タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/6

ワシントンUPDATE  「ペルシャ湾に新たな戦争勃発か」

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー


 ペルシャ湾の緊張が高まりを見せている。この影響により石油価格は高騰、戦争が始まるのでは、との見方も広がっている。果たして中東で新たな紛争が起こるのか。

 イランにおける目まぐるしい展開に、多くの懸念が寄せられている。この数週間を振り返ってみても、米無人偵察機を撃墜、捕獲したことにはじまり、イラン系アメリカ人の元海兵隊員をスパイ容疑で逮捕し死刑を宣告した。さらには地下施設でのウラン濃縮を「間もなく」開始するとの発表があった。重要な戦略拠点であるホルムズ海峡の閉鎖もちらつかせた。対する米国は、イランに対する新たな制裁を導入し、同制裁案への協力を仰ぐべく、ティモシー・ガイトナー米財務長官を世界各国に派遣した。メディアが大きな関心を寄せた動きとして(ペンタゴンは重要視していないが)、現在アラビア海に2隻の空母を配備しているとの発表が米軍からあった。また、イスラエルは、米軍最高司令官マーティン・デンプシー統合参謀本部議長が会談目的で同国を訪問する予定であることを明かした。イランは、テヘランで最近発生した自動車爆破による核科学者死亡事件についても、イスラエルと米国を非難している。

 イラン国内および周辺部での動きは今後さらに加速すると予想され、一見すると、新たな戦争を不安視する声が上がるのも無理はない。しかし、戦争の可能性は捨てきれないものの、今後数カ月間に米国がイランを攻撃するとは考えにくい。これにはいくつかの理由がある。

 オバマ政権は、ブッシュ前政権に比べ戦争に対して非常に消極的な姿勢を取っている。同政権は、イラクおよびアフガニスタンでの戦争終結を最優先課題としてきた(米軍兵はイラクからの撤収を完了した)。確かにオバマ大統領は、カダフィ政権打倒を目指しリビアを攻撃したが、その姿勢は比較的慎重であった。アフガンへの増派についても同様で、限定的な動きに留まった。ブッシュ前政権以上に深い関与を示しているパキスタンへの無人機爆撃についても、米国軍兵士を危険に晒すことなく、比較的低費用で行われている。(ただし、これにより米パ関係は大きく悪化し、その意味では米国部隊の命を危険に晒していると言える。)

 こうした形の武力行使の背後にあるのは、国内問題重視というオバマ大統領の決意であろう。また、左派、右派問わず(特に共和党大統領候補ロン・ポール氏の支持層の間では)、多くの米国人が戦争にうんざりしているという認識を踏まえたものと考えられる。オバマ大統領が掲げた野心的な国内問題対策案は、財政的にも政治的にも費用がかかることから、同大統領は、米外交政策費についてその両面について制限を設けようとしている。イランとの戦争は、同政権が削減を図っている国防予算を上回ることになるばかりでなく、他分野での協力が今後必要となる民主党支持層の多くを敵に回すことになるだろう。選挙イヤーに戦争という事態になれば、11月の選挙において、本来取り込めるはずの多くの無党派票を失う可能性がある。

 さらに、同政権は、イランとの戦争が石油価格の高騰を招く可能性があると見ている。すでに不況にあえいでいる米経済にとって更なる痛手だ。米国は、一日に100万バレル以上の原油及び石油製品を輸入している。つまり、石油価格が1バレルあたり1ドル上昇した場合、企業や消費者には、石油の輸入だけで一日あたり100万ドル以上の負担増になる。また、イランとの戦争により、石油価格は150ドル/バレルまで上昇するとの説もある。1バレルあたり40ドルの価格上昇となれば、米国の消費量の約半分程度に過ぎない石油輸入に対して、一日あたり40億ドルが米国経済から流出することになる。ワシントンポスト紙に掲載された米エネルギー情報局の分析によれば、1バレルあたり20ドル石油価格が上昇すると、米国GDP成長は0.4%低下するという。こうした点を踏まえた場合、失業率が8%を超えているような時期に、ホワイトハウスが最大0.8%、あるいはそれ以上の成長低下を招くようなリスクを進んで冒すだろうか。

 ホワイトハウスがそうした動きに出る可能性は低い。特に現在、イランへの制裁が同国経済に大きな打撃を与えつつあり、指導者を慌てさせている状況である。同制裁によってイランを核兵器開発計画中止にまで追い込めるかどうかは全く定かではないが、テヘランは実際、経済的圧力を受けている様子である。日本や欧州の米同盟国が、程度の差こそあれ、イランからの原油輸入を制限し制裁への支持に合意したことを受け、イラン中央銀行は昨年末、大幅な通貨切り下げを実施した。こうした行動の中には、すぐに効果が現れないものもあるが、すでに市場には影響が現れている。よって、今後イランが非常に挑発的な行為に出ない限り、オバマ政権は静観の構えを取り、新たな制裁が実行される中、事態の推移を見守っていく可能性が最も高い。

 勿論、イスラエルがイランとの戦争を検討しているかについてはまた別の問題であり、予測は不可能である。とはいえ、ベンヤミン・ネタニヤフ首相とオバマ政権との関係は決して良好とはいえない状況であり、イスラエルがイランに対し単独攻撃に出た場合、米国からの軍事的・政治的支援は当てにできないだろう。イスラエルがそうした行動に出た場合、石油価格は上昇し、さらに選挙イヤーの米国に、より大きな経済的影響が及ぶ可能性がある。さらに、テヘランがこれ以上危険な行動に出ない場合、イスラエルへの支援は、同地域およびグローバルにおいて(とりわけ中国やロシアとの交渉において)、ワシントンは大きな外交上の損失を負うことにもなりかねない。イスラエルの指導者は、こうした米国の国内面、国際面での計算ぶりについてはよく分かっており、この点について明らかに認識している。

 イランに関して言えば、テヘランが実際に核兵器の開発を決断した場合、または実際に核弾頭の組み立てまでは行かずとも核兵器製造能力を開発すると決断した場合、最も合理的な道筋は、戦争をできるだけ先延ばしにすることである。わずか1~2年後には敵国に対する抑止力を手に入れ、より強い立場に立てるのに、今イランが戦争を唱える理由はあるだろうか。莫大なリスクを勘案すると、自殺行為以外でそれでも戦争を選択する唯一の理由として考えられるのは、さらに大きな脅威-例えば、攻撃が目前に迫っている状況や、現政権の差し迫った崩壊-を未然に防ぐため、ということになろう。この視点から考えると、米国やその同盟国、パートナー諸国は、非常に困難な課題に直面している。つまり、イランに対して、現在の行動を改めるよう十分な政治的、経済的、軍事的圧力をかけ続けながらも、イランの指導者がもはやこれまでと自暴自棄的な選択をするまで追い込んではならないのだ。

 イランが核兵器にこだわり続ける限り、ペルシャ湾は不安定な状況が続き、戦争の可能性もひとつの可能性としては捨てきれない。しかし、戦争は、関係国全てに損失をもたらす。また、緊張の高まりが見られるのは事実だが、それはメディア報道に起因する場合も多く、戦争は決して不可避な状況ではない。残念ながら、イラン周辺国その他はしばらくの間、こうした緊張感、不安定感を耐えていかなければならないだろう。

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