タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/8/3

アメリカNOW 第51号 オバマ政権アフガニスタン政策の行方 (池原麻里子)

2001年10月7日に始まったアフガニスタン紛争は、まもなく10年目を迎えようとしている。オバマ大統領は数カ月にわたる内部議論の結果、2010年中に3万人増派した後、2011年7月には撤退し始めるとの新戦略を昨年12月に発表した。開戦以来の死者数は7月30日時点で1,105人に達したが、死者数はこの6月に60名、7月に66名と最悪の数字になってしまった。

アフガニスタンの復興支援策を話し合う国際会議が首都カブールで開かれ、岡田外相も出席したのは7月20日のこと。それから1週間も経たない7月26日、ウィキリークスという内部告発サイトが"Kabul War Diary"*1と称する、2004年1月から2009年12月に作成されたアフガニスタン紛争関連の米国防省機密文書約75,000点を発表した。同サイトが入手した91,000点を超える文書のうち、今回発表しなかった残りについては、関係者を危険に晒さないように、黒塗りにする等の処理中であるという。

ウィキリークスは、2007年に行われた米軍アパッチ・ヘリのイラク人に対する無差別攻撃映像を、今年4月に暴露したことで一躍有名になったサイトだ。その創設者はジュリアン・アサンジという元ハッカーのオーストラリア人活動家だ。今回は発表のインパクトを最大限にするために、ウィキリークスは一カ月ほど前にニューヨーク・タイムズ、英ガーディアン、独シュピーゲル誌にアクセスを許可し、分析させ、同サイトの発表と同時に報道させるという連携プレーを行った。

この一連の文書とイラク無差別攻撃映像を提供したのは、ブラッドリー・マニング(22歳)という当時、イラク駐在だった陸軍情報アナリスト担当者だと言われている。マニングは現在、軍の取り調べを受けており、FBIも調査に関与しているが、最高50年以上の禁固刑が下る可能性があるそうだ。これだけ大量の情報を彼一人で外部にリークすることは難しいことから、外部にウィキリークスと関係がある協力者がいたのではないかと考えられている。なお、マニングを告発したのは、彼からコンタクトされた有名な元ハッカーで、国防省の調査も助けている。

今回のリークは第二の「ペンタゴン・ペーパーズ」として注目を浴びている。1971年には7000ページの文書が発表されたが、今回はそのボリュームがけた違いである。それでは肝心のインパクトはどうか。ペンタゴン・ペーパーズが22年間にわたる包括的な、ホワイトハウスを含めたハイレベルの機密文書を含み、ラオスやカンボジアに対する隠密爆撃作戦など、政権による嘘を暴露したのに対して、今回の一連の文書は現場からの生の報告書で、それを分析するような文書は欠如している。

現場の報告書が必ずしも正確な情報だとは限らないし、情報は断片的である。大半はすでにブッシュ政権やオバマ政権が明らかにしてきた現状と大差ないというのが多くの専門家たちの受け止め方である。政権側も、ニクソン政権がペンタゴン・ペーパーズの発表を阻止しようと最高裁まで争ったのに対し、今回はニューヨーク・タイムズが記事公表前にオバマ政権に通知したところ、「活動上、有害な情報の発表は控えるようにウィキリークスに伝言して欲しい」と要請しただけで、公表は阻止していない。

一連の文書からは生々しい現場の厳しい状況が伝わってくる。幾つか特筆すべきなのは次の点だ。以前から報道されてきたように、パキスタンの統合情報局やイランがタリバンを支援している。「ブラック・ユニット」と呼ばれるタスクフォース373がタリバンのトップの暗殺活動を行っている。無人偵察機への依存度が高まっている。人道援助を目的とした資金のかなりの額が使途不明になっている。民間人の死傷者が大幅に増えている。どうもタリバンは赤外線追尾ミサイルを所有しているらしい。オサマ・ビンラディンについてはわずかな不確定情報が報告されているに過ぎない。また、アフガニスタン人協力者の氏名が報告書に記載されており、彼らが危険にさらされてしまった。これで今後は協力者を募るのが難しくなりそうだ。実際、タリバンのスポークスマンは、「アメリカのスパイは罰する」と述べている。

ロバート・ゲーツ国防長官は7月29日、今回の機密情報漏洩によって、米軍、同盟軍、アフガニスタン軍が危険に晒され、米政府の機密保持能力に対する他国からの信頼が損なわれると厳しく批判した。一方、オバマ大統領はウィキリークスの情報漏洩に対して、戦場からのセンシティブな情報が開示されたことに懸念を表明しつつも、すでに公共の場での議論で国民が知らないようなイシューはないし、これらのチャレンジがあったからこそ、昨年の秋に政策を徹底的に見直し、増派したのだとコメント、連邦議会にアフガン戦争予算を承認するように求めた。

そして、連邦下院は27日、アフガン戦争の3万人の増派に伴う補正予算330億ドルを308対114で承認した。皮肉なことに、民主党議員101人がウィキリークスで明らかになった勝てない戦争は支持できない等の理由から、反対票を投じ、共和党議員に助けられる形となった。

さて、7月20日にはアフガニスタンの復興支援策を話し合う国際会議が首都カブールで開催され、70の国と機関の代表が出席した。カルザイ大統領は、現在、国際部隊が担っている治安権限を2014年までにアフガニスタン側が引き受け、国の復興により主導的に取り組むと昨年同様の意思を表明した。そして会議では治安権限を段階的にアフガニスタン側に移行するために現地の治安部隊を育成することや、反政府武装勢力タリバン対策として国際基金を設置し、元兵士に職業訓練を行うことが決まった。また、カルザイ政権の汚職対策を強化する方策がまとめられた。

カルザイ政権の汚職、統治能力については全く改善が見られず、同盟軍撤退に向けて今後もネックになりそうだ。リチャード・ホルブルック国務省特別代表(パキスタン・アフガニスタン問題担当)は7月28日、タリバンが政府役人の汚職を反政府勢力リクルート用のプロパガンダに利用していると議会で証言した。アメリカ政府はアフガニスタン省庁の認証制度を導入し、外部の監査を入れて、復興援助が目的通りに使われるようプログラムをモニターしている。アフガニスタン駐留米軍の新司令官デイヴィッド・ペトレアスも、その前任者のスタンリー・マクリスタルも熱心に汚職の防止に努めてきたが、カルザイ政権は対応を先延ばしにしがちで、なかなか改善が見られない。

アフガン撤退のスピードのカギとなる同国治安部隊育成も依然として難題を抱えているようである。オバマ大統領の戦略では2011年10月までに軍を17万1000人に、警察を13万4000人に増強することを目指している。しかし、アフガニスタンやイラク管轄の次期中央軍司令官に指名されたジェームズ・マティス(駐アフガニスタン米軍司令官となったペトレアスの後任)は7月27日、上院軍事委員会の承認公聴会で、アフガン治安部隊育成に必要な訓練指導員が約1000人不足していると証言した。

ウィキリークが今回リリースした情報の中には、南アフガニスタンでタリバンのリーダーがアフガン軍旅団長に対して、「辞任すれば10万ドルの報酬を支払い、家族の安全も保証する」とオファーしたという2008年2月の報告がある。アフガン軍の大佐が805ドルの月給をもらうようになるには24年もかかるのだから、10万ドルと家族の安全は大変に魅力あるオファーだ。昨年12月、マクリスタル司令官はアフガン治安部隊の月給は、タリバンの歩兵がもらう300ドルに匹敵するレベルになったと証言している。しかし、実際は勤務年数3年以下の警官や兵士の月給は165ドルに過ぎない。

勤務中にマリワナ、阿片、ヘロインなどの麻薬を使用しているというレポートも暴露された。言い争いが起きると、すぐに発砲して死傷者を出すという事件もたびたび起きており、最低、72件が報告されている。こういう問題を起こす大半は新人である。これに対し、ベテランはこの30年、闘ってきたツワモノたちであり、タリバンと戦う際も勇敢なようだ。彼らに欠如しているのは訓練である。

オバマ大統領は昨年秋、何カ月もかけてアフガン新戦略を慎重に検討した。その内部プロセスについては、オバマ政権の初年度の内幕を描いたニューズウィークのジョナサン・アルター著「ザ・プロミス」(5月発売)に詳しい。マクリスタルはローリング・ストーンズ誌のインタビュー記事で、オバマ大統領を始めシビリアンを嘲弄したためにこの7月、辞任に追い込まれたが、その前にも2009年9月に4万人以上の増派が必要とメディアにリークして、オバマ政権に圧力をかけたことがある。

しかし、マクリスタルを始めとする軍部の圧力に屈せず、大統領はアメリカの目標をテロ対策と明確化し、一定の増派は行うが、アフガニスタン軍育成に成功してもしなくても、2011年7月には米軍を撤退し始めると決断した。ただし最近になって、そのスピードや規模についてはニュアンスのある発言をし始めている。

ペンタゴン・ペーパーズを中心になってまとめたレスリー・ゲルブ外交問題評議会名誉会長は、今回のリークでアメリカの対アフガニスタン・パキスタン政策の矛盾が明らかになったと指摘する*2。第一に、政権はアルカイダが復活しないようにアフガニスタンで戦っているというが、アルカイダはイエメン、ソマリア、パキスタン、ロンドン、ニュージャージーをベースとして、アメリカと同盟国や友好国を攻撃しており、10万人をアフガニスタンに派兵することが有益かという点だ。

第二に、アフガニスタンで戦うことで、原理主義者がパキスタンを乗っ取ることを阻止するというが、パキスタン情報部はタリバンを支援し、北西部では安全な避難地帯を提供しており、米軍には攻撃できない。アメリカがパキスタンの穏健派に対して数十億ドルの軍事および経済支援を実施している間、パキスタン情報部はタリバンを支援することで、米兵を殺しているわけだ。これはやがてアメリカのアフガン撤退、そしてパキスタン援助を損なうことになる。このような根本的な矛盾に基づく政策は成功し得ないとゲルブは指摘する。

さて、ペンタゴン・ペーパーで有名なのはマクノートン国防次官補の1965年の文書である。ベトナムで勝てないことがわかっていても、戦争を続ける理由を次のように分析している。

70% 恥さらしの敗北を避けるため
20% 南ベトナムと近隣領域を中国に支配させないため
10% 南ベトナム国民によりよい、自由な生活を与えるため。使用した手法に対して受け入れ
    がたい汚名をきせられることなしに危機から脱するため。

ベトナム戦争が終結するのは、このメモから10年、そしてペンタゴン・ペーパーズ発表から4年後のことだった。

死者数が増えるにつれ、オバマ大統領のアフガニスタン戦争政策に対する支持率は2月の48%から36%と大幅に下がった。2001年の同時多発テロ事件後にアフガニスタン攻撃をしたことは間違いだったと回答した者は過去最高の43%になっている。不況の中、経済政策の支持率の方が39%と高い数字になっているのだ*3

8月1日には4年間の駐留期限を迎えたオランダ軍が撤退し始め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のアフガン駐留軍第一号となった。ドイツ、イギリス国内でも撤退の声が高まっており、オバマ大統領を取り巻く状況は厳しい。

今回のリークがきっかけとなり、ゲルブが指摘しているようにアフガニスタン・パキスタン政策の問題点が見直されれば、政策転換に貢献することになる。しかし、それまで同盟軍とアフガニスタン人の死傷者は増え続ける。



*1:http://wardiary.wikileaks.org/

*2:http://www.thedailybeast.com/blogs-and-stories/2010-07-26/wikileaks-what-the-documents-reveal/

*3:USA TODAY/Gallup Poll, July 27 –August 1, 2010


■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)