タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/7/2

アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「オバマ大統領再選キャンペーンの陣容」(池原 麻里子)

“Forward”がスローガンのオバマ再選選対”Obama for America”。2008年のスローガンだった”Hope”が期待外れだったと感じている支持基盤を再活性化し、安定した回復の兆しがない景気に不満と不安を抱く浮動層に対して、再選に値する大統領であることを説得するという難題を抱えている。その活動の中心となるのは、2008年選対で活躍し、オバマ大統領から信頼されている面々である。

例えば、2008年に選対本部長を務めたDavid Plouffeは大統領上級顧問としてホワイトハウス内から、再選に向けて、大統領任務の調整を行う。Plouffeに替わって今回、選対本部長を務めるのは前回、選対首席補佐官だったJim Messinaだ。一方、前回、主任ストラテジストとして活躍したDavid Axelrodは、今回も上級ストラテジストとして総合戦略とメッセージを担当する。オバマ夫妻に最も近いValerie Jarrett 大統領上級顧問(アウトリーチ担当)は、2008年選対では上級顧問を務めたが、今回はホワイトハウスからビジネス界とのパイプ役を務めるなど重要な役割を果たしていく。

選対にとっての最大の悩みは何と言っても景気。下期にかけてまた減速するという予測が多く、特に、一向に下がらない失業率は最懸念事項である。「もし景気刺激策を施行しなかったら、現状は更に悪化していた」という主張は説得力がない。最新のピュー・リサーチ・センターの意識調査 によると*1「景気を改善できる」のはロムニーと回答した者が49%で、オバマは41%だったことからも、経済改善できる大統領への期待がうかがわれる。

その経営手腕をアピールするロムニーに対して、オバマ陣営は激戦州において、ロムニーが経営したベイン・キャピタルは、利益追求のために工場を閉鎖するなど雇用保護には無関心だったと攻撃するTV広告を展開している。その効果があり、ロムニーに対する反感が高まった。NBC/ウォール・ストリート・ジャーナルの調査*2 によると、ロムニーのビジネス経験を否定的に受け止めている者が28%と、肯定的な者23%とは5ポイントの差があった。特にTV広告が流された12の激戦州においては、否定的な者は33%で、肯定的な者18%を15ポイントも上回った。広告によって、浮動層が「冷酷な投資家」というイメージを抱くようになった結果のようだが、それが決定的な打撃を与えたかどうかについては賛否両論がある。

オバマの最大の弱点である経済問題に集中攻撃を加えるロムニーだが、オバマ陣営は経済面では景気刺激策や自動車業界、金融業界救済策、それ以外ではオサマ・ビン・ラーデン殺害に象徴されるテロとの戦い、合憲との判決が下った医療保険改革、移民政策などを実績として挙げている。

しかし、選対の懸念は選挙資金である。2008年にはオバマ支持者もいた金融業界は、救済策で恩恵を受けたにもかかわらず、ベイン・キャピタルという同業出身のロムニー支持に回っている。最高裁は6月に、スーパーPACは合憲という判決を改めて下し、選挙資金争いではロムニーには到底、対抗できないという不安がある。そのため、オバマ選対からは連日のように、3ドルという小額の寄付を求めるメールが送られる。オバマ自身も最近、大口献金者に対して、エアフォース・ワンからの電話で「スーパーPACのせいで、議会とホワイトハウスが共和党支配になってしまう」という危機感を表明し、前回同様の限度額までの献金を要請したという。

一方、オバマ陣営にとっての救いは、オバマの好感度が依然として高いことだろう。選対ではこれを国民がオバマを見捨てていない証拠であるととらえている。前述ピューの調査では、オバマに好感を覚えている有権者は50%で、好ましくないという数字は48%とほぼ半々。一方、ロムニーの好感度は3月時点の29%から41%に上がったが、好ましくないと考えている者が47%と上回っている。選挙日から5ヶ月前の時点で、好ましくないという数字が好感度を上回った大統領候補は過去20年存在しないことから、ロムニーの好感度が特筆に価するほど低いことうかがえる。

オバマの世論調査専門家は、「中産階級を守ってくれる」候補としてオバマが20ポイント、ロムニーより優勢なのは、「まだすべきことがあることは認識しているが、最悪の経済危機に直面し、自動車業界救済策などを施行したためであると評価しているからだ」と分析している。
有権者層別に見ると、黒人層の支持率は高いままで、選挙に対する関心も高いが、2008年に急増した50歳以下が、当時は71%が現時点で選挙に注目していたのが、今年は60%に下がった。50歳以上の層では54%と前回と変化がない。ボランティア活動などを熱心に行っていた50歳以下の層の関与度が低くなっていることも、オバマ選対が手当てしなくてはならない課題である。ヒスパニックは圧倒的にオバマ支持者が多いのだが、実際に投票を行うかどうかは別問題であるため、選対は彼らの有権者登録活動を展開している。

以上の状況に対応する、オバマの再選活動の中心となるのは次の人物たちである。

“Obama for America”主要人物
Jim Messina 選対本部長
2008年オバマ選対で首席補佐官を務めた数字に強い人物。今回、本部長に任命され、過去の大統領選挙に関する本を多数、読み、専門知識を習得。オバマ政権ではRahm Emanuel首席補佐官(当時)を上司とする次席補佐官として、景気刺激策やヘルスケア改革の立法に関しては特に上院側で重要な役割を果たした。1995年にモンタナ州選出Max Baucus上院議員のスタッフになった後、Baucus以外にもByron Dorgan上院議員など数人の議員のスタッフ、選挙を担当。

選対本部長として、「有権者コンタクト・プログラム」によって収集したデータによって地球温暖化対策、移民改革、グアンタナモ基地閉鎖などが前進していないことや医療保険改革に対する不満にどう対応するかなどを研究。オバマを支持する可能性がある有権者にリーチアウトし、投票所に向かわせることが勝敗を左右することから、ソーシャル・メディアやターゲットしたメッセージによって、マイクロ・ターゲティングを展開している。そのためにグーグルのEric Schmidt、フェースブック、グルーポンの代表などのブレーンを活用している。
前回は“Change We Can Believe In”という全米的な運動だったが、再選キャンペーンでは前例がないローカライズしたキャンペーンを米政治史上最大の草の根運動によって展開する。

David Axelrod 上級ストラテジスト
2008年選対では主任ストラテジストとして重要な役割を果たした後、ホワイトハウスでは2011年初まで上級顧問を務めた。今回も総合的戦略とメッセージを担当する。
ホワイトハウスを去った後は、地元シカゴを基盤とし、シカゴ・トリビューン記者時代のように一般市民と接することで、国民の考えを学び、再選活動のメッセージを形成している。オバマの政策を支持していない有権者、及びその政策に失望した有権者に対してオバマを再度、売り込む戦略として、一連の立法に成功し、ビン・ラーデン暗殺という難しい決断を下した実績と、政争を超越したリーダーというイメージを売り込む。手がける選挙は今回が最後になる可能性が高い。

Ann Marie Habershaw 最高執行責任者
民主党全国委員会最高執行責任者(2009年-)、民主党下院選挙委員会DCCCの民主党全国委員会最高執行責任者(2001-2007年)、元EMILY’S List(妊娠中絶容認派の民主党女性候補支援団体)財務部長(1995-2001年)の経験がある。

Mitch Stewart 激戦州担当ディレクター
オバマ2008年大統領選選対が選挙後、民主党全国委員会内部に移行した組織Organizing for Americaのディレクターだった。2008年選対ではバージニア州担当ディレクターとして、1964年以来、初の同州における民主党大統領候補の勝利に導いた。民主党大統領予備選中はオバマ陣営のアイオワ党員集会担当ディレクターだった。2002年から幾つかの民主党上院議員選挙に関わってきた選挙のベテラン。ただし、Organizing for Americaを十分、活性化しなかったという批判もされている。

Jeremy Bird フィールド・ディレクター
Mitch Stewartの下でOrganizing for America副ディレクターを務め、草の根運動を活用して、オバマ政権の政策に対する支持を活性化した。2008年には激戦州オハイオを担当し、オバマを勝利に導いた。予備選挙中はサウスカロライナ、メリーランド、ペンシルバニアを担当。

Rufus Gifford 財務ディレクター
民主党全国委員会の全国財務ディレクターだった。2004年選挙期間には民主党全国委員会の西部州の副財務ディレクター。パートナーのJeremy Bernardは、選対副本部長に転出したJulianna Smootの後任として、米史上初の男性のホワイトハウス社会長官特別補佐官に就任。両人ともハリウッドで働いた経験がある。

Matthew Barzun 財務チェアマン
2008年にPenny Pritzkerが担当し、約7億5千万ドルの選挙金を集めたが、10億ドル規模になると予想されている今回はBarzunが担当。2008年選挙ではインターネットを活用して、小額の市民ファンドレイザーの草の根キャンペーンを展開すると同時に、技術インターネット・メディアCNETの幹部だったBarzunは、多額の資金集めにも貢献した。その貢献が認められ、2009年夏、スウェーデン大使に任命されたが、今回、資金集めの手腕が買われ、呼び戻された。

James Kvaal 政策担当ディレクター
日々の目標を形成。ブログ、インフォグラフィック作成、そして長期計画と分析を担当。
オバマ政権では、国家経済会議上級ディレクターとして、高等教育、労働問題を担当。2010年半ばからは教育省副次官。それ以前はプログレッシブな米国進歩センターの上級研究員。2007年の民主党大統領予備選挙では、John Edwardsの政策ディレクターとして皆医療保険、貧困対策、気候変動対策などの国内政策プラットフォーム作りを調整。それ以前はクリントン政権、下院教育労働委員会、教育省で高等教育政策を担当。

Katherine Archuleta 政治担当ディレクター
政治家、活動家組織との協調を図る。ヒスパニックとして初めて、大統領選挙で政治担当ディレクターという重要なポジションに就いた。Federico Pena元デンバー市長の側近を務め、同氏がクリントン政権で運輸長官に就任した際には主任補佐官に任命された。デンバーで開催された2008年民主党全国大会では同市長上級顧問。全米ヒスパニック文化センター財団代表を務め、ヒスパニック・コミュニティーとのつながりも強い。オバマ政権ではHilda Solis労働長官主任補佐官に就任。
激戦州コロラド州のデンバー出身で、同州で増加しているヒスパニック票田を確保するのに重要な役割を果たすことになる。コロラドは2008年にはオバマが勝ったが、2004年にはブッシュが勝ったパープルの州。

Julianna Smoot 選対副本部長
ベテラン民主党ファンドレイザーで、民主党全国委員会財務ディレクターを務めたこともある(2006年)。2008年大統領選ではオバマ選対の財務ディレクターを務め、米史上、最高額を集めることに成功した。2010年2月からほぼ1年、ホワイトハウス社会長官特別補佐官を勤めた。

Stephanie Cutler 選対副本部長
ベテラン民主党選挙ストラテジスト。2008年選対ではミシェル・オバマの首席補佐官として、イメージ改善に成功。オバマ政権では特別プロジェクト担当大統領補佐官として医療保険改革などを担当し、ミシェルの”Let’s Move”という青少年の肥満対策イニシャティブを形成。
2004年民主党大統領予備選挙ではJohn Kerry候補のスポークスマン、また故Edward Kennedy上院議員の報道官だったこともある。

Jennifer O’Malley Dillon 選対副本部長
2008年オバマ選対では激戦州担当ディレクターを務め、オバマ当選後は民主党全国委員会エグゼキュティブ・ディレクターとして、同組織の日々の運営を担当。それにはグラスルーツ活動の支持者数百万人を抱えるOrganizing for Americaの運営も含まれる。今回はMitch Stewartと共に激戦州にフォーカス。夫Patrickはホワイトハウス政治担当副ディレクター。

Ben LaBolt報道官
オバマの上院議員時代、2007年から報道官を務めた。その後、オバマ選対報道官を務め、ホワイトハウスではアシスタント・プレス・セクレタリー。Rahm Emmanuelが大統領補佐官を辞任し、シカゴ市長選挙に出馬すると、選対で報道官を務めたが、Emmanuel当選後は2011年5月から現職に就いた。オバマ批判反撃でのアグレッシブなスタイルで知られる。

Harper Reed 最高技術責任者
出身はオンラインTシャツ販売会社で政治活動は初めて。IT専門家として選対本部の150人以上のIT技術者を監督する。12あまりの激戦州には、選任のデジタル・ディレクターも配置。ウェブサイト、フェースブック、Eメール、ユーチューブのビデオ、ツイッター、モバイル・アプリを連動させる。サイトに、「ダッシュボード」という新しいインターアクティブ・プラットフォームを登場させ、支持者ボランティアの組織作りを簡素化し、相互間および選対との連絡を取りやすいようにした。有権者登録、ボランティア活動運営以外に、投票行動、政治献金、何を読みシェアしているか、選対からのEメールや広告、ツイートにどう反応したかを分析している。
2012年のキャンペーンでは3ドルの寄付を呼びかけるメールが週に数回、発信されるが、寄付者はGeorge ClooneyやSarah Jessica Parker等、スター主催の大統領とのファンドレイザーに招待されるチャンスを得る。選対側は小額の寄付でも、貴重なデータを収集できる仕組みで大成功。技術的にもっとも洗練された選対と言える。
ちなみに2008年当時、オバマ選対のフェースブックのフォロワー数は240万人、ツイッターでーは約12万人だったが、現在はそれぞれ2700万人と1600万人。ロムニーの180万人、50万人とは大差がある。

Robert Bauer 法律顧問
Obama for Americaと民主党全国委員会の法律顧問を務める、Perkins Coie法律事務所ワシントン事務所パートナーで、選挙資金法が専門。フロリダ州などで法的トラブルが生じた際に備えているほか、スーパーPACなどで問題がある活動があれば、相手に苦情レターを出している。
2005年に上院議員就任時からオバマのアドバイザーで、2009年11月から2011年6月までホワイトハウス法律顧問を務めた。それ以前、1999-2000年にはBill Bradley大統領選対の法律顧問。妻Anita Dunnはオバマ政権のコミュニケーション・ディレクターだった。

ホワイトハウス
David Plouffe 大統領上級顧問
前回、選対本部長を務めたPlouffeは、今回は選対に転出したDavid Axelrod大統領上級顧問の後任として、ホワイトハウスから再選活動に関わる。日々の選対運営は本部長のMessina担当であるが、再選に向けての戦略面などで選対との調整に関わる。Messina同様、数字に強い。共和党のイデオロギーとの違いを強調する戦略である。

Valerie Jarrett 大統領上級顧問(アウトリーチ担当)
2008年選対では上級顧問、そして政権移行チームでは共同会長を務めた。オバマ夫妻とは20年以上の親友であり、夫妻の目と耳となり、信頼されている特別な存在で、その影響力は多大である。大統領の出張、遊説に同行。ビジネス界との橋渡し役を務めており、大統領の代理スピーカーとして活躍しているが、再選キャンペーンが白熱するにつれ、今度、ますますその頻度が高まることになる。

キャンペーン共同会長
上記の選対とホワイトハウスの主要人物以外に、全米でオバマの「大使」の役割を果たす35名の共同会長が2012年2月に発表された。Caroline Kennedyや州知事、連邦議会議員、市長、ボランティアまで、多様な顔ぶれである。中にはオバマ大統領首席補佐官だったRahm EmmanuelやBill Daleyも含まれている。バージニア、ノースカロライナ、フロリダといった激戦州でのObama for Americaのボランティア・リーダーや、政治家が多いほか、同性愛者やユダヤ系の組織の代表などが動員され、それらのコミュニティーへのアウトリーチを狙っていることが明らかである。
リストは次の通り。

Lynnette Acosta: フロリダ州Obama for Americaボランティア・リーダー
Marc Benioff :Salesforce.com最高経営責任者
Michael Bennet:コロラド州選出上院議員
Julian Castro:テキサス州サンアントニオ市長
Lincoln Chafee :ロードアイランド州知事
Ann Cherry:ノースカロライナ州Obama for Americaボランティア・リーダー
Judy Chu:カリフォルニア州選出下院議員
Emanuel Cleaver:ミズーリ州選出下院議員
Bill Daley:元オバマ大統領首席補佐官
Maria Elena Durazo:AFL-CIOロサンゼルス郡労働連盟代表
Dick Durbin:イリノイ州選出上院議員
Rahm Emanuel:シカゴ市長、元オバマ大統領首席補佐官
Russ Feingold:前ウィスコンシン選出上院議員
Charles A. Gonzalez:テキサス州Obama for Americaボランティア・リーダー
Loretta Harper:ネバダ州Obama for Americaボランティア・リーダー
Kamala Harris:カリフォルニア州司法長官
Sai Iyer:バージニア州Obama for Americaボランティア・リーダー
Caroline Kennedy:ジョン・F・ケネディー記念図書館館長
Eva Longoria:女優、慈善活動家
Felesia Martin:ウィスコンシン州Obama for Americaボランティア・リーダー
Vashti McKenzie:アフリカ・メソジスト聖公会主教
Tom Miller:アイオワ州司法長官
Kal Penn:俳優、元ホワイトハウス・スタッフ
John Nathman:元海軍大将
Deval Patrick:マサチューセッツ州知事
Federico Pena:元運輸長官、エネルギー長官
Elaine Price:オハイオ州Obama for Americaボランティア・リーダー
Penny Pritzker:RSP Capital Partners最高経営責任者、2008年オバマ選対財務チェア
John Register:海軍退役軍人、パラリンピック選手
Jan Schakowsky:イリノイ州選出下院議員
Jeanne Shaheen:ニューハンプシャー州上院議員
Joe Solmonese:LGBT人権団体Human Rights Campaign代表
Alan Solow:元米国主要ユダヤ組織会長会議会長
Ted Strickland:元オハイオ州知事
Antonio Villaraigosa:ロサンゼルス市長



*1:6月7-17日にかけて実施された2,013人(うち有権者1,563人)を対象とした調査
http://www.people-press.org/2012/06/21/about-the-survey-56/

http://www.people-press.org/files/legacy-pdf/06-21-12%20Voter%20Attitudes.pdf

*2:6月20-24日にかけて実施された1,000人を対象とした調査 http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/A_Politics/_Today_Stories_Teases/120626-JUNE-NBC-WSJ.pdf