タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/5/10

アメリカ大統領選挙UPDATE 5:「ようやく決着がついた共和党予備選挙」(池原 麻里子)

スーパーチュースデーも含め、3月と4月には多くの党員集会と予備選挙が実施されたが、最有力対抗馬だったサントラム元上院議員が4月10日、更にはギングリッチ元下院議長が5月2日に共和党候補指名争いからの撤退を発表したことで、ロムニー前マサチューセッツ州知事が同党大統領候補に指名されることが確実になった。共和党の候補指名にしては例年になく混乱を極めた後、やっと決着がついたのだが、早くも共和党の一部では、誰が2016年の共和党大統領候補になるべきかという議論が始まったという。なぜなら、共和党側から見て、オバマ大統領の最大の弱点と言える異質性、医療保険改革の2点について、モルモン教徒、オバマ政権の医療保険改革のモデルになったマサチューセッツ州における改革という同じ問題を抱えるロムニーでは勝てないというあきらめムードが浸透しているというのである。(因みに2016年候補として名が挙がっているのは、今年の大統領予備選挙で期待されながら出馬しなかったクリス・クリスティー・ニュージャージー州知事やジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事と言った面々。)

この弱気は当然ながら表面化はしていないが、例えば保守コメンテーター、タッカー・カールソンがワシントンのリバタリアン系シンクタンク、ケイトー研究所でロムニーでは勝てないと考える保守派を代表する発言をしている。世界史上、医療保険を強制する法律に署名したのは2人しかいないが、その一人はオバマ大統領でもう一人は対抗馬ロムニー、米国民3億1500万人の中から共和党はオバマ医療保険改革を批判できない候補を見つけてしまったと。再選を目指す現職大統領への挑戦が一般的に対抗馬にとって不利であることや、経済が多少回復基調にあること以外に、予備選過程でロムニーの弱点が暴露されたことも関係者にとっての不安要因である。それはオバマ大統領との違いを明確に表す一貫したメッセージを形成できていないこと、庶民感覚の欠如、生真面目で親近感を抱かせることができないなどの点である。

ここで、サントラム、ギングリッチ撤退の理由、3月と4月の党員大会、予備選挙の主な点についてまとめておきたい。

サントラムとギングリッチ
まず、サントラム。2月に著しい飛躍を遂げた後、最有力の非ロムニー候補として、急浮上した。しかし、4月3日のウィスコンシン予備選ではロムニーの44.1%に対して、サントラムは36.9%の支持しか得ることができず、ロムニーにほぼ7ポイントの差をつけられてしまった。サントラムにとってこのウィスコンシン選は、出身地ペンシルバニア州の予備選(4月24日)での勝利につなげるためには不可欠だった。が、ウィスコンシンで敗北したため、選挙資金は急速に枯渇した。

一方、ロムニーはペンシルバニアでも豊潤な選挙資金を使い選挙広告を打ったため、支持率が上昇。ペンシルバニア選出の上院議員を二期務めた後、再選を果たせなかった苦い過去があるサントラムは、資金不足から再び地元で敗れる可能性に直面し、撤退を余儀なくされたのだった。結局、11州で勝利を遂げ、獲得した代議員は259人という成績で撤退した。

撤退声明では難病を抱える末娘(3歳)の入院が表向きの理由として挙げられたが、4月3日の敗北後、献金が途絶え、支持者たちから「勝負は決まった」と撤退を促す声が届いたとサントラム自身が語っている。

サントラムは撤退声明記者会見でも、その後も現在に至るまでロムニーに対する支持を表明していないが、その理由については色々、憶測されている。
・サントラムの支持基盤となった保守の支持を得るための真摯な姿勢を示すこと。サントラムのアドバイザーを取り込むこと。
・90万ドルの負債解消を支援してもらう:これは2008年の民主党予備選でヒラリー・クリントンがオバマ陣営に要請し、オバマ側が支持者に支援を求めたという前例がある。
・共和党全国大会に於ける大きな役割をオファーし、保守アジェンダを取り入れる:大会のゴールデン・アワーでのスピーチの場を与えてもらうこと、中絶禁止などを政策課題に取り入れてもらうことなどが考えられる。

5月4日にはロムニー側の要請でサントラム撤退表明後、初めて両者の会談が開かれた。そこでサントラムはロムニーに避妊問題、医療改革、国防、そのほか社会問題について社会保守、ティーパーティー保守、ブルーカラー保守の声を反映させることを求めたとされているが、具体的にロムニー側が何を約束したかは不明である。今後、1、2週間内にサントラムはロムニーに対する支持を表明するとのことである。

さて、ギングリッチも結局、選挙資金不足で撤退した。3月末時点で430万ドルの負債を抱えたが、これは2月末時点の負債150万ドルより、さらに増えている。3月には160万ドルの寄付があったが、200万ドルを費やした。アイオワやフロリダ選でロムニー側が自分に対して徹底的に攻撃したことを不快に思っているギングリッチも、ロムニーに対する支持表明は行っていない。ギングリッチは非オーソドックスな政策提案を掲げ、彼独特のスタイルの選挙活動を展開してきたわけだが、結局、空回り。地元ジョージアとサウスカロライナ2州で勝つ以外に支持を拡大することはなく、代議員数137という結果に終わった。

サントラムもギングリッチも、ロムニー陣営からのネガティブ・キャンペーンや討論会での容赦ない攻撃を今でも苦々しく思っている。一方、ロムニー側にしてみれば、彼らの撤退声明はあまりに遅過ぎ、その支持基盤も限定的であることがわかったため、何らかの譲歩をしてまで、彼らの支持表明を得ようという興味はないとされている。

スーパーチュースデー以降の3、4月党員大会、予備選挙の主なポイント
3月10日カンザス党員集会、3月13日アラバマ、ミシシッピ予備選挙、24日のルイジアナでは、福音主義者、キリスト教再生派、社会保守の支持によってサントラムが勝ち、南部での強さを示した。(ミシシッピについてはサントラムが32.8%、ギングリッチが31.2%、ロムニーが30.6%の票を集めたが、代議員数についてはスーパー代議員2人の支持によって、ロムニーが14、サントラム13、ギングリッチ12)。

ロムニーにとっては、3月20日のイリノイ選での勝利が大変に重要だった。ミシガン(2月28日)やオハイオ(3月6日)では接戦の末、辛うじて勝ったが、北東部以外で大差をつけて勝てる候補であることを証明する必要があったからだ。そして、大金と時間を注いだ結果、イリノイでもフロリダ以来、初の大勝利を果たすことができた。その勝利に至るまでの過程ではスーパーPACによる他候補に対するネガティブ・キャンペーンが功を奏したことは言うまでもない。

サントラムは彼の支持基盤である福音主義者、地方の有権者、保守以外に支持を広げることができなかったことが敗因となった。また年収5万ドル以下というロムニーが支持を得るのに苦戦していた有権者層についても、両候補がほぼ二分する形となり、ロムニーが好戦する形となった。

イリノイで大敗したサントラムはウィスコンシンに賭けていたが、ここでも大敗したため、撤退の追い込まれたのは前述の通りである。

サントラム撤退表明後の4月24日の5州に於ける選挙では、ロムニーが予想通りに勝ち、
1,144という候補指名のマジック・ナンバーに更に近づいた。ロムニーにとっては、5月中旬から下旬にかけてのサントラムが有利なウェスト・バージニアやケンタッキーといった州における選挙前に、4月中は自身が優勢な北東部での選挙が続いたことが幸いした。

スーパーチュースデー以降の4月末までの党員大会、予備選挙結果*1
(カッコ内は代議員数)


予備選挙プロセス見直しの動き
これまでの予備選挙過程を経て、共和党は再びルール見直しを行っている。予備選挙は致命傷を与えずに候補をテストし、十分な時間をかけてベストの候補を選択する必要がある。そして、短期間に資金力豊かな候補が勝たないように配慮すると同時に、長引いた過程で候補たちが本選挙で資金難に陥らないようにバランスを取らねばならない。

2012年については4州が早期に選挙を実施し、それに違反した州は代議員を半数失うという罰則を科すというルールで、党はその対応をしたつもりだった。が、実際には他に5州が決められたより早めに選挙を実施し、影響力を行使してしまった。例えば、フロリダは勝者総取りだったため、代議員が半数という罰則を科されても、ロムニーはアイオワとニューハンプシャーの合計より、多くの代議員を獲得できたのだ。

党の規則委員会は、全州に勝者総取りではなく、比例配分にすることを義務付け、また州の共和党に対するコントロールも厳しくすることを検討している。この新ルールは夏の党大会で採択されることになる。

なお、2008年の民主党予備選挙はヒラリー・クリントン対バラック・オバマの壮絶な長期間にわたる争いで、オバマは本選挙に向けて、より強い候補になることができた。しかし、今年の共和党予備選挙ではロムニーの弱点ばかりが露出してしまい、必ずしも彼がよりよい候補になれたわけではない。特にサントラムによる風見鶏とか庶民感覚に欠ける金持ち、そして医療保険改革推進者といったロムニー攻撃は、彼の弱点を鋭く突いた批判であった。

ロムニーの今後の課題
まず、共和党基盤に対して勝てる候補であることをアピールする必要がある。この観点から、ロムニーはトーク・ラジオやフォックス・ニュースなどの保守メディアに出演したり、オピニオン・メーカーや活動家にアピールする活動を展開している。これは通常、予備選挙が終了した時点で中道寄りになって本選挙で戦うというパターンをロムニーが取り難いことを意味している。当然ながら中道、無党派層の支持を得ないことには本選挙で勝てないのだが、ロムニーの場合、まだその支持を確保できていない保守層からの信頼を固め、活性化するためにも、彼らを見捨てるような行動は取り難い。ロムニーではなくサントラムが文化的、経済的な不安感の受け皿となったことを忘れるわけにはいかない。50歳以下の独身女性の支持離れが際立っており、ロムニー夫人を活用するなどの手段による女性へのアピールも必要である。

ロムニーが保守への気配りをせざるを得ないことを象徴する事件が最近、起きた。辞任に追いやられた外交政策顧問リチャード・グレネルのケースである。グレネルはジョン・ボルトン国連大使(当時)の補佐官を務めたこともある筋金入り保守なのだが、ゲイであることを公表している人物だ。彼が4月中旬にロムニー陣営に参加した途端、アメリカン・ファミリー・アソシエーションをはじめとするキリスト教右派がロムニー陣営を猛批判。そのため、選挙本部はグレネルの活動を抑制してしまい、それに不満を抱いたグレネルはチーム入りして僅か数週間で辞任してしまった。ロムニー陣営がキリスト教右派との対決を避けたいがゆえの結末だった。

予備選挙で明らかになったロムニーの弱点については前述したが、何よりも「自分ならアメリカを現状から救済できる」という自信と希望を反映するメッセージを浸透させることが今後の最優先課題となる。副大統領選びという重要課題もあるが、本選挙に向けてのポイントについては細野氏論考をご参照いただきたい。


*1:http://www.politico.com/2012-election/delegate-tracker/