タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/10/25

アメリカNOW 第56号 議会中間選挙で米国はどう変わるのか? ~妥協と対立の綱引きと、ティー・パーティーの意味合い~ (安井明彦)

いよいよ米国の議会中間選挙が近づいてきた。予想されるように共和党が躍進した場合、選挙後の米国の流れはどう変わるのだろうか。選挙結果のシナリオごとに検討してみたい。

対立か妥協か

議会中間選挙後の焦点は、オバマ政権と議会共和党との関係である。これまでのような対立関係が継続、もしくはさらに悪化するのか、それとも、両者の歩み寄りによって妥協への道が開けるのか。いずれの道が選ばれるかによって、これからの米国の政策運営の速度は大きく変わってくる。

大前提となるのは、共和党の躍進だ。多数党の行方に注目が集まっているが、いずれにしても共和党の議席数が現在よりも大きく増加する可能性は高い。オバマ政権は、既に改選前の民主党多数議会ですら、議会運営に手こずっている。さらに民主党が議席を減らすのであれば、政権が立法面で何らかの成果をあげるには、これまで以上に議会共和党との妥協が必要になるのは当然の成り行きである。

それでは、何が対立と妥協を分けるのか。論点は二つある。第一は、オバマ政権の自由度である。オバマ政権が共和党に歩み寄ろうとすれば、議会民主党の中から異論がおきる。こうした異論を封じ込める環境がどこまで整うかが、政権の選択の幅を決める。

第二は、議会共和党の責任である。現在少数党の立場にある共和党は、オバマ政権の政策運営を徹底的に批判して、今回の中間選挙を有利に戦ってきた。しかし、議会で共和党の議席数が増加するに連れて、政策運営への責任を問われる可能性は高まってくる。とはいっても、共和党が単独で政策を実現できるわけではないので、勢い大統領との妥協を模索する力学が働くことになる。

三つのシナリオ

以上の二つの論点を切り口に、想定される選挙結果ごとのシナリオを考えてみよう。

第一のシナリオは、共和党が上下両院で多数党を獲得した場合である。このシナリオでは、対立と妥協で揺れ動く振幅の大きい展開が予想される。政権と議会多数党がねじれた形となるので、当然対立の機会は多くなる。オバマ大統領は民主党だけで法案を通す力を完全に失い、共和党も大統領拒否権を覆すだけの議席数は到底望めない。1994年に共和党が中間選挙で上下両院の多数党を民主党から奪った際には、当時のクリントン民主党政権と議会共和党の対立が、政府の一時閉鎖や大統領の弾劾裁判といった混乱を招いている。

一方で、前述の二つの論点を考えると、オバマ政権と議会共和党の双方で、妥協に動く力学が働くのも事実である。議会で民主党が多数党を失えば、大統領は党内左派に妥協の必要性を説明しやすくなる。党内左派に基盤を持つペロシ下院議長が退任を迫られると想定されることも、大統領の中道シフトを助ける可能性がある。一方の議会共和党も、上下両院で多数党を握ったとなれば、政策運営に追う責任は格段に高まる。実際に、前述の1994年の中間選挙後の展開でも、クリントン大統領と共和党議会は、福祉改革の実現や財政赤字の解消では妥協に漕ぎ着けている。

むしろ政策が行き詰まりやすいのは、民主党が辛くも上下両院で多数党を維持する第二のシナリオだろう。曲がりなりにも多数党である以上、オバマ大統領は議会民主党の意向を軽視するわけにはいかない。むしろ中道寄りの民主党議員が多く落選すると予想されるため、党内左派からの圧力が高まる可能性すら想定される。一方の議会共和党は、相変わらず少数党に止まったことで、政策運営への責任を相当程度回避できる状況が続く。大統領と議会共和党の双方にとって、妥協に動く力学が働き難い構図である。

先行きを読み難いのが、共和党と民主党が上下両院の多数党を分け合った場合である。この第三のシナリオでは、純粋に実務的な側面で、議会の立法作業が困難になる。米国で法律を成立させるには、上下両院が同じ内容の法案を可決する必要がある。両院を仕切る政党が異なれば、審議する法案やその具体的な内容、スケジュールなどを調整するのは至難の業となる。妥協と対立の力学が同程度に働くとしても、現実に妥協を実現させるには、実務的なハードルが高くなる。上下両院の各党指導部の強さや、妥協を可能にする「技術」が問われる展開となりそうだ。

ティー・パーティーを生んだ「病根」

以上の基本的な枠組みに加えて、今後の動向に影響を与える要因を二つあげておきたい。

第一は、2012年の議会・大統領選挙に向けた計算である。2012年の選挙では、再選を狙うであろうオバマ大統領のみならず、今回の選挙で勢力を伸ばした議会共和党も、それまでの実績を問われることになる。妥協を通じて政策面での実績を重視するのか、それとも、対立によって原理原則を前面に押し出すのか。選択を迫られるのは大統領も議会共和党も変わらない。

両者の力関係に影響を与えるのは、経済の先行きに対する見方だろう。2012年までに米国経済が力強さを取り戻せば、オバマ大統領に対する世論の支持は好転しやすくなる。議会共和党がこうした展開を予測するのであれば、いつまでも大統領批判を続けることにリスクを感じても不思議ではない。それでなくても、オバマ大統領の支持率は、議会共和党よりも高水準にある。議会共和党には、局面を選んで妥協を模索する力学が働こう。

第二は、ティー・パーティー運動の余波である。ティー・パーティーの支援を受けた共和党議員の誕生は、共和党指導部の議会運営を困難にする。「反中央」の機運が強いティー・パーティーの支持を受けた議員が、おとなしく党指導部に従うとは考え難いからだ。党指導部が大統領との妥協に動こうとした場合でも、ティー・パーティーが反旗を翻す局面は容易に想定できよう。

もっとも、共和党の混乱が妥協への道を閉ざすとは限らない。議会での立法は、究極的には数合わせの世界である。オバマ大統領が議会で過半数を確保するには、何も議会共和党を丸呑みする必要はない。大統領が一定の共和党票を取り崩そうとした場合、共和党の混乱はかえって好都合となる可能性も否定できない。

むしろ注目すべきなのは、共和党の内部混乱というよりも、ティー・パーティーを生んだ力学である。ティー・パーティーを生んだ草の根の動きには、2008年の大統領選挙でオバマ大統領を支えた草の根運動と相通ずる側面がある。具体的には、「既存の権力(エスタブリッシュメント)に対する下からの異議申し立て」としての存在である*

エスタブリッシュメント批判を生んだ大きな要因は、中間層の閉塞感だろう。言い換えれば、ティー・パーティー運動も、オバマ政権を支えた草の根運動も、「同じ病気(中間層の閉塞感)から発現した症状」として捉えることができる。米国では、金融危機が発生する前から、中間層の暮らし向きに閉塞感が強まっていた。象徴的な出来事が、2001年に始まった景気拡大期に、家計の中位所得が伸び悩んだことだ。こうした状況に対する不満が、2006~08年には左からの草の根運動を支え、今年の選挙では右からのティー・パーティー運動が巻き起こる一因となっている。

そうであるとすれば、今回のティー・パーティー運動を、「一時的な超右派の盛り上がり」として片付けるのは早計かもしれない。志向する政策の方向性にこそ違いがあるにしても、「中間層の閉塞感」という病気の根本的な治癒が進まない限り、「下からの異議申し立て」の圧力が続く可能性は認識しておく必要がある。さらにいえば、こうした圧力をエスタブリッシュメントがいかに吸収していくかが、今後の米国の政策運営の焦点になりそうだ。



*:ティーパーティー運動については、Kate Zernike, Boiling Mad: Inside Tea Party America (Times Books, 2010)、また、オバマ政権誕生に先立つ草の根の動きについては、Matt Bai, The Argument: Billionaires, Bloggers, and the Battle to Remake Democratic Politics (Penguin Press, 2007)が興味深い。

■安井明彦:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長