タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/12/12

アメリカ大統領選挙UPDATE 2:オバマの再選戦略(続):予断は難しい再選への『転換点』 (前嶋和弘)

もしかしたら2011年11月半ばからから12月初めにかけての3週間は、オバマ再選へのきっかけと流れが変わった転換点として後に記憶される時期になるかもしれない。

実際にこの3週間でオバマ再選の芽が膨らむような兆候がいくつもあった。

まず第1に、失業率が改善したのが大きい。12月上旬に発表した11月の雇用統計は、失業率が8.6%と前月比0.4ポイントと大きく改善した。この数字はオバマ政権発足直後の2009年3月の段階のレベルであり、雇用者数も14カ月連続でプラスが続く。失業率の数字は依然として高いものの、欧州財政危機やサブプライム問題がより深刻化する前の段階まで戻ったことは、景気回復を最重要とみるオバマ陣営にとって何よりも朗報である。消費の動向を占う感謝祭直後のブラックフライデーの商戦も活発であり、一気に景気回復に加速する可能性も出ている。景気のベクトルは、オバマ人気のベクトルそのものである。

第2に、大統領選の共和党指名争いの最近の状況、とくにここ3週間の状況はオバマ陣営にとって朗報といえるかもしれない。オバマ陣営は、ロムニーが指名を獲得すると想定しており、大統領上級顧問のデービッド・プルーフらが、日曜の朝の政治討論番組などに頻繁に登場し、ロムニー非難を繰り返してきた。しかし、共和党の指名争いの状況をみると、バックマン、ペリー、ケイン、ギングリッチと支持率の「フロントランナー」は8月から頻繁に入れ替わっており、ロムニーが最終的に指名を獲得しても、党内の支持は脆弱なことが露呈している。たとえギングリッチが勝ち残ったとしても、穏健派で本選挙では中間層を取り込めるロムニーよりも、過去の数々の政治倫理問題を抱えるギングリッチの方がオバマ陣営は「組みやすい」とみているはずである。さらに、12月初めにケインが撤退を決めたことで、「アフリカ系対アフリカ系」というアフリカ系が割れてしまう事態も想定する必要もなくなっている。

第3に、11月半ばにFECが公開した、2011年第三四半期(7月から9月)の選挙資金の動向もオバマに追い風となっている。同期にオバマ陣営は4082万ドルを集め、これまでの総額は8947万ドルを超えた。総額で2番目のロムニーが3221万ドルの2.8倍であり、共和党主要候補8人(ロムニー、ペリー、ポール、バックマン、ケイン、ハンツマン、ギングリッチ、サントーラム)を足しても約8353万ドルとまだ及ばない。さらに、オバマの場合、200ドル以下の小口献金が全体の半分近いのも2008年の選挙を彷彿とさせる。

潤沢な資金を背景に、オバマ陣営は2008年と同じように全米50州で勝利を目指す「50州戦略(fifty-state strategy)」を2012年に向けて急いでいる。既に全50州に選挙事務所を設けており、各事務所をテコにして、アイダホ州ボイジー、アラスカ州アンカレッジ、アーカンソー州リトルロックなど、これまでは共和党の金城湯池とされてきた地区を含んだフィールドオフィスの開設も夏から急ピッチで進めている。2004年にケリーがブッシュに負けたものの2008年にはオバマが勝利した9州(フリップ・ステーツ)のうち、インディアナ州を除き、全ての州(フロリダ、オハイオ、ノースカロライナ、バージニア、コロラド、アイオワ、ニューメキシコ、ネバダ)での勝利を陣営は目論んでいるほか、ラテン系やアフリカ系の支持を固めれば、アリゾナ州やジョージア州での健闘も可能とみている。

第4は、各種世論調査のデータをみると、オバマの支持基盤となる部分の離反が予想していたよりも限定的であるかもしれないという点がこの3週間で話題となった。11月21日から27日に行われたギャロップの調査ではアフリカ系の85%がオバマを支持しており、政権発足当時の86%よりは1%程度支持が下がっているものの、調査の際の誤差を考えると差はない。ギャロップをはじめとした各種世論調査を分析した「オバマの支持基盤が崩れていない」としたワシントンポストの11月29日付けの記事は、各種リベラルブログだけでなく、保守層の間でも大きな話題となっている。

ただ、上述の4点があっても、11カ月後の状況を予想するのは難しい。失業率の改善はオバマ陣営にとって朗報だが、アメリカ経済の回復状況は堅実とは言い難い。第2次大戦後、失業率が7%以上で再選したのは1984年のレーガンだけである。また、ギングリッチが指名を獲得した場合、これまでの「ロムニーシフト」を大きく変えなければならない。リベラル派メディアの批判をものともしないギングリッチの開き直りは見事である。6、7月には撤退も想定されたギングリッチが「復活」した背景に巧みな弁舌があり、これにオバマは真っ向から対抗しなければならない。

また、何といってもオバマに対する国民の信頼がどれだけ回復するかが未知数である。オバマの支持率は40%台前半といまだ不支持の方が上回っている。オバマ支持が社会運動に昇華した2008年の再現を望むのは難しく、アフリカ系など基盤となる支持層は、おそらく「共和党候補と比べればまし」という程度の理由でオバマを押しているのかもしれない。その証拠にギャロップの調査(11月21日から27日)では、オバマを熱心に支持した「リベラル」層や「若者」層(18歳から29歳)のオバマ支持はそれぞれ71%、47%と、政権発足時の83%、75%に比べれば、明らかに冷めつつある。また、ここ数回の大統領選挙で「勝ち馬に乗る」傾向もみえるヒスパニック系の場合、同調査での支持は51%と、政権発足時の74%から数字を落としている。また、オバマ陣営が自分の支持基盤に加えようと進めている「ウォール街占拠運動」については、反オバマといえるような動きも生まれつつある。というのも11月半ばから続く、警察の摘発にオバマ政権がゴーサインを出したのではないかという説があるためで、運動に深くかかわっている映画監督のマイケル・ムーアが政権を事あるごとに非難している。また、オバマ政権時代の国内政策の最大の成果である医療保険改革を最高裁は司法判断することを決めており、改革が違憲となった場合、再選を危うくする象徴的な出来事になりかねない。

この3週間が再選への転換点となるのかどうかは、全く予断できる状況ではないようだ。状況打開のため、オバマ陣営は中道からリベラルへと政策的なシフトを急いでいる。リベラル層の囲い込みだけでなく、再選のカギを握る中道の中でも比較的リベラルに近い部分からの支持を取り付けるのが狙いである。減税を中心とする共和党の経済政策を非難するオバマの演説にはさらに熱がこもりつつある。