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ワシントンUPDATE 「ダーバン会議の意義を問う」

December 19, 2011

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー

南アフリカのマイテ・ヌコアナ=マシャバネ外相は、国連の年次気候変動協議を締めくくるにあたり、「われわれは歴史的な偉業を成し遂げた」と主張したが、ダーバン会議の実際の成果はそれほど大きくはなかった。行動の強化に向けたダーバン・プラットフォームによって、気候変動への取り組みにおける国際協力の制度的な基盤が完全に崩壊することは回避されたものの、著しい意見の相違を残したまま、将来の協議の形式を維持しただけである。

ダーバンが奇跡を生み出したという声はほとんど聞かれない。コペンハーゲン会議と昨年のメキシコ・カンクン会議では、民主党の大統領とその議会であっても、温室効果ガス排出に対する拘束力のある制限を受け入れられないことが明らかになった。それ以来、世界の排出量全体の10%以上を占めるカナダ、日本、ロシアを含む京都議定書の重要締約国は、京都議定書の延長に乗り気ではなかった。ダーバンでは、これらの国がその立場を改めて確認した。

交渉の最も重要な成果は、もはや国際的な現実を反映していない「共通だが差異のある責任」という持続不能な原則が放棄されたことであった。1992年に署名された国連気候変動枠組み条約の要となる項目であった「共通だが差異のある責任」という考え方は、すべての国が温室効果ガスの排出削減に責任を負うが、先進国は歴史的により多くの排出を行ってきたゆえに、より重い責任を負うことを保証するものであった。

この考え方の当初の目標は、発展途上国を地球気候レジームに組み込みつつ、貧困国が経済発展の必然的な副産物である排出量を増やすことを容認するという妥協策を見出すことであった。それにもかかわらず、国際通貨基金(IMF)の推計で中国の名目国内総生産(GDP)が世界経済の2.01%を占めるに過ぎなかった1992年から、世界は大きく変化した。わずか5年後の1997年には中国経済は世界経済の3.14%を占めるまでに成長し、今後も急成長を続けることが予想されるようになった。米国上院は、発展途上国を除外することが、米国の参加のための基本的な障害であると明確に指摘したバード・ヘーゲル決議を95対0で可決し、京都議定書を批准しない意思を示した。

現在、中国のGDPは世界の10%に達しており、ダーバン会議の代表団が「法的強制力」を持つ新たな協定について交渉することで合意した2015年には12.26%に達する見通しである。今や、中国の温室効果ガス排出量は米国を超えている。それゆえ、中国を除外するいかなる合意が新たにどのように達成されたか、あるいは、どれほどの効果があるのかを想像することは難しい。インド経済はいまだに中国より小規模であり、成長率も緩やかだが、インドも同様に、世界の温室効果ガスに占める割合を急速に拡大している。ダーバンにおける重要な政治力学は、EUと貧困発展途上国が連携し、中国とインドに「共通だが差異のある責任」を放棄するよう圧力をかけたことであった。これに両国が従えば、米国代表団は、2020年までに発効する予定となっている拘束力のある新協定の目標を受け入れる準備ができていた。

しかし、2つの大きな問題が残されている。

第1に、気候変動がすでに起こっていることが次第に明らかになってきた。地球の平均気温は1.4 F?上昇し、ロシア北部では7 F?も上昇している。これがきっかけとなり、地球の気候システムには後戻りさせることが極めて困難な勢いがついてしまった。世界の海洋はそのほんの一部であり、合計約13億4,000万立方キロメートルの体積を持つ。この規模で変動が起こり始めれば、人類がそれを止める手立ては限られる。

第2に、ダーバンの取り決めは、気候が温暖化し、その勢いが増しているにもかかわらず、これから交渉することに合意したというに過ぎない。「共通だが差異のある責任」を放棄すれば交渉を進めることができるが、2つの根本的な問題は解決されない。すなわち、中国と米国の指導者は、どこまでの排出制限を受け入れるのか、である。

米国のトッド・スターン気候変動問題担当特使は、ダーバン合意の「対称性」に満足の意を表明したが、実際の米中のコミットメントについては交渉が行われなかった。さらに、オバマ政権が交渉に乗り出すかどうかは全く分からず、ロムニー政権あるいはギングリッチ政権ができたとしても、協議において米国の立場を決めるだけで終わる可能性もある。どちらが政権を握っても、米国議会が国内の気候法案を可決しなければ―それはまだ先のことと思われるが―新たな交渉においてもごく限られた柔軟性しか発揮できないだろう。オバマ大統領自身、2年前にコペンハーゲンで、国内の合意がないまま結果を出そうとして、この問題に遭遇した。

結局のところ、「共通だが差異のある責任」は、その良き意図にもかかわらず、気候変動に対する国際的な行動を遅らせる方向に作用したと言える。この遅れは最終的には致命傷になるかもしれない。米国上院は、20年前の1990年代であれば、中国への社会的懸念と気候変動への懐疑心が高まった現時点において、新協定で中国に提示される数値より低い数値を受け入れた可能性は非常に高い。さらに、オバマ政権の高官は、ダーバン・プラットフォームが協定ではなく「法的拘束力」を持った合意となることを喜んでいるかもしれないが、米国の大統領は、どのような形にせよ議会の決定なしに、米国の排出量を現実に削減することはできない。

エネルギー、経済成長、温室効果ガス排出のつながりを断ち切るか減じるための新しいエネルギー技術の開発に向けて迅速な行動を起こすことは、どの国がどのくらい排出量を削減するかを決めるために国際協議を重ねるよりも、はるかに喫緊の課題だ。この技術が商業ベースに乗る形で実現できれば、排出量制限をめぐるグローバルな交渉は不要となる。その技術なくして、排出制限をしたところで意味はないだろう。

■オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
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