タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/6/8

ティーパーティ運動とソーシャルメディア 前嶋和弘

はじめに
2009年春からアメリカの政治の台風の目的な存在となっている、草の根保守運動のティーパーティ運動(Tea Party Movement)が急成長した理由の一つに、広範なソーシャルメディアの利用がある。ソーシャルメディアは、ミニブログ「ツイッター(twitter)」、SNSの「フェースブック(Facebook)」や動画共有サイト「ユーチューブ(YouTube)」など、比較的双方向でやり取りができるインターネット上のアプリケーションを総称した言葉である。2008年の大統領選挙でオバマ陣営は、公式ホームページ内のSNSを効果的に使い、組織作りからオンライン献金、投票呼びかけ運動(GOTV)まで、ソーシャルメディアを選挙運動に本格利用した *1。そのソーシャルメディアを様々な政治動員に応用したのが、ティーパーティ運動だった。本章では、まず、ティーパーティ運動そのものが非常に“ソーシャルメディア的な存在”であるという点を指摘した後、ティーパーティ運動が行った具体的なソーシャルメディアの利用方法を論じる。最後にティーパーティ運動におけるソーシャルメディア利用の今後について展望する。

I “ソーシャルメディア的な存在”であるティーパーティ運動
ティーパーティ運動は、発生から広がるまでの過程でソーシャルメディアの利用が大きな推進力となったほか、運動に集まった人々のタイプやそこで交わされる意見など、ソーシャルメディア利用者の特性との類似点が多い。ここでは、(1)運動拡大においてのソーシャルメディアの役割、(2)水平的な組織構造、(3)衝動に基づいた言説、(4)均質性の4点から、ティーパーティ運動が“ソーシャルメディア的な存在”である点について、論じてみる。

(1)運動拡大においてのソーシャルメディアの役割
運動の発生から拡大まで、ティーパーティ運動にはソーシャルメディアが欠かせなかった。運動そのものの発生がこの事実を雄弁に語っている。2009年2月19日、オバマ政権が発表した住宅差し押さえに窮する人々の救済措置に対し、シカゴ商品取引所でこのニュースを伝えたCNBCの金融レポーター、リック・サンテリ(Rick Santelli)が「“負け犬”を救うこんな政策が本当に支持されているのか、インターネットでレファレンダム投票してみろ」「資本主義を信じる人全ては、独立記念日にミシガン湖に集まれ!私がシカゴ・ティーパーティ運動を組織する」「デリバティブをミシガン湖に投げ入れよう!」と叫び、周りの取引関係者が仕事の手を休め、拍手喝采した。よく指摘されるように、この通称「サンテリの叫び(Santelli’s rant)」にティーパーティ運動は端を発するといわれている。

CNBCはケーブルテレビのビジネス専門チャンネルに過ぎず、実際にこの放送を見ていた人は非常に限られていた。しかし、放送がユーチューブにアップロードされ、政治スキャンダルサイトの「ドラッジ・レポート(The Drudge Report)」がこれを伝えることで、一気に火が付いた。「サンテリの叫び」についての話題がツイッターやフェースブックに掲載され、賛同者は全米に広がっていった*2 。たまたま「シカゴ・ティーパーティ(chicagoteaparty.com)」というドメイン名を持っていた保守派のシカゴのラジオプロデューサーが、「サンテリの叫び」をCNBCでみて、サンテリを支援するサイトを立ち上げたところ、「叫び」から12時間以内に4000人の賛同が集まったという*3

画像1:ユーチューブで配信されたCNBCの「サンテリの叫び(Santelli’s rant)」*4
   
「サンテリの叫び」以降の動きについては、既存の政治組織が意図的に協力して運動を広げていったのではないかという議論も運動の初期の段階から繰り返し指摘されてきた。いわゆる「人工芝(Astroturf)」説であり、自然発生的な「草の根運動」ではなく、玄人集団による選挙対策の「隠れみの」としてのティーパーティ運動を利用したのではないかという議論である。たとえば、「サンテリの叫び」の直後に、「フリーダムワークス(Freedom Works)」の選挙運動ディレクターのブレンダン・スタインハウザー(Brendan Steinhauser)と広報部長のアダム・ブランドン(Adam Brandon)らがサンテリを支援するウエブサイト(IAmWithRick.com)やティーパーティ運動のフェイスブックページを立ち上げ、運動の広がりを強力に支援したことも知られている*5 。また、前述のラジオプロデューサーも、保守的な活動家として知られる人物であることがリベラル系の政治ブログなどで指摘されていた *6

ティーパーティ運動で注目されるのが、たとえ既存の政治集団が「草の根の組織化」をしたとしても、それがオンラインを中心に行われた点である。特定の運動がオンラインで広がる段階で既存の組織がこれに目をつける「草の根の組織化」は、ソーシャルメディアを介した運動は今回が初めてではなく、2008年選挙のオバマ陣営の選挙運動でもオバマ陣営や民主党の既存の政治組織が、オンライン上に無数に現れた草の根運動を次々に組織していった。ティーパーティ運動においては、2008年のオバマ陣営を参考にし、さらに広範に「草の根の組織化」が意図的に進められた。

運動が広がる段階で前述の「フリーダムワークス」「アメリカンズ・フォー・プロスペリティ(Americans for Prosperity)」などの既存の団体が積極的に関与し、ティーパーティ運動を支援する様々なサイトやフェースブックのページを立ち上げ、運動の組織化を図った。その過程で、掲げられたティーパーティ運動の運動目標の「コントラクト・フロム・アメリカ(Contract from America)」の10カ条の選定にも「フリーダムワークス」を立ち上げたディック・アーミー(Dick Army)が関与している*7 。さらに、リベラル派の団体ACORNを陥れ、一躍時代の寵児となった保守活動家のジェームス・オキーフ(James O’Keefe)やアンドリュー・ブライトバート(Andrew Breitbart)らのユーチューブなどを駆使したオンライン暴露サイトでの活動も、ティーパーティ運動を大きく刺激した *8

ティーパーティ運動に参加した647団体の代表にワシントンポストが2010年10月に電話調査したところ、647団体のうち、半数の325団体は「フリーダムワークス」、「アメリカンズ・フォー・プロスペリティ」のほか、「ティーパーテイ・パトリオッツ(Tea Party Patriots)」、「ティーパーティ・エキスプレス(Tea Party Express)」「ティーパーティ・ネーション(Tea Party Nation)」などの全国規模の団体全国規模の団体と連携していた。中でも全体の32%にあたる208団体が「ティーパーテイ・パトリオッツ」と緊密に連携している。「ティーパーテイ・パトリオッツ」の運営にディック・アーミーが密接にかかわっているといわれており、既存の政治組織の「草の根の組織化」現象が顕著になっている *9

ただ、それでも調査を受けた半数のティーパーティ運動の団体は既存の政治組織との連携はない。また、647団体の代表の86%が「ほとんどの参加者は政治運動を行うのは初めて」と答えており、かなりの素人集団である。既存の政治組織が全国的な展開をしているのに対して、調査では「地元での活動が全て」とするのが51%、「地元での活動がほとんど」とするものが36%で、この二つを合わせると90%近くになる*10 。ソーシャルメディアなどを通じて人々が自然につながっていった手作り感が残っているというのもティーパーティ運動の特徴である。後述するように、ティーパーティ運動が独自の候補を擁立することもなく、運動の「顔」に対する認識もばらばらである。

自然発生的な広がりにしろ、既存の政治組織の「草の根の組織化」にしろ、ソーシャルメディアの利用が運動の中核にあったことは、ティーパーティ運動のユニークな部分である(ティーパーティ運動がどのようにソーシャルメディアを使っていったかについては、後述する)。

(2) 水平的な組織構造
ソーシャルメディアの場合、ツイッターでの「つぶやき」が典型的なように、基本的には同じ趣味や趣向の人々が横につながっていくことでオンライン上のネットワークが築かれていく。上下関係の構造があるわけではなく、双方向的なやり取りの中で人々の輪が広がる。このように、上意下達の情報伝達が主流である現実世界の組織とは異なり、オンライン上の政治運動のネットワークは「水平型」のネットワークの構築が特徴的である*11

ティーパーティ運動は様々な団体の運動の総称であり、核となる中央組織は存在せず、上意下達の命令系統が元々あるわけではない。既存の政治組織の「草の根の組織化」現象はあっても、ティーパーティ運動も基本的には「水平型」の構造であり、双方向的な横のつながりがティーパーティ運動を拡大させていった。

ソーシャルメディアで集まった人々は政治情報をやり取りすることで横の広がりの組織を作る傾向にあり、その中ではリーダーが不在となる。特定のリーダーがいないのもティーパーティ運動の特徴であり、これも水平的なソーシャルメディアの中での人間関係との類似点である。前述のワシントンポストの調査では、「ティーパーティ運動の顔」について、「特定な人物はいない」とするものが34%で圧倒的に多かった。これに続き、サラ・ペイリン(Sarah Palin)が14%、グレン・ベック(Glenn Beck)が7%、ジム。デミント(Jim DeMint)、ロン・ポール(Ron Paul)がそれぞれ6%、ミッシェル・バックマン(Michelle Bachmann)が4%だった *12。2010年選挙でティーパーティ運動は2010年選挙で自分たちの独自候補を擁立することはなかったが、これは組織がばらばらで、不可能だったという理由が大きい。
また、そもそもティーパーティ運動の団体や参加者がどれくらいいるのかも、実際には不明である。これも常に増殖しているソーシャルメディアの利用者の状況と重なる。ティーパーティ運動の団体数は全米で2800を超えるといわれているが、正確とは言えない。

(3)強い衝動に基づいた言説
ソーシャルメディアをクリックして、顔を合わせたこともないオンライン上の同志を作るのは、どんなきっかけがあるだろうか。もちろん、気軽に日常生活の趣味で新しいオンライン上のネットワークができることもあるが、人々を比較的短時期間に強く結び付けるには、何かに特定なことに対する深い興味や、喜びや怒り、憤り、恐怖、不安という強い衝動が不可欠である。日本を例にすれば、2011年3月11日の東日本大震災がきっかけとなり、ソーシャルメディアが日本社会の中で一気に利用が進んだ*13 。この背景に、地震、津波、放射線に対する恐怖と将来への不安があるのはいうまでもない。

ティーパーティ運動と言えば、「政府の市場介入制限」「小さな政府」を訴えた感情的でポピュリスト的な言説で知られている。2008年のオバマ人気がブッシュ前大統領や共和党多数議会に対する不満に支えられていたのに対し、2010年選挙のティーパーティ運動はそれ以上の「怒り」に基づいた運動であった。「サンテリの叫び」に代表されるように、「異議申し立て」を目指した保守派の怒りがティーパーティ運動の核にあり、不満や憤りがツイッターやフェースブックで保守派をつなげていった。オバマ政権が推進してきた大企業救済のための公的資金投入や医療保険制度改革に対する怒りを吸収しながら、ティーパーティ運動は急成長していった。

インターネットが選挙にどのように影響するかについての議論には、インターネットが政治や社会の変化をもたらすのに効果的であるという「変化仮説(change hypothesis)」と、既存の政治構造を強化する正常化(normalization hypothesis)」の2つの説がある *14。「怒りによる異議申し立て」がティーパーティ運動の行動基盤とするならば、ティーパーティ運動のソーシャルメディア利用は、変化仮説を強く支持するであろう。

(4)均質性
オンライン上は元々、様々な意見が交わされる民主主義的な場所であり、自由意志に基づき平等な立場で物事を論じることができるハーバーマスのいう「公共圏」的な存在である *15。情報へのアクセスやつながる人々のタイプも多様な選択肢が与えられている。様々な人々が自分たちの求める政策を追求し、ソーシャルメディアで双方向な意見を交わすことができれば、多元的な民主主義の実現に近づいていくはずである。

しかし、実際は非常に均質的な意見を持った自分の同志を求めてつながろうとするのがソーシャルメディアの現実である。これを「選択的接触(selective exposure)」という。自分の元々の政治的な傾向と一致する情報には積極的に接触する一方で、自分の立場とは食い違う情報は避ける傾向にある。保守的な人はラッシュ・リンボウ(Rush Limbaugh)の政治トークラジオ番組を好み、ケーブルテレビではFOXNEWSを好む*16 。リベラル派が好むMSNBCのレイチェル・マドウ(Rachel Maddow)の番組は避ける。オンライン上でも全く同じである。ブログ上でも選択的接触のため、自分の政治イデオロギーと同じ傾向のブログを好んで読む。ソーシャルメディアを利用する場合も自分と同じ政治的な情報には敏感であり、つながりを求める。一方、自分とは合わないタイプのツイッターの情報はそもそも興味を示さず、異なる政治的立場の人のフェースブックは読むことはしない。このようにソーシャルメディアは平等に政治的な意見を交わす場ではなく、極めて閉鎖的で自分の側の意見しか聴こうとしない党派性が高い空間となっている。このように、ソーシャルメディアは「選択的接触」の場に過ぎず、社会の断片化をもたらす可能性も指摘されている*17

ティーパーティ運動はまさに「選択的接触」が広げていった運動である。オバマ政権に対して怒り、国家の介入をできるだけ排除し、自ら下した判断には責任を負うというティーパーティ運動の理念に賛同した人々だけが集まっていった。前述のワシントンポストの調査ではティーパーティ運動に関連した87%が「共和党の指導部には不満足」と回答しているが *18、ニューヨークタイムズによると、2010年選挙でティーパーティ運動が支援した候補者は、129の下院候補者、9の上院候補者だったが、全てが共和党候補だった*19 。2010年選挙ではティーパーティ運動は予備選挙で同じ保守系である共和党指導部にも反旗を翻したが、運動が共和党に不満を持っているのは、共和党の中の穏健派に対してであり、保守の中の思想的対立に過ぎない。

均質性はイデオロギーだけに限らない。ティーパーティ運動に参加する人々のほとんどは白人である。ニューヨークタイムズとCBSが2010年4月に全米の881人のティーパーティ運動支援者に行った調査によると、白人は89%でアフリカ系やアジア系はわずか1%に過ぎない。年齢的には4分の3が45歳以上で、65歳以上も29%を占めている。男性が過半数を超えていた(男性59%、女性41%)*20 。似たような属性を持つ、同じ政治イデオロギーの人間がソーシャルメディアの中で知り合い、オフラインの集会で党派性の高い均質な意見を主張してきたのが、ティーパーティ運動の本質である。

II ティーパーティ運動が行った具体的なソーシャルメディアの利用方法
これまで論じたように、ティーパーティ運動の場合、運動そのものはソーシャルメディアの利用で急速に大きくなった経緯がある。ツイッターやフェースブックを積極的に活用して、オバマ政権の掲げていた医療福祉改革などを阻止する集会を全米各地で開いていった。では、どのように、ティーパーティ運動がどのようにソーシャルメディアを使っていったのか。ここでは、私自身も調査のために同行した2009年9月12日のワシントンで開かれた集会を中心に、少し具体的にふれてみる。

この集会は「納税者ワシントン行進(Taxpayer March on Washington)」)と呼ばれている。ティーパーティ運動にとっては初めての全国集会であり、運動の発展の経緯の中で非常に重要な1ページとなった。また、この集会を通じて、運動が全米的に認知されるようになった。参加者数については、ABCニュースが「6から7万人」、主催者は100万人から150万人もの参加があったとし、正確な記録はない*21 。この集会が注目されたため、翌2010年9月12日にも同様の集会が開かれた。

この運動がワシントンで大規模に行われることで。筆者も調査のために渡米し、行進に参加しながら、聞き取り調査を行った。9月12日当日は11時から2時間かけてホワイトハウス近くのフリーダムプラザに集合し、ペンシルバニア通りを東に向かい、連邦議会議事堂までの約1.5キロ弱を行進し、その後、議事堂の前で保守派のスピーカーが2時間ほど演説をすることになっていた。ただ、当日はさわやかな秋晴れで過ごしやすかったこともあり、早朝7時台からワシントン中心部から行進があちこちで始まったほか、演説が終わった後、夜暗くなるまでワシントンの中心部でオバマ政権を非難する言葉とともに行進が続いた。行進の流れは、隣接するバージニア州アーリントンあたりまで広がり、手作りのプラカードを持った参加者が練り歩いた。


画像2:2009年9月12日の「納税者ワシントン行進」。「(政府が失敗者を救済するのではなく)失敗者はそのまま落伍させろ」という看板が象徴的)(筆者が撮影)。

私自身の聞き取りは、午後6時の市内の地下鉄の車内から始め、夜8時過ぎまで行進をともにしながらメモを取り、計59人の参加者に話をうかがった。質問したのは、年齢や居住地など参加者の簡単な属性のほか、(1)ティーパーティ運動のこれまでの集会への参加の有無、(2)ワシントン集会を最初に知った情報源、(3)ティーパーティ運動を通じて、オンライン上で知り合った人物はどれくらいいるか、(4)運動を通じて何を訴えたいか、の4点を中心とした。

その中で、「ワシントン集会を最初に知った情報源」として、「ティーパーティ運動に初めて参加した」とする48人のうち、過半数以上を占めたのが、フェースブック、マイスペース、ツイッターなどのソーシャルメディアであった。一般的にはフォックスニュースや保守派のトークラジオの番組などこの集会を知った人が多いと考えていたが、ソーシャルメディアを活用して集会の存在を知った参加者も少なくなかったことが印象的だった。過去の集会に参加したことがある人は過去の集会からワシントン集会の情報を得ていた。

ウエストバージニア州から参加したトラック運転手のジョン・ウエーバーさんは「ツイッターでオバマ政権のやり方がどうしても納得できないと友人と何度も語りつくした。その議論を見守っていたツイッター仲間の一人にティーパーティの集会に誘われた」というアラバマ州からティーパーティ運動の集会に参加した、主婦のマーガレット・ハフさんは「Facebookで知り合い人たちと車に同乗してきた」と話していた。
聞き取り調査では、政治的な運動を初めて経験する人が目立っており、経験がない分、ソーシャルメディアからの情報が役立っているという声もあった。「メディアの情報はほとんどワシントン発。オバマ政権と結託して大きな政府になること狙っているようなものが多い。ツイッターなどの身近なメディアなら、任せておける。ワシントンのエスタブリッシュメントは本当に信頼がおけない」(アイダホ州から参加したジョシュア・ミラーさん)という指摘もあった。

行進に使ったプラカードなどの数々の小道具についての情報もソーシャルメディアを介して行われた。蛇を象ったティーパーティのシンボルマークをデザインした旗は全国的な組織である「ティーパーテイ・パトリオッツ」らが配布したが、例えば、オバマを『バットマン』のジョーカーにみなした合成写真やなどもフェースブックなどのソーシャルメディアを通じて、ティーパーティ運動の参加者に広く共有されていた(画像4参照)。「ジョーカーの合成写真はフェースブックからダウンロードした。税金を無駄に使うワシントンとは大違いで、全て手作りなのが、ティーパーティ運動の特徴」(ノースカロライナ州から参加したマイケル・フィリップスさん)、「プラカードの言葉はツイッターでのやり取りからヒントを得た」(フロリダ州から参加したジャスティン・ロウさん)という声もあった。

画像3、4:「おれたちを踏みつぶすな!(Don’t Tread on Me)」と書かれ、蛇を象ったティーパーティ運動のシンボルマーク(左)、:オバマを『バットマン』のジョーカーにみなした合成写真(右)は、フェースブックなどのソーシャルメディアを通じて、ティーパーティ運動の参加者に広く共有された(2009年9月12日に「納税者ワシントン行進」にて、いずれも筆者が撮影)

        

参加者の中には、FOXNEWSや政治トークラジオ番組をきっかけに集会に参加した人も多かった。ネバダ州から参加したジェニファー・マコーミックさんは「FOXNEWSでベックが挙げた9つの原則と12の価値に賛同して参加した。私のフェースブックにこの原則と価値を大きく掲げている」と述べていた。この集会に人々を導入するため、政治トークラジオホストのグレン・ベック(Glenn Beck)は、ラジオとケーブルテレビのFOXNEWSの自らの番組の中で「9.12プロジェクト(9.12 Project)」を立ち上げ、全米に行進の参加を呼び掛けていた。「9.12」とは、同時多発テロでの翌日の翌日の2001年9月12日を意味しており、ショックを乗り越えるためにアメリカが団結したことを思い出し、アメリカを「再発見しよう」という意味がある。さらに、「アメリカは善である」「神を信じ、紙が私の生活の中心にある」「いつも機能よりも誠実な人間になるように心掛ける」「家族は神聖であり、究極の権威は政府ではなく、妻と私にある」などの9つの原則と、「誠実」「敬意」「希望」など12の価値もこの数字に込めた意味であるという *22。ラジオとテレビで、この点を何度も繰り返していたベック自身が次第にティーパーティ運動と並び、反オバマの中心的存在として、大きく注目されるようになっていった*23

この参加者の例のように、政治トークラジオやFOXNEWSの情報をソーシャルメディアで流すケースも少なくなかった。また、ソーシャルメディアで知った情報を友人に伝え、運動が大きくなり、フォックスニュースなどの保守メディアが注目することで、運動はさらに拡大していくという流れもあった。このように、ソーシャルメディアと政治インフラとなっている既存の保守メディアとの相乗効果も目立っていた *24

これまで述べたように、ソーシャルメディアでつながった人々が、実際にオフラインでの運動にかかわっていくことで、ティーパーティ運動を雪だるま式に大きくさせていった。

オバマ陣営の選挙戦でもオンラインでの支援活動がオフラインでのオバマ支持につながり、オバマの支援活動が一種の社会現象となった。オンラインからオフラインの転換の流れが、ソーシャルメディアを使った運動の鍵であろう。

一方、うかがった中で、「運動を通じて訴えたいこと」は「医療改革の阻止」「小さな政府、財政健全化」「減税」などが多かった。このほか、居住地は南部が比較的多い点など、本章でも取り上げたワシントンポストやニューヨークタイムズなどの他の調査と似通った結果になった。ティーパーティ運動を通じて、オンライン上で知り合った人物の数は様々だったが、50人以上を挙げる人も多かったのが印象的だった(平均は37.6人だった)。




2009年9月12日の2009年9月12日の「納税者ワシントン行進」参加した人59人への聞き取り

(1)ティーパーティ運動のこれまでの集会への参加の有無


(2)ワシントン集会を最初に知った情報源


(3)ティーパーティ運動を通じて、オンライン上で知り合った人物の数


(4)運動を通じて何を訴えたいか(複数回答。1人2つまで)


(5)参加者の属性


「納税者ワシントン行進」を機に、ティーパーティ運動は組織をさらに拡大することになった。そして、2010年1月のマサチューセッツ州選出連邦上院議員補欠選挙での共和党のスコット・ブラウン(Scott Brown)の支持運動を通じて、ティーパーティ運動が選挙の動向を変える存在になるとして注目されるようになった。中間選挙の前哨戦となったこの選挙でも、ティーパーティ運動は、フェースブック、ツイッターを駆使した運動を行っていった。選挙の前の段階では、ブラウンは知名度も資金力もないほか、そもそも全米で最もリベラルな州であり、民主党の牙城であったマサチューセッツ州であったため、対立候補の民主党のマーサ・コークリー(Martha Coakley)が圧勝するとみられていた。しかし、選挙が近付くにつれ、対立候補のコークリー陣営が予想をしなかったような展開となった。ブラウンの支持運動は「ブラウン旅団(Brown brigade)」と呼ばれ、マサチューセッツ州だけでなく、支持運動は近隣の州や全米的に広がっていった。「ブラウン旅団」は、ブラウンのソーシャルメディア戦略担当であるロブ・ウイリングトンが、NING(SNS作成のプラットフォーム)*25 を利用したサイトの名前でもある *26

画像5: NINGで作成された「ブラウン旅団(Brown brigade)」のページ *27

ブラウンの支持運動が全米に広がっていったのは、ソーシャルメディアの場合、州外からの応援が容易であり、ティーパーティのネットワークと重なったためである。ブラウンへのオンライン献金も全米規模で膨らんでいった。このように、ブラウンが勝利したのはソーシャルメディアの力が欠かせなかった*28 。2010年1月のマサチューセッツ州選出連邦上院議員補欠選挙での戦術は、夏から秋にかけての共和党予備選でのランド・ポール(Rand Paul、ケンタッキー州)、クリスティン・オドネル(Christine O’Donnell、デラウエア州)らの選挙運動のモデルとなり、ソーシャルメディアを使った支援運動への人的動員やオンライン献金などで全米規模の運動が展開されていった。


III ティーパーティ運動におけるソーシャルメディア利用の今後
最後にティーパーティ運動におけるソーシャルメディア利用の今後について展望する。ソーシャルメディアの利用に先鞭をつけたオバマに対して、同じソーシャルメディアでティーパーティ運動は対抗する形になった。これは、皮肉であると同時に、現在のアメリカ政治の中にソーシャルメディアがいかに浸透しているかを如実に示している。

おそらく今後もティーパーティ運動とソーシャルメディアとは切っても切れない関係が続くであろう。既に論じたように、ティーパーティ運動は非常に“ソーシャルメディア的”な存在であり、運動が勢いを増したのも、ソーシャルメディアの力がなければありえなかった。

ティーパーティ運動関係者も運動の次の展開を支えていくのが、ソーシャルメディアのさらなる利用であることを強く意識している。「フリーダムワークス」の広報部長のアダム・ブランドンは「常に新しいソーシャルメディアのアプリケーションを準備し、運動を支えていく」と指摘している *29。また、ソウル・アリンスキー(Saul Alinsky)の様々な運動のノウハウがティーパーティ運動では実践しており、「アリンスキーの戦術をさらに、ソーシャルメディアに浸透させるかがこれからの課題だ」とブランドンは話している*30 。これまでのティーパーティ運動で頻繁に指摘されるのが、本来は保守派と対立する存在である左派系の住民運動の指導者でコミュニティ・オーガナイジングの父であるアリンスキーの運動戦略を参考にしてきた点である。具体的には、「運動の力は、対立相手がどのように思うかも重要である。参加者が少ない場合は人数を隠せ」「自分の陣営ができないことはするな」「対立相手よりも一歩先を進め」「対立相手を自分たちの術中にはめろ」「あざけりは効果的な武器」「自分の陣営が楽しめる戦略を進めろ」などの具体的なアリンスキーのノウハウを運動に応用してきた *31

「フリーダムワークス」を典型とする特定の既存の組織が今後もさらに、ティーパーティ運動という「草の根運動の組織化」を進めていくのは間違いない。「フリーダムワークス」関連の各種出版物の中でもソーシャルメディアを使った「草の根運動の組織化」の具体的な手法について、具体的に触れているものもある*32 。ブライトバートやオキーフらのオンライン暴露サイトなどを中心とした保守運動もさらに過激になる可能性がある。

一方で、ティーパーティ運動の中には、ワシントンのエスタブリッシュメントに対する反発も強いため、既存の政治組織によるソーシャルメディアを使った「草の根の組織化」に反発する傾向も出てくるであろう。ソーシャルメディア上での素人による手作りの連帯か、「草の根の組織化」のいずれかが強くなっていくのか、この点も今後の注目点の一つである。
一方、時間とともにティーパーティ運動の参加者も変化してきている可能性がある。例えば、ティーパーティ運動のプロフィールについての前述の2つの調査をみても、それはいえるかもしれない。2010年4月に行ったニューヨークタイムズとCBSの調査では、ティーパーティ運動支援者の出身地は、南部が36%、西部が24%、中西部が22%、北東部が18%と南部が多かった*33 。だが、同年10月にティーパーティ運動の団体の代表を対象に行った上述のワシントンポストの調査では、南部に集中しているという一般的な印象とは異なり、647団体の拠点も全米に点在している*34 。運動がより一般的なものに変質していくことで、これまでの「人種差別主義」的なレッテル*35 も次第に薄くなるのかもしれない。素人の手作り運動だったという意識も薄れていくであろう。

一般的なものに運動そのものが変質することはティーパーティ運動の今後にとっては肯定的な事実かもしれない。ただ、ティーパーティ運動がそもそもソーシャルメディアにおける「怒り」が突き動かした運動であることを考えると、一般的なものに運動に変質することは、「怒り」の対象がぼやけることも意味するかもしれない。その場合は運動としてのまとまりがなくなってしまい、かつての様々な第三政党の既存の政党(ティーパーティ運動の場合は共和党)の政策に飲み込まれてしまうであろう。その意味で、運動にとって、これ以上広がることは致命的になるかもしれない可能性すらある。いずれにしろ、ソーシャルメディアの継続的な影響力を占う意味でも、今後のティーパーティ運動の動向は見逃せない。


*1: 前嶋和弘「ソーシャルメディアが変える政治コミュニケ―ション:オバマの選挙戦をめぐって」、前嶋和弘『アメリカ政治とメディア:「政治のインフラ」から「政治の主役」に変貌するメディア』(北樹出版、2011)、138-155
*2: http://www.huffingtonpost.com/2009/02/19/rick-santellis-revolution_n_168286.html/ 
*3: Jonathan V. Last “Gonna Have a Tea Party Opposition to the Foreclosure Bailout Rises,” The Weekly Standard, March 9,2009 (http://www.weeklystandard.com/Content/Public/Articles/000/000/016/219pmhcs.asp/) ;「chicagoteaparty.com」というアドレスは2011年5月現在、使われていない。
*4: http://www.youtube.com/watch?v=zp-Jw-5Kx8k/
*5: Kate Zernike, Boiling Mad: Inside Tea Party America, (New York: Times Books), 40; 2011年5月現在、このアドレス(http://www.IAmWithRick.com/)にアクセスすると、2009年9月12日の「納税者ワシントン行進(Taxpayer March on Washington)」)の動向を記録したフリーダムワークス内のページ(http://www.freedomworks.org/petition/iamwithrick/index.html/)に転送される。
*6: http://nymag.com/daily/intel/2009/03/is_rick_santelli_part_of_the_v.html/
*7: http://abcnews.go.com/Politics/tea-party-activists-craft-contract-america/story?id=9740705/
*8: http://motherjones.com/politics/2011/03/james-okeefe-andrew-breitbart-videos/
*9: Tim Dickinson, “The Lie Machine" - GOP Operatives' Secret Campaign to Kill HCR,” Rolling Stone, (Sep. 2009)
*10: http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/tea-party-canvass/
*11: 前嶋和弘「米韓インターネット選挙と日本:変わる戦術、変わる政治」、清原聖子、前嶋和弘編『インターネットが変える選挙:米韓比較と日本の展望』(慶應義塾大学出版会、2011)、147-170
*12: http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/tea-party-canvass/
*13: http://www.imjp.co.jp/FileUpload/files/documents/release/2011/imjm20110404_2.pdf/
*14: James N. Druckman; Martin J. Kifer; Michael Parkin, “Timeless Strategy Meets New Medium: Going Negative on Congressional Campaign Web Sites,” 2002-2006, Political Communication, 27:1, 88 – 103,など
*15: ユルゲン・ハーバーマス(細谷貞雄 山田正行 訳)『公共性の構造転換: 市民社会のカテゴリーについての探究』未來社 1994年
*16: Natalie Jomini Stroud, “Media Use and Political Predispositions: Revisiting the Concept of Selective Exposure,” Political Behavior, 30 (2008), pp.341-366.
*17: Eric Lawrencea, John Sidesa and Henry Farrella, “Self-Segregation or Deliberation? Blog Readership, Participation, and Polarization in American Politics,” Perspectives on Politics (2010), 8: 141-157; Thomas J. Johnson, Weiwu Zhang, and Shannon L. Bichard, “Voices of Convergence or Conflict? A Path Analysis Investigation of Selective Exposure to Political Websites,”
Social Science Computer Review (Sep.14.2010)などを参照。日本のオンライン上での選択的接触の議論については、小林哲郎「見たいものだけを見る?:日本のネットニュース閲覧における選択的接触」清原、前嶋編『インターネットが変える選挙』(慶應義塾大学出版会、2011)、115-146が論じている。
*18: http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/tea-party-canvass/
*19: Kate Zernike, "Tea Party Set to Win Enough Races for Wide Influence New York Times, October 14, 2010
*20:http://www.cbsnews.com/htdocs/pdf/poll_tea_party_041410.pdf?tag=contentMain;contentBody/
*21: http://abcnews.go.com/Politics/tea-party-protesters-march-washington/story?id=8557120/、ただ、http://abcnews.go.com/Politics/protest-crowd-size-estimate-falsely-attributed-abc-news/story?id=8558055/
*22: http://the912-project.com/about/the-9-principles-12-values/
*23: ベックは「9.12プロジェクト」を発展させた翌2010年8月28日の「名誉回復更新(Restoring Honor Rally)」を企画し、この集会にも同じやり方で、ワシントンに多くのティーパーティ運動支持者が参加した。
*24: Jennifer Harper, “Online efforts boost Tax Day Tea Parties,” Washington Times, (April 16, 2009)
*25: ネットスケープの開発などで知られるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)が2005年にスタートさせたソーシャルメディアのプロジェクト。
*26: http://brownbrigade.ning.com/profile/ScottBrown/
*27: 同
*28: Sophia Yan(2010) How Scott Brown's Social-Media Juggernaut Won Massachusetts, Time, (Feb. 04, 2010)
*29: ブランドン氏への聞き取り。1月26日。
*30: 同
*31: Saul Alinsky ,Rules for Radicals, (New York,Vintage ,1989, originally published in 1971) ; アリンスキーの戦術については、アメリカ政治研究会(於:慶應義塾大学三田キャンパス)での渡辺将人氏(北海道大学)の報告「グラスルーツ政治をめぐる状況とティーパーティ」(2010年12月11日)が詳しく、参考になった。
*32: 例えば、Dick Armey and Matt Kibbe, Give Us Liberty: A Tea Party Manifesto, (New York, HarperCollins, 2010),200-210.
*33: http://www.cbsnews.com/htdocs/pdf/poll_tea_party_041410.pdf?tag=contentMain;contentBody/
*34: http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/tea-party-canvass/
*35: Amy Gardner and Krissah Thompson, “Tea Party Groups Battling Perceptions of Racism,” The Washington Post, (May 5, 2010)

■前嶋和弘:東京財団「現代アメリカ」プロジェクトメンバー、文教大学准教授