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アメリカ大統領選挙UPDATE 3:各キャンペーンのメディア戦略(池原麻里子)

February 14, 2012

1.2012年共和党予備選挙のメディア戦略の特徴

これまでの予備選の過程におけるメディア戦略の特徴は、候補自身の選挙本部と、「スーパーPAC」という集金と支出が青天井の第三者団体が展開している内容のすみわけである。具体的には、候補自身は自身をアピールするポジティブなメッセージに専念することで好感度を維持する一方、スーパーPACはその支持候補の敵を攻撃するネガティブ・キャンペーンを展開してきた。特に費用がかかるテレビ広告をスーパーPACが担当していることも、候補にとって軍事資金のやりくり上、大変に望ましい結果をもたらしている。

スーパーPACは支持候補と直接に連携することを禁じられているが、サポートが絶妙に行われているのが現実である。スーパーPACのスタッフが候補の選挙活動に関わった経験があるためだ。例えば、ロムニー支持のスーパーPAC、Restore Our Futureはロムニーの元選挙アドバイザーたちが運営している。また、ギングリッチ支持のスーパーPAC、Winning Our Futureはギングリッチの元スタッフ2名によって運営されている。

アイオワにおいて、Restore Our Futureによるギングリッチ攻撃広告が、ギングリッチにダメージを与えたことは、党員集会結果から明らかである。この広告を制作したのはラリー・マッカーシーというベテランのメディア・コンサルタントだが、彼は1988年の大統領選挙で有名な「ウィリー・ホートン」広告を制作し、マイケル・デュカキス民主党大統領候補に大打撃を与えた人物である。ギングリッチ攻撃には、下院時代に共和党保守が敵視するナンシー・ペローシ民主党議員と協調したことや、連邦住宅抵当会社から得た多額のコンサルタント料といった問題が利用された。

12月27日付け地元紙デ・モイン・レジスターによると、候補とスーパーPACのアイオワにおける12月のテレビ広告費は1000万ドルだった。そのうちロムニーの広告費は111万ドルに過ぎなかったが、Restore Our Futureは285万ドルをネガティブ広告に充てた。アイオワで12月に費やされた全選挙広告費用の半分以上が、両者によるものである。これに対し、資金不足のギングリッチは476,000ドルしか出費しておらず、3種類の広告しか打っていない。

アイオワで人口二番目の都市シーダー・ラピッズで12月1日から1月3日に流された広告の分析を見れば、ギングリッチに対するネガティブ広告が際立って多いことが顕著である *1 。この大半がRestore Our Futureによるものであると考えられる。

ギングリッチがアイオワで惨敗した後、彼を支持するWinning Our Futureはサウスカロライナとフロリダで、ロムニーのベンチャー・キャピタル企業ベイン・キャピタル時代の企業買収と、それに伴う人員整理を攻撃する広告を打ち、反撃に出た。これはカジノ経営者夫妻からの1,000万ドルの寄付によって可能になった。短いテレビ広告のほか、28分のビデオがウェブで公開されている。

因みに両候補関連のネガティブ広告の費用と、広告におけるその割合は次の通りである(1月31日時点) *2 。この数字からもスーパーPACのネガティブ広告上の重要性が明白である。

ロムニーとギングリッチのこれまでのメディア経費の内訳は以下の通りである(1月20日FEC発表) *3 *4

より最新の情報によると、Restore Our Futureは12月8日から1月31日の間、1750万ドルをキャンペーンに費やしたが、うち1500万ドルがメディア戦略費用とのことである。それ以外にも、電子メール広告に102,582ドルが使われた。特にアイオワとフロリダにおけるテレビ広告は、ギングリッチ攻撃に有効だった。ロムニー自身は出馬して以来、メディア費用にわずか約1800万ドルしか使っておらず、長期戦になる場合、また本選に向けて活動資金が枯渇しないように準備することが可能になっている。

2.デジタル・メディア・コンテンツの台頭

2012年の選挙でのもうひとつの特徴は、以前にも増してデジタル・メディア・コンテンツが台頭したことである。テレビの生放送を観る時間は減り、録画番組を視聴する場合はCMは飛ばされるのが常だ。生放送を観ない傾向は特に若年層で顕著である。投票しそうな有権者の1/3がテレビ生放送は観ないし、映像を観る際にも45%が観ているのはテレビ生放送以外の内容だ。2012年のテレビ選挙広告は30億ドル市場と予測されており、依然としてメディア広告の最大の出資対象ではあるが、有権者がそれを観ているかは別問題なのである。

ピュー・リサーチ・センターの調査によると、選挙に関するニュース・ソースは以下のグラフのように変遷しており、地元TVや全米ネットワークに比べ、ニュース専門のケーブルTVの重要度が増した点、またインターネットの急成長ぶりが明らかである *5

選挙情報源の変遷


その結果、キャンペーン戦略もこれまで以上にデジタル・メディア経由で有権者にメッセージが届くよう工夫されている。例えば、Hulu(テレビや映画をオンデマンドで観れる有料サイト)やユーチューブでオンデマンドのコンテンツの視聴者に対して、30秒の選挙広告を流す手法もとられている。

有権者がテレビ生放送を観なくても、ウェブやモバイル・デバイスを通じて、毎月1億6500万人にアウトリーチすることが可能だとされている。因みにロムニーは広告予算の最低10%をデジタル・メディアに充てている。

フェースブックやグーグルもメディア戦略の対象である。ユーザーが候補のフェースブックにサインアップしたり、グーグルでサーチするというアクティブな行動をとれば、すでにその候補に対して関心があることは明らかなので、広告のターゲットとしては効率が良い。これは当然ながら、ネガティブ広告にも利用されており、例えばギングリッチをサーチした者に対して、ロムニー陣営がギングリッチのネガティブ広告を流すこともある。

これはメディア戦略というより支持者動員の範疇に入るが、フェースブックではユーザーの郵便番号によってその広告をターゲットできるので、候補がスピーチする場所に観衆を集めるのに有効である。また、モバイル・デバイスへのテキスト・メッセージというツールも活用し、選挙本部から候補が近くに来ることを連絡することも行われている。フェースブックやテキスト・メッセージを活用した支持者動員はオバマ・キャンペーンが2008年に有効活用した手段である。

各候補のウェブサイトにはフェースブック、ツイッター、ユーチューブなどのリンクが掲載されているが、その利用度はまだまだ大規模とはいえない。また、各候補のウェブサイトにはモバイル・デバイス専用にデザインされたバージョンも作られている。ツイッターや、フォースクエアというロケーション・ベースのモバイル・デバイス専用ソーシャル・ネットワーキング・サイトも利用されている。

各候補のツイッター、フェースブック利用者数(2月9日現在)

特定地区をターゲットとしたモバイル広告は新しい手法である。例えばステートフェアの半径2マイルを対象にモバイル広告を流すことが可能だ。その他の新し手法としては、携帯電話にテキストで電話番号が届き、その番号に電話すると特定候補のネガティブ広告が流れるという手法も見られた。

今後、デジタル分野における新たな手法がさらに開発され、デジタル・キャンペーンの重要度がさらに増していくと思われる。


*1 :http://kantarmediana.com/cmag/press/strategy-behind-political-ads?destination=node%2F4%2Fpress
*2 :http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/track-presidential-campaign-ads-2012/
*3 :http://www.opensecrets.org/pres12/expend.php?cycle=2012&id=N00000286
*4 : http://www.opensecrets.org/pres12/expend.php?cycle=2012&id=N00008333
*5 : http://www.people-press.org/2012/02/07/cable-leads-the-pack-as-campaign-news-source/?src=prc-headline

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