タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/2/14

アメリカ大統領選挙UPDATE 3:アイオワ、ニューハンプシャー現地報告(渡辺将人)

2012年共和党アイオワ州党員集会において、同州共和党委員の協力を得て、党員集会の準備と実施の過程にジョンソン郡アイオワシティ/コラルビルで参与観察した。また、各候補の動きをアイオワ州、ニューハンプシャー州において、とりわけポール派の動向を中心に調査した。以下、6つの特徴を抽出したい(特記のないものはCNNの出口調査に依拠)。

第1に、本選での勝利可能性を考慮に入れる投票行動(ロムニー支持層)と共和党の勝利可能性を犠牲にしてもロムニーを認められない「反ロムニー」の二層への分裂の顕在化である。ロムニー陣営は8月のアイオワ州のストローポールにもテントを出さず、アイオワ軽視と揶揄されてきた。サントラムと1位/2位の座を分け合ったものの「オバマに勝てる候補だから」という消去法的なロムニーへの支持理由はアイオワでは未だに根強い。ピューリサーチ調査ではアイオワの有権者の4分の1が「真の保守」を望むと回答しているが、その層の支持はロムニー1%、ポール37%、サントラム36%であり、「反ロムニー」票は保守派を中心に形成された。

第2に、サントラムがアイオワ重視策を早期から掲げて、候補者自ら足で稼ぐ選挙戦を展開していたことである。サントラム勝利の理由をアイオワの宗教保守票と「反ロムニー」だけに求めるのは、少なくともアイオワにおいては適切ではなかろう。アイオワ州は全米の指名争いプロセスの中で1番目という特別な地位にあり、これが有権者の判断に様々な影響を与えている。判断材料にする「既に終了した州の結果」がないことから、直前まで吟味して選ぶ、一見すると優柔不断に見えるアイオワ共和党員の投票行動につながっている。

また、ミニ集会的な場で候補者と至近距離で対話する機会が、アイオワではごく日常的に4年に1度めぐってくる。この贅沢な政治環境に有権者は甘やかされている。元上院議員でも、元州知事でも、アイオワでは地べたを這い回って、メディア取材が入らないような小さな集会にもくるべき、という考えが浸透している。「反ロムニー」票のなかには、アイオワをロムニーが軽視したことに対する制裁的な意見も混在している。他方、アイオワの全ての郡を回るという「全郡キャンペーン」を、夫人と子供を連れて家族で行ったサントラムには「アイオワに対する尊敬」への努力賞的な意味合いがあると、共和党州幹部は語る。2012年に指名が取れなくても、アイオワ州民とのネットワーク作りという点で、サントラムには大きな遺産を残した。

第3に、インデペンデント層の大量の参加である。アイオワでは23%のインデペンデントが参加し、民主党からも2%が参加した。アイオワのインデペンデントの43%をポールが獲得しており、「モデレートもしくはリベラル」と回答した有権者の40%もポールに入れている。筆者のインタビュー取材ではポール支持に反戦層などが混在している様子もうかがえた。他方、ニューハンプシャーでは有効票の45%がインデペンデント層で、ロムニーもインデペンデントの33%を獲得するなど、事実上ニューハンプシャーは共和党とインデペンデントの混合選挙となった。ハンツマンとポールは、共和党の支持よりインデペンデントの支持のほうが多かったほどである。

第4に、宗教右派の支持が直前まで態度保留とされたことである。アイオワ有権者の46%が数日前に投票先を決めたと回答しているが、その票の大半がサントラムに収斂している。12月以前にサントラムに投票すると決めていたと回答したのは9%に過ぎない。これは前々からの支持が堅固だが直前の支持の伸びが鈍いポール票と対照的である。バックマンとペリーが沈んだ後の宗教保守票がサントラムに流れ込んだ格好だが、これにティーパーティ票がかなり混在していることが現地インタビューでも多数確認された。

第5に、ポール派ではティーパーティ運動からの離脱徴候も見られることだ。ポール陣営アイオワ州ジョンソン郡委員長のランディ・シャノンは次のように述べている。「ティーパーティ運動の黎明期には、私も本当に興奮した。しかし、運動は変質した。後から参加してきた者が『私はティーパーティです、私こそティーパーティです』と叫ぶので、今や誰もがティーパーティみたいだ。ポール下院議員がティーパーティのオリジナルの創成者のひとりだった。しかし、現在ティーパーティと呼ばれているものはもはやポールが作り上げたものと異質だ。ティーパーティは乗っ取られた」。

他方、ポール支持層は、若年層によるネット利用などに特質があり、他州からの熱心な応援者も多く、ある意味ではオバマのキャンペーンに酷似している。候補者ポールの主張の過激さと同時に、支持者(ポール・ピープル)の性格に対する党内の嫌悪感がますますポール派を孤立させている。尚、ポール派支持者は党員集会会場で投票後に行われる、地区の委員選出会議に残り、その場でデリゲートに立候補することでポール派のデリゲート率を高める作戦を実行した。共和党内でポール派の影響力を高める、草の根の党内影響力拡張策の一環である。党員集会後の地区会議でどのように振る舞うべきかのトレーニングも、陣営オフィスでボランティア向けに行われていた。

第6に、アイオワ票紛失と勝者変更騒ぎの含意である。サントラムへの好影響は後続州で目立って生じていないが、ニューハンプシャー後のロムニーの勢いに「アイオワで1位ではなかった」という結果が水を差した徴候はサウスカロライナに表れているかもしれない。アイオワ党員集会の運営上の杜撰さは、アイオワ州がより予備選過程で重要視される民主党でも他人事ではなく、アイオワの全米1番目の地位にチャレンジする口実を各州に与えたのは事実であろう。アイオワ州共和党では、インデペンデントや民主党員が当日だけ共和党登録する制度の是非に始まり、郡レベルで各種制度改革案も提起されており、制度議論を加速化させるだろう。他方、問題の顕在化がポール支持者の問題提起から生じたという情報もあり、党員集会制度の改変を嫌う党委員や穏健派のポール敵視も増加させている。

アイオワ州共和党は、問題の責任をとって委員長が辞任したことを受け、新委員長を選出した。この新委員長にA. Jスパイカーというポール陣営アイオワ支部の副委員長だった人物が当選したことで、「ポールに地方の共和党が乗っ取られる」という危機感から、共和党が揺れている。ロン・ポール派は第3政党運動を立ち上げるよりも、共和党内で影響を拡大していく路線にシフトしている。ロンの息子であるランド・ポール上院議員の代までを見据えた「2世代キャンペーン」においては、ポール派が第3政党化してオバマ陣営に漁夫の利を与えれば、共和党内でポール親子は「原罪」を背負うことになり、ランドの党内出世を害する。ポール陣営は「現実的な判断」に傾倒しているようだ。