タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/8/13

アメリカNOW 第52号 歴史的視点で図る超党派委員会の「責務」の大きさ (安井明彦)

米国ではバラク・オバマ政権が設置した超党派委員会が、具体的な財政再建策の検討を行なっている。難航も予想される同委員会の審議だが、少なくとも中期的な目標に関しては、同委員会に要請されている財政再建策は、過去の財政再建策よりも特段規模が大きいというわけではない。
活動が進む超党派委員会
拙稿「超党派委員会は機能するのか~過去の経験からの教訓~(アメリカNOW第44号))」でも紹介したように、オバマ政権は超党派の議員・有識者による委員会を設置し、具体的な財政再建策の立案を要請している。4月27日の第一回会合を皮切りに4回の公開会合が既に開催されており、ベン・バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長、ピーター・オルザグOMB(行政管理予算局)局長(当時)、ダグラス・エレメンドーフCBO(議会予算局)局長などの専門家からの意見聴取が行なわれてきた。また委員会には3つのワーキング・グループが設置されており、それぞれ裁量的経費、義務的経費、税制改革に関する再建策の検討を担当している*1

同委員会の先行きには難航を示唆する向きが少なくない。同委員会の共同議長を務めるアースキン・ボウルズ氏(ビル・クリントン政権首席補佐官)は、「メンバーの間で党派を超えた信頼関係の醸成が進んでいる」と好感触を得ているようだが*2、具体的な改革案の議論はいまだ水面下。税制や公的年金制度の改革など、党派間の意見対立が厳しい政策分野が多い中で、同委員会が最終的な改革案に合意できるかどうかは未知数である*3

それでは超党派委員会の責務はどれほどの重さなのだろうか。周知のように、米国では過去にも財政再建の取り組みが繰り返し行なわれてきた。ここでは1990年代の取り組みに焦点をあて、今回の超党派委員会に課せられた目標と比較してみたい。

ここで比較するのは、オバマ政権が具体的な目標を設定した、中期的な財政再建策の大きさである。政権が超党派委員会に要請した再建策の目標は二つある。第一が中期的な財政状況の改善であり、2015年度までに利払い費を除いた財政収支を均衡させることが求められている。第二は長期的な財政の維持可能性の確保だが、こちらについては明確な数値目標が定められていないため、今回は比較対象としていない。

1990年代の財政再建策




米国では1990年代に主要な財政再建策が3回実施されている(図表1)。90年、93年、そして97年の財政再建策である。

90年の財政再建策は、ジョージ・ブッシュ大統領(共和党)と民主党が多数を占める議会が手がけた。「増税はしない」との公約をブッシュ大統領が破る結果となった法律であり、PAYGO原則*4や裁量的経費の法定上限など、財政ルールの導入を盛り込んだのも90年の財政再建策の特徴だった。

93年の財政再建策は、民主党のビル・クリントン大統領が主導した。92年の大統領選挙で中間層向けの減税などを主張していた同大統領だが、当選後は財政再建に大きく舵をきった格好である。90年の再建策と違い、この時は議会も大統領と同じ政党(民主党)が多数党を占めていた。上下両院の採決では、共和党からの賛成票がゼロのまま、民主党議員の賛成だけで成立。とくに上院では賛否が50票で並び、アルバート・ゴア副大統領が最後の一票を投じて可決させた。

続く97年の財政再建策は、94年の議会中間選挙で上下両院の多数党を獲得した共和党と、クリントン大統領の間でまとめられた。景気の好転で財政事情が急速に改善しつつある時期でもあり、結果的に98年度に米国は財政黒字に転換している。




それぞれの再建策の内容には、当時の政治や財政の状況が反映されている(図表2)。まず、政治の影響が感じられるのが、増税と歳出削減の組み合わせである。民主党だけの関与で成立した93年の再建策と比較すると、共和党が関わった再建策(90年、97年)は歳出削減の比重が大きい。とくに97年は減税が実施されており、もっぱら歳出削減による再建策となっている。

財政事情の変遷は、歳出削減策の内訳に映しだされている。米国では歳出に占める義務的経費(公的年金、医療保険など)の割合が高まってきている。90年代の財政再建策でも、回を追うごとに歳出削減に占める義務的経費の割合が大きくなっており、軍事費などの裁量的経費に代わって、義務的経費が財政再建の主役になってきていることが見てとれる。

財政再建策の大きさ
前述のように、財政再建策の規模の比較は、オバマ政権が超党派委員会に課した中期目標(2015年度までに利払い費を除く財政収支を均衡させる)を基準とする。7月に発表された政権の最新の見通しは、2015年度の利払い費を除いた財政収支を2,080億ドルと予測している*5。超党派委員会にとっては、これが財政再建策の2015年度時点での削減目標となる。2015年度時点のGDP(国内経済総生産)対比では1.1%、同じく15年度の財政赤字(超党派委員会の提案による削減策を実施しなかった場合)の3割弱の規模である。




同じ基準で1990年代の財政再建策の規模を整理したのが図表3である。いずれも開始から5年後を基準として、再建策の規模を経済規模(1990年についてはGNP、他はGDP)と財政赤字の大きさとの比較で示している。なお、財政再建策、経済規模、さらに財政赤字の大きさは、それぞれの再建策成立後の最初のCBOによる財政見通しを利用している。

図表3に明らかなように、超党派委員会に課せられた目標は、90年代の財政再建策と比較して格段に大きいというわけではない。むしろ経済規模対比でいえば、90、93年の再建策の方が規模は大きい。近いのは97年の再建策だが、当時は財政事情が改善途上にあり、大きな対策を講じなくても財政再建が可能だったという事情がある。実際に財政赤字対比での再建策の規模をみると、97年の再建策は5年後に財政を黒字化させるのに十分な規模だった。90、93年の財政再建策を含め、予想される財政赤字との対比では、超党派委員会に求められている再建策の規模は、90年代の再建策よりもかなり小柄といってよい。

もちろん超党派委員会の責務が軽いわけではない。もう一つの目標である長期的な視点での財政再建が難題なのはいうまでもない。党派間の対立が90年代よりも厳しくなっているとの指摘も多く、財政再建策を巡る合意もそれだけ難しくなっている可能性が高い。

それでも中期的な目標に限定すれば、超党派委員会に求められる財政再建策の規模は、歴史的にみて非現実的な水準ではない。やはり超党派委員会の成否の鍵を握るのは、政治的な意思の強さにあるといえそうだ*6



*1: 超党派委員会の具体的な活動状況については、同委員会のホームページを参照。

*2: Jonathan Nicholson, “Fiscal Panel Members Getting Along, But Though Decisions Still Lie Ahead”, Daily Report for Executives, July 28, 2010

*3: Jonathan Nicholson, “Tax Expenditures, Social Security Issues Expose Potential Fissures on Fiscal Panel”, Daily Report for Executives, July 29, 2010.

*4: 拙稿「PAYGO原則の法制化について(アメリカNOW第47号)」参照。

*5: この財政赤字の見通しは、オバマ政権による政策提案(超党派委員会による提案を除く)が実現することが前提とされている点には注意が必要。言い換えると、オバマ政権はこの水準にまで財政赤字を削減する方策は既に提案しているわけであり、超党派委員会に求められているのはそこからの上積みとしての財政再建策となる。

*6: 拙稿「超党派委員会は機能するのか~過去の経験からの教訓~(アメリカNOW第44号)」参照。

■安井明彦:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長