タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/5/10

アメリカ大統領選挙UPDATE 5:「本選挙に向けた注目のポイント──共和党ロムニー陣営はどう戦うか」(細野 豊樹)

サントラム候補が突然の予備選挙退出声明を4月10日に行い、25日にはギングリッチ候補もこれに続いたことで、ロムニーが共和党の大統領候補に指名されることが確定した。これを受けてメディアの関心は本選挙に向けた展望に移っている。今回のコラムでは、来る本選挙を見通すいくつかのポイントを、ロムニー陣営に焦点を当てながら提示してみたい。

2012年の大統領選挙は接戦だという点で、識者の分析は一致する。そして僅差の一進一退の攻防は、15にも満たない一部の激戦州に集中し、かつ、態度を決めかねている一握りの有権者の争奪という形で展開されると予測される。

過去20年間の大統領選挙においては、「ブルー・ステーツ」(民主党常勝州)および「レッド・ステーツ」(共和党常勝州)が選挙人総数の6割前後となっている。そこで、これら勝ち目の無い州は最初から捨てるのが、最近の大統領選挙の定石である。限られた選挙資金と人員は、選挙人総数の残り4割程度を占める州の中でも、特に伯仲の激戦州に集中投入されるであろう。最新のCook Political Report(4月24日)は、コロラド、フロリダ、アイオワ、ネヴァダ、オハイオ、ペンシルヴェニアおよびヴァージニアの7州を「優越付け難い」(toss-up)のカテゴリーに分類する(選挙人101人)。同リポートは、さらに5州を「民主党やや優勢」(選挙人45人)に、2州を「共和党やや優勢」(選挙人19人)などとしている*1 。『ワシントン・ポスト』および『ニューヨーク・タイムズ』が挙げる9つの激戦州も、概ねこれと符合する*2

共和党および民主党の選挙戦略は、これらの激戦州でどう勝つかに集約される。それぞれの州の特性を考慮しながら、せいぜい1割程度の態度を決めかねているswing voters(「浮動票」に近い用語)を狙うか、あるいは両党のコアな支持基盤の投票率を上げるかが、選挙戦術の基本となる。

アメリカの国政選挙の投票率は、先進国の中では低く、大統領選挙の年でも約5割にとどまる。このため支持基盤の投票率において敵陣営に差を付けることができれば、勝利の可能性が高くなる。2004年選挙のブッシュおよび2008年選挙のオバマは、支持基盤の組織的な動員で勝った*3

共和党のロムニー陣営の悩みは、党内支持基盤の一大勢力である宗教右派の信頼を得られていないことである。共和党支持が多い宗教右派の有権者の多くは、オバマに投票しないであろうが、棄権する可能性はある。そこで、2008年選挙のマケインのように、副大統領候補は党内右派が支持できる候補を選ぶという、強い党内圧力が生じる。2012年選挙におけるキリスト教右派のロムニー・アレルギーは、2008年の比ではないだけに、注目のポイントである。

しかし、党内融和を優先してティー・パーティーやキリスト教右派が熱烈に支持できる副大統領候補を選んだ場合、穏健派の女性票や支持政党なしの票が逃げてしまうリスクがある。ロムニーは、女性票に弱いというのが、最新のギャラップ調査などの分析である*4 。つまり、こちらを立てればあちらが立たないというジレンマがある。

ロムニー陣営がどちらを選ぶかの予測は微妙であるが、現段階において筆者は、たとえ党内右派に迎合しても2004年のような共和党支持基盤の盛り上がりを期待できない、という戦術判断に傾くと考える。

キリスト教福音派などの党内右派のロムニー・アレルギーはあまりに強いため、投票率を上げる2004年のような「地上戦」主体の選挙戦術を採用しにくいと、筆者は分析する。2012年選挙は、1996年選挙のようにswing votersや支持政党なしをターゲットとする、メディアを舞台とした「空中戦」主体に回帰するのではと予想する。既に共和党支持の利益団体は「空中戦」重視であり、民主党支持の利益団体は「地上戦」主体だという報道も見られるところである*5

予備選挙においてロムニーが勝った州では、総じて投票総数の伸びが2008年と比べて総じて小さい(袴田コラム参照)。これもロムニー陣営が支持基盤動員型の選挙を採用しにくいという予測の根拠である。

ロムニー選対本部の顔ぶれも、メディア主体の選挙戦を示唆している。選対本部長のマット・ローズは、元共和党全国委員会の対立候補リサーチの責任者であった*6。つまり、民主党候補を攻撃するテレビ等のネガティブ広告の材料を探すプロである。2012年予備選挙においてロムニー陣営は、潤沢な資金力にものを言わせたネガティブ広告で対立候補を圧倒した。本選挙もおそらく同じパターンだと筆者は予測する。

ただし、有権者の好感度は悪くない現職大統領に対して、ネガティブ攻撃主体の選挙戦が賢明なのかは未知数である。インディアン州のミッチ・ダニエルズ知事、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事などの有力政治家から、ロムニーには明るく前向きなメッセージが必要という意見も出ている。

予備選挙のフェーズでは、党内右派向けに自らを「激しく保守的」だと規定してきたロムニーが、本選挙に向けて支持政党なし層、イデオロギー的に穏健な有権者、swing votersなどに選挙メッセージのターゲットを移す節目が、フロリダ州タンパで開かれる8月末の党大会である。共和党の党大会は、党内穏健派の演説を視聴率が高い時間帯に配置して、これらの有権者層にアピールするのが、近年のパターンである。

党大会に向けた最大の注目点が、副大統領候補選びである。早くも様々な憶測が飛び交っている。地域やイデオロギーのバランスが副大統領候補選定の定石であるが、1992年のように、出身地域もイデオロギーも重なるゴアを副大統領候補に選んで成功した、民主党のクリントンの例もある。

いずれにせよ、まずは上述の激戦州での戦いを有利に進められる候補という点が重視されよう。オハイオのロブ・ポートマン上院議員、ヴァージニアのボブ・マクドネル知事、フロリダのマーコ・ルビオ上院議員などの名前が挙がっているのは、このためである*7

激戦州は、キリスト教福音派の割合が高い州ではないから、本選挙を勝ちに行くという観点からは、宗教保守の受けが良い候補を積極的に選ぶ理由は案外乏しい。前述のとおりキリスト教右派へのアピールを強めると、女性票や支持政党なし層が逃げるというトレードオフもある。

ロムニーはカリスマと面白みに欠けるので、党内若手のホープでスター性のあるポール・ライアンやマーコ・ルビオを選べば、党内支持基盤の盛り上がりを期待できる。ティー・パーティー支持層への受けも良い。ルビオなら近年民主党に傾斜しているヒスパニックにもアピールする。ライアンのウィスコンシン、ルビオのフロリダは、どちらも激戦州である。

しかし、両者とも異なる意味でメィアの批判やオバマ陣営にネガティブ攻撃の材料を与える面もある。前者については財政再建策が過激である、後者については経験不足などの点が争点になりえる。

そこで、堅実さと安定感というロムニーの持ち味を補強する観点から、上述のポートマン、インディアナのミッチ・ダニエルズ知事といった無難で財政に強いベテランを選ぶ守りの副大統領候補選びという選択肢も有力である。もしも2012年がネガティブ広告の飛び交う選挙となるなら、面白みには欠けても減点要因や失言が無く、安定感というロムニーの強みを増幅する副大統領候補というのは、案外賢明な選択かもしれない。『ハフィントン・ポスト』は、接戦が続くならばという前提の下で、リスクを避ける選択をロムニー陣営は志向しているとの観測を報じている*8

ロムニー、オバマの両陣営がどのような戦術を採用するにせよ、2012年選挙の注目点は国際情勢である。脆弱な候補同士の戦いとなるなかで、欧州債務危機、イラン情勢と原油価格などの国際情勢に大統領支持率が影響されて、これに一喜一憂する展開が予想される。ロムニーは外交や安全保障の経験が乏しいので、党内融和や内政重視で副大統領候補を選んだ場合に、もしも11月の本選挙までに何らかの形で国際情勢が緊迫化すると、大統領も副大統領も外交に強いオバマ陣営を利するかもしれない。そこで、CNN/CBS放送の世論調査において副大統領候補として共和党支持層に最も人気があった、コンドリーザ・ライス元国務長官のような実務に強い国際派を選ぶメリットも無くはない*9

いずれにせよ、雇用と景気回復に向けた前向きなビジョンが、オバマにもロムニーにも欠けていることに規定される選挙戦になりそうである。


*1:“2012 ELECTORAL VOTE SCORECARD ”, Cook Political Report, APRIL 24, 2012.
http://cookpolitical.com/charts/president/ev_scorecard_2012-04-24_06-47-24.php
*2: Chris Cilizza, ”The 9 swing states of 2012”, The Washington Post, April 16, 2012. http://www.washingtonpost.com/blogs/the-fix/post/the-9-swing-states-of-2012/2012/04/16/gIQABuXaLT_blog.html;
Michael Cooper, “9 Swing States, Critical to Presidential Race, Are Mixed Lot”, The New York Times, May 5, 2012.
http://www.nytimes.com/2012/05/06/us/politics/9-swing-states-key-to-election-are-mixed-lot.html?hp
ただし、資金に余裕がある場合は、個人献金やボランティアを集めるため、あるいは連邦議会選挙や知事選支援のため、激戦州以外の州において選挙広告や支持基盤への接触を行う一定のメリットはある。
*3:細野豊樹「2004年米大統領選挙・連邦議会選挙の分析」 『国際問題 』No.539(2005年2月)、8-26。「2008年アメリカ大統領選挙・連邦議会選挙の分析」『国際問題』(電子版)No.579(2009年3月)、41-62。
*4:Frank Newport, “Romney's Challenge: Midwestern, Young, Highly Religious GOP;
He also does less well among conservatives”, The Gallup Poll, April 12, 2012. http://www.gallup.com/poll/153854/Romney-Challenge-Midwestern-Young-Highly-Religious-GOP.aspx
*5:Dan Eggen, ”Outside groups plan to focus on air war, ground game in 2012 election fight”, The Washington Post, April 21, 2012 ,
http://www.washingtonpost.com/politics/outside-groups-plan-to-focus-on-air-war-ground-game-in-2012-election-fight/2012/04/20/gIQAw6beWT_story.html .
*6:Jason Horowitz、”The Romney campaign's strong, silent type of hero”, The Washington Post, November 21, 2011. High Beam Research.(online database) http://www.highbeam.com.
*7:現段階で取りざたされる共和党副大統領候補については、次の『ワシントン・ポスト』の一覧が参考になる。Chris Cillizza , “ Pick Mitt Romney’s vice president ”, The Washington Post, http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/pick-vice-president-for-romney-game/index.html
*8:Jon Ward, ”Mitt Romney's Vice Presidential Pick: Signs Point To Risk Avoidance”, The Huffingtonpost, April 19, 2012.
http://www.huffingtonpost.com/2012/04/19/mitt-romneys-vice-president_n_1439122.html
*9:CNN Political Unit, ”CNN Poll: Republicans divided on VP choice”, CNN, April 18, 2012.
http://politicalticker.blogs.cnn.com/2012/04/18/cnn-poll-republicans-divided-on-vp-choice/?iref=allsearch