タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/24

アメリカ大統領選挙UPDATE 7:「現時点ではオバマ優勢なれどロムニーにも勝機はある」(細野 豊樹)

共和党および民主党の党大会後に相次いで公表された最新の世論調査は、オバマが優勢であることを示す。ギャラップの調査では、党大会後にオバマのリードが一時は7ポイントまで拡大したが、その後収れんして現在は2ポイント差に縮まっている*1。ただし、オバマのリードはもっと大きいとする調査も複数ある*2。激戦州を州別にみると伯仲の州が多く、どちらが勝ってもおかしくないという評価は、党大会前と変わりない。もっとも、州別に細かくみていくと、オハイオ州での優位を始め、オバマにとっての好材料が目立つ。投票日までの日数が50日を切ったなかで、現時点ではロムニーにとって苦しい展開だと言えよう。とはいえ、10月3日のテレビ討論会が控えており、またロムニーは資金面で優勢なので、まだ挽回のチャンスはある。2012年の大統領選挙は、接戦であることと、だれに投票するか決めかねている有権者の割合が小さい点で、2004年と似ている。浮動票が少ないということは、2004年と同じく、支持基盤の動員が勝敗を左右することを意味する。

The Rothenberg Political Reportは、大統領選挙に関する最新の評価で8州(選挙人数95)を「完全に伯仲」(pure toss-up)としている。そして、「現時点においてオバマが安全圏」(Currently Safe Obama)および「オバマが優勢」(Lean Obama)が合計18州(選挙人数237)、「現時点においてロムニーが安全圏」(Currently Safe Romney)、「ロムニーが優勢」(Lean Romney)が合計24州(選挙人数206)となっている*3。The Cook Political Reportも、最新版が民主党の党大会前の8月末時点ではあるが、似たような評価を出している。ロムニーがポール・ライアンを副大統領候補に指名して、ウィスコンシン州が伯仲となった以外は、両党の党大会と比較して大きな変化はない。安全圏と優位の州の選挙人数の合計が237であるオバマは、伯仲州の95選挙人のなかから、その1/3強である33選挙人を獲得すれば当選できる。33選挙人を獲得する組み合わせがいろいろあるという意味で、オバマは優位に立つ。

伯仲の8州のなかでも、選挙人数が多いフロリダ州(29人)、オハイオ州(18人)およびヴァージニア州(13人)が最も重要である。これら3州を対象としたNBC放送/『ウォール・ストリート・ジャーナル』/マーリストの最新の世論調査では、オバマがやや優勢となっている。フロリダおよびヴァージニアにおいては、投票する可能性が高い有権者(Likely Voters)の間でオバマに投票が49%、ロムニーに投票が44%であり、オバマが5ポイントリードする。オハイオではオバマが50%、ロムニーが43%と、オバマが7ポイントの差を付けている。有権者登録済の有権者(registered voters)についてみると、オバマとロムニーの予想得票率の差は、さらに2~3ポイント広がる。こうした差は、民主党支持層のほうが、共和党支持層と比べて投票率が低いことから生じる。この3州を対象にNBC放送/『ウォール・ストリート・ジャーナル』/マーリストは5月にも調査を行っているが、9月においてオバマはいずれの州でもリードを広げている*4

この激戦3州の世論調査を含めて、いくつもの世論調査(全米と州レベル)が、オバマがやや優勢であることを示している。こうした各種世論調査を受けて、共和党関係者の間に動揺が広がり、ロムニー陣営の世論著調査担当であるニール・ニューハウスが、オバマの優勢は一過性であると論じたメモを出す羽目になった*5。(袴田コラム参照。)

冒頭で述べたとおり、民主党の党大会後にオバマのリードが拡大した。その背景として、考えられる要素が2つある。まず第一には民主党のほうが共和党よりも党大会のアピールが強かった。たしかに共和党の党大会は、政治ショーとしての水準はいっていた。しかし、次々と演台に立った共和党のスター達は、アン夫人を除いて、ロムニーを持ち上げるよりも、自分の理念を語ることに忙しい印象があった。また、首席選挙参謀のスティーヴン・スチュアートが、本番の8日前にロムニーの演説の全面書き換えを行って混乱を招いたという報道もある*6。せっかく党内右派にアピールするポール・ライアン(西川コラム参照)を副大統領候補に起用したのに、当選後に何をするかの青写真は具体性に欠けていた。

これに対して民主党の党大会では、オバマを盛り立てる方針が貫かれていた。特にクリントンは、周到に準備した演説により、オバマ政権の景気対策や健康保険改革の政策の成果について分かりやすく語りかけて、また、共和党の政策の矛盾を突いて、政策通の元大統領としての存在感を示した。演説の直後にCNN放送のニュース・キャスターは、長年聞いたクリントンの演説の中で最高の出来だと称賛している。オバマの演説は堅実・控え目であり、メディア関係者の評価は高くなかったものの、フォーカス・グループで効果を確認済みのメッセージに満ちていた*7。上述のPEW調査センターの調査によれば、党大会後に民主党支持層の選挙への関心が大きく高まり、共和党支持層との差が消えた。支持基盤の動員(後述)に大いに響く展開である。(党大会については、現地の取材に基づく渡辺コラムを参照。)

一時的とはいえ、党大会後にオバマがリードを広げたもう一つの背景として考えられるのが、選挙コマーシャルのタイミングである。ロムニーは多額の政治献金を集めているが、本選挙向けに集めた資金は党大会後まで使用できないという縛りがある。このため、予備選挙におけるロムニーの勝利が確定してから党大会までの大事な時期において、オバマ陣営が選挙コマーシャルで優位に立つことを許した。党大会後も、激戦州での選挙コマーシャルにおいてロムニー陣営は出遅れているという報道もある*8

2012選挙の主争点は経済である。こうした中で、オバマの景気対策を回顧する信任投票となれば、オバマの負けである。このためオバマ陣営は、争点はオバマかロムニーかの将来の選択だと、党大会を含めて繰り返し強調し続けてきた。それが功を奏して、選挙の争点規定は完全にオバマ陣営のペースになっている。ニュース・サイクルの中で、外交その他の景気以外の争点が話題となる日が1日でも多いほどオバマを利する。リビア大使殺害事件(中山コラム参照)、5月の資金集めパーティーにおけるロムニーの問題発言に関する暴露報道といった最新の展開は、景気関連の話題を隅に追いやるので、争点規定におけるオバマの優位は続く。

オバマ陣営のメッセージ戦略の改善も注目に値する。党大会でオバマは、共和党の減税一点張りを皮肉って、風邪の処方箋も減税だと揶揄したが、最近の遊説(コロラド州)では、外国語をマスターするのも減税、体重を数ポンド減らすのも減税などのバリエーションも登場している。こうした分かりやすいレトリックの繰り返しにおいて、これまでオバマ政権は共和党に完敗していたが、ようやく巻き返しに出たと言えよう。また、ホワイトハウスの自家製ビールが一時話題となったが、これもオバマが苦手とする白人ブルーカラー層に対して庶民性を訴えるメッセージとして効果的である。

今後の展望であるが、民主党および共和党のどちらにとっても、支持基盤を動員して投票率を高めることが、終盤戦に向けての選挙戦術の要である。2004年選挙と同じく、大部分の有権者はどちらに投票するか決めており、寝返るよう説得する余地が小さいからである、例えば上述のNBC放送等による激戦3州の世論調査では、投票する可能性が高い有権者のうちどちらに入れるかを決めていないのは5%前後にとどまる。近年の選挙戦術の重心は、テレビ広告からマーケティングの科学やソーシャル・メディアを駆使した支持基盤動員に移りつつある。

2008年に引き続き、オバマ陣営は支持基盤の動員戦に向けて激戦州において出先事務所の整備に力を入れている。『ワシントン・ポスト』の政治資金報告に基づく推計では、8月の時点でオバマ陣営は出先事務所のマンパワーにおいて3対1弱の優位に立っている*9。また、両陣営の公式ページにみる州別の出先事務所の数では、オバマ陣営のそれはロムニー陣営の約2倍となっている(表1)。特に期日前投票の始まりが早いアイオワとコロラドにおいては、それぞれの5対1および4対1の優位がみられ、長い期日前投票期間を最大限有効に使う意図が感じられる。

以上のとおり現時点でオバマは世論調査でやや優位に立ち、また支持基盤を動員する「地上戦」の体制においても勝っている。さらに、態度を決めかねている5%前後の有権者は、民主党寄りが共和党寄り上回るという研究もある*10

しかし、まだまだロムニーにも勝機はある。10月3日から始まる一連のテレビ討論は視聴率が高いので、支持者の支持を強化し、また、態度を決めていない一部の有権者にアピールする機会となろう。ただし、オバマもロムニーも手堅いので万全に準備でディベートに臨むと考えられ、大きな失点は考えにくい。

ディベート以上に重要だと思われるのが、ロムニー陣営および共和党の資金面での優位である。政治献金面でのオバマの劣位は、オバマが大口献金者から寄付を募るのを好まなかったためという指摘もある。もっとも、最新の政治資金の収支報告ではオバマ陣営が集めた献金はロムニー陣営よりも多かった。しかし、スーパーパックが使える政治資金は無制限であり、党大会後の終盤戦においてロムニー陣営は容易に2対1の優位に立つという予想もある*11。ジョージ・W・ブッシュの選挙参謀としてキリスト教右派の動員に活躍したラルフ・リードをロムニー陣営が厚遇しているという報道も注目される*12。潤沢な政治資金を、支持基盤動員に効果的に使えると考えられるからである。ただし、上述のとおりせっかく集めた政治資金の執行においてロムニーは出遅れている。資金力で勝り最高クラスの選挙参謀を擁するロムニーが終盤で差を縮めるか、それとも「地上戦」の準備で勝るオバマが逃げ切るか、注目していきたい。

特に注視したいのが、オハイオ州でのオバマ優位が続くか否かである。オハイオ抜きでロムニーが勝つのは、不可能ではないが、極めて困難だ。超党派路線からポピュリズムへの転換にせよ、ホワイトハウス自家製ビールを通じた庶民性のアピールにせよ、「ビンラディンは死んで、ゼネラル・モーターズは生き残った」のスローガン(前嶋コラム参照)にせよ、オハイオやミシガンのブルーカラー層への訴求が、オバマ再選戦略の要となっていると筆者は見る。オバマ政権がWTOで中国を提訴したという最新の展開も、こうした文脈で理解されるべきである。

選挙戦術の違いに加えて、景気指標の変化、ガソリン価格の高騰、外交、テロや戦争など安全保障上の事件、自然災害などの外生変数も、接戦の選挙には響くことは言うまでもない。




*1:Gallup, “Obama vs. Romney Trend Among Registered Voters”, September 16, 2012, http://www.gallup.com/poll/election.aspx.
*2:PEW調査センターおよびNBC放送/ウォール・ストリート・ジャーナルの最新の調査は、オバマのリードをそれぞれ8ポイントおよび5ポイントとしている。
PEW Research Center,“Obama Ahead with Stronger Support, Better Image and Lead on Most Issues”, September 19, 2012, http://www.people-press.org/2012/09/19/obama-ahead-with-stronger-support-better-image-and-lead-on-most-issues/
Mark Murray, “NBC/WSJ poll: Obama leads Romney nationally by 5 points”, The NBCNews, September 18, 2012, http://firstread.nbcnews.com/_news/2012/09/18/13944838-nbcwsj-poll-obama-leads-romney-nationally-by-5-points?lite.
*3:The Rothenberg Political Report,“Presidential Ratings”, September 14, 2012, http://rothenbergpoliticalreport.com/ratings/president.
*4:NBC News/WSJ/Marist Poll,“Presidential Election Questionnaire Ohio”, MSNBC,
September 13, 2012, http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/A_Politics/_Today_Stories_Teases/ohio_poll_september.pdf.
NBC News/WSJ/Marist Poll,“Presidential Election Questionnaire Virginia”, MSNBC,
September 13, 2012, http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/A_Politics/_Today_Stories_Teases/virginia_poll_september.pdf
NBC News/WSJ/Marist Poll,“Presidential Election Questionnaire Florida”, MSNBC, September 13, 2012, http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/A_Politics/_Today_Stories_Teases/florida_poll_september.pdf.
*5:Chris Cillizza and Aaron Blake “Is Mitt Romney panicking?”, The Washington Post,
September 13, 2012 ,http://www.washingtonpost.com/blogs/the-fix/wp/2012/09/13/is-mitt-romney-panicking/.
*6:Mike Allen and Jim Vandehei, “Inside the campaign: How Mitt Romney stumbled”, September 16, 2012, Politico http://www.politico.com/news/stories/0912/81280.html.
*7:Howard Kurtz ,“Why Obama Went Low Key in His Democratic Convention Speech”,
The Daily Beast, Sep 7, 2012, http://www.thedailybeast.com/articles/2012/09/07/why-obama-went-low-key-in-his-democratic-convention-speech.html.
*8:Jeremy W. Peters and Nicholas Confessore, “Romney Campaign Cautious With Ad Budget, Even in Key States”, The New York Times, September 19, 2012,http://www.nytimes.com/2012/09/20/us/politics/romney-campaign-cautious-with-ad-budget-even-in-key-states.html?_r=1&hp.
*9:T.W. Farnam and Dan Eggen,“Obama campaign is depending on a strong ground game against Romney”, The Washington Post, August 24, 2012,http://www.washingtonpost.com/politics/obama-campaign-is-depending-on-a-strong-ground-game-against-romney/2012/08/23/2649d0f0-ec5e-11e1-9ddc-340d5efb1e9c_story.html?hpid=z10
*10:Larry M. Bartels and Lynn Vavreck,“Meet the Undecided”, The New York Times, July 30, 2012. http://campaignstops.blogs.nytimes.com/2012/07/30/meet-the-undecided/.
*11:T.W. Farnam and Dan Eggen, Op. Cit.
*12:Joe Backer, “An Evangelical Back From Exile, Lifting Romney”, The New York Times,
September 22, 2012, http://www.nytimes.com/2012/09/23/us/politics/ralph-reed-hopes-to-nudge-mitt-romney-to-a-victory.html?hp