては裏切り行為である。反イスラーム政策もパキスタン国民感情を逆なでする。こうしてパキスタン内でのイスラーム化の促進とともに反米感情が高まってきている。パキスタン政府にとっての悩み所は、パキスタンがテロ支援国家指定を免れ、「まともな国」として認められるためには、アメリカの後ろ盾が必要である点である。

パキスタンとインドの関係は先にも論じたように、パキスタン建国以来の問題である。パキスタンはインドに対抗するために核兵器を持ったが、核不拡散体制への協力についても、もしインドがNPT、CTBTに加盟すれば直ちに加盟すると明言しており、パキスタンの核政策はインド次第となっている。パキスタンは長年、インド内の反政府分子を支援してきたが、2002年以降対話路線に転向しており、インドでのテロ問題も、パキスタンの国内問題次第だと言える。

パキスタンは不安定な国家であるが、アメリカとの関係改善、インドとの和平推進が、テロとの戦いを左右する大きな要因である。また、パキスタン国内の安定を考えると、民主的政府のパフォーマンスが低く、さらには過激派を抱え込んでいるという点で楽観はできないが、パキスタンは知識人や技術者などの豊富な専門家層を抱えており、今後、パキスタンの市民社会が政治的発言力を増していけば、国内の安定に寄与するものと思われる。

3.第二報告、「米国のアフガン新政策」堀本武功氏(尚美学園大学教授)
次に、堀本氏からオバマ政権のアフガニスタン新政策と、その政策の成否についての報告がなされた。

オバマ政権のホワイトハウスは、3月27日にアフガニスタンについての新政策を打ち出した。新政策の概要は、四つの点に集約される。第一に、アフガニスタンにおける目標を、アル・カーイダとその避難所の撲滅という、達成可能なものに設定したことである。

第二に、アフガン情勢に対して地域的なアプローチが採用されている。これまでの政策とは異なり、アフガニスタンとパキスタンを一体としてとらえ、アフガニスタンでの勝利にはパキスタンの協力が不可欠であるという認識に基づいている。アメリカ・アフガニスタン・パキスタンの三国間協力に基礎を置いたTrilateral Approachである。

第三に、治安兵力の増強である。アメリカはアフガン治安軍の訓練のために春期中に4000名を増派する予定であり、これは今年2月に発表された17000名と合わせると21000名の増派となる。アメリカによる訓練によって、2011年までに13.4万人のアフガニスタン軍と8.2万人のアフガニスタン警察を整える計画である。

第四に、アフガニスタン政策における国際協調路線への転向である。オバマ政権は民生支援を活用するとともに、NATO諸国、中央アジア諸国、湾岸諸国、ロシア、インド、中国から構成されるコンタクト・グループを新設して、アフガニスタン問題に協力して対処する方向性を打ち出している。国連とも、協調していくことを宣言している。

これらの新政策の狙いは、出口戦略を整えることである。アフガニスタンにおける戦争について、アル・カーイダの排除と治安軍の強化という、達成可能な目標を設定することで、従来よりもアフガニスタンにおける成功のハードルを下げ、撤退可能な条件を設定したことが重要な点である。

また、この新政策にはイラン対策としての側面も見られる。イランへはアフガニスタンからの難民と麻薬が流入しており、イランにとってもアフガニスタンは頭の痛い問題である。アメリカは国際協調路線によってイランも協力相手として取り込み、イランが関わってくるパレスチナ問題や核問題といった分野での情勢の変化を期待しているとも言われている。3月31日のハーグ・アフガン会議では、イランの外務次官と、アフガン・パキスタン担当特使のホルブルックと接触が確認されている。

アメリカの新政策の成否は、政策を打ち出すアメリカへの支持と、政策の対象となるアフガニスタン・パキスタンの情勢に左右されることになる。アメリカは、新政策の実施について三種類の支持を必要としている。第一に、アメリカ国内の支持である。現在の経済不況からの脱出が遅れるほど、出費のかさむアフガニスタン増派への反対は高まるであろうし、無人攻撃機によるアフガニスタンでの民間死者数が増加するほどに、政権への支持は弱まっていくと見られている。

オバマ政権内のアフガニスタン政策についての主要なアクターとしては、バイデン副大統領、クリントン国務長官、ホルブルックらがいるが、現在のところ新政策に対しての不協和音は見られない。軍では、中央アジア司令官のペトラエス将軍が、新戦略の中核となっている。

第二に、アメリカはNATOからの支持も必要としているが、各国の首脳はそれぞれの経済危機と派兵のコストから、アメリカが期待するような協力を取り付けられずにいる。第三に、中央アジアと中東諸国の支持が不可欠であるが、アメリカは、多くの国でロシアとの綱引きと、ムスリムの反米感情に悩まされている。

アフガニスタン・パキスタン情勢については、不安な要素がいくつもある。パキスタンの安定のためには、政府と軍の協力が必要であるが、パキスタン軍の三軍情報部(ISI)は、資金、兵器、戦術でタリバーンを支援していると言われている。アフガニスタンでは、年々反米感情が高まっており、今年は大統領選挙を控えている。カルザイ大統領の人気もかげっており、アメリカは適当な親米の候補者を見つけられずにいる。

アフガニスタンとパキスタンの情勢は明るいものではないが、アメリカの政策が上手くいったならば、タリバーンを構成している日和見主義的な部族が離脱していき、過激派のアル・カーイダと戦う反面で、穏健派との交渉の可能性が見えてくるかもしれない。

広瀬氏への質問
Q. これまでパキスタンにはアメリカから多額の資金援助がなされてきたが、これらのお金はどこへ行き、どのような効果があったのか?

A. 2002年からパキスタンには100億ドルもの資金援助がなされているが、パキスタン国内での治安の上昇や、武器や麻薬の流入量の減少などの実質的な変化があったかというと、ほとんどなかった。ただし、アメリカからの資金援助と、IMFからの緊急援助によって、なんとか破綻国家にならずにすんでいるという現実がある。もしもパキスタン国家が破綻すれば今以上の混乱が生じるのは目に見えているために、最悪の状況の発生を防ぐという意味では、効果があったと言えるかもしれない。

Q. パキスタンの軍は軍政のころより、特権的であるとともに、人々からの尊敬の念も集めてきたというお話がありましたが、なぜ、民主化を経験しつつも、軍は特権的な集団であり続けることができたのでしょうか?

A. パキスタンの軍は、通常では腐敗と考えられることを制度の中に組み込んで、既得権益としている。例えば、土地の売買について、軍関係者であれば安価に土地が払い下げられるという特権を持っているが、安く買った土地を、頃合いを見て売りさばくことによって、軍人は財力を蓄えたりしてきた。パキスタンの軍は、「インドからの脅威」が存在し続けたために、特権的な地位にあることを正当化することができた。今日の軍は、インドとの関係改善、アフガニスタンの平定に対して、諸手を挙げて賛成するわけにいかない事情がある。

堀本氏への質問
Q. タリバーンの穏健派との対話をアメリカが新戦略として考えているというお話でしたが、穏健派との対話の可能性はどの程度あるのでしょうか?

A. タリバーンは、強硬派と穏健派から構成されており、穏健派は日和見主義的な性格を持っている。一旦、タリバーンの優勢が揺らぎ始めると、穏健派がタリバーンから離れていく可能性を持っている。

Q. アフガニスタン、パキスタンに影響力を持ちうる国として中国を考えることができると思いますが、中国のアフガニスタン、パキスタン政策はどのようなものなのでしょうか?

A. 中国政府は、アフガニスタン、パキスタン政策については沈黙を保っている。ただし、注目すべき点として、アル・カーイダはテロの標的として中国の名前を挙げたことは、これまで一度もない。また、中国は中央アジアに所持している通信設備を彼らに使用させているとも言われている。

(報告:梅川 健)