タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/11/17

アメリカNOW 第62号 2010年中間選挙におけるティーパーティーの実績と今後の展望  (池原麻里子)

中間選挙結果

選挙から一週間ちょっと経った11月11日時点で、共和党は下院で61議席(6選挙区は結果待ち)増やし、最終的にこの数字は63議席ほどになりそうだ。このように議席数が大幅に伸びたのは、同じく共和党が1938年に80議席、獲得して以来のことである。これで下院は共和党が240議席の多数党に転じ、民主党は189議席となった。一方、上院の結果を見ると、共和党は6議席増やして、47議席(注:アラスカは最終結果待ちだが、無所属の現職共和党議員リサ・マコウスキーが当選しても、共和党と行動を共にする)となり、53議席の民主党は多数党の立場を維持した。州レベルでも、共和党は知事を7州、州議会支配は20州で増やした。これには南部だけでなく、ウィスコンシンやニューハンプシャーの州議会なども含まれる。

民主党がこのように大敗したのは、2008年にオバマ大統領が勝った従来保守的な選挙区が、共和党支持に戻ったことが一因だ。また、出口調査によると、無党派が16ポイント差(55%対39%)で共和党支持に回った。これは2008年、52%がオバマ支持に回ったのが逆転した形である。

中間選挙における、有権者の最大の関心事は経済問題だった。89%は国内経済がひどい状態にあると感じており、その55%が共和党下院議員候補の支持に回った。またヘルスケア改革に象徴されるオバマ大統領と民主党議会の政策が行き過ぎであると反感を抱いている48%の有権者のうち、90%が共和党候補に投票した。しかしながら、これは決して共和党に対する全面的な支持表明でもない。共和党議員に対する不信感も強いのだ。その結果、ティーパーティー候補が躍進することになった。

有権者は2008年大統領選挙で変革を求めたが、中間選挙では変革を推進したオバマ政権と民主党議員たちに落第点をつけたのだ。議会が超党派で協調して政策を推進することを求めながら、そのような妥協を拒否するラディカルなティーパーティー公認候補たちを数多く当選させた。財政赤字の解決を求めながら、それに必要な税負担や政府サービス削減などを受け入れようとせず、全く矛盾しているのである。

ティーパーティー候補の当落

オバマ政権と民主党に対する反感、そして共和党に対する不満を象徴して、ティーパーティーは2009年から全米で活発に活動してきた。例えば、ティーパーティーはマサチューセッツ州上院議員補欠選挙でスコット・ブラウンをワシントンに送り込むことに成功した。ティーパーティーは小さい政府、均衡財政、個人の自由、保守的な憲法解釈を信念として掲げ、全米で集会やデモを展開してきた。彼らの過半数は55歳以上の白人男性で、福音派も多い。

今回の選挙において、全米規模で特定の候補たちに支持を表明したティーパーティー組織としては、FreedomWorks(本部:ワシントンDC)とTea Party Express(本部:カリフォルニア州サクラメント)がある。またティーパーティーの象徴的存在であるセーラ・ペイリンも、特定の候補に対して支持を表明した。この三者の支持対象は必ずしも一致しなかったが、三者のいずれかに支持された下院議員候補187名、上院候補26名の多くが当選した。これ以外にもTea Party Patriots (本部:アトランタ)、Tea Party Nation(本部:テネシー)が特定候補の支持活動を行っている。

セーラ・ペイリンが支持表明した候補を見てみると、62勝23敗の成績だ。その中でもスター的存在は次期上院議員のランド・ポール(ケンタッキー)とマーコ・ルビオ(フロリダ)だろう。これに対して彼女の支持した対象には、メディアでは注目されたが、総選挙では勝つのが難しそうな「資質に問題がある」候補がいたことも事実だ。その一番の例はデラウェア州上院議員候補だったクリスティーン・オドンネル。彼女はティーパーティーの支持により、共和党予備選で穏健派マイケル・キャッスル下院議員を破ったが、その後、総選挙では民主党候補との討論会で憲法に対する基本的な無知ぶりを晒すなどの失態を重ねた。

また全米が注目したハリー・リード民主党上院院内総務(ネバダ)をターゲットとした共和党候補シャロン・アングルも、その極右の思想などから、共和党エスタブリッシュメント離れが起き、リードの再選につながった。アラスカでは現職リサ・マコウスキー上院議員に対して、ティーパーティー候補ジョー・ミラーが共和党予備選挙で勝った。しかし、前者が「記名票候補」として恐らく当選したと思われるため、ミラーは訴訟を起こしている。

このようにペイリンが支持したが落選したティーパーティー候補たちの例を見ると明らかだが、彼らが予備選で負かした共和党エスタブリッシュメント候補が総選挙で戦っていれば、民主党候補に勝ち、共和党が上院も支配できた可能性も高い。したがって、一部の共和党関係者からはティーパーティーのせいで、上院を獲得しそこなったという批判も出ている。

ティーパーティーが何故、台頭したか

ティーパーティーがばらばらなグラスルーツ活動であるような印象があるが、実は一部の組織には大きなスポンサーがいて、「グラスルーツ活動」の展開方法を伝授している。特に元下院院内総務ディック・アーミーが代表のFreedom WorksはもともとCitizens for a Sound Economy(CSE)から派生して、Empower Americaと合併した組織で、CSE設立者はデイヴィッド・コッチである。デイヴィッドとチャールズ・コッチ兄弟はコッチ・インダストリーズという原油精製などで年間売上が1千億ドルある全米第二の規模の私企業のオーナーで、低税率と規制緩和を信念としている。チャールズ・コッチはリバタリアン系シンクタンク、ケイトー研究所の創設者でもある。デイヴィッド・コッチが5年前に設立したAmericans for Prosperity(AFP)という団体は、FreedomWorksと共にティーパーティーに活動資金を与え、活動方法を伝授してきた。

ティーパーティー支持者たちが熱烈に支持し、200万人の視聴者がいるトーク・ショー・ホストのグレン・べックは、去る8月28日、”The Restoring Honor”と称する集会をワシントンのリンカーン記念堂で主催した。セーラ・ペイリンも参加したこの集会のスポンサーはFreedomWorks等で、テーマは信仰、愛国心を扇動するものだった。マーティン・ルーサー・キング牧師が公民権活動で歴史的な”I have a dream”というスピーチを行った47周年目のことだった。参加者は87,000から50万人と言われているが、見渡す限り白人の波だった。

べックはオンラインで有料の「べック大学」において「正しい米国史」を教えているが、そこで推進されているのは、保守政治思想家でべックと同様モルモン教徒だったクレオン・スコウセン(1913-2006)やジョン・バーチ・ソサエティーの創設者ロバート・ウェルチの思想などである。そして、オバマ大統領が社会主義者であるとか、FRBが国民にアカウンタブルでないコングロマリットであるとか、外交評議会がメディア操作しているといった陰謀説を展開している。このようなデマゴーグは、自分たちがマイノリティーになりつつあるという現実を受け入れ難い白人男性の不安を煽いでいるのである。

今後の展望

さて、このような背景で当選した、あるいは一部は再選したティーパーティー議員たちは今後、連邦議員としてどのような活動を展開するのだろうか。FreedomWorksやTea Party Expressは新人議員を含む共和党議員向けのオリエンテーションを開催し、彼らの任務が「小さい政府」であるというメッセージを刷りこんでいる。
一方、下院のティーパーティー・コーカスの設立者で2期目のミシェル・バックマン下院議員(ミネソタ)は共和党内ナンバー4のポジションに立候補したが、すぐに脱落した。共和党の長老たちに対して挑戦することの難しさを象徴する出来事だった。ランド・ポールは上院でティーパーティー・コーカスを組織化するか、上下両院合同で連携をとる予定である。

マーク・ルビオを選出したフロリダのティーパーティー代表者ビリー・タッカー氏はヘリテージ財団で、「ティーパーティーはなくならない。メンバーを3、4倍増やす。新議員たちを腐敗しないように監視し、財政均衡、減税など実施させる」と、今後の抱負を語った。しかし、ティーパーティー議員たちが、例えば財政赤字解消案の一環として、地元向けの政府助成金誘導といった既得権益に挑戦し、成功を収めることができるのだろうか。昔から、ワシントンの腐敗を一掃すると公約して当選した新人議員たちは、数年するとその腐敗の一部になるのが常である。

セーラ・ペイリン
ティーパーティーの象徴的存在であるペイリンが、今回の中間選挙で支持した候補が当選するという一定の実績を出し、2012年大統領選挙に向けて、共和党にとってますます無視できない「危険な存在」となってしまったことに疑問の余地はない。共和党エスタブリッシュメントは、ペイリンは教育できないし、共和党大統領候補になった場合に当選できないことを懸念している。ABCニュースの世論調査によると、保守共和党支持者の間では55%がペイリンは大統領にふさわしい人物と考えており、ティーパーティー支持者の間ではこの数字はさらに高くなる。これに対して、有権者全体の数字は27%なのだ。すでに始動した大統領選挙活動だが、共和党にこれといって突出した候補がいないこともあり、野心満々のペイリンから目が離せない。



■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)